テクニカルアーティスト(TA)という職分が日本のゲーム業界に定着して久しい。コンソールのAAAゲーム開発からはじまり、近年ではモバイルゲームでもTAが活躍するようになってきた。「攻めと守り」をキーワードに、様々な取り組みを進めるセガゲームスのモバイルゲーム向けTAセクションについて、その活動内容を紹介する。

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INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

Unityをベースに社内の知見を集約

「私たちは攻めと守りのTAセクションです」

セガゲームスエンタテインメントコンテンツ事業本部第4事業部第4開発1部TAセクション。モバイルゲームの開発支援を行うチームで、様々な経歴をもつ8名のTAで構成されている。部署のまとめ役で、自身もTAとして活躍する樋口雄一氏は、開口一番このように説明した。TAにおける「攻めと守り」とは何か? 一気に話にひきこまれた。

絶え間ない変化が続くゲームの開発環境。2020年末のPlayStation 5発売にともない、リアルタイム3DCGの技術レベルがまた一段上がることは確実だ。そこでプログラマーとアーティストの中間的な存在として、開発を支援するポジションがTAとなる。国産ゲームで主流を占めるモバイル(スマートフォン&タブレット)ゲームも同様で、いまやTAは必要不可欠な存在になっている。

左から 吉田将司、村岡伸一、亀川祐作、バレエブ・イルダル、村上宏樹、樋口雄一、佐々木 拓、宮下昌樹(敬称略/セガゲームス 第4事業部第4開発1部TAセクション)

もっとも、TAはタイトル開発に直接かかわることがないため、「守り」のイメージが強い。サッカーでいえばボランチのポジションだろう。同社のTAセクションも同様で、必要に応じてプロジェクトチームにアサインされ、様々な課題を解決していく。案件はチームで受け、各々の得意分野をふまえて、担当者にわりふるスタイルだ。ときには1つのプロジェクトで複数人がアサインされることもある。

実際、樋口氏はチームのおもな職務として「ゲーム開発の環境構築・効率化・処理負荷軽減・新規表現の提案と実現」をあげた。このうち、多くのタイトル開発に共通する要素が「守り」で、個々のタイトルに特有の要素や研究開発が「攻め」だとも捉えられるが、話を聞くうちに、それに留まらない「深さ」があるように感じられた。結論を急ぐ前に、本TAセクションの活動や特徴について深掘りしていこう。

コンシューマ・モバイル・アーケードなど、幅広いタイトル開発を手がけるセガグループ。CG映像制作を手がけるマーザ・アニメーションプラネットなど、映像制作のグループ会社も存在し、TAやTD(テクニカルディレクター)も数多い。しかし、本TAセクションのように部署としてまとまっている例は珍しいという。過去数年におよぶ組織改編の結果、様々な経歴をもつTAがモバイルゲーム開発向けに集約されたためだ。

個人ではなく組織力で対応する......これがTAセクションの特徴だ。実際の業務は担当プロジェクトのチームに混じって進めつつ、独自に週次の定例ミーティングをもつなど、一線を画している。こうしたセクション化が可能になったのも、同社のモバイルゲーム開発が、Unityベースで統一されたため。これによって、職歴も得意分野もまちまちなTAが集まり、互いに連携を取ることが可能になったのだ。

実際、チームにはプログラマー出身とデザイナー(=アーティスト)出身のTAが混在し、プロパーの社員だけでなく、中途社員や外国人もいる。2019年度から新卒TAも加わるなど、多彩な文化がもち込まれている。このように「共通の開発基盤」と「多彩なメンバーの経歴」が相乗効果を果たし、自然と「攻めと守りのTA」というキーワードが生まれてきた。以下にその具体例を紹介していく。

TA01:樋口雄一氏

セガに新卒で入社し、デザイナーとして20年以上のキャリアをもつ樋口雄一氏。『AZEL -パンツァードラグーンRPG-』(1998)、『ジェットセットラジオ』(2000)、『龍が如く』(2005)などコンソールゲーム開発を歴任し、モバイルゲーム開発を専門に手がける部署の新設にあわせて移動。これに伴いTAの役職がついた。余談だが、この新設部署が後のセガネットワークス(2012~2015)に発展し、セガゲームスに統合されることになる。

【攻め】

『D×2 真・女神転生リベレーション』(2018〜)における実例

①Unity標準ではできない、特殊なエフェクトアニメーションを行うためのパーティクル用コンポーネント制作

開発中にパーティクルを特定軸で回転させたり、半球内で反射させたりする動きなどが必要になったため、それぞれコンポーネントを作成して対応した。この他にも、いろいろな動きを行うためのコンポーネントが作成されている。

