月刊「CGWORLD + digital video」の創刊20周年を記念するシリーズ企画がスタート! さらなる活躍が期待される20人のクリエイターたちに「ものづくりにおいて大切にしていること」を聞いていく本企画。第1回は『ポプテピピック』の一編『ボブネミミッミ』で世の中に衝撃を与えるなど、今勢いにのるAC部のおふたり!

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 240(2018年8月号)に掲載した記事を再構成したものになります。

INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
EDIT_UNIKO(@UNIKO_LITTLE
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



【そのほかのお話】

表現とは、見せることではなく"感じさせる"こと。(柏倉晴樹)「20人に聞く」<2>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画

"『スター・ウォーズ』という夢に向かって、走り続ける。"(今川真史)「20人に聞く」<3>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画

"フランス人らしくない 自分だからこそできる、日本のクリエイティブシーンと世界をつなぐ。(ロマン・トマ)シリーズ企画「20人に聞く」<4>

<1>世の中に爪痕を残すという作家性

CGWORLD(以下、CGW):ありがたいことに今号で創刊20周年を迎えることができました。AC部もそろそろ結成20周年かと。結成は1999年ですよね?

AC部・安達 亨(以下、安達):はっきりとしていなくて......およそです(笑)

AC部・板倉俊介(以下、板倉):AC部は、ゲームを楽しむためのサークルとしてなんとなく始まったんです。1997年に結成、AC部としての活動が活発になりはじめたのが1999年からですね。

CGW:初作品はどのようなものでしたか?

板倉:AC部の部員募集チラシです(笑)

安達:積極的に募集する気もなかった(笑)

板倉:チラシづくりがしたかっただけで、チラシを作るという行為自体が面白かったんです。



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    安達 亨氏(AC部)

CGW:当時から商業的に作品制作を続けるビジョンはあったのですか?

安達&板倉:ありませんでしたね。

CGW:では、どんな将来を描かれていたのでしょうか?

板倉:AC部としてお金を稼げるとは思っていなかったので普通に就職しました。僕はゲーム会社を経て、広告デザインの会社でDTPオペレータ的なことをやっていました。

安達:僕も大学卒業後は、映像プロダクションに就職しました。

板倉:でも意外にも、就職してわりとすぐAC部に仕事が入ってきたんですよ。「これは今後も仕事が来そうだな」と思ったので、まずは退職してアルバイトに切り替えつつ、AC部の活動をゆるやかに再開。そうこうしているうちにいただける お仕事も増えていきました。

安達:そう言われると、常に明確なビジョンが先にあるわけじゃなく、ある意味「なるようになる」という気持ちでずっと来ていますね。あんまり大きな波もなく、なだらかに。



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    板倉俊介氏(AC部)


CGW:本当に自然体なんですね(笑)。もっと売れて有名になりたいとか、監督やりたいとか......そういった野望のようなものは? あるいは、セルフプロデュース的な意識とか?

安達:先の見通しを立てるというより、ひとつひとつの案件を毎回全力でやっている感じですね。ひとつの仕事が次の仕事を生むというのがAC部の活動の根底にあって......これといった見通し は立てて来なかったですね。ただ、「世の中に爪痕を残そう」という気持ちはいつも抱いています。

CGW:ありそうでなかったものだったり、あるものを逆手に取った表現だったりといった、AC部の「あえて崩した表現」は、着実に知られつつありますね。

安達:表現手法としては、初期からそのスタンスでした。自分たちがつくりたいものを楽しんでいる、というより「外に向けて投げたら、どんな反応になるのか」ということに興味がある。

CGW:おふたりが本当にやりたいと思っていることは、また別にあるということですか?

安達:自分が好きな絵や描いていて気持ちが良いと思うものは、今知られているAC部の表現とはちょっとちがいますね。むしろ仕事にしている表現は、あまり好きじゃないものもやってます(笑)

板倉:というのも、大学時代にみんなが「上手くてハイクオリティな作品」をつくろうとする中、真逆のベクトルで"下手なもの"を確信犯でやる人がいなかった。そこで自分たちで実際にやってみたら、まわりの反応が良かったんですよね。自分たちが何かものを投げて反響があるのが面白くて、それを今でも続けている感じです。



CGW:キャラクター『イルカのイルカくん』は好評とか。これは、AC部のオリジナル作品としてやりたいことの一例でしょうか?

安達:いいえ(笑)。あれもつくりたくてつくったのではなく、偶発的に誕生しました。元はgroup_inouのために制作したMVに登場したキャラクターですが、group_inouが上手にキャラクターの持ち味を引き出してグッズ化してくれたことをきっかけに人気が出ましたね。当時、自分たちがつくったものが売れる場面を目にしたことがなかったので、すごいなと。

group_inou『THERAPY』MV

板倉:過去にもAC部のオリジナルグッズをつくってみたのですが、欲しいと思える物がつくれなかった(笑)。『イルカのイルカくん』については、きちんとキャラクターとしての性質をもってくれたおかげでグッズの方向性も絞りやすく、欲しいと思えるものとしてしっかり考えることができています。

CGW:AC部が作品をつくるときは、何を重視されているのですか?

