4月7日(火)に発令された国の緊急事態宣言を受け、一斉にテレワークに移行した3DCG制作の現場。過去に例のない状況だけに、各社とも手探りで進めているのが現状だ。そこでゲーム業界からヒストリアの佐々木 瞬氏、CGアニメーション業界からアニマの笹原晋也氏に協力いただき、2020年4月20日(月)に緊急オンライン対談を実施した。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

なお、両社のテレワーク移行については、各々のブログに詳しいので、併せて参照してほしい。
●アニマ
http://www.studioanima.co.jp/Anigon-chat/2020/04/06/post-5096/
http://www.studioanima.co.jp/Anigon-chat/2020/04/06/post-5089/
http://www.studioanima.co.jp/Anigon-chat/2020/04/06/post-5084/
http://www.studioanima.co.jp/Anigon-chat/2020/04/21/post-5107/

●ヒストリア
https://historia.co.jp/archives/14815/

テレワークにあわせてZoomで対談

CGWORLD(以下、CGW):今日はテレワークをテーマとした緊急対談ということで、対談自体もリモートで行なっています。アニマさん、ヒストリアさんとも、フルリモートに移行されてちょうど2週間というところですが、調子はいかがでしょうか?

佐々木 瞬氏(以下、佐々木):ボチボチですかね......でも疲れ切ってますね。

笹原晋也氏(以下、笹原):疲れますよね。何か見えない感じがすごくて。

佐々木ZoomSlackでコミュニケーションを取りながら仕事を進める日々ですが、画面越しだと会話のタイミングがつかみにくくて、気を遣いますよね。

CGW:はいはい。

佐々木:自分自身で言えば、毎週火曜日に出社して、郵便物の整理や観葉植物の水やりをしているんです。サーバが落ちていたので、再起動したこともありました。それにあわせて、プロデューサーが書類を取りに来たりすると、そこでちょっと話したりするじゃないですか。すごく会話が楽で。リアルの会話って、やっぱり情報量が多いんだなって思います。

笹原:本当にそうですね。

CGW:すでに対談が始まっていますが(笑)、簡単に自己紹介などいただければ。

佐々木:ヒストリア代表の佐々木です。会社を設立して6年半になります。起業前からコンシューマの開発が長かったこともあり、独立後もUnreal Engine(以下、UE)4専門のゲームデベロッパというコンセプトで事業を進めています。主な事業領域はコンシューマ、アーケード、VR、そして建築・自動車関連を中心としたノンゲームですね。

CGW:モバイルはやられていないんですね。

佐々木:そうなんですよ。UE4がモバイルに向きにくい時期があったことと、弊社のスタッフにコンシューマ畑の人間が多かったことが理由です。ゲームデザインを行う機会を多くもちたいという考え方もあり、運営型よりも売り切り型のゲームに目がいってしまいますね。一時期、スマホのソーシャルゲームに手を出しましたが、社風に合わないということで、やめてしまいました。

CGW:ゲーム業界でもモバイルと家庭用やアーケードでは、テレワークのあり方もちがうと思いますので、そのあたりの話も後でできればと思います。ちなみに受託開発での売上は何割ぐらいですか?

佐々木:ほとんどですね。自社案件として「Solid Vision」という、バーチャルモデルルームの開発・展開を行なっていますが、売上的に見ればほとんどが受託開発です。

CGW:続いて笹原さんもお願いします。

笹原:アニマ代表の笹原です。4月末決算で、来期で24期目になりますね。だいぶ長いことやってます。ゲームのオープニングCGを制作するところから始まって、そこから遊技機向けの映像をつくったり、Netflixのような配信向けのアニメ作品をつくったり。『モンスターストライク』のアニメーションをつくらせていただいたり。3DCGの映像制作スタジオとして、幅広くやってますね。

映像系以外に、ゲームのアートアセットをつくったりするチームもあります。受託開発については、うちも100%に近いですね。

CGW:ありがとうございました。まずテレワークへの移行についてお伺いします。すでにお二方とも、ブログのほうで細かく書かれていらっしゃると思いますので、もう少し生っぽい部分について教えてください。ヒストリアさんはブログに書かれているとおり、4月に入ってからバタバタと移行された感じですか?

