2019年7月25日、「CGWORLD NEXT FIELD」と題したイベントが秋葉原UDXにて開催された。本イベントでは、ファッション・ロボット・医療・建築・漫画の5業界において、3DCGを活用している先駆者を招き、現在の取り組みと今後の活用の可能性を語ってもらった。告知直後からSNSなどで大きな反響があった本イベントには、会場のキャパシティを超える数の参加申し込みがあり、抽選に当たった約400名の参加者が詰めかけた。

本イベントの終了後、CGWORLD編集部では全登壇者にインタビューを依頼し、イベントで語られた内容をふり返るだけでなく、さらに掘り下げた話も聞いてみた。その模様を、全5回の記事に分けて公開していく。第2回目は、ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(2014〜)を連載中の、漫画家の浅野いにお氏(Twitter : @asano_inio)へのインタビューをお届けしたい。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

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「3Dを使えるようになったから、逆算的な絵の発想もしています」

CGWORLD(以下、C):私は本講演をきっかけに『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を読み始めた、いわゆる「にわか」なのですが、「タイトルが長い!覚えられない!!」というのが最初の感想でした(苦笑)。次いで、背景のすさまじい描き込みに圧倒されましたね。

浅野いにお氏(以下、浅野):一応、『デデデデ』って言うのが公式な略し方らしいんですが、全然広まらないです(笑)。僕の漫画って、ほかの漫画と比べると、若干絵の密度が高いんですよね。

▲【左】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻(最新刊/2019年6月28日発売)の表紙/【右】8巻の98ページ。3コマ目の背景は写真を加工して制作。詳しくは後述するが、本作では、Gペンによる手描き、写真素材、3DCG素材を組み合わせた作画がなされている


C:「若干」なんて生やさしいレベルではないと思いますよ(笑)。しかも、1巻ではそのリッチな背景の前で、女子高生たちがネジの飛んだゆるい会話を延々繰り広げていたので、コントラストが際立っていました。その一方で、彼女らの平凡な日常が「侵略者」の来訪を機に巻を追うごとにジワジワと壊されていく。それらの組み合わせの妙が新鮮ですね。「これが『エモい』なのか......?」と思いつつ、アラフォーなりに楽しく拝読しております。

浅野:情報量をすごく引き算した漫画も、過去には描いてるんですよ。ただ、この漫画に関しては、ちょっと情報過多な感じ、息苦しい感じが、僕が思う今風の漫画なんですよね。情報量の少ない漫画も、多い漫画も、それぞれに良さがあると思います。ただ、後者は何だかんだで手間がかかるので、今のように、ある程度アシスタントを抱えていられる状態のときでなければ描けません。今後、売れなくなって、アシスタントを雇えなくなったら、引き算した漫画を描くかもしれません。「エモい」っていう要素もあると思いますね。普段からSNSなどを通して、ネット好きの若い人の感覚や、現代風のスラングを極力見るようにしています。ただ、僕も40歳近いし、アシスタントたちは30歳前後なので、今時の若い人が、実際にどういう会話をしているのか、本当にリアリティがあるのかどうかはわかりません。

C:当社の浅野さんファン(20代)に言わせると「すごく私に近い感じ」だそうですよ(笑)。そんなふうに吸収意欲が高いから、3DCGのノウハウもどんどん吸収しているんでしょうね。Autodesk 3ds Maxから使い始めて、今ではAutodesk MayaUnreal Engine 4(以下、UE4)、Esri CityEngineまで使っているという話を講演で聞き、かなり驚きました。『デデデデ』の背景は情報量が多いから、3DCGの使いどころも多く、どんどん習熟なさっているんだろうと思います。

▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演風景


浅野:とりあえず、初心者なりに気になる機能があったら触ってみて、何となく無理矢理、漫画やイラストに使っているだけですけどね(苦笑)。「描きたい絵があるから、3DCGを使っている」というだけじゃなくて、「3DCGを使えるようになったから、こういう絵もつくれる」というような、逆算的な発想もしています。この漫画を描いている間は、いろいろ実験してみて、自分のスキルを向上させたいと思っています。読者には全然関係ないことですが、もっといろんな絵をつくれるようになりたいという僕自身の課題があるんです。連載をやっていると、なるべく絵柄を統一させなきゃいけないという縛りがあるので、無茶苦茶なことはできませんが、同じことをやっていると飽きてくるという問題もありますしね。「本当はもっとやりようがあるのにな」って、ずっと思いながら描いてます。

▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』5巻の110〜111ページに見開きで掲載された大ゴマ。「これはキャラクターたちがタイムスリップするシーンだったので、Autodesk 3ds Maxのプラグインの機能を使って、4次元、5次元的な表現をしてみました。このシーンの作画では『この絵をつくりたいから、3ds Maxを使った』のではなく、『3ds Maxにこういう機能があるから、こんな絵をつくってもいいんじゃないか』という、逆算的な発想をしています。基本的に、漫画は作家の考えたことを絵に起こしたものだと思いますが、僕自身はあまり自分の創造力を信じていません。3DCGソフトのいろんな機能を何となく記憶しておいて、『この機能を使えば、もしかしたら偶発的に面白い絵ができるかもしれないから、ちょっとやってみよう』といった感じで絵づくりをするときもあります」(浅野氏)

「丁寧につくっておけば、資産になって、どんどん使い回せる」

C:講演では、様々な『デデデデ』の3DCGデータを見せていただきました。その中でも、浅野さんと3DCG専属アシスタントさんの2人で自作したという「母艦」(巨大な空飛ぶ円盤)の3DCGモデルは、特に印象に残っています。1巻の時点ではレゴブロックでつくった模型の「母艦」を接写していたけど、自重でレゴブロックが崩壊したというエピソードも含めて、インパクトがありました。

浅野:2人とも3DCGの初心者だったので、すごい時間がかかったし、簡素なモデルではあるんですけど、僕的には「あり」な絵がつくれるようになりました。これを毎回「手で描いて」ってお願いしていたら、アシスタントたちが逃げちゃうので(笑)。モデルが完成してからは、アタリ(下絵)がすぐレンダリングできるようになったので、イチから手で描く場合とは労力が全然ちがっていて、制作コストに見合う結果が得られていると思います。丁寧にモデルをつくっておけば、それが資産になって、後々どんどん使い回せて、高いクオリティの絵を安定して制作できるという点が、3DCGの強みだと思います。

▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』1巻の22〜23ページに見開きで掲載された「母艦」。この時点の作画では3DCGを活用しておらず、レゴブロックでつくった模型の「母艦」を接写した写真と、街並みの写真をアタリにしていた。「接写の写真と、街並みの写真のパース感が合わなくて『気持ちの悪い絵になっちゃったな』というのが、当時の僕の感想でした」(浅野氏)


▲浅野氏と3DCG専属アシスタントが、2人がかりで自作した「母艦」の3DCGモデル。当時はAutodesk 3ds Maxを使用。最近はAutodesk Mayaに移行しているそうだ


▲取材陣に対し、「母艦」の3DCGモデルのデータを見せてくれる浅野氏。こちらは3DCG制作のための専用机で、Windowsマシンを使用している


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』7巻の24〜25ページに見開きで掲載された「母艦」。街並みの写真のパースに合わせて前述の「母艦」モデルをレンダリングし、それらを作画のアタリにしている


▲「母艦」モデルの部分拡大。シンプルな形状を組み合わせたモデルにノーマルマップを適用し、細かな凹凸を表現している。ノーマルマップを1枚追加するだけで、漫画用の白黒画像に加工した際のディテールが飛躍的に増すという


  • ◀『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』6巻の45ページに掲載された「母艦」。前述の部分拡大をアタリにしている


▲同じく、「母艦」モデルの部分拡大。つくったモデルが資産となり、様々なアングルや画角の画像を何度でも生成できる点が3DCGの強みだ


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』6巻の46〜47ページに見開きで掲載された「母艦」。前述の部分拡大をアタリにしている


C:「母艦」は『デデデデ』の1話から繰り返し登場しているので、3DCG化するメリットが大きそうですね。アタリ用の3DCGモデルを用意するのか、あるいは写真を使うのか、それともイチから作画するのかの判断は、どんな基準でなさっていますか?

