人間と共に進化を続けてきた「ファッション」という文化。体を守るためのものであった「服」は、今や人間の内面までも表す存在となった。CGをはじめとしたテクノロジーの発達により、目まぐるしく変化する現代社会の中でファッションはどのように変わっていくのだろうか。本稿では、沸々と盛り上がりはじめた「CG×ファッション」というテーマで、ファッション界の若獅子たちが徹底対談! 彼らの言葉を通して、現代ファッションの在り方、そしてこれからを見ていく。

TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
企画協力_斉藤美絵 / Mie Saito



ファッション業界の共通言語をロジカルに伝える難しさ

鈴木淳哉氏(以下、鈴木):ファッションブランドchlomaのデザイナー鈴木です。「リアルな世界」と「画面の中の世界」の境界がなくなりつつある現代人のためのファッションブランドというコンセプトで2010年から活動をはじめ、最近ではアバターのための洋服の販売やVRChat内へのストア出店なども行なっています。


  • 鈴木淳哉/Junya Suzuki
    1984年神奈川県横浜市生まれ。chlomaを起ち上げた、現実とバーチャルの境界を超えたデザインや取り組みに挑戦する気鋭のデザイナー
    chloma.com
    Twitter:@chlomagears


▲chlomaは、「テクノロジーと人、キャラクターと人、インターネットと人との関係を考え、モニターの中の世界とリアルの世界を境なく歩く現代人のための環境と衣服を提案する」をコンセプトとした鈴木淳哉氏と佐久間麗子氏によるファッションレーベル。2011年からchlomaとしての活動をスタートし、ファッション、サブカルチャー、テクノロジーの3つをかけ合わせたファッションを提案。スポーツウェアやアウトドアウェアをベースとしたSFテイストなテックウェアをはじめ、デザイン性だけでなく機能性にも優れたアイテムを展開している(CGWORLD vol.260より)
chloma.com
Instagram:@chlomagears

山口壮大氏(以下、山口):ファッションディレクターの山口です。衣服をつくる立場にある淳哉くんとはちがって、衣服を伝えるというところに重きを置いた活動をしています。ハウス@ミキリハッシンというセレクトショップの運営やビジュアルマーチャンダイジング、催事の企画など、様々なブランドの哲学や考え方をお伝えしていくことを生業としています。


  • 山口壮大/Souta Yamaguchi
    1982年生まれ。文化服装学院卒(第22代学院長賞受賞)。2006年よりスタイリスト・ファッションディレクターとして活動開始。セレクトショップ「ミキリハッシン」代表。スタイリングはもちろん、ショップや展示などのディレクション、商品企画等、幅広い分野でクリエイティブに活躍するファッションディレクター
    souta-yamaguchi.com

鈴木:CGWORLDでの「CG×ファッション特集」は大変光栄で嬉しい出来事でした。近年、ファッション業界でもMarvelous Designer(以下、MD)やCLO等の3DCGツールを使っていかねばという空気が高まっていると感じていて、CGWORLD掲載後のSNSの反響も大きかったです。実際に記事を読んでくれた方や興味を持ってくれた方、CGの必要性を感じながらも何から始めれば良いのかわからない方たちに対しても、ひとつの機会になったのではないかなと感じています。



▲CGWORLD vol.260(2020年4月号)第2特集「CG✕ファッション」より

山口:僕の方も周囲の反応は好感触で、みんな喜んでくれました。僕がこうしたデジタルの可能性を感じるきっかけになったのが、2012年に「バーチャルとリアルのインタラクションを起こす」をキーワードにオープンしたセレクトショップ「ぴゃるこ」です。プロモーションとしてはとても大きな反響を得ることができました。一方で、デジタルで伝えることの難しさにも直面しています。その後もデジタルを用いた企画に取り組み続けていますが、「デジタル上でマテリアルの魅力を伝えながらビジネスとして成立させる」という観点では、まだ隔たりがあるのかなというのが現在の肌感です。だからこそ、今回CGWORLDの企画に参加できたことに意義があると思いますし、これまでの点を繫げてひとつの線にしていきたいと考えています。

