2019年7月25日、「CGWORLD NEXT FIELD」と題したイベントが秋葉原UDXにて開催された。本イベントでは、ファッション・ロボット・医療・建築・漫画の5業界において、3DCGを活用している先駆者を招き、現在の取り組みと今後の活用の可能性を語ってもらった。告知直後からSNSなどで大きな反響があった本イベントには、会場のキャパシティを超える数の参加申し込みがあり、抽選に当たった約400名の参加者が詰めかけた。

本イベントの終了後、CGWORLD編集部では全登壇者にインタビューを依頼し、イベントで語られた内容をふり返るだけでなく、さらに掘り下げた話も聞いてみた。その模様を、全5回の記事に分けて公開していく。第1回目は、バーチャルファッションモデルimma(イマ)を生み出した、AwwのM氏(代表取締役)、岸本浩一氏(取締役)、ModelingCafeの川島かな恵氏(モデラー)へのインタビューをお届けしたい。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

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シンプルな面白さ、直感的なエモさが、immaの吸引力を生む?

CGWORLD(以下、C):「CGWORLD NEXT FIELD」の講演で、岸本さんは「新しい技術を使い、新しい事業を始めるときには、難しく考えがちだと思います。でも、これからの時代は、シンプルに面白いかどうか、心が動くかどうか、直感的なエモさがあるかどうかが、すごく大事だと思います。それがあるかないかで、その後の展開がかなり変わってきます」とおっしゃっていましたね。CGプロダクションの経営者の口から「エモさ」という言葉が出てきたのはインパクトがありました。言われてみれば、immaの顔の造形や表情は、わかりやすい可愛さではなく、一言で形容しがたい趣がありますね。

▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演風景


岸本浩一氏(以下、岸本):やっぱり、ぱっと見で目を引く感じって大事だなと思うんです。川島が最初にモデリングしたimmaと比べると、かなり雰囲気が変わりましたね。当初は、もっとパッチリした目元だったし、輪郭もふっくらとしていて、日本人受けしそうな可愛い印象でした。でも、それだとファッション性に欠けるという指摘をMさんからいただいたし、私も、もっと深みを感じる造形、想像力をかき立てる造形にしないと、人の目を引き付けられないと思いました。

川島かな恵氏(以下、川島):最初のimmaと、Mさんや岸本さんの意見を採り入れた後のimmaを見比べると、後の方が断然可愛いと思います。私がCGになれるんだったら、immaみたいな顔になりたいです。immaは少し前にもMさんの指示でイメージチェンジをしていて、月刊『CGWORLD vol.246』(2019年1月10日発売号)のカバー(表紙)に登場した頃には少し内巻きだったボブが、よりストレートなボブになっているんですよ。

▲【左】月刊『CGWORLD vol.246』(2019年1月10日発売号)のカバーに登場したimma。本号に掲載したimmaのメイキング記事は、CGWORLD.jpにも転載している/【右】本号の発売日に合わせ、2019年1月10日に公開されたimmaのInstagram投稿。衣装はTENDER PERSON


▲【左】2019年7月26日の、immaのInstagram投稿。モード系女性雑誌の『Numéro TOKYO』に登場したことを伝えている。衣装はGucci/【右】2019年8月1日の、immaのInstagram投稿。写真家の宮崎いず美氏とのコラボレーション。衣装はValentino。『CGWORLD vol.246』の登場時と比較すると、よりストレートなボブになり、シャープな印象が際立っている


C:直線的な要素が増えたことで、ビビッドでモダンな服がさらに似合うようになりましたね。この取材の前に、パーソナルカラー診断の専門家(※)にimmaのInstagram を見てもらい、どのシーズンだと思うか意見を伺ってみました。第一声が「えー!この人が実在しないってこと?」だったのは面白かったですね。加えて「パーソナルカラーの観点からすると、ウインターの要素が非常に強いと思います」というコメントをいただきました。生身の人間であっても、人造人間のような人工的な雰囲気をもつ人はウィンターに分類されるそうなので、immaがウィンターなのは理に適っていると思いました。ピンクや赤の髪の色、ボブのヘアスタイルなども、ウィンターしか似合わない特徴のひとつだと伺いました。一方で、日本人はサマーが50%、スプリングとオータムが20%ずつ、ウィンターは10%で、最も少数派なんだそうです。あえて少数派の造形にしたことも、immaのエモさの要因のひとつかもしれませんね。

