immaは「モデル」ではなく「普通の女の子」?
C:アナ・ウィンター氏は、"Fashion is a reflection of our times."(ファッションは時代を映す鏡)とドキュメンタリー番組(※)のインタビューで語っています。『VOGUE(USA)』の創刊は1892年で、そのときのカバー(表紙)はモノクロのイラストレーションでした。その後、1909年に初めてモノクロ写真がカバーで使われ、1932年にカラー写真が登場し、1990年代以降はPhotoshopなどを使ったデジタルによる写真加工が当たり前に行われています。別撮りした頭部と身体を合成する、歯並びの悪さやシミを修正するといったことは日常茶飯事で、最近はそういった修正が消費者層にまで浸透しています。常にその時代の最先端の表現手段でもって理想の美を追究してきたファッション業界だからこそ、immaをはじめとするバーチャルファッションモデルや、バーチャルインフルエンサーが急速に浸透しているのだろうと感じます。
※「In Vogue: The Editor's Eye」(2012)
▲【左】『VOGUE(USA)』創刊号(1892年12月号)のカバーは、モノクロのイラストレーションだった。その後、1932年に初めてカラー写真がカバーで使われた。【右】はカラー写真を使った『VOGUE(USA)』(1934年1月号)のカバー。ファッション雑誌のカバーには、最先端の表現手段で描かれた、その時代の象徴が登場する。ちなみに、『VOGUE ME CHINA』(2019年2月号)のカバーには、バーチャルインフルエンサーのnoonoouriが登場している(2019年8月9日時点で、noonoouriのInstagramフォロワーは306,144人)
M:『CGWORLD vol.246』のカバーを飾らせてもらった時点では、そんなに広がらないだろうと思っていたんですが、予想外の初速でバズり、日本はもちろん、アメリカ、中国、台湾、香港、メキシコ、ロシアなど、世界各国のメディアで取り上げられ、気付いたらフォロワーの人数がものすごく増えていました(2019年8月9日時点で、immaのInstagramフォロワーは78,046人)。ファッション業界はテンポが速いから、現時点ではファッション事業として成長していますが、あくまでもそこは序章に過ぎないと思っています。その先にやりたいことがいっぱいあるんです。
C:Mさんは講演で、「バーチャルインフルエンサーという言葉が先走りしているけれど、その言葉はそんなに好きではない」と語っていましたね。ファッションモデルやインフルエンサーという枠に留まりたくないということでしょうか?
M:既に、モデルと、そうではない人との境界線はなくなっていると思うんです。私が一緒に仕事をしてきた人の中にも、Instagramを使って自分の写真を自分で発信して、事務所に所属しているモデル以上に稼いでいる人が何人もいます。何をもって「モデル」や「インフルエンサー」と呼ぶのか、疑問に思いますね。メディアでは「バーチャルモデル」や「バーチャルインルエンサー」と呼ばれる機会が多いので、そう認識されることが増えてはいますが、immaは「普通の女の子」なんです。
岸本:Mさんが語った意図があるので、今年の5月に設立したAwwは、バーチャルファションモデル・エージェンシーではなく、「バーチャルヒューマン・エージェンシーです」と言うようにしています。ちなみに、国外ではTHE DIIGITALSという世界初の3Dファッションモデリングのエージェンシーが設立され、イギリスのキャメロン・ジェームズ氏が制作したShuduをはじめ、複数のモデルが所属しています(2019年8月9日時点で、ShuduのInstagramフォロワーは182,587人)。
C:『VOGUE(USA)』も、2002年頃からはモデルではなく各界のセレブがカバーを飾るケースが圧倒的に増えていますし、確かに、immaをモデルに限定する必要性は全くないですね。講演でもMさんは「immaは今後も成長していくので、可能性は無限にあります」と語っていましたね。
▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演スライド
岸本:できることは、まだまだあると思っています。僕は「CG業界」という言葉もあまり好きではないんです。仮に「CG業界」から何かを出すとしたら、内輪で盛り上がるだけで終わりたくないですね。あと数年もすれば、バーチャルヒューマンでなければ表現できない世界が広がっていくと思います。現時点では生身の人間よりもCGの方がコストがかかりますが、どこかの時点で逆転するフェーズがくるでしょう。
C:例えば、VRやARの技術とシンクロした表現の担い手として、バーチャルヒューマンの需要が高まっていくということでしょうか。Mさんは講演で、「バーチャルとリアルの境界線で生きられる女性を生みたい」「究極の個をつくりたい」とも語っていましたね。「究極の個」とはどんな存在を指しているのか、改めて語っていただけますか?