②キャラクターの見映えを良くする、RenderTextureを介した特殊な画面ワイプの実装

キャラクターの元のシェーダを差し替え、攻撃モーションを再生させたものを程良いカメラワークで写し、それを画面ワイプに使うようなかたちで設計・実装。他に類を見ない本作ならではの画面演出につながった。

③演出シーン向けのカメラ・エフェクト・シェーダ変更やアニメーションを同期コントロールするしくみ

ゲーム内の演出シーンで、様々な要素を同期して再生する必要があったため、そのためのしくみを実装しつつ、演出データも作成した。同期された状態を確認するためのデバッグ機能も備わっている。リリース後も運営を重ねながら、数回にわたる機能拡張が行われている。

【守り】

①Unityにインポートするモデルやテクスチャの設定を、GUIで規定するしくみ

アセットをインポートするうえで必要な処理を、それぞれ1タスクとしてクラス定義。それらを処理順に積み重ねて、多彩な設定や処理を行えるようにしたシステムを開発した。対象となるアセットをパスなどで絞り込めるだけでなく、設定変更をした場合でも、まとめて更新できるようになっている。

TA02:宮下昌樹氏

樋口氏と同じくセガ歴23年のベテラン開発者が宮下氏だ。もともとアーケードゲーム畑のデザイナー出身で、小口久雄氏(現セガサミークリエイション代表取締役社長CEO)のもとで『ダービーオーナーズクラブ(以下、ダビオナ)』(1999)などを手がけた。背景デザイナーとして制作の効率化を進めていくうちに、TAに就任。『ダビオナ』のモバイル版からセガネットワークスに合流し、現在に至っている。

【攻め】

『Readyyy!』における実例

Live2Dでキャラクターを疑似的にライティングするためのしくみの制作

アイドル育成アプリゲーム『Readyyy!』(現在は配信終了)でゲーム内の環境光に応じてキャラクターを擬似的にライティングするためのシェーダとコンポーネントなどを制作した。

②ライブ配信サービス「SHOWROOM」上でVtuberとして配信をするための仕組みの制作 

同じく『Readyyy!』で、生配信イベント用にアイドル2~5名を画面に表示させるしくみを制作。配信には動画配信プラットフォーム「SHOWROOM」を活用しつつ、キー操作でキャラクターがアニメーションするなどのしくみをUnity上で実装した。2名での配信はPC2台をHDMIケーブルで接続して対応。これに対して5名での配信ではPC1台で済ませている。
※詳細はセガ技術ブログを参照。

【守り】

①アーティファクトライブラリ

デザイナーが作成したエフェクトや3Dモデルの利用促進を高めるため、RubyOnRailsを用いて制作されたWebアプリ。社内サーバ上でプロジェクトごとに収納された膨大なアセット群を、デザイナーがブラウザから手軽に閲覧したり、検索したりして、必要に応じてクライアント側のPCにダウンロードできる。アップロードもUnityMayaからデザイナーが手軽に可能だ。

②loggerhead

TAが制作したMayaやUnityむけのツールと連動し、それぞれのエラーや実効ログを自動収集したり、使用頻度などの情報を閲覧したりするためのWebアプリ。ツールをつくるだけでなく、使用状況を可視化することを目的に制作された。

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TA03:村上宏樹氏

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TA03:村上宏樹氏

セガに中途入社し、2019年で16年目となる村上氏。開発子会社だったヒットメーカーを振り出しに、PC向けオンラインゲームの背景制作、業務用カードゲームやガンシューティングのステージ制作などを担当。その過程で制作ワークフローの効率化に取り組んだ結果、TAとしての業務をまかされるようになった。その後の組織改編でモバイル向けゲーム制作に取り組むようになり、TAとしての業務のかたわらで、『D×2 真・女神転生リベレーション』(2018~)では背景パートリーダーも務めている。

【攻め】

●『D×2 真・女神転生リベレーション』における実例

①バトル背景のコンセプトアート作成

『D×2 真・女神転生リベレーション』開発において、バトル背景のコンセプトアート制作をふりだしに、モデリングからUnityへの実装、TA業務まで垂直統合的に担当した村上氏。ディレクターが求めるビジュアルの早期実現を目標に、初期コンセプトからプロジェクトにかかわった。

