オンプレミスとクラウドのあるべきかたちとは?
CGW:今ビルドの話が出たのでお聞きしたいんですが、開発機は会社に置いてあるんですよね。
佐々木:置いてあります。
CGW:ということは、ゲームエンジン上でチェックはできるけれど、実機でチェックできないってことですか?
佐々木:はい、今できない状況です。
CGW:なるほど、今後どうする予定ですか?
佐々木:いや本当に困っていて。
笹原:なるほど、そういうことがあるんですね。
佐々木:やっぱり機密の問題が大きいので。ハードメーカーごと、パブリッシャーごとで契約がバラバラですし。特に家族がいると、子どもが見ちゃったりしますからね。開発機って取材でも、まず写真に写らないようにするじゃないですか。
CGW:そうですね。
佐々木:それに開発機って数も満足ではないので。いつもだったら、開発機がある人の机に行って確認したりするんですが、それができないので、どうしようかなって。
CGW:そのあたりはモバイルとか、Web系の開発とはちがうところですよね。
佐々木:家庭用ゲームはまだしも、一番困ってるのがアーケード系とか、筐体もので。プロジェクト全体で、どうしようっていう感じになってますね。
CGW:逆にアニマさんでは、レンダリングはどういう風にされてるんですか?
笹原:レンダリングもリモートでやっています。基本的に会社のレンダーファームを動かしているだけなので、やっていることはほぼ変わらないです。
CGW:アニマさんではクラウドレンダリングを試されたことはありますか?
笹原:一時的にレンダリングパワーが必要なときがあったりするので、検証はしています。今後そういったことが増えそうなので、投資をしていきたいですね。またデータサーバに関しても、オンプレミスだけでなく、クラウドの活用を考えても良いのかなと。
CGW:東日本大震災を契機に、スタジオの地方分散が進みましたね。
笹原:そうそう。テレワークだけでなく、サーバ関係も分散しておいたほうが良いのかなと。東京がアウトになったときに、何もできないみたいな感じになるので。
Zoomによる社内ラジオ体操(ヒストリア)
CGW:ヒストリアではデータサーバはオンプレミスですか?
佐々木:オンプレですね。
CGW:だからVPNが必要で。
佐々木:そうですね。弊社ではバージョン管理エンジンにPerforce Helix Coreを使っていて、社内のデータサーバにソースやアセットを集約させて、協力会社さんもそこにアクセスしてもらっています。データ容量も多いし、クラウドにもっていくとお金も通信量もかかるし、何より遅いっていう。そのため今のところはオンプレで、バックアップだけクラウドみたいな感じですね。
CGW:アニマさんは金沢にも中国の大連にもスタジオがありますよね。制作拠点が3つあるので、以前からデータの共有とか、インフラ整備にも投資されていたと思いますが......。
笹原:いやいや、まだ全然できてない方です。今回のことで、もっとやっていかないといけないのかなと。うちも自社にサーバがあって、みんなアップロードしている感じなので、ちょっと怖いなって。
佐々木:やっぱり怖いですよね。
CGW:何でもそうなんですけど、うまくいってるときとか、売り上げが上がってるときっていうのは、いろんな問題が隠されるじゃないですか。それが、こんな風に急に不況になるとか、天災が起きたりすると、急に弱点が露呈しますよね。
笹原:そうですね。それはわかります。
CGW:なので、ヒストリアさんでいえば、リーダーのストレス問題が大きいという話がありましたが、何か対策は考えられていますか?
佐々木:根本解決はできていませんが、対処療法的にいくつか行なっています。特に新人についていたリーダーが、一番手が回らない状態になっています。指示に時間がかかるので、テレワークで一気にパンクしました。そこで「手が空いて良い」状態を促進するために、新人に手が空いたときに行う特別研修を一律で与えました。そんなふうに現場の手が空くことへの恐怖を制度的に抑えたりとか。他に細かいところだと、バックオフィスでお菓子をチョイスして、社員みんなに宅配便で送るということもしました。
CGW:細かい気配りが感じられますね。
佐々木:定例ミーティングが終わった後で、ちょっと残って話したり。コミュニケーションのしづらさを共有して、やっぱりそうだよねって話すことで、お互いにストレスを軽減させたりしています。
Zoomミーティング(ヒストリア)
新人研修はどう進めている?