「ぴゃるこ」(2012)CG:Mographix Digital


▲CGをはじめとするデジタルとファッションのコラボレーションとして、チームラボ協力の下、山口氏が取り組んだセレクトショップ。投影面であるホワイトボード上に書かれた文字に合わせて変化するリアルタイム映像や、撮影した写真が即座にSNS上に投稿されるカメラなどが店舗に実装され、この頃から現実とデータをつなげる取り組みが始まっていた(CGWORLD vol.260より)

鈴木:今、ファッションとCGのかけ合わせってみんなが価値を測りかねていると思うんですよね。今回の企画にあたって、壮大さんはとてもリサーチされていて、ずっと「どうしようどうしよう」と悩まれていたので楽しみにしてたんですよ(笑)。壮大さんの文章、かなり切れてるなって思った部分がありまして。終盤の「真面目=メガネなど、個性を記号として......」というくだりの段落なんですが。

ファッションを気取った、自己の主張を押し付ける、華美で嫌味なスタイルは、そのプロセスに品性が宿るはずもなく「ダサい」と定義されてしまうように、真面目=メガネなど、個性を記号として様相に宿す説明的なスタイルに終始してしまうと、そのプロセスは図象記号を模倣するキャラクター生成の手段に陥り、装いは模倣=コスプレとして、ファッションから離れてしまうと感じます。一方でその佇まいに時代感と情緒を宿し、プロセスに美意識を備えることができれば、CGの世界でもファッションとして成立する可能性を秘めてるのではないでしょうか。

鈴木:バーチャルの世界にファッションを根付かせていこうと思うなら、この認識は大事だなと。ファッションとは何か? バーチャルでのファッションはファッションたり得るのか? という疑問をもっている人をよく見るんですよ。バーチャルでのファッションはファッションじゃないって言う人もいるし。僕の目標として、いろんなファッションブランドがVR市場に参入していって、新しいファッションやライフスタイルが生まれたら良いなって思っているんです。

山口: なるほど。

鈴木:アバターのための洋服でビジネスができるようになるっていうことは、デザインを楽しんでもらえる時間がものすごく増えることになるので、ファッション業界にとっても良いことなんです。だから、リアルで培われたファッションの流儀みたいなものを、少しずつソーシャルVRの世界にも活かしていけるようになりたいのですが......、道は険しそうだなという感じです。

山口:僕も今回のCGWORLDの企画に限らず、CGの分野でファッションを語る行為にハードルの高さは感じていました。ファッション業界の共通言語というか、語らずともニュアンスで伝わるところを、いかにロジカルに伝えていくのかが難しかった。衣服が存在して、それが感覚的にクールだったりエレガントだったりすることって、既にゲームの中でもあると思う。ただ、そこに宿る美しさがそのままファッションとはイコールにならないとも思っていて。もしかしたらイコールにする必要すら無いことかもしれないけど、僕はファッションに魅せられている人間なので、今回の特集で少しでも言語化できたらと思いました。

鈴木:僕は同じようなことをSNSで発信したら、表現が抽象的だったこともあってプチ炎上してしまって(笑)。アバターファッションを楽しんでいる方々からご批判をいただきました。本当にファッション業界でやっていることは、マニアックなんだという意識はもっておかないと、と改めて感じました。


次ページ:
ファッションの醍醐味を「楽しい」「嬉しい」に変換する

[[SplitPage]] ----------

ファッションの醍醐味を「楽しい」「嬉しい」に変換する

鈴木:壮大さんのウチ@ミキリハッシンのお話も詳しくお聞きしたかったんですよ。CGを使って実際にお客さんと繋がっている例って、日本ではchloma、HATRA、ミキリハッシンくらいじゃないかな。

山口:確かに、クリエイティビティが強いブランドだとあまり例はないかも。chloma、HATRAもミキリハッシンで取り扱わせてもらってるブランドだけどね(笑)

