今後さらなる活躍が期待される20人のクリエイターたちに雑談を交えながら「ものづくりにおける信条」をフランクに語っていただくシリーズ企画。4人目は注目の若手、今川真史さんです!プロになった今でもコンスタントにオリジナルVFXワークを発表し続ける熱意の原点にせまります。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 242(2018年10月号)に掲載した記事を再構成したものになります。

INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
EDIT_UNIKO
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



【そのほかのお話】

"いつも自然体で、客観的な視点も忘れない。"(AC部)「20人に聞く」<1>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画

表現とは、見せることではなく"感じさせる"こと。(柏倉晴樹)「20人に聞く」<2>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画

"フランス人らしくない 自分だからこそできる、日本のクリエイティブシーンと世界をつなぐ。(ロマン・トマ)シリーズ企画「20人に聞く」<4>

<1>『スター・ウォーズ』という夢に向かって、走り続ける。

CGWORLD(以下、CGW)京都造形芸術大学のキャラクターデザイン学科をご卒業後、今年4月からプロとしてのキャリアをスタートされました。新生活はいかがですか?

今川真史(以下、今川):大学卒業と同時に上京したのですが、一人暮らし自体が初めてな上、見るものも経験することも何もかもが新鮮で......。時間が過ぎるのがとにかく早いです。

CGWKLab Creative Fes'17グランプリを受賞されてから、メディアへの露出も多くなり今川さんのことを知る人が増えたかと思いますが、現在はどういう心境ですか?

今川:露出が増えてたくさんの人に自分の作品を見てもらえること自体はとても嬉しいのですが、ちゃんと実力が伴うようにもっとがんばらないとな、と気を引き締めています。名前だけが先に進んで、一緒に仕事をした時に「なんだ、大したことないな〜」なんて言われないように。世の中を知れば知るほど凄いクリエイターが沢山いるので。



  • 4/20
    今川真史(AnimationCafe)

CGWAnimationCafeにはどういった経緯で入社されたんですか?

今川KLab Creative Fes'16動画部門で準グランプリを受賞後、しばらくしてからAnimationCafe代表取締役の岸本(浩一)さんからTwitterでメッセージをいただいたのがきっかけです。いろいろとお話させていただくなかでビジョンに共感して入社に至りました。

KLab Creative Fes'17 でグランプリを受賞した作品『THE SEABED』

KLab Creative Fes'16 動画部門で準グランプリを受賞した作品『Traveler』

CGW:具体的にどんなところに惹かれたのでしょうか?

今川:将来ハリウッド映画のVFXに携わりたくて、今でも海外スタジオの求人を見つけては応募しているのですが、Cafeグループでは海外を目指すスタッフを積極的にサポートしていることを知ったのが大きかったです。

CGW:学生時代から引き続き、現在もお仕事をしながら海外のVFXスタジオのジョブオファーをチェックし続けているわけですね。

今川:はい。ILM(Industrial Light&Magic)をはじめ、実写映画を手がけている大手スタジオを中心に今でもポートフォリオを送り続けています。まだ経験は浅いですが20代のうちに現地に行って、できる限りたくさんの経験を積んでみたいんです。あと、20代のうちなら、万が一、大失敗をしたとしても、余裕をもって自分を建て直して、もう一度挑戦できるんじゃないかと。

CGW:昨年9月27日に公開したCGWORLD Entry.jpのインタビューの中で、「(前略)ILMは僕の目標です。父が大ファンだったこともあり、幼少期からずっと『スター・ウォーズ』を見てきました」とコメントされていますが、お父様はどのような方なのですか?

今川:父は塾の講師をしていて英語を教えています。そういう背景もあって、中学までは勉強漬けの毎日でした。ですが、勉強をしすぎて倒れたことがあって、それ以降は両親も僕には好きなことをやらせようと考えを変えてくれたと思います。



CGW:そのときはご両親も心配されたでしょうね。今川さんに元気でいてもらうために、のびのびとやってもらおうと思われたのでしょう。ところで、創作活動に興味を抱いたのはいつ頃からですか?

今川:はっきりと方向を定めたのは高校の頃ですね。友達と進路の話をしていたときに美大志望の友人がいたんです。絵が好きで落書きばかり描いていた自分は、絵で大学に行けること自体が驚きで、すぐに興味をもちました。そこから友人と画塾に通い始めたり、イラストの勉強をしたりと本格的に基礎を学び始めました。

CGW:猛勉強の日々から比べると、ずいぶんと大胆な方向転換だったのではないですか?

今川:実はそうでもなくて、昔から『スター・ウォーズ』を観てはダース・ベイダーを描いたり、ダンボールでライトセーバーを作ったりして遊んでいたので、自分としてはごく自然な流れでした。ただ、CGを仕事にするなんてまったく予想していませんでしたね。

CGW:大学の授業で初めて3DCGに触れたんですよね? CGは絵画とはちがい、ロジカルというか理数系の感覚や知識習得も求められますが、抵抗なくすぐに馴染めましたか?

今川:NUKEの操作を独学したときは確かに大変でしたね(苦笑)。CGにかぎらず新たな技法を身につけるには苦労がつきものですけど、ゴールに『スター・ウォーズ』があると思えば全然苦痛ではなく、そのための勉強はむしろ楽しいくらいです。

CGW:今川さんにとって『スター・ウォーズ』こそが、全ての原動力なんですね。少し意地悪な質問かもしれませんが、『スター・ウォーズ』への道のりは遠いなと思ったり、辛くなったりすることはないですか?