板倉:クライアントの意向を汲むのはもちろんですが、コンテンツを享受する人たちが「それをどのように受けとるだろうか?」という部分を意識することですね。活動当初から心がけていることです。AC部の作風だからこそ言えるのかもしれませんけれど、その観点ナシには成り立たない。みんな面白いものを欲していると思うのですが、それと同時に予想を超えたものとの出会いを望んでいるはず。そのエッセンスを作品に込めるには、客観的な視点が不可欠なんですよ。

CGW:世間一般の人たちが「面白いと感じるもの」をエッセンスとして作品に込めるということですね。世相などはどうやってチェックされているのですか?

安達&板倉:Twitterですね(笑)

安達:とりあえず世間への入口がTwitterで、そこでおおよそのアタリを見定めて素潜りで探っていくみたいな。

CGW:AC部の活動で最も大事なものは?

安達:いろいろ大切にしていますよ。生活とか(笑)。暮らしをより良くしたいなと。

CGW:作品を観る人たちの、という意味で?

安達:あ、いや、まずは自分が心地良く(笑)。自分の心地良さとストイックさの共存というか。良いものを出せるときって、あまり心地良くないときなんですよ。ある意味で追い詰められて爆発する、みたいな。



CGW:ご自身の生活をより良くしたいというのは、大きな家に住んで良いクルマに乗って......みたいな「生活レベルを大きく上げる」という意味ではないわけですね。

安達:そんな大そうな意味ではありません(笑)。全体のバランスの良さというか「ちょうど良い」という感覚です。これまでずっとなにかが足りないという気持ちがあったので。

板倉:僕の場合は、いつも色んなところで仕事をしていたいですね。そういうことができるくらいお金を稼げるようにできるといいな(笑)。今でもコワーキングスペースでよく作業していますよ。

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<2>『ポプテピピック』の反響はケタちがいだった

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<2>『ポプテピピック』の反響はケタちがいだった

CGW:仕事のオファーも増えて必然的に作業量も増えたかと思いますが、AC部は今後「部員」を増やす予定はございますか?

安達:増やしていこうとは思っています。ただ、20年近くふたりでやってきていていることもあり、どうやって体制を広げていけばいいのかわからなくて......高いスキルを持っているクリエイターで、AC部みたいな(わざと崩した)作風を甘んじてやってくれる人がいるものか、全然想像がつきません(苦笑)。

CGW:一連の制作は、現在もふたりだけで完結されているのでしょうか?

板倉:最近は外部パートナーに手伝ってもらいながら動くことが多くなってきましたね。あと、自分たちでAfter Effectsを使いこなすのと同じくらいの感覚で3DCGが扱えたらなあと思うことが増えてきたこともあって、CGができる人がメンバーにいてほしいと考えるようにはなりました。

CGW:新しい表現手法として、3DCGを採り入れていくということですか?

安達:今までどおり2Dベースでやっていくのも表現的な限界があるし、できることを広げることで新たな表現を創り出せればと思っています。インタラクティブコンテンツなどもやってみたいですね。

CGW:新しい表現と言えば、高速紙芝居『安全運転のしおり』(2014)は秀逸でした。『ポプテピピック』でも原作漫画に登場する「ヘルシェイク矢野」を高速紙芝居で描いたことが大きな話題になりましたね。

板倉:おかげさまでたくさんの反響をいただきました。実は、今年の「アニサマ」(Animelo Summer Live)にヘルシェイク矢野が出演することが決まったんですよ。

  • ヘルシェイク矢野のアニサマ出演が決定!
    現在、多忙を極めるAC部、本インタビューも過密スケジュールの合間をぬって実施。新作も鋭意準備中とのことだが、なんとアニメ『ポプテピピック』にてAC部が披露した高速紙芝居で社会現象を巻き起こした「ヘルシェイク矢野」が今年のアニサマに出演することが決定!
    詳しくは、公式サイトをチェック

© Animelo Summer Live 2018 / MAGES.
Animelo Summer Live 2018 "OK!"

日時:8月24日(金)、25日(土)、26日(日)各日14:00開場、16:00開演 ※ヘルシェイク矢野は、8/26(日)の公演に出演
会場:さいたまスーパーアリーナ
anisama.tv/2018


CGW:ご自身で3DCGを習得しようと思われたりは?

安達:まさに、「今年こそはCinema 4Dを覚えたい」という強い気持ちを胸に新年を迎えたところでした。表現の幅を広げるために今年こそはやるぞ! と。

CGW:半年が経ちましたけど......?

