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「CG×ファッション」から読み解く現代ファッションとこれから

「CG×ファッション」から読み解く現代ファッションとこれから

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ファッションの醍醐味を「楽しい」「嬉しい」に変換する

鈴木:壮大さんのウチ@ミキリハッシンのお話も詳しくお聞きしたかったんですよ。CGを使って実際にお客さんと繋がっている例って、日本ではchloma、HATRA、ミキリハッシンくらいじゃないかな。

山口:確かに、クリエイティビティが強いブランドだとあまり例はないかも。chloma、HATRAもミキリハッシンで取り扱わせてもらってるブランドだけどね(笑)

鈴木:それもそうですが、それとは別にミキリハッシン独自でやられていたじゃないですか。

山口:そうですね。テストトライアルも兼ねつつコロナ以降始めたひとつの試みとして、ウチ@ミキリハッシンっていう取り組みを始めています。デザイナーとユーザー、そして販売員をZoomで繫いで、コミュニケーションを取りながらその場でカスタムオーダーしていくサービスです。その場でバーッと組み立ててわかりやすく表現できるもの、ということで3DCGの活用に至りました。

鈴木:全てをオーダーできるんですか?

山口:毎回形を変えるのは製作側も受け取るユーザー側も難易度が高いので、グラフィックやテキスタイルをユーザーの要望の下に組み立てていく感じですね。第1弾ではハンドプリントに定評のあるspoken words projectとメッセージTシャツを。 第2弾ではプリーツが特徴的な kotohayokozawaに協力をしてもらい、ルームウェアのテキスタイルをオーダーできるというスタイルになりました。

ウチ@ミキリハッシン


▲ウチ@ミキリハッシンのオーダーの様子。デザイナーは生産的な環境が整っているアトリエに、ユーザーは最もリラックスできる空間である自宅にいながらやりとりを行うことができる。また、接客を得意とするミキリハッシンの販売員が間に入ることで、ユーザーの隠れた要望まで引き出すことができるという。CGで完成イメージを補完しながら、オーダーを完成させていく。約15年間、実際に店舗を構えるショップを経営してきた経験から、ただオンライン上で接客をするだけではなく「エンタメ」として楽しめる今回の形にたどり着いた
参考:.fashionsnap.com

鈴木:CLOでどんどんグラフィックを入れ替えて、この感じが良いんじゃないかっていうのを見つけていく感じですか?

山口:そうですね。コミュニケーションを取りながら色を変えていって、ユーザーさんが良いと感じたデザインをデザイナーさんが縫い上げたり、グラフィックをプリントしたりと完成させていく流れですね。

鈴木:実作までその場でやったんですか!?

山口:そう! そこまでを40分以内に完結させるというのがひとつの醍醐味かなと。

鈴木:すごいですね。お客さんとのコミュニケーションのためにCGを活用してみて、どのような発見がありましたか?

山口:5〜60件やってみて感じたのは、コミュニケーションとしては成立しているなと思いました。ただ、画像だけで全てを伝えるという壁の高さは痛感しています。例えば、生地を確認してもらった上で完成図がCGで見えてくれば、何となく理解していただくことができるけど、何もない状態でCLOの画像だけを見た場合だとわからない人の方が多いんじゃないかなと。

鈴木:現物の布を見せながら?

山口:そう。その場でパパッと組み上がるのって魔法みたいでエンタメ的だなぁと。正直、今の状況で外出を前提にしたファッションのムードを高めていくことは無理があると感じていて。まずは、楽しさに主眼を置いて業界が盛り上がっていけば良いのかなと感じています。

鈴木:なるほど。エンタメとしてということですね。

山口:そう。コロナ禍におけるファッションは、不要不急なものという空気に陥りかけていたときもあって。だけど毎日同じ服を着るのは嫌だし、どうしたらお客さんにファッションの醍醐味を伝えられるかなと考えたときに、まずは楽しいとか嬉しいといった点に変換する方が良いのかなと。その面で3DCGは本当に役立ちましたね。

鈴木:面白いお話ですね。

山口:淳哉くんはどう?

鈴木:お客さまとコミュニケーションすると言う点だと、VRChatにバーチャルストア、架空の店舗をつくり接客までやったんですよ。試着という形で洋服を体に乗せてあげたりしたのですが、新しい洋服がアバターの体の上に乗って新しい自分の姿が生まれる楽しさは、リアルな体験と遜色のないものだと感じました。

chlomaバーチャルストア

▲VRChat内にオープンしたバーチャルストア。ストアの作成はVTuberのキヌ氏によるもの。仮想世界の中にchlomaのプロダクトが並ぶ姿は何とも不思議だが、chlomaの「仮想世界と物理世界の境界を越えるファッションブランド」というコンセプトがよく表れた世界観となっている

山口:それって期間限定的にやってるの? 今もある?

鈴木:今回は1日2時間ずつで2日間しかやらなかったです。友だち同士で来てくれたお客さんが、お互いに「これ似合うんじゃないの?」とか言って試着していたんですよ。その姿を見たときに、体験としてすごく良かったなと思いました。

山口:それ良いね! アバター用の服を売るの? リアルな服を売るの?