浅野:大まかに言うと、存在しない架空のメカ、物理的に入りにくい場所、撮りにくいアングルや画角、何度も登場する場所などは、時間が許せば3DCGモデルを用意します。例えば、学校の教室や、「おんたん(中川 凰蘭/なかがわ おうらん)」という女の子の部屋は、アシスタントに3DCG化してもらいました。ただしモデルの制作には一定の期間が必要なので、時間が足りない場合はほかの手段を使います。

▲【左】3DCG専属アシスタントが制作した学校の教室/【右】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の84ページに掲載されたコマ。背景の作画では、前述の教室モデルのレンダリング画像をアタリにしている。「アシスタントが若干ひまそうにしていたこともあり(笑)、最近は手間をかけて『資産』をつくる段階にシフトしています。学校の写真は10年くらい前からいっぱい撮り溜めてあったんですが、ほとんどの構図を使い果たしてしまったので『それじゃあ、学校をつくっちゃおう』という話になりました。この教室以外に、廊下や階段などもモデリングしてもらいました。これらのデータは、後々、ほかの漫画でも使えるだろうと思っています。僕がほしいのは最高レベルのクオリティのレンダリング画像ではないので、最近はシーンデータをUE4でリアルタイムに表示して、ロケハンをするような感じでカメラを動かし、バシャバシャとスピーディーに撮影したスクリーンショットをアタリに使っています」(浅野氏)


▲【左】3DCG専属アシスタントが制作した「おんたん」の部屋/【右】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の96ページに掲載されたコマ。背景の作画では、前述の部屋モデルのレンダリング画像をアタリにしている。「教室同様、この部屋も、作中では何十コマと出てきます。1回つくっておけば、いつでもほしい構図のアタリが手に入るので、3DCG化しようと思いました。ずらっと並んでいるぬいぐるみなどは、購入したアセットを並べているだけです。アシスタントには『2〜3日くらいでつくってほしいから、必要なアセットはどんどん買っちゃってください』とお願いしました。イチから時間をかけてモデリングしてもらうより、アセットを買った方が断然コストパフォーマンスがいいんです」(浅野氏)


C「おんたん」の部屋が、ぬいぐるみも含めて丸ごと3DCG化されていたというのは衝撃でした。

浅野:最近は、破壊シミュレーションなどの機能を使った絵づくりをすることもありますね。ものによっては、半日くらいで僕がちゃちゃっと仕上げたりもしています。手で描くとすごく面倒くさい絵を短時間でつくれるのがいいですね。

C:講演でも見せていただきましたが、「ちゃちゃっと破壊シミュレーションをやってみた」というエピソードもかなり衝撃的でしたね。

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「ちゃちゃっと破壊シミュレーションをやってみた」

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「ちゃちゃっと破壊シミュレーションをやってみた」

▲浅野氏が制作した、破壊シミュレーションの映像。ずらっと並んだ「デ」の文字が粉砕され、サイコロ状になって飛び散っている。この映像は、Autodesk Mayaの破壊シミュレーションの機能を使って生成しており、レンダリングにはArnoldのトゥーンシェーダを用いている


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の59ページ【左】と、99ページ【右】に掲載された扉絵。単行本の発刊に合わせて描き下ろされた連作で、前述のレンダリング映像を基に制作している


▲取材陣に対し、破壊シミュレーションのシーンデータを見せてくれる浅野氏。「僕が使っているのは本当に初歩的なシミュレーションで、やり方はちょっとネットで調べれば出てきます。ただ、あえて漫画で使っている人というのは、あんまりいないと思います」(浅野氏)


C:浅野さんは講演で、「漫画と3DCGの親和性って、僕は結構高いと思ってるんです」と語っていましたね。『デデデデ』での活用事例を見ていると「その通りだな」と感じますが、ここまで3DCGを使いこなしている漫画家さんは、まだまだ少数だろうとも思います。