佐々木:めっちゃバタバタですね。もともと産休・育休でテレワークを2人だけ許可していたんですよ。それに伴い、ここ2年ぐらいでVPNを入れたり、セキュリティがしっかりしたルーターなどを入れたりと、最低限の環境は整えていました。ただ、アーケードの筐体ものや、VRコンテンツなどの開発も行なっているので、全社的にテレワークを推進していく考えはありませんでした。コンシューマをやっていると、開発機を社外にもち出すことも難しいですからね。

CGW:テレワークは4月7日(火)の緊急事態宣言がきっかけですか?

佐々木:その前から動いていました。新型コロナウイルスの感染拡大で、3月の後半に緊急事態宣言やロックダウンの噂が出始めたころです。自分も含めて、だんだん電車に乗るのが怖くなってきたのもありますし、いざロックダウンとなったら、なすすべがなくなりますからね。そうなる前に、テレワークについて本格的に考えないとまずいなと。

他にゲーム業界の知人に、新型コロナウイルスの陽性反応が出たこともありました。その方が入院にいたるまでの過程や症状について事細かくSNSに投稿してくれたんですよ。それをみて、驚かされたこともきっかけのひとつですね。

CGW:軽症でも、こんなに苦しいんだと。

佐々木:本当にそうですよね。それもあって危機意識が増していって。クライアントにミーティングのついでに話題に上げつつ、備え始めていました。その一方でゲーム業界で「あそこが感染した」、「あそこがクローズした」といった噂話が耳に入ってきて......。3月31日(火)に「これはもう無理だな」と判断をして、そこから一気に動いて、オフィスのクローズは4月3日(金)でした。

笹原:弊社も似ていますね。たまたま在宅勤務をするスタッフがいて。それをテストケースとして、リモートワークの準備というか、検証をしていたんです。そんな中、3月の三連休明けのころから、スタッフがざわつきはじめて。「会社としてはどうするんですか?」、「外出したくないんですけど」など、問い合わせが増えてきました。

佐々木:そうなんですよね。

笹原:ちょうど4月末締切のプロジェクトがあり、仕事を抱えて忙しいスタッフもいました。そのため休日出勤の話もありましたが、目に見えて社内がざわざわしていました。会社として、ある程度の指針を出さないと、安心して働けないという状況だったので、3月28日(土)~29日(日)は完全オフにしました。そこから急にテレワークを進めようみたいな感じになりましたね。

実際、1日でも早く在宅で働ける環境をつくらなくちゃということで、4月のあたまに一気にもっていった感じがありますね。意識が高いスタッフが何人かいて、リモートデスクトップ用のソフトを検証してくれていたおかげで、短期間で移行できました。

対談はZoomを通して行われた。笹原氏(左上)、佐々木氏(左下)、筆者(右上)

在宅勤務はストレス? 快適? 好対照な両社

CGW:アニマさんではブログで「以前から家庭や交通(住んでいる場所が遠方)の事情で能力や意欲のあるアーティストが働く機会を逃してしまうことはアーティスト/企業双方にとって"もったいない"と考えていました」と書かれていましたね。

笹原:これから子育てや介護などで、在宅で働きたいという人が増えてくるだろうと、漠然と思っていました。そういう意味では、今回のことは良い機会でもありましたね。

CGW:経営者ならではの責任感や、プレッシャーはありませんか?

笹原:責任感はよくわからないですが、見えない不安はあって、ストレスに感じますね。マイナス要素でも、わかっていれば対応できるんですが。わからないものに対しては凄く不安を感じるので。

CGW:互いのテレワークの環境づくりが好対照ですよね。ヒストリアさんはVPNを接続して自宅で直接作業をされているのに対して、アニマさんではリモートデスクトップを利用し、会社のPCにログインして作業をされています。リモートデスクトップ環境で本当にCG制作が進められるのか疑問に感じられる人も多いと思いますが、実際はどうですか?

