CG&バーチャルを活用したファッションにおけるマネタイズの可能性
山口:ファッションについて代表的に語っている僕らですが、業界の中では特殊な立ち位置でもありますし、極論では大手アパレルメーカーがやっていることはファッションなのか日用品なのか......。この表現が正しいかはわかりませんが、ファッションという言葉の意味が広すぎて、非常に難解になってしまっているんですよね。
鈴木:「ファッションとは」ですか?
山口:そう。やっぱりCG界隈の方々が普段耳にする「ファッション」って言葉とは少し異なる使い方をしているなと思って。
鈴木:人それぞれ捉え方はちがっていて、明確な定義はできないと思うんですよね。その上で僕の中のひとつの仮説として、コスプレや模倣を仮装、つまり「仮の装い」とするのであれば、ファッションはその逆。自分自身を表す「真の装い」なのかなと。ただ、コスプレやバーチャルでの姿は元来「仮」のものでしたが、今ではそれこそが自分にとっての「真」になっている人もいるでしょう。
山口:うんうん。
鈴木: 自分を表現するには、自分のことだけ考えていれば良いのではなくて、社会という究極のオープンワールドを意識しなくてはいけない。「社会の中における自分はこういう存在です」というのを形どってくれるものがファッションなのかなと思っています。
山口:めっちゃ上手にまとめたね。非常にわかりやすい。
鈴木:壮大さんがCGWORLDの記事で使っている「ファッション」というのは、もうちょっとトレンド的な意識も強く表れているのかなと感じます。
山口:そうですね。でも、ブランドが提案する思想を採り入れることによって、社会に対する距離の取り方を表現するという意味では、淳哉くんの話に近いと思う。
鈴木:そういえば、壮大さんは今までアバターを使ったことはありますか?
山口:僕の悪い癖なんだけど、自分がそこに浸っちゃうと途端にわからなくなっちゃうんだよね。
鈴木:自分らしさを見失ってしまいそうってことですか?
山口:なんて言うのかな。自分自身がそこに没入していってしまうと、つくり手の方の気持ちに寄り過ぎてしまい、ディレクターとしてのスタンスが保ちづらくなるんですよね。だから、自分ではあまりやらないようにしてる。興味はとてもあるんだけどね。
鈴木:なるほど。
山口:逆に言うと淳哉くんは、ガーっと入って行くからすごいよね。
鈴木:結構ビクビクしながらやってますよ(笑)。ブランドの活動の一環としてやってるから、下手なことしたらファンが離れていってしまうんじゃないかなとか。
山口:その割に攻めまくってるけどね(笑)。
鈴木:いや、攻めなきゃなって思って(笑)。
山口:使命感があるのが良いよね。
鈴木:10年後や20年後、ファッションとバーチャルの関係が今のままだったら、一生後悔するなと思って。せっかく自分の好きな身体を選べて、好きな洋服が着れて、という時代になったんだからもっと発展してほしくて。それができたら、自分がお爺ちゃんになってもレディースの若い洋服着て楽しむこともできるし、たとえ歩けなくなっていたとしても、自分らしい装いで色んな人と遊んだり色んなところに行けたりするんですよ。でも、そこに積極的に取り組んでいる方は多くないから、僕がやらなきゃなって思っています。あと、ファッション業界のトレンドワードとして「サステナブル」があるじゃないですか。
山口:うんうん。
鈴木:ファッション業界って、需要を掘り起こして新鮮なデザインを提案して、たくさんの洋服をつくって買ってもらうというシステムですが、そういうシステムを見直そうという流れがあって。そこで極端な発想ですが、物理の洋服でなくてもファッションを生産して消費してもらうことができるんじゃないですかね。
山口:その視点で言うと、さっき話に上ったアバター用の水着とかもまさにそうだよね。ただ、アバターの装いと現実のものの間には、良くも悪くも距離感があると思うんだけど、どちらもつくっている淳哉くんの視点から、この距離に対してどういう風に見てる?