CGW:アニマさんとしての課題は何でしょうか?
笹原:先ほども言いましたが、やっぱりまだ2週間ぐらいの話ですからね。これが1ヵ月とか、もっと続くということになったとき、どうなっていくのか。そこは様子を見ないといけないのかなと思っていて。
あとは4月になって新人が入ってきて。これまでリモートで新人教育って、やったことがなかったので。その辺のノウハウも貯めていかなきゃと思っています。
CGW:新人研修って大変そうですね。
笹原:画面共有とチャットを使いながら、たぶんいろいろやってるんだろうなって思いますけど、パフォーマンスがどれくらい出ているのかわからないので。後で確認しないといけませんね。
CGW:ヒストリアさんはどうですか? 新人は採りましたか?
佐々木:今年は過去最大なんですよ。もともと30人強だった会社だったにもかかわらず、アルバイト採用を含めて7人採ったんですよね。中堅が育ってきたことと、良いご縁が多かったので、採用数を増やしました。早期出社していた新人が多かったので、ある程度助かりましたが、それでも1日目に入社式、2日目にオフィスクローズ宣言、3日目にPCを抱えて帰るみたいな事態になりました。
CGW:先ほどもちょっとありましたが、新人研修の工夫について教えてください。
佐々木:4月時点では、できるだけ手をかけない、でも研修の質は下げないことが課題でした。そこで、うちで定期的にやっている「UE4ぷちコン」(UE4を用いたミニゲーム制作のコンテスト)を活用しました。2017年に開催した第8回のテーマ「60秒」を基に、個人制作で好きなゲームをつくってもらうものです。ただ、UE4の習熟度にけっこう差があったので、新人同士でZoomとSlackを用いつつ、情報共有をしてもらっています。
CGW:新人の中にはアーティストも、プログラマーも、ゲームデザイナーもいると思いますが、個人でつくれますか?
佐々木:UE4なら大丈夫です。入門書を読めば、何かしらつくれます。Slackのグループをつくったら、さっそく良い関係で回り始めて、こっちが驚いています。新人の方からZoomで常設部屋をつくりたいと提案があったんですよ。ちょうど空いている有料アカウントがあったので、それを提供したら、お互いに上手く活用しているようです。この前業務後にちょっと覗いたら、Zoom飲み会をしていました。
CGW:なるほど。
佐々木:弊社では誰も使っていないメールアドレスに紐付けるかたちで有料アカウントをつくって、プロジェクトごとにミーティングルームをつくって運用しているんですよ。こうすると、常設部屋がつくれて便利です。他にやり方があるのかもしれませんが、ひとまずこれで運用しています。
CGW:有料アカウントをいくつ取られているんですか?
佐々木:35個かな? リーダー系はミーティングを自分で開きたいですし、無料アカウントの40分制限が非効率なので。外部の方も含めて55人くらいで運用しています。
CGW:テレワークでは個々人の家庭環境に依存するところがありますよね。ハイエンドなPCがないとか、Wi-Fiがないとか。何か対応はされましたか?
笹原:事前にアンケートだけは3月中に取りました。自宅の環境を教えてくださいって。その上で自宅で固定回線のない人に向けて、ポケットWi-Fiを契約して渡しました。PCがない人には、弊社のレンダーファームからPCを外して、作業用に渡しました。
CGW:ポケットWi-Fiの回線でリモートデスクトップは可能ですか?
笹原:意外とできるみたいですね。PCの所有率も高かったので、助かりました。思ったよりストレスがないことが最大の発見でしたね。もっとも、これらはあくまで短期的な対応にすぎません。テレワークが中長期的に続くなら、また考えないと。