アニマにおけるリモートデスクトップ環境での働き方

①自宅のPCにインストール&設定していたParsecを開き、Connectを選択した状態

②会社にある自分のPC画面が開いた状態

笹原:今回の対談にあたって現場の方から、スタッフの意見をまとめてもらったんですが、それを見る限りあんまりストレスがないみたいですね。生産性は確かに落ちているんですが、出社しなくて良くなって逆に嬉しいとか。通勤時間だけで何時間もかかるスタッフもいるので、時間がもったいないという声もありました。総じて、通勤時間がなくなって良かったというスタッフが多かったですね。

CGW:ヒストリアさんはどうですか?

佐々木:うちはコミュニケーションの取りづらさについて、ストレスに感じているスタッフが多いようですね。受託開発といっても、弊社は取りまとめ役として、上流工程の割合が高いんです。そこから切り出せるものを協力会社に発注するというスタイルでやっているため、密なコミュニケーションが必要なところが社内に残っていて。そのためリーダークラスの負荷が急増していますね。

仕事の進め方についても、リーダーがチームのモニタを見ながら、問題をパッと拾って話しかけるとか。お互いに作業の合間をぬって、口頭で情報共有を済ませるとか。仕事で詰まっているスタッフがいたら、他のプロジェクトで似たような経験をしたスタッフを連れてきて、そこで情報共有をさせるとか。そういったコミュニケーションベースのやり方をしてきたので、テレワークだとなかなか厳しいですね。

CGW:そういった仕事のやり方は、ゲーム業界あるあるですよね。逆にCGスタジオに取材に行くと、ちがう文化を感じることがあります。スタジオの中が薄暗くて、みんなあまり喋らなくて、歩き回っている人がいないみたいな。

そんなふうに仕事ぶりがちがうこともあって、アニマさんではテレワークの方が仕事がしやすい的なことがあるんでしょうか?

笹原:ある程度情報が固まったものを渡さないと、作業する側が迷っちゃうんですよね。迷うと効率が悪くなるので、迷わずにつくってもらうことが大切です。そのためには作業をする前に、ある程度完成像が見えていなきゃいけない。そうした傾向がCGアニメーション制作では多いのかもしれないですね。だからコミュニケーションも、チェックのときには必要ですが、そこまで多くはない。それよりも作業をする時間にあてた方が、効率がいいのかなっていう気はします。

ただ、そうはいっても、ちょっと気になったことが気軽に聞けないっていうのが、ストレスとして出てきているので。1~2週間程度だと問題がなくても、それ以上の期間になると、別の問題がやっぱり出てくるんじゃないかなと思いますね。今のパフォーマンスが今後も維持できるかわかりませんし、引き続き様子を見ないといけないのかなって感じですね。

佐々木:実際、弊社ではこの2週間でオフィスにいた頃のコミュニケーション貯金が尽きた感覚がありますね。それまで指示していた作業が、ぶわーっと全部終わってきて、ここからが本番みたいな。また、最初の頃は「テレワークでもこれだけできる」みたいな、ポジティブな雰囲気があって、自分も救われたところがありました。ただ、これも次第にテレワーク疲れみたいなものが出てきていて。

テレワークに移行したアニマ社内の様子

ウォーターフォールとアジャイル、それぞれの進め方のちがい

CGW:先ほどヒストリアさんではZoomとSlackを使用されているという話がありましたが、アニマさんではどのようなコミュニケーションツールを使われていますか?

笹原:ZoomとRocket.Chatを使っていますね。ただ、チームによって運用がちがっていて。アセットなどを制作するチームでは、黙々と仕事をしたいスタッフが多いので、比較的コミュニケーションが少なめですね。他のチームでは、ずっとZoomをつないで、映像をながしながらやっているところもあります。チームごとに仕事内容がちがうので、それぞれで良い方法を模索してもらっている感じです。

CGW:必要に応じてチーム長が笹原さんとミーティングをしたり、報告を上げたりって感じですか?