ビューティ コンサルティング 凜 代表 池上里恵氏

川島:immaをモデリングしたときには特に意識していませんでしたが、言われてみれば、髪はピンクだし、肌は青みがかっているし、そういう要素をもっていそうですね。

M氏(以下、M):そういう分類は、あんまり考えてなかったですね。ただ、最初に上がってきた顔はもっと一般受けしそうな丸顔だったので、それじゃあ面白くないと思って、現在のシャープな顔に変えてもらいました。髪の色も、当初はもっと赤味が強かったんですが、薄くして、もっと薄くしてって、お願いしました。immaの髪は、これ以上薄すぎてもダメだし、濃すぎても何だか違和感があるんです。現在の絶妙な薄さは、アニメの要素を感じられるようにしたいという思いからきています。アニメとファッションの要素を融合した、ハイセンスなビジュアルをつくりたかったんです。この前「渡辺直美のナオミーツ 」というNHK BSプレミアムの番組でimmaが紹介されたとき、「アニメっぽい要素がありますね」とコメントしてくれた方がいて、面白かったですね。それから、今のファッション業界に、この色の有名人がいないという点も決め手になりました。

▲【左】2019年4月29日の、immaのInstagram投稿。ファッション業界誌の『WWD(Women's Wear Daily)JAPAN』のカバーに登場したことを伝えている。衣装はUNDERCOVER。同ブランドが今年発表した、TVアニメ『魔法の天使クリィミーマミ』(1983〜84)のプリントTシャツを着用しているのが面白い。「令和のアイテムを使って、平成や昭和のファッションを感じさせるのが、このスタイリングのテーマだと聞きました。ジャラジャラと重ね付けしたバングルも、昔のテイストを表現しているんだそうです。『immaに着せられませんか?』とWWDの編集長から相談され、『もちろんやります』とお答えしました」(M氏)/【右】2019年6月17日の、immaのInstagram投稿。「撮影あるある半目。疲れ気味なのか、、半目じゃなくても目つき悪い」というコメントが添えられている点も含めて、ユニークで面白い


C:私はレディー・ガガにインスパイアされたのかなと思いました。『VOGUE(USA)』のカバーに初めてレディー・ガガが登場したとき(2011年3月号)、ピンク色のボブのウイッグをつけていたんです。同誌の編集長のアナ・ウィンター氏のトレードマークがボブなので、敬意を表す意図があったようですね。immaは2019年2月のインタビューで、「レディー・ガガの生き方が好きで、いつか会ってみたいと思ってます」とコメントしていますし、レディー・ガガのInstagramやTwitterアカウントをフォローしていますよね。

M:それは完全なる偶然ですね。レディー・ガガは、その当時も現在も、時代を象徴する存在で、強い意思をもっています。だから、immaはレディー・ガガが好きなんです。同時に、江頭2:50も好きなようです。immaはTwitterで、レディー・ガガと江頭2:50のbotを最初にフォローしています。

C:すごい振り幅で、面白いですね(笑)。

M:確かに表現者としての振り幅はありますが、お2人とも自分の芯をもっているという点では共通していると思います。

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immaは「モデル」ではなく「普通の女の子」?

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immaは「モデル」ではなく「普通の女の子」?

C:アナ・ウィンター氏は、"Fashion is a reflection of our times."(ファッションは時代を映す鏡)とドキュメンタリー番組(※)のインタビューで語っています。『VOGUE(USA)』の創刊は1892年で、そのときのカバー(表紙)はモノクロのイラストレーションでした。その後、1909年に初めてモノクロ写真がカバーで使われ、1932年にカラー写真が登場し、1990年代以降はPhotoshopなどを使ったデジタルによる写真加工が当たり前に行われています。別撮りした頭部と身体を合成する、歯並びの悪さやシミを修正するといったことは日常茶飯事で、最近はそういった修正が消費者層にまで浸透しています。常にその時代の最先端の表現手段でもって理想の美を追究してきたファッション業界だからこそ、immaをはじめとするバーチャルファッションモデルや、バーチャルインフルエンサーが急速に浸透しているのだろうと感じます。

※「In Vogue: The Editor's Eye」(2012)