今川:いいえ、今はそんなに辛くないですね。がんばれば自分にもできるんじゃないか、と結構前向きです。テストで良い点を取るために努力していた時代に比べれば、純粋に好きなことに取り組めているのでとても楽しいです。



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<2>短いショットの中に、自分の全てを詰め込む

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<2>短いショットの中に、自分の全てを詰め込む

CGW:ところで、休日はどのように過ごされているんですか?

今川:家でCG創作をしています。

CGW:今月からCGWORLD本誌で新連載「NEO ACT」もはじまりましたもんね。

今川:そうですね。仕事もプライベートもCG漬けの毎日です(笑)

CGW:「NEO ACT」は実写VFXを題材にしたTIPSを紹介する連載ですが、今川さんがこの連載で挑戦してみたいことはどんなことですか?

今川:これまで描いてきたものは、近未来を舞台にしたものばかりでしたが、連載ではもっとちがうジャンルに挑戦したいと思っています。SFの世界を描くことは自分にとって得意なのですが、それだけではいつか終わりがきます。だから自分の世界を広げつつ、コンポジットのテクニックをもっと磨ける内容にしていきたいですね。例えば、未来の世界を描くとしても、ネオンが印象的な夜の世界ではなく昼を舞台にしてみるとか。



新連載「NEO ACT」がスタート!
今月号から今川さんによるTIPS系の新連載が始まります。オリジナルのVFXショットを題材に、3DCG制作からコンポジットワークまで、一連の制作過程について解説していく予定とのこと。まずは、P62からの記念すべき第1回を要チェック!

CGWSNS(@masashiimagawa)には短い動画をコンスタントに投稿されていていますが、静止画の作品もあるんですか?

今川:静止画は極力作らないようにしています。CGWORLD Entry Vol.19の表紙で初めて静止画を描いたんじゃないでしょうか。最近は、時々Twitterにも静止画を投稿しているんですが、そこから動画にするためのコンセプトアートにすぎません。というのも、ハリウッドのスタジオに送るリールは、動画じゃないとダメなんですよ。だからプライベートで作る作品は、全てそこに繋がるようにしています。

CGW:なるほど、計画的に作品を作られているんですね。ハリウッドのスタジオで仕事をする際に、希望するポジションはありますか? 『第9地区』『チャッピー』の監督、ニール・ブロムカンプのようにデジタルアーティスト出身の映画監督として活躍中のクリエイターもいますよね。

今川:コンポジター職を希望しています。自分の場合、短いショットの中に自分の全てを詰め込むのが好きなので、長編を監督するということには今のところ実感がありません。短距離走者タイプというか、一瞬で力を全て発揮するのが向いているようです。

CGW:クライアントワークとオリジナル、さらにCGWORLDで連載も始まって、スケジュール管理が大変では?

今川:手が進まないときはどんどん時間が迫って正直、焦ることもありますよ。そんなときは家に帰って、自分で脱出法を見つけ出すようにしています。

CGW:脱出法を見つけ出す、というと?

今川:先日、広い街の一枚絵でどうしてもスケール感が出ない、ということがありました。悩んで家に帰っていろんな資料を見て同じようなモデルを並べてみたり、配置を変えてみたり。家でトライ&エラーを何度もくり返して実験を済ませておけば、職場では実作業に注力できます。正解への道すじを一本に絞っておくことが、効率化に通じるのではないかと思っています。

CGW:本当に熱心に打ち込まれているんですね。 先ほど「ゴールに『スター・ウォーズ』があればがんばれる」とおっしゃっていましたが、今川さんにとって『スター・ウォーズ』の魅力とは?

今川:あの壮大な世界観とメカのデザインです。幼い頃から観ているので "刷り込み" もあるかも(笑)。お正月に親戚一同で『スター・ウォーズ』を観に行くほど大好きです(笑)

Base Reconnaissance from Masashi Imagawa on Vimeo.

CGW:それはすごい(笑)。美大に入学した頃から『スター・ウォーズ』をCGで作ることを目指していたのですか?

今川:美大に進学してしばらくの間は、自分のやっていることと『スター・ウォーズ』はまったく結びつかなかったですね。授業でCGを学び始めて、突如「CG=『スター・ウォーズ』」という図式が明確になったんです。人生を全て捧げてもいいくらいに好きなことを見つけた瞬間で、そこからの成長スピードはわれながら凄まじかったです。

CGW:『スター・ウォーズ』が好きだというシンプルな思いが、いまでも今川さんを導いているわけですね。

今川:そうですね。自分は好きなものが極端で、目標も明確だったのでそれが返ってよかったのかも知れませんね。もし『スター・ウォーズ』がなかったとして、これだけ多くの選択肢がある時代に、今からCGを勉強し始めると考えるとかなり悩んだと思います。

CGW:今後、後輩ができたり審査する立場になったりすると思います。彼らに何かアドバイスはありますか?

今川:人生を全て捧げてもいいくらい好きなものを見つけられたことは、自分にとって重要でした。CGだけを見て上手くなろうとはせずもっと広い分野を見渡して、好きなものとCGが直結する何かがあると良いと思います。

CGW:連載で発表する作品を含め、何かをゼロからつくるときのモチベーションはどこから得るのでしょうか?

今川:映画を観た帰り道とかが多いのですが、電車の中から見た景色に映画の中に出てきた何かを合成してみるとどうなるかな、と思うところから始まったりします。それで、家に帰って実際に試してみる。これまで発表してきた作品はほぼ全て同じアプローチですね。

CGW:映画を観た後は創作意欲が湧くものですよね。映画と言えば、映像と音の関係も重要です。音楽で気分を盛り上げて創作に取り組むことはありませんか?

今川:ありますね。『スター・ウォーズ』のサウンド・トラックはよく聴いてます。

CGW:本当に『スター・ウォーズ』づくしだ(笑)