笹原:いえ、それもあまりないですね。スタッフのパフォーマンスが出るのが一番重要だと思ってるので、現場が中心になって動いています。僕は彼らが決めた内容を傍で聞いて、全体の舵取りに集中しています。もう数日テレワークを早めてみましょうとか。そういうことしか言わないですね。

佐々木:それは組織として素晴らしいですね。

CGW:佐々木さんはまだ、プレイングマネージャーですよね。

佐々木:そうなんですよね。もっと現場に権限を委譲していかなきゃいけないんだけど、まだ道半ばでして。とりあえず、コミュニケーション面での対策として、みんなには「全体の歩みを遅くしろ」と言っているんですけれども。

CGW:ブログでは「午前中にやっていたミーティングを夕方も実施するようになった」と書かれていましたね。

佐々木:そうですね。ちょっと話が前後しますが、ゲームとCGアニメーションは作業の進め方が対極だと思います。ポリゴン・ピクチュアズさんや、マーザ・アニメーションプラネットさん、SOLA DIGITAL ARTSさんと映像制作やVRコンテンツで協業させていただいた中で、そのことを実感しました。CG制作は文字通りウォーターフォールで、それが理に適っているんですよね。最初に絵コンテを決めて、そこから一気に量産にもっていくという。

これに対してゲームでは、ちょっとつくって手触りを確認して、またちょっとつくってというくり返しで開発が始まって。そんなふうにしながら、量産期に向けてウォーターフォールで進められるように整えていくといった感じで。

ただ、そうはいってもプログラムとグラフィック、プログラムと企画といったところで日々トラブルが起き続けるので、密にコミュニケーションを取りながらひとつずつ解決していかざるを得ない。そんなふうにアジャイル型のようなかたちで進めていくのがゲーム開発では多いと思います。そういうところのちがいが大きいかなと感じていて。

CGW:なるほど。

佐々木:そのためテレワークに移行する上でも、コミュニケーションが薄くなることで、リーダー側のマネジメントに対するコストが膨れることが予想されました。そうなると現場がチェック待ちになって、手もち無沙汰になるじゃないですか。リーダー側からすれば、メンバーの手が空くことが怖いので、とりあえず現場に精査が甘いタスクを投げてしまう。もしくは、本来先に手を着けるべき自分のタスクより、他の人の手を埋めるための準備タスクを優先せざるを得なくなってしまう。

ただ、そうなると自分で自分の首を絞めちゃうんですよね。自分が本来先にやるべきタスクが後回しになるので、タスクが積み上がり、決めるべき順番で物事を決めていないため、リテイクが多くなってしまう。最悪の場合、現場が崩壊しかねません。

それでは意味がないので、ひとつひとつの作業をちゃんとやろうと。その結果、現場で手が空くのは仕方がないと。非常事態なんで、それにあわせたやり方にしようと指示を出しました。

テレワークに移行したヒストリアの社内

笹原:話を聞いていて、やっぱりうちは完全にウォーターフォールというか。上から下にものがながれていくのでこういう状況に強いのかなって、改めて思いました。

佐々木:ウォーターフォール型は、各々でやることがはっきりしていますからね。

笹原:そんなふうにしないと効率良く結果が出ないので。それぞれの精度が上がれば上がるほど、打ち合わせの回数も減りますしね。ただ、CGアニメーションでアジャイル型のモノづくりもやりたいよねって話も出ていたんです。やり方としては難しいけれど、そっちの方が良いんじゃないかって話もありました。ただ、今は努めてウォーターフォール型で良かったのかなっていう。

CGW:ゲーム業界でも完璧な仕様が切れれば、ウォーターフォール型でも問題ないんでしょうが、なかなか難しいですよね。

佐々木:そこまで先を見通せないですし、チームの全体で共有できなければ意味がないですからね。自分もディレクションをしていて、経験上・理屈上はこの仕様で大丈夫だと思っていても、チームで共通意識をもつために最初の部分を実装してから次の話をしよう、と判断することも多いです。

また、それにより見えてなかった問題点があぶりだされることも、日常的にあります。そのため多少効率が悪くても、少しずつビルドを重ねていくことが重要です。ゲームジャンルや、そのジャンルへの造詣の深さによって、どこまで刻むかは変わりますが。

次ページ:
オンプレミスとクラウドのあるべきかたちとは?