②コラボ用ティザー動画制作

『D×2 真・女神転生リベレーション』のコラボイベントではキービジュアル制作およびティザー動画制作を担当した。プロデューサーからの急な要望に対しても、Timeline機能を活用したカットシーン作成~After Effectsによる動画編集まで柔軟に対応している。

【守り】

①Unityライトマップ・ベイク支援ツール

作業しているシーンのライトマップ・ベイクをサポートするモードと、ベイクをバッチ処理するモードを揃えたUnity用ツール。Renderer設定の自動化という実用的な機能の他に、軽量ベイク設定への一時的な変更、他シーンのライトマップ参照時の上書き防止、ベイク前・後でライトマップの枚数が異なる場合は警告するなど、アーティストを支援する機能を充実させている。

②Unity用アートデータ・チェックツール

「作業中シーン内」または「プロジェクト全体のプレハブ」を対象にしたデザインデータの不正を1クリックでチェックするUnity用ツール。「Mesh」「マテリアル」「パーティクル」「シェーダ」を対象に、例えばMesh抜けやマテリアル抜け、重複マテリアルなどを検出する。このツール上で発見されたエラーはMayaの最適化ツールにもフィードバックされる。

③Mayaエラー情報の自動検知ツール

Mayaから出力されるエラー情報を自動検知し、サーバに送信するプラグイン。メッセージを受けるAPIをコールバックとして登録し、エラー発生時の「スクショ」「エラー内容」「ツール名」「Mayaバージョン」「UI言語」「ユーザー名」、「シーン名」などを取得している。

④Maya背景のUnity向け最適化ツール

部内のMaya用制作環境「TITANS」のツールで、背景データをUnity出力前に最適化するツール。エラーを未然に防ぐための各種データのチェックや「頂点数」、「SG」、「ファイルノード」、「マテリアル」などの最適化を行う。最適化設定を出力ノードごとに保存している。

TA04:村岡伸一氏

大手ゲームメーカーから転職し、今年でセガ歴が5年目となる村岡氏。キャラモデラー、アートディレクター、TAとしてコンシューマゲーム開発に携わった後、モバイルゲーム開発を志望して転職。直近では新卒の吉田氏と共に描画まわりの開発支援を担当している。また、亀川氏と共に社内有志によるシェーダ研究会も運営している。

【攻め】

①キャラクターの共通シェーダ実装

現在担当しているプロジェクトで「プロジェクト初期からTA主体で描画周りを管理している」と語る村岡氏。成果の1つがキャラクターの共通シェーダだ。アートディレクターやキャラクターリードと相談しながら実装することで、アーティストが望むシェーディングや表現を早期に実現できたという。

②環境マップ生成ツール

同じく「背景アーティストから反射表現を使いたい」という要望があがったため、キューブマップからデュアルパラボロイド方式の環境マップを生成するツールなども作成しているという。

【守り】

①シェーダ研究会

TA以外の希望者やコンソール開発経験のあるプログラマーも交えて行われる社内のシェーダー研究会。村岡氏と亀川氏が定期的に主催しているもので、そこで得られた知見は社内wikiにまとめられている。参加者は毎回10名弱で、描画に関するノウハウを共有し、知識を深める場として、欠かせない存在になってきたという。

TA05:佐々木 拓氏

業界歴10年、セガ歴4年となる佐々木氏。3Dモデラー出身で、現在はUIに強いTAとして異彩を放っている。スコアやライフゲージなどに代表されるUIは、仕様策定をはじめとして、ゲーム開発の全工程と絡むため、やりがいが高い半面、作り直しが多い分野でもある。佐々木氏はこのUI制作の効率化をTA的なアプローチで推進。他にシェーダの制作なども手がけている。

【攻め】

①テキストアニメーションの制作

Unityで文字ごとにアニメーションできるスクリプトを制作。エディタ上でプレビューを手軽にできるようにもした。これにより経験が浅いUIデザイナーでも、リッチなUI演出が効率的に行えるようになった。

②ポストエフェクトの実装

手描きのようなムラのある線の表現を可能にするシェーダを制作した。

【守り】

『共闘ことばRPG コトダマン』におけるカーブエディタの制作

ゲームのルートマップをデザインするうえで、UIデザイナーのみで完結できるカーブメッシュ作成のツールをUnity向けに制作。これにより急な仕様変更でも、迅速な修正が可能になった。なお本作はセガゲームスから2018年4月にリリースされ、2019年10月にパブリッシャーがXFLAGに移行した。その後も開発にはセガゲームスのメンバーが携わっている。。