鈴木:有名高級ブランドって、そのブランドがどういうファッション感覚をもっているかをみんなが知ってるじゃないですか。ブランド名を聞いてイメージができる。だけど実際に着たことがある人って、意外と少ないと思うんですよ。僕はそれとあまり変わらないんじゃないかなと。そもそもファッションもデジタルでの流通が普通になって、デジタル上で「ここのブランドはこういう感じ」とイメージを喚起されるのが当たり前になっている。それならばイメージだけっていうのもありだと思うんですよ。
山口:面白い、非常に(笑)。例えばchlomaのAnorakとかでも、実際につくっているものとVRoid WEARに落とし込んでるものって結構ちがうじゃない?
鈴木:そうですね。いくつかパターンをつくっているので、似せたものもありますが最終的には 異なっている点は多くあります。
Y2K Anorak(chloma)
▲chlomaのY2K Anorak(バーチャルのものと現実のもの)の比較。一見するとまったく同じようだが、よく見るとフードの付き方や襟、袖の長さのバランスなど異なる箇所がいくつもあることがわかる。「リアルでは細かく詰めてる箇所をあえてデータ上では解像度下げていたり、水着もそうだけどリアルじゃできないことをデータでやろうとしている」(山口氏)
参考:chloma.com/collections/avatar-wear-1/products/avatar-wear-y2k-anorak-for-vr-ver-parka
山口:でも、最初に見たときには同じものとして認識してたんだよね。細かく見ていくと全然ちがうと気付いたんだけど、デザインが変化しているのに同じものとして認識してしまうのは面白い。そう考えると、リアルのファッションをデジタルに翻訳する方法にも様々な手段や可能性があって、これからCGにおける流儀が確立されていくのではないかという期待感があります。CGのファッションにおけるマネタイズの可能性がどれぐらい見えているのかも気になります。
鈴木:正直まだまだ厳しいと思います。バーチャルマーケットでも1ケ月の売り上げが100万円を超えるクリエイターは数パーセント程度だと聞きました。現状では広報的な観点での参加が現実的なところですかね。
山口:プロモーションとしてバズっても、回収の方法がリアルな洋服の販売になった途端、いきなりハードルが上がってしまう。だから、回収方法としてもCGを活用する、みたいなフローができると良いよね。チャットを目的としたアバタービジネスって、プラットフォームとしてはまだまだニッチだと思うんだけど、淳哉君が興味をもっているプラットフォームって何かある?
鈴木:プラットフォームというより、この文化が一般女性にまで広まるのか、という点ですね。先ほど触れたように、ブランドが参加する場合は広報的な参加になると思うのですが、それによってアバターのための洋服が広告化していくことは恐れています。実際、今流行っているゲームでもそういったことが起きていますし。
山口:淳哉くんはCG業界とファッション業界を繋いでいて、畑を耕している立場でもあるわけで。先駆者として息吹を育てているわけだけど、でもそれがビジネスに直結するかと考えるとちがうと思う。さっきの仮装の話で言うと、あえて仮装だと割り切ってやっていく方がわかりやすかったりする。でも同時にマネタイズのために割り切ったクリエイティブにシフトいくっていうのは、ちょっと嫌だなとも思っていて。淳哉くんの活動が、ビジネスとしても大きなものになるやり方はないのかなとずっと考えてる。
鈴木:そうですね。アバターの洋服の売上は、かけた時間分のお金を回収するだけではないですからね。リアルの洋服への導線が現実的なところだし、プレイヤーのニーズもなんとなくわかるのですが、それに応えちゃうとウチのブランドらしさが失われてしまうことになるんですよね。
山口:確かにね。
鈴木:でもニッチな分、ディープな文化が熟成されているという面もあって、それはそれで僕はすごく面白いなと思っています。お金目的じゃなくて、みんながやりたいことをやって、それを褒め合うという環境があるんですよね。僕としては、いつかどこかでVRがブレイクして、スタークリエイターが出てくるようになれば良いなと思っています。
「CG×ファッション」という視点からみてきた今回。無数の意図が複雑に絡みあう「ファッション」というワードから、ファッションという分野の難しさを痛感させられたが、気鋭のお二方が紡ぎ出す鋭くしなやかな言葉にはこれからの展開を期待させる熱量があった。これからファッションという形が大きく変わっていくのだろう。しかし我々の心を包み込む暖かさだけはきっと変わらないはずだ。