[[SplitPage]]

オンプレミスとクラウドのあるべきかたちとは?

CGW:今ビルドの話が出たのでお聞きしたいんですが、開発機は会社に置いてあるんですよね。

佐々木:置いてあります。

CGW:ということは、ゲームエンジン上でチェックはできるけれど、実機でチェックできないってことですか?

佐々木:はい、今できない状況です。

CGW:なるほど、今後どうする予定ですか?

佐々木:いや本当に困っていて。

笹原:なるほど、そういうことがあるんですね。

佐々木:やっぱり機密の問題が大きいので。ハードメーカーごと、パブリッシャーごとで契約がバラバラですし。特に家族がいると、子どもが見ちゃったりしますからね。開発機って取材でも、まず写真に写らないようにするじゃないですか。

CGW:そうですね。

佐々木:それに開発機って数も満足ではないので。いつもだったら、開発機がある人の机に行って確認したりするんですが、それができないので、どうしようかなって。

CGW:そのあたりはモバイルとか、Web系の開発とはちがうところですよね。

佐々木:家庭用ゲームはまだしも、一番困ってるのがアーケード系とか、筐体もので。プロジェクト全体で、どうしようっていう感じになってますね。

CGW:逆にアニマさんでは、レンダリングはどういう風にされてるんですか?

笹原:レンダリングもリモートでやっています。基本的に会社のレンダーファームを動かしているだけなので、やっていることはほぼ変わらないです。

CGW:アニマさんではクラウドレンダリングを試されたことはありますか?

笹原:一時的にレンダリングパワーが必要なときがあったりするので、検証はしています。今後そういったことが増えそうなので、投資をしていきたいですね。またデータサーバに関しても、オンプレミスだけでなく、クラウドの活用を考えても良いのかなと。

CGW:東日本大震災を契機に、スタジオの地方分散が進みましたね。

笹原:そうそう。テレワークだけでなく、サーバ関係も分散しておいたほうが良いのかなと。東京がアウトになったときに、何もできないみたいな感じになるので。

Zoomによる社内ラジオ体操(ヒストリア)

CGW:ヒストリアではデータサーバはオンプレミスですか?

佐々木:オンプレですね。

CGW:だからVPNが必要で。

佐々木:そうですね。弊社ではバージョン管理エンジンにPerforce Helix Coreを使っていて、社内のデータサーバにソースやアセットを集約させて、協力会社さんもそこにアクセスしてもらっています。データ容量も多いし、クラウドにもっていくとお金も通信量もかかるし、何より遅いっていう。そのため今のところはオンプレで、バックアップだけクラウドみたいな感じですね。

CGW:アニマさんは金沢にも中国の大連にもスタジオがありますよね。制作拠点が3つあるので、以前からデータの共有とか、インフラ整備にも投資されていたと思いますが......。

笹原:いやいや、まだ全然できてない方です。今回のことで、もっとやっていかないといけないのかなと。うちも自社にサーバがあって、みんなアップロードしている感じなので、ちょっと怖いなって。

佐々木:やっぱり怖いですよね。

CGW:何でもそうなんですけど、うまくいってるときとか、売り上げが上がってるときっていうのは、いろんな問題が隠されるじゃないですか。それが、こんな風に急に不況になるとか、天災が起きたりすると、急に弱点が露呈しますよね。

笹原:そうですね。それはわかります。

CGW:なので、ヒストリアさんでいえば、リーダーのストレス問題が大きいという話がありましたが、何か対策は考えられていますか?

佐々木:根本解決はできていませんが、対処療法的にいくつか行なっています。特に新人についていたリーダーが、一番手が回らない状態になっています。指示に時間がかかるので、テレワークで一気にパンクしました。そこで「手が空いて良い」状態を促進するために、新人に手が空いたときに行う特別研修を一律で与えました。そんなふうに現場の手が空くことへの恐怖を制度的に抑えたりとか。他に細かいところだと、バックオフィスでお菓子をチョイスして、社員みんなに宅配便で送るということもしました。

CGW:細かい気配りが感じられますね。

佐々木:定例ミーティングが終わった後で、ちょっと残って話したり。コミュニケーションのしづらさを共有して、やっぱりそうだよねって話すことで、お互いにストレスを軽減させたりしています。

Zoomミーティング(ヒストリア)

新人研修はどう進めている?