鈴木:展示は全てアバター用で、洋服や帽子、サングラスなどを出品していたのですが、販売していたのはアクセサリーだけです。CLOでつくったモデルをアバターに着せて動くようにするには技術が必要で、まだあまり上手にできなくて。洋服はまだVRoid用でしか販売してないです。アクセサリーは固まっていても平気なので。

山口:なるほどなるほど。

鈴木:オーバーサイズの服はかなり難しいんですよ。脇の下は細くしないと、腕を下ろしたときにポリゴンが体から突き出しちゃったり。チャレンジしたのですが、まだ無理だなと。 

山口:布の表現とかは難しいね。

鈴木:VRChatで水着を着てプールに入った写真も撮りましたよ(笑)。

山口:へー! 面白いね!

鈴木:自撮りできるんです(笑)。レディースの服をデザインするデザイナーだったらやった方が良いですよ。

chlomaの水着


▲リアルな世界の水着の模倣ではない創造性豊かな形を目指したというこちらのプロダクト。chlomaの新作コレクションのテーマである「水」を意識し、まるで水を纏っているかのような独創的なデザインに仕上がった。現実世界では難しい形でも、仮想世界であれば楽しめるということがよくわかる。クリエィティブなファッションという瑞々しい流れを呼び込む水着だ
参考:chloma.com/collections/avatar-wear-_-2020-2021cellular/products/avatar-wear-chloma-miq-corallite-swimwearv

山口:なるほど。自分ではなかなか着れないもんね。アバター用のブランドというか、データの世界だけで存在するブランドみたいなものを立ち上げるとなったとき、淳哉くんならどうする?

鈴木:chlomaと区切ったものはやるつもりはないんです。

山口:熱い!

鈴木:洋服のつくり方、仕様、素材、トレンド、ジェンダー観とか、そういったことを一般の方より多く吸収していると思うし、逆にそれを活かした洋服じゃないと勝てないと思うんですよ。

山口:なるほど。それは正直なやり方だと思うけど、ある種ゼロから再構築するつもりでCGに向き合ってブランドをつくっていく方が、ビジネスの可能性が高くなるのかなと思う。

鈴木:なるほど。

山口:極論だけど、例えばタイトなパンツをつくるときって脱ぎやすさとかも気にするけど、データの世界ではそんな機能性は必要ないわけだよね。つまり、身体との向き合い方が変わってくるし、世界の秩序も成り立ち方もちがうし、佇まい自体がまったく異なるんじゃないかなと。その中で現実のファッションをどう翻訳するかを考え始めると、難解でアクロバティックな作業になるなと。

鈴木:バーチャルマーケット等で現在取引されているファッションアイテムの現状を見ていると、「何でもできちゃうからこそ何でもあり」ではなくて、既知のものに収束せざるを得ない状況もあるなと強く思います。

山口:おお、なるほどね。

鈴木:SNSであって人とコミュニケーションができてなんぼのコンテンツだから、みんなが知っているものから逸脱したものは表現しづらいなと感じます。リアルの模倣やいわゆるコスプレ的なものの上に成り立っているようなデザインがすごく支持されていて。そういう意味では、壮大さんの言う「この世界ならではの装い」っていうのは思ったよりも進歩していない、支持されていない感じがします。

山口:エンタメ感あるなと思うんだけどね。エンタメ感があるファッションって、リアルではレベルの高いファッションだと感じるんだけど、それが制約のないCGの世界であれば逆にありえるのかなとか。

鈴木:やってみたいことではあるんですけどね。装いに限らず言えば、エンタメ感のある生活は様々な例があって、案外、現実的なラインに着地していると感じていて。VRに浸って、そこに「生活」があるからこそなのかもしれません。

山口:いずれCG制作の技術的なハードルが低くなったり、どんなデバイスからでも簡単に見られたり、手軽に行き来ができたりする未来になると変わってくるのかなと思うけど。

鈴木:良いですね。僕だけの力じゃどうしようもないですが(笑)。そうなる未来を信じています。


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CG&バーチャルを活用したファッションにおけるマネタイズの可能性

Profileプロフィール

山口壮大/Souta Yamaguchi

山口壮大/Souta Yamaguchi

1982年生まれ。文化服装学院卒(第22代学院長賞受賞)。2006年よりスタイリスト・ファッションディレクターとして活動開始。セレクトショップ「ミキリハッシン」代表。スタイリングはもちろん、ショップや展示などのディレクション、商品企画等、幅広い分野でクリエイティブに活躍するファッションディレクター
souta-yamaguchi.com

鈴木淳哉/Junya Suzuki

鈴木淳哉/Junya Suzuki

1984年神奈川県横浜市生まれ。chlomaを起ち上げた、現実とバーチャルの境界を超えたデザインや取り組みに挑戦する気鋭のデザイナー
chloma.com
Twitter:@chlomagears

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