②EffectLib

『コトダマン』でのエフェクト作業軽減のために素材を組み合わせて短時間でエフェクトを制作できるツールとしてUnity向けに制作したが、設定次第では宮下氏が制作した「アーティファクトライブラリ」との連動も可能となっており、他のプロジェクトでの用途にも耐える汎用的な作りになっている。

③UnityのUI改善など

経験の浅いUIデザイナーでも多彩なUIを短時間で制作できるように、UnityのUIを独自スクリプトで拡張(左)。同じくShurikenで制作されたエフェクトデータを納品する際に、ヒューマンエラーの発生を抑えるためにチェックツールを制作した。

TA06:イルダル・バレエブ氏

ロシア出身で5年前に日本に移住してきたバレエブ氏。来日前からコンシューマゲームやモバイルゲーム開発に携わり、セガゲームスに合流して約1年になる。アーティスト出身だが、プログラマーとしての経験もあるという、複合的なキャリアのもち主だ。プログラマーとしてエントリーしてきたところを、本人の希望とアーティストとしての能力が買われ、TAとして採用してされた。

【守り】

①Maya向けの歩行モーション調整ツール

GDC2016でUbisoftが発表した講演内容をもとに、同じ機能をもつツールをMaya上に実装。モーションキャプチャで作成したアニメーションに対して、足を滑らなくするために必要な調整を自動化した。

②Maya向けのUVレイアウト自動化ツール

重複したり、オーバーラップされていたりするUVのシェル構造を保持したまま、Maya上でレイアウト調整を自動化するツール。ランダムに配置するだけでなく、指定したオブジェクト・マテリアル・UVタイル同士を近づけてレイアウトすることもできる。また、グループIDの情報をテクスチャでエクスポートする機能もある。

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TA07:亀川祐作氏

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TA07:亀川祐作氏

大手ゲーム会社でモーションデザイナーとしてキャリアをスタートさせ、その後TAにキャリアアップ。その過程で数々の看板タイトル制作に携わってきた亀川氏。その後、モバイルゲーム大手でアニメーションチームのパートリーダーとして経験を積み、5年前にセガに合流した。現在は『Dx2 真・女神転生 リベレーション』でアニメーションリーダーを務めつつ、TA業務もこなしている。

【攻め】

●『D×2 真・女神転生リベレーション』における実例

①各種シェーダを用いた悪魔表現

アグニ

コンセプトはデザイン画にあるような、炎が実体化したようなキャラクター表現。法線マップを利用してエッジと影の部分を表現し、シェーダ内で疑似的な固定ライトを当て、下から炎が当たっているような見え方になっている。体が流体のように変化している部分は頂点アニメーションによるもので、法線を同様にゆがませることで、影の黒い部分が一定にならないようにしている。これに対して表情や手など、ゆがませない部分は頂点カラーで制御されている。シェーダで下地をつくった上で、エフェクト担当が青い炎のエフェクトを周りにちりばめ、完成した。

ゴグマゴグ

水でできたような透明感のある表現を実現。上から水が常にながれる表現は法線マップを表面にながし、スペキュラで表現。体表に見える光のコースティクスについても、UVに対してゆがみ計算を複数行うことで、よりランダムな歪みが起こるようにしている。他に体をゆがめるための頂点アニメーションも入れられている。

イルルヤンカシュ

デザイン画にある水流が立ちのぼってできた蛇龍のような表現をめざしたもの。リムライトと頂点カラーのブレンドで全体の色やエッジ部分の透明感を表現。水流があがる様子はテクスチャスクロールで表現した。さらに頂点アニメーションでメッシュ自体をゆらゆらさせることで、水流がのぼるような見せ方をしている。

【守り】

Photoshop向けツール

①新規画像アセット書き出しツール

ソーシャルゲーム制作で必要な大量の画像アセット制作を効率化するためのツール。マスターデータとなるエクセルと、画像素材のライブラリを指定するだけで、各種アイコンや画像素材を自動で生成できる。マスターデータのレア度や役割、名称、IDなどの情報を取得して、複数の画像を組みあわせ、ゲーム内で最終的に使用する画像を生成。エフェクトを追加するような画像も存在する。