▲「CGWORLD NEXT FIELD」の講演スライド
M:SNSによって「個の時代」が急速に進んでいるので、そこで活躍できる究極の個をつくりたいと思っています。ファッション事業に留まらず、音楽事業、EC事業、メディア事業など、様々な事業において、個で仕事をして、個でブランディングをして、個でメディアに登場できる機会が増えているのが、今の時代だと思います。だからこそ、バーチャルヒューマンという個が展開するビジネスを多角的に広げていきたいんです。
C:「個の時代」のビジネスの先駆者として、immaが生み出されたというわけですね。
M:ファッション雑誌だけでなく、ゆくゆくは映画にキャスティングされるところまで行けたら面白いなと思っています(笑)。
immaの「プロデュース」は、生身の人間と同じ?
岸本:最初にimmaを取り上げてもらったメディアが『CGWORLD vol.246』で良かったなと思っています。普通に出しても、CGだとわかってもらえないですから(笑)。
M:Instagramでは「#あたしCGらしい」というタグを付けて投稿しているのに、いまだにCGだと知らずにフォローしている人がいっぱいいるみたいです。日本でも、ほかの国でも、10代、20代の人たちは物心がついた頃からCGを見慣れていて「CGとは何か?」を理解する前から、CGを受け入れているんです。その感覚は私たちの世代とはちがっていて、面白いなと思います。immaは一見してもCGなのか人間なのかわからない、バーチャルとリアルの境界線にいる存在だから、多くの人を惹きつけるんだろうと思います。私自身、immaをプロデュースするときには1人の人間として扱っているので、受ける仕事や見え方は慎重に管理しています。
C:モデルや芸能人をプロデュースするように、immaを「プロデュース」しているということですか?
M:そうです。アウトプットされる世界観をコントロールできそうにないと思った場合は、依頼をお断りすることもあります。企画内容はもちろん、どんな衣装を着るか、誰と共演するか、どこで撮影するかなども事前に確認しますし、撮影に同行できない場合は、撮った写真をその場で送ってもらい、「そうじゃない」と思ったら変更してもらうようお願いしています。現時点では、immaはアウトプットされる写真によってイメージが決定付けられるので、1枚1枚がすごく大切なんです。
▲2019年4月1日、4月3日、4月4日のimmaのInstagram投稿。Nike ON AIRが実施したワークショップイベント「The Tokyo Department」の参加者が考えた斬新でビビッドな配色のスタイリングを、プロのスタイリストが再現し、immaが着用している。一連の撮影にはM氏も関わり、撮影方法や撮影場所に対する意見を伝えたという
▲2019年6月4日の、immaのInstagram投稿。Burberryが20年ぶりのロゴの一新に合わせて発表したモノグラムを全面にあしらったジャケットに、ジーンズとスニーカーを組み合わせたimmaが、台湾のモデル(右写真の中央)、韓国のモデル(右写真の右側)と共に写っている(ちなみに、imma以外は生身の人間)。「これはイギリスのBurberry本社とHYPEBEASTという香港のメディアとの共同企画で、新しいモノグラムを広めるため、台湾、韓国、日本の代表が、新作のモノグラムコレクションを着用するという内容でした。このときの撮影は国外で実施しました」(M氏)
C:immaのスタイリングは、どなたが担当しているんですか? 専属のスタイリストさんがいるんでしょうか?
M:何人かお願いしたスタイリストさんはいますが、最近は私だけで決めるケースが多いです。クライアントによってはスタイリストさんが決まっている場合もあるので、そういう場合は相談しながら決めていきます。以前からファッション関係の仕事を数多くこなしてきたし、昔からファッションが好きなので、「かっこいい」「ダサい」の判断は基本的に私がやっています。
C:その判断力が、immaのスピード感のある仕事につながっていそうですね。Mさんなら、生身の人間のプロデュースも問題なくこなせそうですね。
M:そう思う人が多いらいく、最近は「生身の人間の、プロデュースやマネジメントをやってほしい」という話をいただくことが多いです。
C:面白い(笑)。