浅野:一部の漫画家さんは本格的に使っていますが、導入に踏み切れないとか、導入するきっかけがないといった人の方が多いでしょうね。なんだかんだで漫画家は目の前の締め切りに追われているから、なかなか新しいものに手を出せないという事情があるんだと思います。でも、3DCGを使うことで、今までとはちがう表現を生み出せる可能性があるので、いろいろ試したらいいと思います。例えば、最近は3DCGを使ってロボット漫画を描いている人もいますよね。ロボットやメカをイチから手描きするのは無茶苦茶たいへんだったんですが、3DCGを使えるようになったことで、かなり敷居が下がったと思います。僕自身、これまで自分が描けなかったような非現実的な舞台をつくれるようになってきたので、ストーリーにも広がりが出てきました。結果として、3DCGに手を出して良かったなと思っています。この前の僕の講演や、今回のインタビューを通して「全然知識がなくても、ちょっと勉強すればこれぐらいできるよ」ってことが伝わればいいなと思います。

C:初心者が、これから漫画に3DCGを導入する場合、どこから手を付ければいいと思いますか?

浅野:小物1個から、試してみたらいいと思います。例えばピストルなんかは、手で描くのは面倒くさいし、おかしな構造だと読者にすぐ指摘されるじゃないですか。そういう小物を3DCGソフトの空間内で表示して、作画のアタリに使ってみるといいんじゃないでしょうか。小物1個くらいなら、ちょっと練習すればモデリングできるようになるし、市販のアセットも無数にあります。そういうことを続けてみて、3DCGが自分に向いていると感じたなら、できる表現もどんどん増えていくと思います。

「アナログの絵の未完成な感じが、いい雰囲気をつくっているんです」

C:浅野さんは、2D・3Dを問わず、デジタル作画を日常的に使いこなしている一方で、Gペンによるアナログ作画も続けていますよね。最近はフルデジタル、ペーパーレスの環境で制作する漫画家が増えていると聞きますが、どうして今もアナログ作画を続けているのでしょうか?

浅野:うーん。慣れの問題もありますが、何を描くかによって、デジタルの方が速いケースと、アナログの方が速いケースがあるんですよ。ペン入れに関しては、僕はアナログの方が速いです。ただ、デジタルならできるけど、アナログだとできないこともあって、その逆は結構少ないです。だから全工程をフルデジタルに置き換えることはできますし、いずれは僕もフルデジタルに移行すると思うんですけど、まだアナログにこだわってます。速い以外にも、すごい細かい理由があって、例えばGペンって先割れペンなんで、強く描き過ぎると、先が割れ過ぎて、線が2本になり、真ん中に白い部分が残るんです。アナログには、そういう偶然性とか、事故とか、エラーみたいなものがあるんですが、それをデジタルに置き換えると、綺麗に描け過ぎちゃうんです。アナログの絵には、妥協がいっぱい含まれてて、その未完成な感じが、いい雰囲気をつくっているんですよ。だから、たまにデジタルのペンタブレットでイラストを描く場合でも、アナログっぽさを出すために、わざとノイズを入れたりするんです。それでも思ったような雰囲気にならないから、今も落としどころを探ってます。

▲【左】奥はアナログ作画の専用机で、手前は2DCG制作の専用机。こちらではMacを使用/【右】前述の机を背に、インタビューに応じる浅野氏


▲抑揚のある線でペン入れされた、作画中の生原稿を見せていただいた(ちなみにホワイト修正はゼロで、とても綺麗な原稿でした)。「最終的にはこの原稿をスキャンして、Photoshop上で仕上げるから、ベタ塗りの部分はバケツ(Photoshopの塗りつぶしツール)を使っちゃえばいいんですけど、僕は筆ペンやマジックで塗っています。以前は効率化を優先してバケツを使っていたんですが、アナログ原稿の時点である程度まで完成度を高めておかないと、描いてて面白くなかったんですよ。本当に急いでいるときはバケツを使いますけど、極力、手で塗っています。それに、筆ペンやマジックでベタ塗りした原稿をスキャンして2階調化すると、ほんのちょっとカスレがでて、細かい白い点が残るんです。それをバケツで塗った場合と見比べると、印刷されたときに、ちょっとだけちがうんです。ぱっと見ただけではわからないレベルなんですけどね。そういう味をまだ残しておきたいという理由もあって、アナログにこだわっています」(浅野氏)


C:プロの漫画家は、つけペンの描き味にものすごくこだわるという話は昔からよく聞きますね。ちなみに浅野さんは、どのくらいのペースでペン先を交換しますか?