CGW:アニマさんとしての課題は何でしょうか?

笹原:先ほども言いましたが、やっぱりまだ2週間ぐらいの話ですからね。これが1ヵ月とか、もっと続くということになったとき、どうなっていくのか。そこは様子を見ないといけないのかなと思っていて。

あとは4月になって新人が入ってきて。これまでリモートで新人教育って、やったことがなかったので。その辺のノウハウも貯めていかなきゃと思っています。

CGW:新人研修って大変そうですね。

笹原:画面共有とチャットを使いながら、たぶんいろいろやってるんだろうなって思いますけど、パフォーマンスがどれくらい出ているのかわからないので。後で確認しないといけませんね。

CGW:ヒストリアさんはどうですか? 新人は採りましたか?

佐々木:今年は過去最大なんですよ。もともと30人強だった会社だったにもかかわらず、アルバイト採用を含めて7人採ったんですよね。中堅が育ってきたことと、良いご縁が多かったので、採用数を増やしました。早期出社していた新人が多かったので、ある程度助かりましたが、それでも1日目に入社式、2日目にオフィスクローズ宣言、3日目にPCを抱えて帰るみたいな事態になりました。

CGW:先ほどもちょっとありましたが、新人研修の工夫について教えてください。

佐々木:4月時点では、できるだけ手をかけない、でも研修の質は下げないことが課題でした。そこで、うちで定期的にやっている「UE4ぷちコン」(UE4を用いたミニゲーム制作のコンテスト)を活用しました。2017年に開催した第8回のテーマ「60秒」を基に、個人制作で好きなゲームをつくってもらうものです。ただ、UE4の習熟度にけっこう差があったので、新人同士でZoomとSlackを用いつつ、情報共有をしてもらっています。

  • 8回「UE4プチコン」ポスター

CGW:新人の中にはアーティストも、プログラマーも、ゲームデザイナーもいると思いますが、個人でつくれますか?

佐々木:UE4なら大丈夫です。入門書を読めば、何かしらつくれます。Slackのグループをつくったら、さっそく良い関係で回り始めて、こっちが驚いています。新人の方からZoomで常設部屋をつくりたいと提案があったんですよ。ちょうど空いている有料アカウントがあったので、それを提供したら、お互いに上手く活用しているようです。この前業務後にちょっと覗いたら、Zoom飲み会をしていました。

CGW:なるほど。

佐々木:弊社では誰も使っていないメールアドレスに紐付けるかたちで有料アカウントをつくって、プロジェクトごとにミーティングルームをつくって運用しているんですよ。こうすると、常設部屋がつくれて便利です。他にやり方があるのかもしれませんが、ひとまずこれで運用しています。

CGW:有料アカウントをいくつ取られているんですか?

佐々木:35個かな? リーダー系はミーティングを自分で開きたいですし、無料アカウントの40分制限が非効率なので。外部の方も含めて55人くらいで運用しています。

CGW:テレワークでは個々人の家庭環境に依存するところがありますよね。ハイエンドなPCがないとか、Wi-Fiがないとか。何か対応はされましたか?

笹原:事前にアンケートだけは3月中に取りました。自宅の環境を教えてくださいって。その上で自宅で固定回線のない人に向けて、ポケットWi-Fiを契約して渡しました。PCがない人には、弊社のレンダーファームからPCを外して、作業用に渡しました。

CGW:ポケットWi-Fiの回線でリモートデスクトップは可能ですか?

笹原:意外とできるみたいですね。PCの所有率も高かったので、助かりました。思ったよりストレスがないことが最大の発見でしたね。もっとも、これらはあくまで短期的な対応にすぎません。テレワークが中長期的に続くなら、また考えないと。

次ページ:
業界全体で取り組むことと、各社で個別に取り組むこと

[[SplitPage]]

業界全体で取り組むことと、各社で個別に取り組むこと

CGW:ちなみに笹原さんは今、ご自宅ですか?