▲【左】『VOGUE(USA)』創刊号(1892年12月号)のカバーは、モノクロのイラストレーションだった。その後、1932年に初めてカラー写真がカバーで使われた。【右】はカラー写真を使った『VOGUE(USA)』(1934年1月号)のカバー。ファッション雑誌のカバーには、最先端の表現手段で描かれた、その時代の象徴が登場する。ちなみに、『VOGUE ME CHINA』(2019年2月号)のカバーには、バーチャルインフルエンサーのnoonoouriが登場している(2019年8月9日時点で、noonoouriのInstagramフォロワーは306,144人)


M:『CGWORLD vol.246』のカバーを飾らせてもらった時点では、そんなに広がらないだろうと思っていたんですが、予想外の初速でバズり、日本はもちろん、アメリカ、中国、台湾、香港、メキシコ、ロシアなど、世界各国のメディアで取り上げられ、気付いたらフォロワーの人数がものすごく増えていました(2019年8月9日時点で、immaのInstagramフォロワーは78,046人)。ファッション業界はテンポが速いから、現時点ではファッション事業として成長していますが、あくまでもそこは序章に過ぎないと思っています。その先にやりたいことがいっぱいあるんです。

C:Mさんは講演で、「バーチャルインフルエンサーという言葉が先走りしているけれど、その言葉はそんなに好きではない」と語っていましたね。ファッションモデルやインフルエンサーという枠に留まりたくないということでしょうか?

M:既に、モデルと、そうではない人との境界線はなくなっていると思うんです。私が一緒に仕事をしてきた人の中にも、Instagramを使って自分の写真を自分で発信して、事務所に所属しているモデル以上に稼いでいる人が何人もいます。何をもって「モデル」や「インフルエンサー」と呼ぶのか、疑問に思いますね。メディアでは「バーチャルモデル」や「バーチャルインルエンサー」と呼ばれる機会が多いので、そう認識されることが増えてはいますが、immaは「普通の女の子」なんです。

岸本:Mさんが語った意図があるので、今年の5月に設立したAwwは、バーチャルファションモデル・エージェンシーではなく、「バーチャルヒューマン・エージェンシーです」と言うようにしています。ちなみに、国外ではTHE DIIGITALSという世界初の3Dファッションモデリングのエージェンシーが設立され、イギリスのキャメロン・ジェームズ氏が制作したShuduをはじめ、複数のモデルが所属しています(2019年8月9日時点で、ShuduのInstagramフォロワーは182,587人)。

C:『VOGUE(USA)』も、2002年頃からはモデルではなく各界のセレブがカバーを飾るケースが圧倒的に増えていますし、確かに、immaをモデルに限定する必要性は全くないですね。講演でもMさんは「immaは今後も成長していくので、可能性は無限にあります」と語っていましたね。

▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演スライド


岸本:できることは、まだまだあると思っています。僕は「CG業界」という言葉もあまり好きではないんです。仮に「CG業界」から何かを出すとしたら、内輪で盛り上がるだけで終わりたくないですね。あと数年もすれば、バーチャルヒューマンでなければ表現できない世界が広がっていくと思います。現時点では生身の人間よりもCGの方がコストがかかりますが、どこかの時点で逆転するフェーズがくるでしょう。

C:例えば、VRやARの技術とシンクロした表現の担い手として、バーチャルヒューマンの需要が高まっていくということでしょうか。Mさんは講演で、「バーチャルとリアルの境界線で生きられる女性を生みたい」「究極の個をつくりたい」とも語っていましたね。「究極の個」とはどんな存在を指しているのか、改めて語っていただけますか?

▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演スライド


M:SNSによって「個の時代」が急速に進んでいるので、そこで活躍できる究極の個をつくりたいと思っています。ファッション事業に留まらず、音楽事業、EC事業、メディア事業など、様々な事業において、個で仕事をして、個でブランディングをして、個でメディアに登場できる機会が増えているのが、今の時代だと思います。だからこそ、バーチャルヒューマンという個が展開するビジネスを多角的に広げていきたいんです。

C:「個の時代」のビジネスの先駆者として、immaが生み出されたというわけですね。

M:ファッション雑誌だけでなく、ゆくゆくは映画にキャスティングされるところまで行けたら面白いなと思っています(笑)。

immaの「プロデュース」は、生身の人間と同じ?

