>   >  NEXT FIELD 2:「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」(浅野いにお)
NEXT FIELD 2:「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」(浅野いにお)

NEXT FIELD 2:「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」(浅野いにお)

2019年7月25日、「CGWORLD NEXT FIELD」と題したイベントが秋葉原UDXにて開催された。本イベントでは、ファッション・ロボット・医療・建築・漫画の5業界において、3DCGを活用している先駆者を招き、現在の取り組みと今後の活用の可能性を語ってもらった。告知直後からSNSなどで大きな反響があった本イベントには、会場のキャパシティを超える数の参加申し込みがあり、抽選に当たった約400名の参加者が詰めかけた。

本イベントの終了後、CGWORLD編集部では全登壇者にインタビューを依頼し、イベントで語られた内容をふり返るだけでなく、さらに掘り下げた話も聞いてみた。その模様を、全5回の記事に分けて公開していく。第2回目は、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(2014〜)を連載中の、漫画家の浅野いにお氏(Twitter : @asano_inio)へのインタビューをお届けしたい。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

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「3Dを使えるようになったから、逆算的な絵の発想もしています」

CGWORLD(以下、C):私は本講演をきっかけに『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を読み始めた、いわゆる「にわか」なのですが、「タイトルが長い!覚えられない!!」というのが最初の感想でした(苦笑)。次いで、背景のすさまじい描き込みに圧倒されましたね。

浅野いにお氏(以下、浅野):一応、『デデデデ』って言うのが公式な略し方らしいんですが、全然広まらないです(笑)。僕の漫画って、ほかの漫画と比べると、若干絵の密度が高いんですよね。

▲【左】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻(最新刊/2019年6月28日発売)の表紙/【右】8巻の98ページ。3コマ目の背景は写真を加工して制作。詳しくは後述するが、本作では、Gペンによる手描き、写真素材、3DCG素材を組み合わせた作画がなされている


C:「若干」なんて生やさしいレベルではないと思いますよ(笑)。しかも、1巻ではそのリッチな背景の前で、女子高生たちがネジの飛んだゆるい会話を延々繰り広げていたので、コントラストが際立っていました。その一方で、彼女らの平凡な日常が「侵略者」の来訪を機に巻を追うごとにジワジワと壊されていく。それらの組み合わせの妙が新鮮ですね。「これが『エモい』なのか......?」と思いつつ、アラフォーなりに楽しく拝読しております。

浅野:情報量をすごく引き算した漫画も、過去には描いてるんですよ。ただ、この漫画に関しては、ちょっと情報過多な感じ、息苦しい感じが、僕が思う今風の漫画なんですよね。情報量の少ない漫画も、多い漫画も、それぞれに良さがあると思います。ただ、後者は何だかんだで手間がかかるので、今のように、ある程度アシスタントを抱えていられる状態のときでなければ描けません。今後、売れなくなって、アシスタントを雇えなくなったら、引き算した漫画を描くかもしれません。「エモい」っていう要素もあると思いますね。普段からSNSなどを通して、ネット好きの若い人の感覚や、現代風のスラングを極力見るようにしています。ただ、僕も40歳近いし、アシスタントたちは30歳前後なので、今時の若い人が、実際にどういう会話をしているのか、本当にリアリティがあるのかどうかはわかりません。

C:当社の浅野さんファン(20代)に言わせると「すごく私に近い感じ」だそうですよ(笑)。そんなふうに吸収意欲が高いから、3DCGのノウハウもどんどん吸収しているんでしょうね。Autodesk 3ds Maxから使い始めて、今ではAutodesk MayaUnreal Engine 4(以下、UE4)、Esri CityEngineまで使っているという話を講演で聞き、かなり驚きました。『デデデデ』の背景は情報量が多いから、3DCGの使いどころも多く、どんどん習熟なさっているんだろうと思います。

▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演風景


浅野:とりあえず、初心者なりに気になる機能があったら触ってみて、何となく無理矢理、漫画やイラストに使っているだけですけどね(苦笑)。「描きたい絵があるから、3DCGを使っている」というだけじゃなくて、「3DCGを使えるようになったから、こういう絵もつくれる」というような、逆算的な発想もしています。この漫画を描いている間は、いろいろ実験してみて、自分のスキルを向上させたいと思っています。読者には全然関係ないことですが、もっといろんな絵をつくれるようになりたいという僕自身の課題があるんです。連載をやっていると、なるべく絵柄を統一させなきゃいけないという縛りがあるので、無茶苦茶なことはできませんが、同じことをやっていると飽きてくるという問題もありますしね。「本当はもっとやりようがあるのにな」って、ずっと思いながら描いてます。

▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』5巻の110〜111ページに見開きで掲載された大ゴマ。「これはキャラクターたちがタイムスリップするシーンだったので、Autodesk 3ds Maxのプラグインの機能を使って、4次元、5次元的な表現をしてみました。このシーンの作画では『この絵をつくりたいから、3ds Maxを使った』のではなく、『3ds Maxにこういう機能があるから、こんな絵をつくってもいいんじゃないか』という、逆算的な発想をしています。基本的に、漫画は作家の考えたことを絵に起こしたものだと思いますが、僕自身はあまり自分の創造力を信じていません。3DCGソフトのいろんな機能を何となく記憶しておいて、『この機能を使えば、もしかしたら偶発的に面白い絵ができるかもしれないから、ちょっとやってみよう』といった感じで絵づくりをするときもあります」(浅野氏)

「丁寧につくっておけば、資産になって、どんどん使い回せる」

C:講演では、様々な『デデデデ』の3DCGデータを見せていただきました。その中でも、浅野さんと3DCG専属アシスタントさんの2人で自作したという「母艦」(巨大な空飛ぶ円盤)の3DCGモデルは、特に印象に残っています。1巻の時点ではレゴブロックでつくった模型の「母艦」を接写していたけど、自重でレゴブロックが崩壊したというエピソードも含めて、インパクトがありました。

浅野:2人とも3DCGの初心者だったので、すごい時間がかかったし、簡素なモデルではあるんですけど、僕的には「あり」な絵がつくれるようになりました。これを毎回「手で描いて」ってお願いしていたら、アシスタントたちが逃げちゃうので(笑)。モデルが完成してからは、アタリ(下絵)がすぐレンダリングできるようになったので、イチから手で描く場合とは労力が全然ちがっていて、制作コストに見合う結果が得られていると思います。丁寧にモデルをつくっておけば、それが資産になって、後々どんどん使い回せて、高いクオリティの絵を安定して制作できるという点が、3DCGの強みだと思います。

▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻の22〜23ページに見開きで掲載された「母艦」。この時点の作画では3DCGを活用しておらず、レゴブロックでつくった模型の「母艦」を接写した写真と、街並みの写真をアタリにしていた。「接写の写真と、街並みの写真のパース感が合わなくて『気持ちの悪い絵になっちゃったな』というのが、当時の僕の感想でした」(浅野氏)


▲浅野氏と3DCG専属アシスタントが、2人がかりで自作した「母艦」の3DCGモデル。当時はAutodesk 3ds Maxを使用。最近はAutodesk Mayaに移行しているそうだ


▲取材陣に対し、「母艦」の3DCGモデルのデータを見せてくれる浅野氏。こちらは3DCG制作のための専用机で、Windowsマシンを使用している


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』7巻の24〜25ページに見開きで掲載された「母艦」。街並みの写真のパースに合わせて前述の「母艦」モデルをレンダリングし、それらを作画のアタリにしている


▲「母艦」モデルの部分拡大。シンプルな形状を組み合わせたモデルにノーマルマップを適用し、細かな凹凸を表現している。ノーマルマップを1枚追加するだけで、漫画用の白黒画像に加工した際のディテールが飛躍的に増すという


  • ◀『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』6巻の45ページに掲載された「母艦」。前述の部分拡大をアタリにしている


▲同じく、「母艦」モデルの部分拡大。つくったモデルが資産となり、様々なアングルや画角の画像を何度でも生成できる点が3DCGの強みだ


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』6巻の46〜47ページに見開きで掲載された「母艦」。前述の部分拡大をアタリにしている


C:「母艦」は『デデデデ』の1話から繰り返し登場しているので、3DCG化するメリットが大きそうですね。アタリ用の3DCGモデルを用意するのか、あるいは写真を使うのか、それともイチから作画するのかの判断は、どんな基準でなさっていますか?