笹原:今は会社です。毎日は来てないですが、ミーティングがしっかりあるときは会社に来ていますね。家だと話しにくいというか、家族もいますので。幸い会社から徒歩10分程度の場所に自宅があるので、助かっています。

CGW:自宅が会社に近いのは良いですね。

笹原:通勤のストレスもないですしね。スタッフが今、その恩恵を受けています。逆に僕はスタッフがいないぶんだけ働きやすいっていうか。

CGW:佐々木さんはご自宅からですよね。会社までどれぐらいですか?

佐々木:徒歩30分ぐらいじゃないかな。タクシーでも1,000円くらいで行けるので、この期間は電車は控えるようにしています。

CGW:学校が休校になって、お子さんが一緒だと仕事がしづらいという話がありますよね。在宅勤務でストレスがなくなった方は、みなさん単身者なんでしょうか?

笹原:そこはありますよね。自分も子供が2人いるので、やっぱり会社に来ちゃいますよね。

CGW:ヒストリアさんは学校の休校対策で何か良いアイデアはありますか?

佐々木:明確に示せてはいないです。うちにも、小学校の休校に加えて保育園が預かってくれなくなったので、子どもの世話によって生産性が落ちている社員はいますね。子どもが『フォートナイト』を始めたら回線が重くなった、という社員もいました。このあたりは仕方ないので、必要な部分は仕事の調整で対応しています。

CGW:その辺も含めてなんですけども、普通に考えるとゴールデンウィーク明けに緊急事態宣言が解除されるとは、思えないじゃないですか。

佐々木:無理じゃないかなあ。

※対談内容は2020年4月20日(月)時点のもの

CGW:わりと中長期的に対応していかなくちゃいけない中で、2週間で何とかなることと、半年から1年かけて対応することは、またちがいますよね。これまでの期間がプロトタイプだと考えると、これから本制作に移行するにあたって、考えられている対策はありますか?

佐々木:まだそこまで頭が回らないのが本音ですね。個々のプロジェクトによってもちがいますし。本当にコンシューマタイトルはどうするんだと。

CGW:パブリッシャーさん、プラットフォームホルダーさんの対応も重要ですよね。

佐々木:大きく分けて「契約関係」、「機材関係」、「進捗対策」があると思っています。大前提として効率がある程度落ちるのは仕方ないと思います。中小のプロジェクトはそこまでワークフローをがっちり決めませんし、だからこそクリエイティビティが発揮されるという良さもある。特に弊社はUE4を使って、まず動くものをつくってみようという文化があるので。だからコミュニケーションの比重が大きくなってしまうわけで。

CGW:はいはい。

佐々木:さっきも言いましたが、まずは速度を落としてでも、正常なものを無理なくつくれる体制を整えることですね。今は無理してつくっている状況なので。その体制ができてから、それぞれのプロジェクトで最適化を進めていくという感じでしょうか。

他に経営的な話になりますが、受託開発中心だと、平時のリスクは低くても、いざというときに小回りが効かないですよね。テレワークに移行するにしても、クライアントからの許可が必要ですし。それにクライアントから「こういう状況なので、案件をキャンセルします」と言われたら、はいっていうしかないリスクを抱えています。

なので、受託開発と並行で自社案件の比率もある程度高めたいなと。全部ではないにしろ世の中がどういう風になっても、業界の風潮がどうなっても、大手さんがどういう判断をされても、自分たちでコントロールできるところをもう少し増やしていきたいなと。「Solid Vision」もそのひとつだったりするわけですが。そんなふうに事業展開をしていきたいですね。

バーチャルモデルルーム「Solid Vision」

CGW:笹原さんはいかがでしょうか?

笹原:リモートデスクトップ環境が予想以上に機能しているとはいっても、効率が落ちているのは事実です。これをどのように上げるかが、やっぱり問題だなと思っています。その上で、どこまで会社が個人に対してどれくらい投資するかっていうのは、難しい課題ですね。

CGW:それぞれ、テレワークで生産性はどのくらいまで低下したと思われますか?