岸本:最初にimmaを取り上げてもらったメディアが『CGWORLD vol.246』で良かったなと思っています。普通に出しても、CGだとわかってもらえないですから(笑)。

M:Instagramでは「#あたしCGらしい」というタグを付けて投稿しているのに、いまだにCGだと知らずにフォローしている人がいっぱいいるみたいです。日本でも、ほかの国でも、10代、20代の人たちは物心がついた頃からCGを見慣れていて「CGとは何か?」を理解する前から、CGを受け入れているんです。その感覚は私たちの世代とはちがっていて、面白いなと思います。immaは一見してもCGなのか人間なのかわからない、バーチャルとリアルの境界線にいる存在だから、多くの人を惹きつけるんだろうと思います。私自身、immaをプロデュースするときには1人の人間として扱っているので、受ける仕事や見え方は慎重に管理しています。

C:モデルや芸能人をプロデュースするように、immaを「プロデュース」しているということですか?

M:そうです。アウトプットされる世界観をコントロールできそうにないと思った場合は、依頼をお断りすることもあります。企画内容はもちろん、どんな衣装を着るか、誰と共演するか、どこで撮影するかなども事前に確認しますし、撮影に同行できない場合は、撮った写真をその場で送ってもらい、「そうじゃない」と思ったら変更してもらうようお願いしています。現時点では、immaはアウトプットされる写真によってイメージが決定付けられるので、1枚1枚がすごく大切なんです。

▲2019年4月1日4月3日4月4日のimmaのInstagram投稿。Nike ON AIRが実施したワークショップイベント「The Tokyo Department」の参加者が考えた斬新でビビッドな配色のスタイリングを、プロのスタイリストが再現し、immaが着用している。一連の撮影にはM氏も関わり、撮影方法や撮影場所に対する意見を伝えたという


2019年6月4日の、immaのInstagram投稿Burberryが20年ぶりのロゴの一新に合わせて発表したモノグラムを全面にあしらったジャケットに、ジーンズとスニーカーを組み合わせたimmaが、台湾のモデル(右写真の中央)、韓国のモデル(右写真の右側)と共に写っている(ちなみに、imma以外は生身の人間)。「これはイギリスのBurberry本社とHYPEBEASTという香港のメディアとの共同企画で、新しいモノグラムを広めるため、台湾、韓国、日本の代表が、新作のモノグラムコレクションを着用するという内容でした。このときの撮影は国外で実施しました」(M氏)


C:immaのスタイリングは、どなたが担当しているんですか? 専属のスタイリストさんがいるんでしょうか?

M:何人かお願いしたスタイリストさんはいますが、最近は私だけで決めるケースが多いです。クライアントによってはスタイリストさんが決まっている場合もあるので、そういう場合は相談しながら決めていきます。以前からファッション関係の仕事を数多くこなしてきたし、昔からファッションが好きなので、「かっこいい」「ダサい」の判断は基本的に私がやっています。

C:その判断力が、immaのスピード感のある仕事につながっていそうですね。Mさんなら、生身の人間のプロデュースも問題なくこなせそうですね。

M:そう思う人が多いらいく、最近は「生身の人間の、プロデュースやマネジメントをやってほしい」という話をいただくことが多いです。

C:面白い(笑)。

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入社1ヶ月目で、immaの担当に抜擢!?

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入社1ヶ月目で、immaの担当に抜擢!?

C:川島さんは講演で、「現在、immaのInstagram投稿は100枚以上あり、そのうちの約80枚の制作を担当してきました」と語っていましたね。先ほど、今年の前半と後半の投稿とでは、immaの髪型が少し変わっていると伺いましたが、メイクも変化しているのでしょうか?