安達:なかなか思うようにはいきません(苦笑)

CGW:他のアーティストとコラボレーションするというのもアリですよね。

安達:確かにそうしたお誘いをいただくことはあります。これからは、自分たちの方から他の方々へコラボレーションを持ちかけることも考えていかないとですね。

CGW:先ほど、Twitterによるリサーチを創作のよりどころにされているとおっしゃいましたが、AC部の活動をTwitterなどのSNSで拡散しようと思ったりはしませんか?

安達:うーん、ねらうと大抵上手くいかないんですよね(苦笑)。

板倉:そう。自分たちからの発信ではバズらないんですよ。Twitterの特性もあるかも。そうした意味でも、上手くひろってもらえるような面白い作品をつくる、ということくらいしか思いつかない。

安達:そもそもSNSにコンスタントに投稿し続けること自体、あまり自分たちに向いていないんですよね(笑)。本当に続かなくて......。投稿するべきトピック自体は日々あるにはあるんですが、意識していないもんだから「そうか。あの写真を撮って投稿すればよかったのか」と、後悔するみたいな(笑)

CGW:そうはおっしゃいますが、10年以上前からAC部に注目してきた身からすると()、着実に世間に対する影響力を高めていると思いますよ。

 AC部が初めてCGWORLDに登場したのは、本誌90号(2006年2月号)第2特集「ディレクター実践演出術」で取り上げた、ザマギ『マジカルDEATH』MVのメイキング記事である

安達:たまたまの積み重ねですけどね......。ただ、『ポプテピピック』の反響はこれまでとはケタちがいでした。

CGW:『ポプテピピック』以降、AC部の活動に変化はありましたか?

安達:お仕事やインタビューのオファーが増えました。あと、初対面の方でもAC部のことを知ってる人が増えた気も......。SNSのフォロワー数も増えましたけど、自分たち自身は特に変わりなく意外と冷静です。

CGW:改めて、おふたりが本当につくってみたいものとは、どのようなものなのでしょうか?

安達:明確にこれというものがあるわけではないのですが、やりたいことって自分の内側からその都度自然と出てくるものですよね。普通にカッコイイものや普通にクオリティの高いものをつくってみたいとは思いますよ。でも、普通にそれをやろうとしても、中途半端で全然面白くないものになってしまう気がするので今はまだ早いかなと......。

板倉:今のAC部の活動って「結果(反響)を楽しむ」という面が大きいわけですが、つくっているときも楽しいと思えるようなそんなバランスの良い感じでやっていけるなら自分としてはハッピーなのかなと思っています。結果にこだわらず、自分の感覚でつくるということなのかもしれませんが、それってアートなんですかね?

  • CGWORLD創刊20周年記念キャラクター
    マゥスーマウス

    なんと、AC部さんに本誌の創刊20周年を記念したキャラクターを描き下ろしていただきました! 圧倒的な個性と強烈なインパクトと同時に親しみやすさも兼ね備えている......さすがです! 今後展開していく企画やキャンペーンに、このキャラも登場する予定のでお楽しみに

    【AC部コメント】
    「キャラクター制作にあたり、ひと口にCGと言っても手法やジャンルがあまりに多様なので苦悩しましたが、コンピュータに初めて触ったときのことを思い出し、マウスと手がモチーフのキャラクターが誕生しました。」


CGW:AC部は、学生時代からずっと自然体で活動を続けているとのことなので、"本当につくりたいもの"も自然の流れで誕生するのかもしれませんね。

安達:これまでも、時間をかけてでもやってみたいと思うことは実現し続けているので、これからも「続けること」ですね。

CGW:最後に、クリエイターを目指す方へのアドバイスをいただけますか?

板倉:僕が少し気になっているのは、「良い/悪い」の基準を特定のコミュニティ内で暗黙の了解で決め込まれていて、それが息苦しく感じることがあるんです。例えば「萌え」とか「美形」といったカテゴリーがあったとして、その中で確立されている「こう描かなければならない」というものを追うのではなく、それとはちがう、新たなものを自分の作品に取り入れるとか。しがらみのようなものを壊してやってみた方が楽しいんじゃないかなと。

CGW:創作活動は本来自由で楽しいもののはずなのに既成概念に囚われてしまい、重苦しくなってしまうという悩みはあるでしょうね。

板倉:自分が好きでやっていて、息苦しくなければそれで良いのでしょうけどね。

安達:最近は、Twitterでも描き方などのTIPSを教えてくれたりするじゃないですか。無料のチュートリアル動画とかも数多くあって、どれもクオリティが高い。そうした情報がちゃんと蓄積されているから、巧い人が多いなあと感心します。ただ、これってスポーツに近いなとも思うんですよ。みんなひとつの目標を目指してがんばって練習している、みたいな。でも、クリエイティブは競技スポーツではない。いろんな表現手法があるし、ちょっと目を外に向ければい面白い人たちがたくさんいるので......自分たちもがんばらないと(笑)