TA07:亀川祐作氏
大手ゲーム会社でモーションデザイナーとしてキャリアをスタートさせ、その後TAにキャリアアップ。その過程で数々の看板タイトル制作に携わってきた亀川氏。その後、モバイルゲーム大手でアニメーションチームのパートリーダーとして経験を積み、5年前にセガに合流した。現在は『Dx2 真・女神転生 リベレーション』でアニメーションリーダーを務めつつ、TA業務もこなしている。
【攻め】
●『D×2 真・女神転生リベレーション』における実例
①各種シェーダを用いた悪魔表現
アグニ
コンセプトはデザイン画にあるような、炎が実体化したようなキャラクター表現。法線マップを利用してエッジと影の部分を表現し、シェーダ内で疑似的な固定ライトを当て、下から炎が当たっているような見え方になっている。体が流体のように変化している部分は頂点アニメーションによるもので、法線を同様にゆがませることで、影の黒い部分が一定にならないようにしている。これに対して表情や手など、ゆがませない部分は頂点カラーで制御されている。シェーダで下地をつくった上で、エフェクト担当が青い炎のエフェクトを周りにちりばめ、完成した。
ゴグマゴグ
水でできたような透明感のある表現を実現。上から水が常にながれる表現は法線マップを表面にながし、スペキュラで表現。体表に見える光のコースティクスについても、UVに対してゆがみ計算を複数行うことで、よりランダムな歪みが起こるようにしている。他に体をゆがめるための頂点アニメーションも入れられている。
イルルヤンカシュ
デザイン画にある水流が立ちのぼってできた蛇龍のような表現をめざしたもの。リムライトと頂点カラーのブレンドで全体の色やエッジ部分の透明感を表現。水流があがる様子はテクスチャスクロールで表現した。さらに頂点アニメーションでメッシュ自体をゆらゆらさせることで、水流がのぼるような見せ方をしている。
【守り】
●Photoshop向けツール
①新規画像アセット書き出しツール
ソーシャルゲーム制作で必要な大量の画像アセット制作を効率化するためのツール。マスターデータとなるエクセルと、画像素材のライブラリを指定するだけで、各種アイコンや画像素材を自動で生成できる。マスターデータのレア度や役割、名称、IDなどの情報を取得して、複数の画像を組みあわせ、ゲーム内で最終的に使用する画像を生成。エフェクトを追加するような画像も存在する。
●Maya向けツール
①汎用モジュール「Cyclops」
部署間を越えて汎用的に使用される、Mayaツールが入ったモジュール。Mayaのボーナスツール的な性質をもち、モデリング補助ツールやアニメーション補助ツールなど、様々な機能拡張が続いている。Cyclopsモジュール以外にプロジェクト固有のものが存在し、両方を組み合わせて使用する形だ。プロジェクト固有のモジュールは、各プロジェクトにアサインされた担当TAが主な管理担当者となっている。
②モジュラーリギングツール
キャラクターの腕や足、尻尾など、モジュールごとに組み合わせてリグを作成するためのツール。
③多関節リグツール
虫や恐竜など、様々なタイプの3関節の足をつくることができるリグツール。モジュラーリギングシステムのライブラリーをベースに、より気軽に生成できるように、機能を切り出してツール化されたものの一部だ。
TA08:吉田将司氏
2019年4月に新卒TAとして採用された吉田氏。コンピュータサイエンス専攻のかたわら、趣味でCGムービーを制作したり、ゲームジャムに参加したりと、多彩なものづくりを経験してきた。現在はTAアシスタントとして、村岡氏とともにタイトル制作のサポートを行なっている。
①頂点カラーの可視化プラグイン
研修中の空いた時間で開発したMaya向けのプラグイン。頂点カラーのRGBAをそれぞれの色ごとに可視化できる。研修内容については別記事「テクニカルアーティスト向けの新人研修とは? セガゲームスの特別カリキュラムを一挙公開」を参照。
デザイン思考と攻めのTA
このように、ひとくちにTAといっても本セクションが手がける内容は様々だ。宮下氏が手がけたVTuber向け配信システムは好例で、取材をしながら思わず「これもTAの業務の範疇なのか?」と質問してしまったほど。これに対して宮下氏は苦笑しつつ、「褒め言葉だと受け取っておきます」と返した。これまでにない体験をユーザーに提供する上で、できることは何でもやるという意識の表れのように感じられた。
このように多彩な動きができるのも、普段から各プロジェクトで、チームメンバーと一緒になって作業を進めつつ、TAセクションとしてのまとまりも兼ね備えている点が大きいという。普段から開発チームと顔を突き合わせているからこそ、困ったときに頼りにされやすい。逆に開発チームが気づきにくい、TAならではの問題点の抽出や、解決策の提案ができる。これが「攻めのTA」につながるというわけだ。
TAセクションとしての情報収集や勉強会などの取り組みも進めている。GDCやCEDECなどのカンファレンスや、社外セミナーへの参加。RSSを活用したウェブ上での情報収集と共有。村岡氏と亀川氏が中心になって進めている月例のシェーダ研究会などだ。コンシューマをはじめ、他部署のTAとの交流も進めており、それぞれの部署で行われている定例会に参加したり、ツール類の提供を受けたり、といったことも行われている。
一方で課題もある。TAの業務としての独立性が、ともすれば揺らぎがちなことだ。社内の全体最適化を考えれば、個々の課題が解決した時点で、プロジェクトから離れるのが望ましい。一方で各プロジェクトからすれば、引き続きチームに残って実作業をしてもらいたいと考えるもの。課題がアセット制作の効率化であれば、そのためのしくみつくりだけでなく、アセットの量産もしてほしいというわけだ。
しかしアセットの量産は本来デザイナーの仕事だ。この関係性が揺らぐと、TAとしての業務に差し支えることになる。樋口氏は「パイプラインの構築を兼ねて、最初のアセットは作成するとしても、量産のための作業は極力しないようにしている」と答えた。プロジェクト後半に作業工数を次第に薄くしていき、それと共にチームから抜けられるようにするのが本来のあり方。現在は少しずつ体制を整えているところだという。
最後に樋口氏は「TAセクションが求める人材像」について語った。それによると「効率化の推進に留まらず、表現に対して興味がある人」と、「本当に求められていることを感じられる人」だという。それを聞いて、この2つはそのまま、守りのTAと攻めのTAにつながるようにも感じられた。顕在化した課題を叶えるだけでなく、潜在的な課題を発見し、先回りして解決することが、「攻めのTA」につながるからだ。
正解のない状況下で問題を正しく発見し、解決するためのしくみを提案する......いわゆる「デザイン思考」のアプローチで、ビジネス・教育・社会活動など、幅広い分野での活用が進んでいる。問題を正しく解決することは、スキルがあればできる。より重要なのは「問題を正しく設定する力」だ。優れたTAとは、デザイン思考でゲーム開発の諸問題を解決する役職なのかもしれない。そのように感じられた取材だった。