川島:メイクは企画ごとに変えています。私自身はすごくオシャレな人間というわけではないですが、昔からファッション雑誌を見るのが好きで、よく買っていました。Mさんやスタイリストさんの意見を聞きながら、immaの衣装に合うメイクを考えて、表情やポーズを付けていくのはすごく楽しいです。

▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演スライド。immaの髪、眉毛、睫毛(まつげ)は、Autodesk MayaXGen インタラクティブ グルーミングというツールを使い、1本1本生成されている。3DCGを使えばどんな髪型でも表現できてしまうからこそ、不自然にならないよう、リアルに見えるよう、ヘアスタイリストの意見も取り入れながら細かい調整が施されている。上のスライドのように、髪を長くしたり、色を変えたりといった変更にも即座に対応できるのは、バーチャルヒューマンの強みだ。ただし、ここまで変えてしまうと「immaらしさ」が損なわれてしまうので、immaがこの髪型でInstagramに登場する可能性は低そうだ


▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演スライド。左はメイクを施していない状態のimma、右はメイクを施した状態のimma。生身の人間のメイク手順と同様に、ベースのファンデーションを施した後、眉、アイシャドウ、アイライン、チーク、リップなどのメイクをペイントしている。ここでも、メイク専門のスタイリストの意見を取り入れているそうだ。「テクスチャ制作には3DペイントツールのMARIを使っており、鏡を見ながら自分の顔にメイクをしているような感覚で、immaのメイクをペイントできます」(川島氏)


C:immaの制作は、男性モデラーよりも、ファッションやメイクに興味のある女性モデラーの方が相性が良さそうですね。

岸本:そう思います。ただ、immaのようなリアルな人体の制作に興味がある女性モデラーはすごく少ないので、川島は希少な存在でした。加えて、immaは初期段階で「ああでもない」「こうでもない」と相当つくり直してもらったので、そういう依頼に対応してくれる柔軟性があったことも、川島を抜擢した決め手のひとつです。腕が良くても、自分のこだわりや意見を押し通そうとする人だと、ここまで繊細な表現はできなかったと思います。

C:川島さんの入社は2018年の3月だそうですから、入社早々の抜擢だったのでしょうか?

川島:はい。以前は弁護士の秘書など、3DCGとは全然関係のない仕事をしていました。ただ、3DCGには以前から興味があったので、3Dツールを独学で触ってみたら、すごく楽しかったんです。人生は1回しかないから、自分が楽しいと思うことをやろうと思うようになり、デジタルハリウッドの本科(1年制)に入学して本格的にAutodesk Mayaを勉強しました。在学中にリアルな人体を1体つくってみて、面白いなと思ったものの、学生の知識では納得できるレベルまで到達できませんでした。そんなとき、ModelingCafeにデジタルヒューマン制作を専門とするチーム(ModelingCafe.Human)ができたと聞き、入りたいと思ったんです。無事に採用され、入社1ヶ月目に受けもった最初の仕事がimmaの制作でした。

C:川島さんの経歴も、規格外で面白いですね。

▲ModelingCafeの社内風景。写真手前付近が、川島氏を含むModelingCafe.Humanのチームメンバーのデスク。各所に参考資料の人体模型やトルソーが置かれている


immaはこれから、さらに進化する?

C:講演の締めくくりに、川島さんが「immaはこれから、さらに進化していきます」と語っていましたね。最後に、Awwと、ModelingCafe.Humanの今後の展望を伺えますか?

M:受託ベースの、B to Bの映像制作やアプリ制作の仕事を長らくやってみて、そのビジネスモデルに限界を感じてきました。これから個の時代が加速すれば、受託ではない、B to Cのビジネスをしかける環境がさらに整ってくると思います。その中で、Awwはバーチャルヒューマン・エージェンシーとして、様々な事業を展開し、新しいマーケットを創出していきたいです。現在、imma以外にも、2体のバーチャルヒューマンを開発中です。順次公開していくので、ご期待ください。

岸本:ModelingCafe.Humanでは、当初から、AIを搭載したリアルタイムに動くバーチャルヒューマンの制作を目標に、日々研究開発を進めています。現在のimmaは頭部のみを3DCGで表現していますが、全身の3DCGも完成しつつあります。Mさんの高いプロデュース力と、ModelingCafeの3DCGの技術力を組み合わせ、さらに面白い展開をご覧いただけるよう準備しているところです。

C:日本初のバーチャルファッションモデルとして勢いよくデビューしたimmaが、次のステージではどんな展開を見せてくれるのか楽しみにしています。ほかのバーチャルヒューマンのお披露目にも期待したいですね。immaとはちがったイメージになるのか、例えばゴージャスだったり、ロマンティックだったりするのかなど、想像が膨らみます。お話いただき、ありがとうございました。

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