浅野:僕の場合は、「当たり」のペン先に当たったら、だいたい丸1日くらいは使いますね。ただ、線を2~3本描いてみて「外れ」だなと思ったら捨てちゃいます。この辺の感覚は本当に人によるみたいで、すごく細い線を描きたい人だと、1ページ1本のペースで交換することもあるみたいです。ペン先は、描けば描くほど甘くなっていきますから。逆に1週間、2週間、同じペン先を使い続ける人もいるみたいですね。

C:千差万別ですね。面白い。

浅野:ただ、つけペンは、今でこそ「漫画で使うペン」というイメージになってますけど、漫画専用につくられた道具じゃないんですよね。別の用途のためにつくられた筆記具の中から、漫画に向いているものを誰かが選んできて、何となくそれがスタンダードになったというだけなんです。だから、Gペンを使う必然性はあまりないんですよね。デジタルでもいいし、ほかの何かでもいい。最終形がちゃんと漫画になっていれば、そこまでの経緯は何だっていいと思います。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の作画プロセス

▲ここでは、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』8巻の98ページ、3コマ目を例に解説する。Photoshop上でネーム(漫画の下描き)を制作。コマを割り、背景用の写真を貼り込み、吹き出し用のマルと、キャラクターのアタリ(手前にメインキャラクター1体と、奥にモブキャラクター2体)をペンタブレットで描く。3DCGを使う場合は、この段階でレンダリング画像を貼り込む


▲Photoshop上で写真を2階調化した後、紙にプリントアウトする。3DCGを使う場合も、この段階で2階調化する


▲前述のプリントアウトをアタリに使い、Gペン、筆ペン、マジックなどを使ってキャラクターのペン入れをする。背景の細かいディテールも、前述の画材を使って描き足していく。基本的に、メインキャラクターは浅野氏、背景はアシスタントが担当


▲ペン入れした前述の絵をスキャンし、Photoshop上で素材(「イソべやん」など)を追加


▲Photoshop上で素材(カケアミなど)を追加


▲Photoshop上で素材(デジタルのスクリーントーン素材)を追加


▲吹き出しの写植を追加し、コマの周囲をベタ塗りして完成(このページは回想シーンのため、コマの周囲をベタ塗りしている)。「CLIP STUDIOっていう、漫画制作にすごく特化したソフトもあるんですけど、僕の場合は写真やCGのレタッチ作業の頻度が高いので、Photoshopの方が相性が良いという側面もあります」(浅野氏)


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「3DCGは、情報量が出過ぎてしまうケースもよくある」

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「3DCGだと、情報量が出過ぎてしまうケースもよくあります」

C:Gペンによる手描き、写真素材、3DCG素材を組み合わせ、『デデデデ』の作品世界をつくるにあたり、「ここを失敗すると、絵がまとまらない」というポイントはありますか?

浅野:以前の漫画では、写真素材の要素を今以上に残した、もっとフォトリアルな背景を描いていました。そうすると、すごく写真っぽくなっちゃって、漫画とキャラクターが分離して見えて、読者にとって読みづらい絵になっていたんです。そこで「漫画らしい絵」の着地点をいろいろ考えた結果、わざと手描きの線を追加して、漫画的な温かみを足すという今のやり方に行き着きました。試行錯誤をする中で「ただきれいに描けばいいというわけじゃない」ってことに気付いたんですよね。だから、写真素材を使おうが、3DCG素材を使おうが、手描きの線を加えれば、まとまらないということはありません。

▲【左】浅野氏が10年以上前に描いた漫画の背景。この頃はまだ手探り状態で、写真素材の要素が今以上に残っていた/【右】『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』6巻の157ページ。前述の背景と同様に写真素材を使っているが、手描きの線をより多く追加することで、漫画ならではの温かみを加えている


C:写真素材にしろ、3DCG素材にしろ、漫画としてまとめるときに情報の取捨選択をなさっていますよね。例えば「この線は拾ってほしい」「このディテールは無視していい」といった判断は、どのくらい細かくアシスタントさんに指示しているのでしょうか?

