アニメーターとリガー、それぞれのやりがい
CGW:リグについても質問させてください。福山さんだけでなく、いろんな人に使いやすいように、本作ではSwitchingできるようなリグになっているそうですね。
ブロードヘッド:ベースの機能は福山を優先していますが、自分が使いやすいリグもあれば、福山が使いやすいリグもあります。チームには他のアニメーターもいるので、それぞれのスタイルで一番楽に使えて、モーション制作に集中できるようなリグをつくることが目的でした。誰もイライラしないように。その上で、後から自分が苦労しないためにSwitchingを入れました。
福山:まさに、モーション制作あるあるですよね。チーム内で共通のリグにしようとするんだけど、それぞれが勝手にリグをカスタマイズしてしまって、他の人が作業を引き継いだとき、全然ちがうリグになっていたとか。それが今回は共通のリグをベースに、それぞれがカスタムしたり、元に戻せるようになっていたりして、助かりました。
ブロードヘッド:Matchingツールもつくりました。ほとんどのリグって、Switcherはあっても、Matcherがないんです。そのためモーションの制作中、FKとIKの切り替えでストレスが溜まることがあります。それが嫌だったので、その場でSwitchingとMatchingができるようにしました。これによって、0フレーム目から100フレーム目までFKでつくって、101フレーム目から200フレーム目までIKに切り替えて、201フレーム目から最後までを再びFKにする、といったことが、いちいちTポーズに戻ることなく、シームレスにできるようになりました。
手と指のリグ【上】、足のリグ【左下】、顔のリグ【右下】
CGW:リガーに向く人、向かない人がいると思いますが、どのあたりが自分にあっていますか?
ブロードヘッド:アニメーターはお客様だと思っています。自分のモチベーションは他人を喜ばせることで、いろいろなことを調べるのも好き。リグ制作は最初に理想の状態を思い浮かべて、そこから逆算していくパズルだと思っています。調べ物をしながらパズルを解いて、アニメーターを喜ばせるのがリガーの仕事です。やってみて、これが自分の性格に合っていました。実際、最初からリガーになるつもりはなかったですから。
CGW:福山さんから何か具体的な要望などはありましたか?
福山:リグのつくりが煩雑だと、コントローラとチャンネルボックスとの間で、何度も手を動かす必要が出てきます。この時間がもったいなくて。また、全体をバッと選択してどこかにキーをコピーしたり、移動させたりするときに、なぜかチャンネルボックスだけついてこなかったりすることがあります。こうした状況になるのが嫌なので、できればコントローラだけにしてほしいなあって言っていました。
ブロードヘッド:今まで私がつくっていたリグでは、良くチャンネルボックスの中に足のコントローラを入れていました。しかし、福山はそのスタイルがあまり好きではなかったので、チャンネルボックスをほとんど使わないようにするには、どうしたら良いのか考えました。複数のコントローラを1つにまとめて、見た目をシンプルにして、アニメーションの再生中にコントローラの表示をOFFにしなくても気にならないくらいにするには、どうしたら良いか考えて、そこからパズルを組み始める感じでした。同じように足のリグも、ロールやかかとの動きなどを、1つのコントローラでできるようにしています。
CGW:お2人の関係の深さを感じさせますね。
ブロードヘッド:実際、隣同士の席なんです。そのため何か機能を追加したとき、少しでも隣で困っている感じだったら、すぐに「どうしました? 何が起きました?」と聞いています。
CGW:自発的行動についての工夫もありましたね。カティアが古典的なルールベースのキャラクターAIで動いている印象でしたが、もっとキャラクターAIをつくり込む考えはありましたか?
キャラクター姿勢制御ON
キャラクター姿勢制御OFF
福山:講演で説明したとおり、自発的行為といっても、3Dのオブジェクトそれぞれに対して、「カティアの興味の度合い」という隠しパラメータがあるだけなんです。興味の度合いがそれぞれで変化していって、一定以上の値になったら、カティアがオブジェクトに対して移動します。その際、そのオブジェクトに対する興味の度合いが消滅して、再び上がっていくまでインターバルがあるという。
高橋:だからルールベースではあるんですけど、より正確にいうとオブジェクト指向型のキャラクターAIという感じでしょうか。
そもそも本作ではプレイヤーがパズルを解く上で、邪魔にならない程度のキャラクターAIが求められました。プレイヤーが考えているうちにカティアが勝手に行動して、しかけを勝手に動かしてゲームオーバーになったら意味がないですからね。
一方でカティアがAIベースで移動しているとき、プレイヤーから指示が入ったらすぐに行動を中断させなければいけない、なんてシチュエーションも多発します。
福山:そのため、なかなか厄介なんですよ。自発的行動を入れなければ不自然だし。かといって調整がまずいとゲームプレイと摩擦が起きるし。
高橋:そこでキャラクターAIについては、不自然に見えない程度にすると最初から決めていました。
CGW:それでは最後に、アニメーターとリガーについて、それぞれの仕事の醍醐味や、やりがいについて教えてください。特に学生にとっては、モデラーと比べると、どうしても地味に感じられるところがあります。
福山:まずモデラーよりもアニメーターの方が、人気がないっていうのがショックでした。私は、アニメーターは俳優業だと思っていますから、逆に花形ですよ。どんなにきれいなモデリングのキャラクターでも、ゲームを遊んでいて動きが良くなかったら、がっかりじゃないですか。だからモデルを活かすも殺すもアニメーションだと思っているんです。
ブロードヘッド:キャラクターの性格を一番良く示すのがアニメーションだと思います。私が子どもの頃、ゲームを遊んで格好良いと思ったのは、動きがカッコよかったからです。福山がいうとおり、どんな格好良いキャラクターでも、動きが格好悪かったら、魅力も半減します。
福山:こういうとモデラーさんの反感を買うと思うんですけど、言ってしまえばキャラクターは針金でもいいんです。アニメーターはそれくらいの意気込みでつくっています。
ブロードヘッド:そのとおりですね。あと、リガーの良いところは、作業に対するフィードバックがすぐに来るところです。モデラーやアニメーターは、ゲームが完成して、お客様に遊んでいただくまで、フィードバックが得られません。リガーだったら、すぐにアニメーターの反応を見て、フィードバックが得られます。それは本当に良い気持ちです。
CGW:社内にお客様がいるということですね。
ブロードヘッド:そうそう。それに自分がつくったツールでつくられたモーションを見ると、そのキャラクターに命を吹き込む上で、自分が関わったという気持ちがもてます。だからリガーはすごくやりがいがある仕事だと思います。
CGW:なるほど。
ブロードヘッド:あと、よく私はアニメーターの仕事について説明するとき、「お人形さんと遊ぶこと」だと言っています。お人形さんにポーズをつけて、写真を撮ると楽しいですよね。女性だけではなくて、男性でもアクションフィギュアで遊ぶ人がいます。それと同じなんです。
CGW:確かに『Last Labyrinth』ではキャラクターの魅力をアニメーションが引き立てているなと、遊んでみて改めて感じました。またVRならでは、少人数体制ならではのゲームデザインが土台にあり、それに対して必要なアニメーションやリギングがなされていると感じました。ありがとうございました。