浅野:大まかに言うと、存在しない架空のメカ、物理的に入りにくい場所、撮りにくいアングルや画角、何度も登場する場所などは、時間が許せば3DCGモデルを用意します。例えば、学校の教室や、「おんたん(中川 凰蘭/なかがわ おうらん)」という女の子の部屋は、アシスタントに3DCG化してもらいました。ただしモデルの制作には一定の期間が必要なので、時間が足りない場合はほかの手段を使います。

▲【左】3DCG専属アシスタントが制作した学校の教室/【右】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の84ページに掲載されたコマ。背景の作画では、前述の教室モデルのレンダリング画像をアタリにしている。「アシスタントが若干ひまそうにしていたこともあり(笑)、最近は手間をかけて『資産』をつくる段階にシフトしています。学校の写真は10年くらい前からいっぱい撮り溜めてあったんですが、ほとんどの構図を使い果たしてしまったので『それじゃあ、学校をつくっちゃおう』という話になりました。この教室以外に、廊下や階段などもモデリングしてもらいました。これらのデータは、後々、ほかの漫画でも使えるだろうと思っています。僕がほしいのは最高レベルのクオリティのレンダリング画像ではないので、最近はシーンデータをUE4でリアルタイムに表示して、ロケハンをするような感じでカメラを動かし、バシャバシャとスピーディーに撮影したスクリーンショットをアタリに使っています」(浅野氏)


▲【左】3DCG専属アシスタントが制作した「おんたん」の部屋/【右】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の96ページに掲載されたコマ。背景の作画では、前述の部屋モデルのレンダリング画像をアタリにしている。「教室同様、この部屋も、作中では何十コマと出てきます。1回つくっておけば、いつでもほしい構図のアタリが手に入るので、3DCG化しようと思いました。ずらっと並んでいるぬいぐるみなどは、購入したアセットを並べているだけです。アシスタントには『2〜3日くらいでつくってほしいから、必要なアセットはどんどん買っちゃってください』とお願いしました。イチから時間をかけてモデリングしてもらうより、アセットを買った方が断然コストパフォーマンスがいいんです」(浅野氏)


C「おんたん」の部屋が、ぬいぐるみも含めて丸ごと3DCG化されていたというのは衝撃でした。

浅野:最近は、破壊シミュレーションなどの機能を使った絵づくりをすることもありますね。ものによっては、半日くらいで僕がちゃちゃっと仕上げたりもしています。手で描くとすごく面倒くさい絵を短時間でつくれるのがいいですね。

C:講演でも見せていただきましたが、「ちゃちゃっと破壊シミュレーションをやってみた」というエピソードもかなり衝撃的でしたね。

次ページ:
「ちゃちゃっと破壊シミュレーションをやってみた」

Profileプロフィール

浅野いにお(漫画家)

浅野いにお(漫画家)

1980年生まれ。2002年の連載デビュー作『素晴らしい世界』で注目され、2005年の『ソラニン』は映画化もされ大ヒット作に。同時代の若者を中心にカリスマ的な人気を博す。そのほかの作品に『おやすみプンプン』(2007〜2013)など。 現在はビッグコミックスピリッツにて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(2014〜)を連載中。

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  • イクリエ/ICREA

    イクリエ/ICREA

    "ファンの気持ちを裏切らない" コンテンツの魅力をLive2DとAfter Effectsで丁寧に引き出す

    イクリエはコンテンツプロモーション全般を行うプロダクションだ。業務内容は多岐にわたり、主にLive2Dやを用いたイラストアニメーションを含む映像制作から、フィギュアの原型制作、プロモーション企画の提案や撮影、キャスティングまで一手に請け負う。「 映像の案件から『今度は、これもできますか?』と派生したご相談を受けるようになったのが、ここまで事業内容を広げるに至った理由です。例えば、グッズの制作や、声優さんのキャスティング、台本の制作、キャラクターデザインなど業務は基本的に全て当社で対応可能です。映像制作会社の枠に収まらない、というのが当社の強みですね」と、クリエイティブディレクターの金子隆澄氏は語る。