>   >  NEXT FIELD 2:「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」(浅野いにお)
NEXT FIELD 2:「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」(浅野いにお)

NEXT FIELD 2:「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」(浅野いにお)

「ちゃちゃっと破壊シミュレーションをやってみた」

▲浅野氏が制作した、破壊シミュレーションの映像。ずらっと並んだ「デ」の文字が粉砕され、サイコロ状になって飛び散っている。この映像は、Autodesk Mayaの破壊シミュレーションの機能を使って生成しており、レンダリングにはArnoldのトゥーンシェーダを用いている


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の59ページ【左】と、99ページ【右】に掲載された扉絵。単行本の発刊に合わせて描き下ろされた連作で、前述のレンダリング映像を基に制作している


▲取材陣に対し、破壊シミュレーションのシーンデータを見せてくれる浅野氏。「僕が使っているのは本当に初歩的なシミュレーションで、やり方はちょっとネットで調べれば出てきます。ただ、あえて漫画で使っている人というのは、あんまりいないと思います」(浅野氏)


C:浅野さんは講演で、「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」と語っていましたね。『デデデデ』での活用事例を見ていると「その通りだな」と感じますが、ここまで3DCGを使いこなしている漫画家さんは、まだまだ少数だろうとも思います。

浅野:一部の漫画家さんは本格的に使っていますが、導入に踏み切れないとか、導入するきっかけがないといった人の方が多いでしょうね。なんだかんだで漫画家は目の前の締め切りに追われているから、なかなか新しいものに手を出せないという事情があるんだと思います。でも、3DCGを使うことで、今までとはちがう表現を生み出せる可能性があるので、いろいろ試したらいいと思います。例えば、最近は3DCGを使ってロボット漫画を描いている人もいますよね。ロボットやメカをイチから手描きするのは無茶苦茶たいへんだったんですが、3DCGを使えるようになったことで、かなり敷居が下がったと思います。僕自身、これまで自分が描けなかったような非現実的な舞台をつくれるようになってきたので、ストーリーにも広がりが出てきました。結果として、3DCGに手を出して良かったなと思っています。この前の僕の講演や、今回のインタビューを通して「全然知識がなくても、ちょっと勉強すればこれぐらいできるよ」ってことが伝わればいいなと思います。

C:初心者が、これから漫画に3DCGを導入する場合、どこから手を付ければいいと思いますか?

浅野:小物1個から、試してみたらいいと思います。例えばピストルなんかは、手で描くのは面倒くさいし、おかしな構造だと読者にすぐ指摘されるじゃないですか。そういう小物を3DCGソフトの空間内で表示して、作画のアタリに使ってみるといいんじゃないでしょうか。小物1個くらいなら、ちょっと練習すればモデリングできるようになるし、市販のアセットも無数にあります。そういうことを続けてみて、3DCGが自分に向いていると感じたなら、できる表現もどんどん増えていくと思います。

「アナログの絵の未完成な感じが、いい雰囲気をつくっているんです」

C:浅野さんは、2D・3Dを問わず、デジタル作画を日常的に使いこなしている一方で、Gペンによるアナログ作画も続けていますよね。最近はフルデジタル、ペーパーレスの環境で制作する漫画家が増えていると聞きますが、どうして今もアナログ作画を続けているのでしょうか?

浅野:うーん。慣れの問題もありますが、何を描くかによって、デジタルの方が速いケースと、アナログの方が速いケースがあるんですよ。ペン入れに関しては、僕はアナログの方が速いです。ただ、デジタルならできるけど、アナログだとできないこともあって、その逆は結構少ないです。だから全工程をフルデジタルに置き換えることはできますし、いずれは僕もフルデジタルに移行すると思うんですけど、まだアナログにこだわってます。速い以外にも、すごい細かい理由があって、例えばGペンって先割れペンなんで、強く描き過ぎると、先が割れ過ぎて、線が2本になり、真ん中に白い部分が残るんです。アナログには、そういう偶然性とか、事故とか、エラーみたいなものがあるんですが、それをデジタルに置き換えると、綺麗に描け過ぎちゃうんです。アナログの絵には、妥協がいっぱい含まれてて、その未完成な感じが、いい雰囲気をつくっているんですよ。だから、たまにデジタルのペンタブレットでイラストを描く場合でも、アナログっぽさを出すために、わざとノイズを入れたりするんです。それでも思ったような雰囲気にならないから、今も落としどころを探ってます。

