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テレワーク推進のコツは目的を明確にすること——MUGENUPに聞く新型コロナウイルス騒動の乗り切り方

テレワーク推進のコツは目的を明確にすること——MUGENUPに聞く新型コロナウイルス騒動の乗り切り方

見えない不安を克服するために必要なこと

「適切な粒度で作業を分割し、適切な対価が設定できない」ことと、「労務管理や人事評価が正しく行えない」ことは、コインの裏表の関係だ。

実は筆者のようなライター業は、この問題がクリアされている。裏を返すと、これがクリアされているから、リモートワークで働くことができるといってもいい。

実際、筆者はフリーランスとなって20年が経つが、対面による打ち合わせの機会が年々減少している。今や発注から納品まで、担当者と1回も顔を合わせないまま進むことも、しばしばだ。

これを可能にしているのが、業務の発注と報酬が記事単位で行われることだ。締切までに一定のクオリティの記事を納品できなければ、新規の案件がなくなるだけ。仕事をサボると自分の収入に直結する、シンプルでわかりやすい世界だ(※)。

※ただし新規媒体の起ち上げのように、密接なコミュニケーションが必要な場合は、この限りではない。定期的に対面での打ち合わせがくり返され、徐々に媒体がつくり上げられていく。ゲーム開発における新規案件のイメージだ

MUGENUPでも成果物ベースで評価することが定められている。姿が見えない不安を克服する上で、具体的な成果物で結果を示すことが、最も効果的だからだ。特にクラウドの在宅クリエイターの場合は、案件や作業内容ベースでの発注と報酬が基本になっている。

「業務指示や発注の前に、一週間でその人ができそうなことを、だいたい予想するようにしています。それと比較して今週はどうだったとか、上手くパフォーマンスが出せていますかとか、逆に集中できない時間帯ってありますかとか。いろいろ話をしながら、最適なやり方を決めています」(星田氏)。

「特に2Dアセットは3Dアセットに比べて成果物を出すまでのスパンが短いので、お互いに詰めていきやすい点はありますね。社内の在宅勤務者は、フリーランスの働き方に近いところがあります」(森田氏)。

もっとも、タスクの粒度が細かすぎてもマイクロマネジメントになる上、チェックに要する時間が無駄になる。テレワークでは発注側の意識や姿勢もまた、重要になるのだ。だからこそ、業務のフローを棚卸しして、できるところから始めるのがオススメだ。そのためには業務が属人的になりすぎないよう、普段から注意する必要がある。

ワークライフバランスとテレワーク

これ以外に、いわゆる「サボり問題」をおそれて、テレワーク導入をためらう企業も少なくない。

実際、日本では正規雇用であれば、多少仕事をサボっても、それだけを理由に解雇することは難しい。そのためテレワーク導入は解雇規制の緩和とセットでなければ難しい、とする声もある。テレワークで社員がきちんと働いているか監視するためのAI開発がブーム......という笑えない話もあるほどだ。

話題がこの質問に及ぶと、「だからこそ、何のためにテレワークを導入するのか、目的をハッキリさせることが大事」だと指摘された。例に挙がった「人材確保」はそのひとつだ。

ワークライフバランスが重要になる中、ライフスタイルに合わせた働き方の選択肢を、企業の側が提案することが求められる。テレワークはワークライフバランスに選択肢を生む手段のひとつであり、「人材確保」のために導入する価値がある......取材後のメールインタビューで、同社はこのように補足した。

同社でテレワークが馴染みやすいのは、社員の7割弱が女性という特殊性もある。本社勤務の社員は男女比がだいたい半々だが、在宅勤務の社員はほとんどが女性だという。クラウドの在宅クリエイターも女性の割合が圧倒的。学校が休校になったことで、子育てと在宅での仕事の両立を課題に挙げる声が多く寄せられているという。

これまでも、少子高齢化が進む中、子育てや介護離職でベテランのクリエイターが退職してしまうのは、企業の競争力が低下する要因になると指摘されてきた。その上で今回の感染拡大が突きつけたのは、「集団で集まって業務を進めること自体がリスク要因になる」という、過去にない事態だ。

一方で企業であれば、業績を落とすことは許されない。そのためには普段から働き方に多様性をもたせ、柔軟な業務体系が取れるように備えを進めることが重要だ。

ゲーム開発が社内で全てまかなう時代から、複数社での協業スタイルに移行したように、今後はひとりひとりの働き方を見直していくことが、競争力の強化にもつながっていく。

「企業によってはテレワークの導入が難しい点があるかもしれませんが、最終的にやってやれないことはないと思っています。あとは、そこにかかるコストを鑑みて、判断するのが良いのかなと。開発の上流工程をテレワークで進めることも、やり方次第ではないでしょうか。今回の感染拡大をきっかけに、広く議論が深まれば良いと思います」(森田氏)。

Profileプロフィール

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右から、森田真実氏(MUGENUP デジタルクリエイティブ事業部 2D制作部 制作部長)、星田 究氏(MUGENUP デジタルクリエイティブ事業部3D制作部マネージャー・アートディレクター)

スペシャルインタビュー