業界全体で取り組むことと、各社で個別に取り組むこと
CGW:ちなみに笹原さんは今、ご自宅ですか?
笹原:今は会社です。毎日は来てないですが、ミーティングがしっかりあるときは会社に来ていますね。家だと話しにくいというか、家族もいますので。幸い会社から徒歩10分程度の場所に自宅があるので、助かっています。
CGW:自宅が会社に近いのは良いですね。
笹原:通勤のストレスもないですしね。スタッフが今、その恩恵を受けています。逆に僕はスタッフがいないぶんだけ働きやすいっていうか。
CGW:佐々木さんはご自宅からですよね。会社までどれぐらいですか?
佐々木:徒歩30分ぐらいじゃないかな。タクシーでも1,000円くらいで行けるので、この期間は電車は控えるようにしています。
CGW:学校が休校になって、お子さんが一緒だと仕事がしづらいという話がありますよね。在宅勤務でストレスがなくなった方は、みなさん単身者なんでしょうか?
笹原:そこはありますよね。自分も子供が2人いるので、やっぱり会社に来ちゃいますよね。
CGW:ヒストリアさんは学校の休校対策で何か良いアイデアはありますか?
佐々木:明確に示せてはいないです。うちにも、小学校の休校に加えて保育園が預かってくれなくなったので、子どもの世話によって生産性が落ちている社員はいますね。子どもが『フォートナイト』を始めたら回線が重くなった、という社員もいました。このあたりは仕方ないので、必要な部分は仕事の調整で対応しています。
CGW:その辺も含めてなんですけども、普通に考えるとゴールデンウィーク明けに緊急事態宣言が解除されるとは、思えないじゃないですか。
佐々木:無理じゃないかなあ。
※対談内容は2020年4月20日(月)時点のもの
CGW:わりと中長期的に対応していかなくちゃいけない中で、2週間で何とかなることと、半年から1年かけて対応することは、またちがいますよね。これまでの期間がプロトタイプだと考えると、これから本制作に移行するにあたって、考えられている対策はありますか?
佐々木:まだそこまで頭が回らないのが本音ですね。個々のプロジェクトによってもちがいますし。本当にコンシューマタイトルはどうするんだと。
CGW:パブリッシャーさん、プラットフォームホルダーさんの対応も重要ですよね。
佐々木:大きく分けて「契約関係」、「機材関係」、「進捗対策」があると思っています。大前提として効率がある程度落ちるのは仕方ないと思います。中小のプロジェクトはそこまでワークフローをがっちり決めませんし、だからこそクリエイティビティが発揮されるという良さもある。特に弊社はUE4を使って、まず動くものをつくってみようという文化があるので。だからコミュニケーションの比重が大きくなってしまうわけで。
CGW:はいはい。
佐々木:さっきも言いましたが、まずは速度を落としてでも、正常なものを無理なくつくれる体制を整えることですね。今は無理してつくっている状況なので。その体制ができてから、それぞれのプロジェクトで最適化を進めていくという感じでしょうか。
他に経営的な話になりますが、受託開発中心だと、平時のリスクは低くても、いざというときに小回りが効かないですよね。テレワークに移行するにしても、クライアントからの許可が必要ですし。それにクライアントから「こういう状況なので、案件をキャンセルします」と言われたら、はいっていうしかないリスクを抱えています。
なので、受託開発と並行で自社案件の比率もある程度高めたいなと。全部ではないにしろ世の中がどういう風になっても、業界の風潮がどうなっても、大手さんがどういう判断をされても、自分たちでコントロールできるところをもう少し増やしていきたいなと。「Solid Vision」もそのひとつだったりするわけですが。そんなふうに事業展開をしていきたいですね。
バーチャルモデルルーム「Solid Vision」
CGW:笹原さんはいかがでしょうか?
笹原:リモートデスクトップ環境が予想以上に機能しているとはいっても、効率が落ちているのは事実です。これをどのように上げるかが、やっぱり問題だなと思っています。その上で、どこまで会社が個人に対してどれくらい投資するかっていうのは、難しい課題ですね。
CGW:それぞれ、テレワークで生産性はどのくらいまで低下したと思われますか?