▲【左】奥はアナログ作画の専用机で、手前は2DCG制作の専用机。こちらではMacを使用/【右】前述の机を背に、インタビューに応じる浅野氏


▲抑揚のある線でペン入れされた、作画中の生原稿を見せていただいた(ちなみにホワイト修正はゼロで、とても綺麗な原稿でした)。「最終的にはこの原稿をスキャンして、Photoshop上で仕上げるから、ベタ塗りの部分はバケツ(Photoshopの塗りつぶしツール)を使っちゃえばいいんですけど、僕は筆ペンやマジックで塗っています。以前は効率化を優先してバケツを使っていたんですが、アナログ原稿の時点である程度まで完成度を高めておかないと、描いてて面白くなかったんですよ。本当に急いでいるときはバケツを使いますけど、極力、手で塗っています。それに、筆ペンやマジックでベタ塗りした原稿をスキャンして2階調化すると、ほんのちょっとカスレがでて、細かい白い点が残るんです。それをバケツで塗った場合と見比べると、印刷されたときに、ちょっとだけちがうんです。ぱっと見ただけではわからないレベルなんですけどね。そういう味をまだ残しておきたいという理由もあって、アナログにこだわっています」(浅野氏)


C:プロの漫画家は、つけペンの描き味にものすごくこだわるという話は昔からよく聞きますね。ちなみに浅野さんは、どのくらいのペースでペン先を交換しますか?

浅野:僕の場合は、「当たり」のペン先に当たったら、だいたい丸1日くらいは使いますね。ただ、線を2~3本描いてみて「外れ」だなと思ったら捨てちゃいます。この辺の感覚は本当に人によるみたいで、すごく細い線を描きたい人だと、1ページ1本のペースで交換することもあるみたいです。ペン先は、描けば描くほど甘くなっていきますから。逆に1週間、2週間、同じペン先を使い続ける人もいるみたいですね。

C:千差万別ですね。面白い。

浅野:ただ、つけペンは、今でこそ「漫画で使うペン」というイメージになってますけど、漫画専用につくられた道具じゃないんですよね。別の用途のためにつくられた筆記具の中から、漫画に向いているものを誰かが選んできて、何となくそれがスタンダードになったというだけなんです。だから、Gペンを使う必然性はあまりないんですよね。デジタルでもいいし、ほかの何かでもいい。最終形がちゃんと漫画になっていれば、そこまでの経緯は何だっていいと思います。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の作画プロセス

▲ここでは、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の98ページ、3コマ目を例に解説する。Photoshop上でネーム(漫画の下描き)を制作。コマを割り、背景用の写真を貼り込み、吹き出し用のマルと、キャラクターのアタリ(手前にメインキャラクター1体と、奥にモブキャラクター2体)をペンタブレットで描く。3DCGを使う場合は、この段階でレンダリング画像を貼り込む


▲Photoshop上で写真を2階調化した後、紙にプリントアウトする。3DCGを使う場合も、この段階で2階調化する


▲前述のプリントアウトをアタリに使い、Gペン、筆ペン、マジックなどを使ってキャラクターのペン入れをする。背景の細かいディテールも、前述の画材を使って描き足していく。基本的に、メインキャラクターは浅野氏、背景はアシスタントが担当


▲ペン入れした前述の絵をスキャンし、Photoshop上で素材(「イソべやん」など)を追加


▲Photoshop上で素材(カケアミなど)を追加


▲Photoshop上で素材(デジタルのスクリーントーン素材)を追加


▲吹き出しの写植を追加し、コマの周囲をベタ塗りして完成(このページは回想シーンのため、コマの周囲をベタ塗りしている)。「CLIP STUDIOっていう、漫画制作にすごく特化したソフトもあるんですけど、僕の場合は写真やCGのレタッチ作業の頻度が高いので、Photoshopの方が相性が良いという側面もあります」(浅野氏)


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「3DCGは、情報量が出過ぎてしまうケースもよくある」

Profileプロフィール

浅野いにお(漫画家)

浅野いにお(漫画家)

1980年生まれ。2002年の連載デビュー作『素晴らしい世界』で注目され、2005年の『ソラニン』は映画化もされ大ヒット作に。同時代の若者を中心にカリスマ的な人気を博す。そのほかの作品に『おやすみプンプン』(2007〜2013)など。 現在はビッグコミックスピリッツにて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(2014〜)を連載中。

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