佐々木:うちは7~8割くらいになっていますね。

笹原:うちもやっぱり、それくらいになっていますね。

CGW:すでにテレビ番組で再放送の割合が増えているなど、新型コロナウイルスの影響が目に見えるかたちで現れていますが、御社はいかがですか?

笹原:うちは自社で完結する案件が多いので、スタジオの生産性を上げればまだ問題は少ないと思います。ただ、さっきも言ったように、どこまで設備投資を個人に対して行うかが課題で。もしテレワークがあと半年続くんだったら、それなりに機材投資が必要になります。モニタひとつとっても個々人がバラバラで、これから色味の問題なども出てきますからね。今は現状維持で耐える時期かなと思っています。

新型コロナウイルスで変わる業界の働き方と対応策

佐々木:まあ、ネガティブなことがいっぱい出た中で、ポジティブなことも話しておくと、これまで産休・育休で在宅勤務をしていた社員が、社内では特殊なレギュレーションで働いている状況でした。それが、みんな1度体験したことで、在宅勤務に関する理解が相当進んだかなと。実際に、一足先に在宅で働いていた社員の知見が活きましたからね。

CGW:いずれにせよ、今回のことで働き方が大きく変わっていくきっかけになりそうですね。

笹原:そうですね。テレワークは今後増えていくと思うので。そこに対応できる人とできない人が分かれてくると思うので、このノウハウを使って何か考えていきたいなと思います。あとは、オフィスがここまで必要なのかっていうのは、ちょっと感じています。社員みんながリモートワークで良いんだったら、それに会社も応えていかないといけませんし。1つの場所に集まるっていう考え方自体が、変わってくるのかなってね。

佐々木:実際、オフィスの家賃のことを考えたら、気が重いですよね。

笹原:そうですよね。ただ、最低限の設備は必要なので、上手くシェアできれば良いのかなと思ったりしますけどね。

佐々木:それにしても今回、笹原さんがリモートワークへの移行について、すごくポジティブに考えていらっしゃるのがわかって、驚きました。

笹原:ポジティブにならざるを得ないというか。スタッフが働きやすい環境を整えることが一番なので。逆に何か働きにくいことが多いのであれば、そこは変えていかないといけないのかなと思って。いま全体で150人くらいスタッフがいて、そのまわりに協力会社さんがいっぱいあるので、いろいろと考えさせられますよね。

佐々木:そこが何というか、経営者としての年季の差をすごく感じました。他に会社の役割なども、すごく考えましたね。対行政とか、対クライアントとか......。会社として、どうメンバーを守るべきか。外部スタッフの雇用をどうするのか。そういったことを考える良い機会でしたね。

CGW:まったく別の業界の話ですが、経営者から社員の基本給を一律で20%下げる話が出されて、すごくもめています。知人の話なんですが。

佐々木:うちらはまだ、職種的にテレワークで対応できるので。効率が下がるとはいえ、前に進めるので。まだ世の中的には良かった方なのかなと。

笹原:そうですね。物理的なモノに縛られている職場だと、なかなか難しいですよね。デジタルな職場で良かったのかなと思ってますけど。

佐々木:アミューズメントだけちょっとちがいますが。本当にゲームセンターについては、今は耐えてくれと思っています。

笹原:映画館もそうですよね。どこもけっこうばたばたされてますね。

CGW:学校も大変です。新型コロナウイルス騒動の影響を受けた世代がこれからどうなるか。

佐々木:採用も本当にかわいそうだなと思って。いまはオンラインでの会社説明会など、できる範囲で機会を用意していけたらと思います。

CGW:今回のことがいつまで続くか、まったく先が見通せないのが正直なところですが、いずれにせよコロナ禍が社会のあり方や働き方を大きく変えてしまいましたよね。そうした中、ゲームとCGアニメーションで、ちがうところや同じところが浮かび上がってきて、大変興味深い対談になりました。本日はありがとうございました。