佐々木:うちは7~8割くらいになっていますね。
笹原:うちもやっぱり、それくらいになっていますね。
CGW:すでにテレビ番組で再放送の割合が増えているなど、新型コロナウイルスの影響が目に見えるかたちで現れていますが、御社はいかがですか?
笹原:うちは自社で完結する案件が多いので、スタジオの生産性を上げればまだ問題は少ないと思います。ただ、さっきも言ったように、どこまで設備投資を個人に対して行うかが課題で。もしテレワークがあと半年続くんだったら、それなりに機材投資が必要になります。モニタひとつとっても個々人がバラバラで、これから色味の問題なども出てきますからね。今は現状維持で耐える時期かなと思っています。
新型コロナウイルスで変わる業界の働き方と対応策
佐々木:まあ、ネガティブなことがいっぱい出た中で、ポジティブなことも話しておくと、これまで産休・育休で在宅勤務をしていた社員が、社内では特殊なレギュレーションで働いている状況でした。それが、みんな1度体験したことで、在宅勤務に関する理解が相当進んだかなと。実際に、一足先に在宅で働いていた社員の知見が活きましたからね。
CGW:いずれにせよ、今回のことで働き方が大きく変わっていくきっかけになりそうですね。
笹原:そうですね。テレワークは今後増えていくと思うので。そこに対応できる人とできない人が分かれてくると思うので、このノウハウを使って何か考えていきたいなと思います。あとは、オフィスがここまで必要なのかっていうのは、ちょっと感じています。社員みんながリモートワークで良いんだったら、それに会社も応えていかないといけませんし。1つの場所に集まるっていう考え方自体が、変わってくるのかなってね。
佐々木:実際、オフィスの家賃のことを考えたら、気が重いですよね。
笹原:そうですよね。ただ、最低限の設備は必要なので、上手くシェアできれば良いのかなと思ったりしますけどね。
佐々木:それにしても今回、笹原さんがリモートワークへの移行について、すごくポジティブに考えていらっしゃるのがわかって、驚きました。
笹原:ポジティブにならざるを得ないというか。スタッフが働きやすい環境を整えることが一番なので。逆に何か働きにくいことが多いのであれば、そこは変えていかないといけないのかなと思って。いま全体で150人くらいスタッフがいて、そのまわりに協力会社さんがいっぱいあるので、いろいろと考えさせられますよね。
佐々木:そこが何というか、経営者としての年季の差をすごく感じました。他に会社の役割なども、すごく考えましたね。対行政とか、対クライアントとか......。会社として、どうメンバーを守るべきか。外部スタッフの雇用をどうするのか。そういったことを考える良い機会でしたね。
CGW:まったく別の業界の話ですが、経営者から社員の基本給を一律で20%下げる話が出されて、すごくもめています。知人の話なんですが。
佐々木:うちらはまだ、職種的にテレワークで対応できるので。効率が下がるとはいえ、前に進めるので。まだ世の中的には良かった方なのかなと。
笹原:そうですね。物理的なモノに縛られている職場だと、なかなか難しいですよね。デジタルな職場で良かったのかなと思ってますけど。
佐々木:アミューズメントだけちょっとちがいますが。本当にゲームセンターについては、今は耐えてくれと思っています。
笹原:映画館もそうですよね。どこもけっこうばたばたされてますね。
CGW:学校も大変です。新型コロナウイルス騒動の影響を受けた世代がこれからどうなるか。
佐々木:採用も本当にかわいそうだなと思って。いまはオンラインでの会社説明会など、できる範囲で機会を用意していけたらと思います。
CGW:今回のことがいつまで続くか、まったく先が見通せないのが正直なところですが、いずれにせよコロナ禍が社会のあり方や働き方を大きく変えてしまいましたよね。そうした中、ゲームとCGアニメーションで、ちがうところや同じところが浮かび上がってきて、大変興味深い対談になりました。本日はありがとうございました。