●Maya向けツール

①汎用モジュール「Cyclops」

部署間を越えて汎用的に使用される、Mayaツールが入ったモジュール。Mayaのボーナスツール的な性質をもち、モデリング補助ツールやアニメーション補助ツールなど、様々な機能拡張が続いている。Cyclopsモジュール以外にプロジェクト固有のものが存在し、両方を組み合わせて使用する形だ。プロジェクト固有のモジュールは、各プロジェクトにアサインされた担当TAが主な管理担当者となっている。

②モジュラーリギングツール

キャラクターの腕や足、尻尾など、モジュールごとに組み合わせてリグを作成するためのツール。

③多関節リグツール

虫や恐竜など、様々なタイプの3関節の足をつくることができるリグツール。モジュラーリギングシステムのライブラリーをベースに、より気軽に生成できるように、機能を切り出してツール化されたものの一部だ。

TA08:吉田将司氏

2019年4月に新卒TAとして採用された吉田氏。コンピュータサイエンス専攻のかたわら、趣味でCGムービーを制作したり、ゲームジャムに参加したりと、多彩なものづくりを経験してきた。現在はTAアシスタントとして、村岡氏とともにタイトル制作のサポートを行なっている。

①頂点カラーの可視化プラグイン

研修中の空いた時間で開発したMaya向けのプラグイン。頂点カラーのRGBAをそれぞれの色ごとに可視化できる。研修内容については別記事「テクニカルアーティスト向けの新人研修とは? セガゲームスの特別カリキュラムを一挙公開」を参照。

デザイン思考と攻めのTA

このように、ひとくちにTAといっても本セクションが手がける内容は様々だ。宮下氏が手がけたVTuber向け配信システムは好例で、取材をしながら思わず「これもTAの業務の範疇なのか?」と質問してしまったほど。これに対して宮下氏は苦笑しつつ、「褒め言葉だと受け取っておきます」と返した。これまでにない体験をユーザーに提供する上で、できることは何でもやるという意識の表れのように感じられた。

このように多彩な動きができるのも、普段から各プロジェクトで、チームメンバーと一緒になって作業を進めつつ、TAセクションとしてのまとまりも兼ね備えている点が大きいという。普段から開発チームと顔を突き合わせているからこそ、困ったときに頼りにされやすい。逆に開発チームが気づきにくい、TAならではの問題点の抽出や、解決策の提案ができる。これが「攻めのTA」につながるというわけだ。

TAセクションとしての情報収集や勉強会などの取り組みも進めている。GDCやCEDECなどのカンファレンスや、社外セミナーへの参加。RSSを活用したウェブ上での情報収集と共有。村岡氏と亀川氏が中心になって進めている月例のシェーダ研究会などだ。コンシューマをはじめ、他部署のTAとの交流も進めており、それぞれの部署で行われている定例会に参加したり、ツール類の提供を受けたり、といったことも行われている。

一方で課題もある。TAの業務としての独立性が、ともすれば揺らぎがちなことだ。社内の全体最適化を考えれば、個々の課題が解決した時点で、プロジェクトから離れるのが望ましい。一方で各プロジェクトからすれば、引き続きチームに残って実作業をしてもらいたいと考えるもの。課題がアセット制作の効率化であれば、そのためのしくみつくりだけでなく、アセットの量産もしてほしいというわけだ。

しかしアセットの量産は本来デザイナーの仕事だ。この関係性が揺らぐと、TAとしての業務に差し支えることになる。樋口氏は「パイプラインの構築を兼ねて、最初のアセットは作成するとしても、量産のための作業は極力しないようにしている」と答えた。プロジェクト後半に作業工数を次第に薄くしていき、それと共にチームから抜けられるようにするのが本来のあり方。現在は少しずつ体制を整えているところだという。

最後に樋口氏は「TAセクションが求める人材像」について語った。それによると「効率化の推進に留まらず、表現に対して興味がある人」と、「本当に求められていることを感じられる人」だという。それを聞いて、この2つはそのまま、守りのTAと攻めのTAにつながるようにも感じられた。顕在化した課題を叶えるだけでなく、潜在的な課題を発見し、先回りして解決することが、「攻めのTA」につながるからだ。

正解のない状況下で問題を正しく発見し、解決するためのしくみを提案する......いわゆる「デザイン思考」のアプローチで、ビジネス・教育・社会活動など、幅広い分野での活用が進んでいる。問題を正しく解決することは、スキルがあればできる。より重要なのは「問題を正しく設定する力」だ。優れたTAとは、デザイン思考でゲーム開発の諸問題を解決する役職なのかもしれない。そのように感じられた取材だった。