浅野:漫画独特の絵のつくり方をアシスタントがある程度理解していれば、僕は何も言わないです。例えば、全体の白黒のバランスのとり方なんかをわかってないと、素材がよくてもおかしな結果になっちゃうので、気を付けないといけないですね。漫画の読者は、昔から受け継がれてきた漫画の絵を好む人が多いので、そこに合わせる必要があるんです。それから僕が使っている線画抽出の方法だと、色と色の境目の部分がアウトラインとして描画されるので、グレーの壁の手前に白い花瓶があるケースと、白い壁の手前に白い花瓶があるケースとでは、アウトラインが変わってきちゃいます。それを理解した上で、線を足したり引いたりする必要があります。

C:写真や3DCGの方に振り回されると、おかしな絵になってしまうわけですね。

浅野:そうなんです。3DCGだと、情報量が出過ぎてしまうというケースもよくありますね。例えばレンガのテクスチャを貼った建物を背景に置いた場合に、そのレンガの目地(めじ)のアウトラインが全部描画されてしまい、漫画的には情報量が多過ぎるといったことが起こります。漫画はアウトラインと白黒の塗り分けでもって絵をつくるので、遠くのものほど情報量を減らして、線も飛ばして描くのが定石になっているんです。でも、3DCGだと遠くのものも詳細なディテールをもっていて、結果的に絵の密度が高くなってしまうので、手作業で情報量を減らすといった工夫は不可欠になりますね。

「キャラクターを3DCGに置き換えるのは、今はまだ難しい」

C:現時点の『デデデデ』の作画では、基本的にキャラクターは全て手描きだそうですが、講演では「先々では、キャラクターも3DCGに置き換えた方がいいんじゃないかと思ってます」と語っていましたね。実際、6巻の「侵略者」の一部は3DCGをアタリにしていると聞き、驚きました。

浅野:「侵略者」は3DCGでつくりやすい形なのに加え、大量に登場するキャラクターなので、3DCGを試すのに都合がよかったです。とはいえ、まだまだ実験段階ではあります。キャラクターは、表情にしろポーズにしろ、すごく微妙なニュアンスを求められるので、そこを3DCGに置き換えるのは、今はまだ難しいなというのが実感です。6巻のあのコマを描いていたときの僕は、なぜだか「どうしても真俯瞰(まふかん)で『侵略者』を描きたくない」っていう気持ちが強くて、3DCG専属アシスタントに「1日かけてもいいからやってください」ってお願いしました。ただ、はっきり言って、描いた方が速いです。

C:でしょうね(笑)。

▲Autodesk 3ds Maxの作業画面に表示した「侵略者」の3DCGモデル。「アシスタントにお願いして、適当にリグを入れて、走るアニメーションを付けてもらいました。漫画で使うときには、トゥーンシェーダを適用してアウトラインをレンダリングしています」(浅野氏)


▲前述の「侵略者」モデルのレンダリング画像


▲前述の「侵略者」モデルを真俯瞰のカメラで撮影したレンダリング画像


▲『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』6巻の125ページに掲載されたコマ。前述のレンダリング画像を使用している。このコマでは、信号機、自動車、道路などの作画でも、3DCG素材のレンダリング画像をアタリにしている

「最終的には、『街』を1個つくってしまいたい」

C:講演では今後の展望として、「最終的には、『街』を1個つくってしまいたい」というスケールの大きい話もなさっていましたね。

浅野:もしかしたら今後、いろんな制約や人の目などを、今以上に気にする必要が出てくるかもしれないと思っています。だから、資料となる架空の「街」の素材を自前で所有していることが、一番安全ではあるんです。いろんな人に「『街』を1個つくるのに、いくらかかるんですか?」と聞いてみたんですが、普通に破産しちゃう金額を言われたので、時間のあるときに、僕と3DCG専属アシスタントの2人で細々とつくっていくというプロジェクトを続けています。これもまだ実験段階で、漫画で使ったことはないですが、イラストを描いたり、ラフをつくったりするときに、試しに使ってみたりはしています。

