>   >  静岡の虫取り少年が、CGの世界に出会うまで ~"蟲の人"長谷川拓海が語る、CGを通して伝えたい虫の魅力(前編)~
静岡の虫取り少年が、CGの世界に出会うまで ~"蟲の人"長谷川拓海が語る、CGを通して伝えたい虫の魅力(前編)~

静岡の虫取り少年が、CGの世界に出会うまで ~"蟲の人"長谷川拓海が語る、CGを通して伝えたい虫の魅力(前編)~

「虫」をつくりはじめて数ヵ月で挑んだCGコンテスト

CGW:はじめてつくった記念すべき虫は、何だったのでしょうか。

長谷川:ゴマダラカミキリ、アゲハチョウ、ウデムシの3種です。ゴマダラカミキリは、昔家の周りによく出ていたのを思い出して、懐かしい虫をつくりたいという想いから。アゲハチョウは美しい見た目から人気も高いので、定番として(笑)。残るウデムシは、世界三大奇虫と呼ばれるほど奇妙な造形をしているんですが、はじめて見たときに衝撃を受けまして、ぜひつくってみたいと思いました。

初めて制作した虫作品のひとつ「ゴマダラカミキリ」

長谷川:その「ウデムシ」ですが、はじめて挑戦したCGコンテスト、「KLab Creative Fes'17」に応募した作品でもあるんです。「虫」をつくりはじめてすぐの頃だったんですけど......。

CGW:作品をつくりはじめてまだ日が浅いころの応募だったのですね。応募してみようと思ったきっかけは、何かあったのでしょうか。

長谷川:同じキャラクターデザイン学科に通っていた今川真史(※)という先輩が、前年度にそのコンテストで準グランプリを受賞していまして......。それを見て、単純にかっこいいなと思う反面、負けず嫌いなのでちょっと悔しかったんですよね(笑)。それが一番の原動力だったと思います。「KLab Creative Fes」(以下、KCF)のコンセプトが「君のつくってるそれ、案外凄いかも」というものだったので、じゃあ自分がつくっているものも案外すごいんじゃないかと思って、静止画部門に「ウデムシ」を応募しました。

※今川真史:注目の若手VFXコンポジターの一人。在学中にKLab Creative Fes'17でグランプリを受賞し、メディアでの露出が増加。2018年9月〜2019年12月までCGWORLD本誌でシーンメイキング連載「NEO ACT」を執筆(CGWORLD.jpで同記事のこぼれ話や雑談などを紹介するコラムも掲載)。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒。現在、Framestoreのモントリオール(カナダ)拠点でVFXコンポジターとして活躍中
CGWORLD.jpでのインタビュー記事はこちら

この作品は、現在確認されているだけでも世界に数十種存在するウデムシのそれぞれのパーツを組み合わせて新種のウデムシをつくるというコンセプトで作成したものです。世界のウデムシをとことん調べてつくりあげた自信作でもあったので、どう評価されるかとても気になりましたが、318名の応募の中から予選を通過し、静止画部門のファイナリスト4名に選ばれたときは本当に嬉しかったですね。

KCF予選で制作した作品『Amblypygi(ウデムシ)』

長谷川:本選では、KLabの社員さんからフィードバックをいただき、1ヵ月ほどかけてブラッシュアップした「ウデムシ」で挑みました。プレゼンテーションで何を話そうかとても悩んだのですが「自分は、自分の好きなものを伝えにいこう」という想いで、CGの技術的な説明はほどほどに、その生態から造形の美しさなど「ウデムシ」についてひたすら語り続けたんです(笑)。順位は3位と悔しさを覚える結果ではありましたが、多くの人が「蟲の人」として僕を覚えてくれたので、プレゼンテーションのインパクトは誰にも負けていなかったと思います!

KCF予選で制作した作品『Amblypygi(ウデムシ)』

CGW:好きなものを突き詰めていくというのは、大きなパワーだと思います。長谷川さんの虫への熱い想いが、みなさんの印象に強く残ったのではないでしょうか。

長谷川:そう思います。自分でつくっておきながら言うのもなんですが、虫ってあまり需要がないんですよ......(笑)。でも、需要がないからこそ、ブルーオーシャンだと感じています。虫の魅力を知らない人に、虫の魅力をCGで伝える。その需要は十分にあるはずだと自分に言い聞かせて、僕の作品を通して虫のファンになってもらえたらいいなと思います。

ちなみに、このコンテストでは特別賞も受賞しまして、それをきっかけにKLabに内々定をいただきました。

CGW:なるほど。コンテストでの受賞がきっかけで、KLabへの入社につながったわけですね。ちなみに、入社2年目の現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

長谷川:3Dアーティストとして、人型のキャラクターから背景、こまごまとしたアセットまで、幅広くCGをつくっています。また、技術研究のようなところのお手伝いも、積極的に声をかけて手伝うようにしています。実は、業務では「虫」はつくっていないんですよね(笑)。

これは今後の目標なのですが、プロとしての経験を積みながら、いつか自分の好きなものを業務につなげていければ良いなと思っています。KLabから虫のコンテンツが出たらそのときは、僕が関わっていると思ってくれれば嬉しいです。

CGWORLD Entry「WHO'S NEXT vol.1」第2位『夢兜』

後編につづく

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Profileプロフィール

長谷川拓海/Takumi Hasegawa

長谷川拓海/Takumi Hasegawa

2019年京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科を卒業後、KLab株式会社に新卒入社。蟲をモチーフにした連作をライフワークにしている。植物含め生き物全般守備範囲。通称「蟲の人」
hase_insectart.artstation.com/
twitter.com/t_hasegawa5173

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