▲浅野氏が3DCG専属アシスタントと一緒に制作中の「街」の3DCGモデル。新宿駅の東南口がモデルになっている。「なぜ新宿なのかというと、全然理由がなくて、アシスタントに何となくつくってもらったら、これができあがっていました。漫画のアタリに使うなら、それほど細かいディテールは必要ないし、つくり込み過ぎると時間もかかるので、シンプルな形状のモデルに、写真素材や、自前の看板素材を貼り付けています。ここからさらに拡張して、架空の大きな『街』をつくる計画です」(浅野氏)


▲前述の「街」モデルの部分拡大。『デデデデ』の主人公である「小山 門出(こやま かどで)」の3DCGモデルも配置されている


▲【左】前述の「街」モデルのエスカレータ付近のレンダリング画像と、【右】それを使って描かれたイラストのラフ。「このイラストの仕事では『何を描いてもいい』と言われたので、試しに『街』モデルの一部を使ってみました。キャラクターは僕が普通に描いていますが、背景はレンダリング画像をPhotoshopで軽くレタッチして、エフェクトをかけて使いました。作業時間は、ここで紹介しているキャラウターのラフにかかった時間を除くと、この後のアナログ作画に1時間、Photoshopでの塗りに2時間、全体調整に1時間くらいで、正味4~5時間ほどで完成しています。この背景をイチから手で描こうとすると、所要時間が大きく変わってきちゃうので、かなり楽になったなと思いました」(浅野氏)


C:今現在も、将来を見据えて様々な実験や準備を続けているわけですね。そういう姿勢を維持してきたから、ここまで柔軟に、軽やかに3DCGを使いこなしているんだろうなと、かなり脱帽しています。

浅野:絵を描く作業って、面白い部分もあるんですけど、単純作業でもあるので、短縮できるんだったらどこまでも短縮したいと思っています。だから写真素材や、3DCG素材を使い始めたんです。そうやって余った時間で、「今は必要ないけど、このツールやこの機能が漫画に使えるかどうか試してみよう」みたいなことを延々とやってしまうから、いつまでたっても机に座っている時間は短くならないし、やることはどんどん複雑になっています(笑)。どこかでもう1回、すごくシンプルなものに戻したいという気持ちもありはしますね。

C:データ管理ひとつとっても、かなり複雑になっていそうですね。

浅野:そうなんです。僕はデータ管理が苦手で、管理ツールとかはもっていないので、アシスタントのつくったデータを開いてみたものの「テクスチャがどこにあるのかわからない」といったことは本当によくあります。クラウドにデータを保存するようになってから、だいぶ楽になりましたけどね。それから、今回はずっと絵の話をしていますけど、漫画にとって一番大事な本質はストーリーなんです。そこを無難なものにしてしまうと、絶対に先細りします。だからリスクは極力避けながらも、最大限挑戦していきたいと思っています。

C:講演でも、その点は強調していましたね。

浅野:僕がなぜデジタルを取り入れたかと言うと、楽をして理想の漫画をつくれるようになりたかったんです。正直に言えば、お金はかけられないし、アシスタントにもあんまりつらい思いをさせたくない。だから結果的にこういう方法論になりました。今の環境であれば、僕が極端に一般受けしない漫画を描いて大失敗したとしても、被害を被るのは僕だけだし、蓄積した素材は次の作品に回せるかもしれない。凝り固まった漫画のつくり方に固執せず、いろんなことを試しながら、かつ自分が一番面白いと思える方法で漫画を描いていくのが、健全なやり方なんじゃないかなと僕的には思います。

  • 講演後の会場で、すごく若い方から「僕も3DCGを使いたいんですけど、描いているのはファンタジー漫画なんです。3DCGを使う意味はありますか?」って聞かれました。僕としては、むしろ、ファンタジーの方が素材は多いし、自由度も高いから、「現代日本を舞台にするよりも、利点は多いんじゃないかな」と答えておきました。お城のレンガとか、一所懸命に手で描く必要はあんまりないと思うんです。絵を描く作業って、面白いところと、修行みたいなところがあって、後者は何も生まないんですよね。1回は自分で描いた方ががいいと思うんですけど、描けるようになったら、後は素材を使えばいいですよ。


C:浅野さんの『街』が今後どこまで拡張されるのか、そこから、どんなストーリーが生み出されるのか、期待が膨らみますね。お話いただき、ありがとうございました。

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