鈴木:それもそうですが、それとは別にミキリハッシン独自でやられていたじゃないですか。

山口:そうですね。テストトライアルも兼ねつつコロナ以降始めたひとつの試みとして、ウチ@ミキリハッシンっていう取り組みを始めています。デザイナーとユーザー、そして販売員をZoomで繫いで、コミュニケーションを取りながらその場でカスタムオーダーしていくサービスです。その場でバーッと組み立ててわかりやすく表現できるもの、ということで3DCGの活用に至りました。

鈴木:全てをオーダーできるんですか?

山口:毎回形を変えるのは製作側も受け取るユーザー側も難易度が高いので、グラフィックやテキスタイルをユーザーの要望の下に組み立てていく感じですね。第1弾ではハンドプリントに定評のあるspoken words projectとメッセージTシャツを。 第2弾ではプリーツが特徴的な kotohayokozawaに協力をしてもらい、ルームウェアのテキスタイルをオーダーできるというスタイルになりました。

ウチ@ミキリハッシン


▲ウチ@ミキリハッシンのオーダーの様子。デザイナーは生産的な環境が整っているアトリエに、ユーザーは最もリラックスできる空間である自宅にいながらやりとりを行うことができる。また、接客を得意とするミキリハッシンの販売員が間に入ることで、ユーザーの隠れた要望まで引き出すことができるという。CGで完成イメージを補完しながら、オーダーを完成させていく。約15年間、実際に店舗を構えるショップを経営してきた経験から、ただオンライン上で接客をするだけではなく「エンタメ」として楽しめる今回の形にたどり着いた
参考:.fashionsnap.com

鈴木:CLOでどんどんグラフィックを入れ替えて、この感じが良いんじゃないかっていうのを見つけていく感じですか?

山口:そうですね。コミュニケーションを取りながら色を変えていって、ユーザーさんが良いと感じたデザインをデザイナーさんが縫い上げたり、グラフィックをプリントしたりと完成させていく流れですね。

鈴木:実作までその場でやったんですか!?

山口:そう! そこまでを40分以内に完結させるというのがひとつの醍醐味かなと。

鈴木:すごいですね。お客さんとのコミュニケーションのためにCGを活用してみて、どのような発見がありましたか?

山口:5〜60件やってみて感じたのは、コミュニケーションとしては成立しているなと思いました。ただ、画像だけで全てを伝えるという壁の高さは痛感しています。例えば、生地を確認してもらった上で完成図がCGで見えてくれば、何となく理解していただくことができるけど、何もない状態でCLOの画像だけを見た場合だとわからない人の方が多いんじゃないかなと。

鈴木:現物の布を見せながら?

山口:そう。その場でパパッと組み上がるのって魔法みたいでエンタメ的だなぁと。正直、今の状況で外出を前提にしたファッションのムードを高めていくことは無理があると感じていて。まずは、楽しさに主眼を置いて業界が盛り上がっていけば良いのかなと感じています。

鈴木:なるほど。エンタメとしてということですね。

山口:そう。コロナ禍におけるファッションは、不要不急なものという空気に陥りかけていたときもあって。だけど毎日同じ服を着るのは嫌だし、どうしたらお客さんにファッションの醍醐味を伝えられるかなと考えたときに、まずは楽しいとか嬉しいといった点に変換する方が良いのかなと。その面で3DCGは本当に役立ちましたね。

鈴木:面白いお話ですね。

山口:淳哉くんはどう?

鈴木:お客さまとコミュニケーションすると言う点だと、VRChatにバーチャルストア、架空の店舗をつくり接客までやったんですよ。試着という形で洋服を体に乗せてあげたりしたのですが、新しい洋服がアバターの体の上に乗って新しい自分の姿が生まれる楽しさは、リアルな体験と遜色のないものだと感じました。

chlomaバーチャルストア

▲VRChat内にオープンしたバーチャルストア。ストアの作成はVTuberのキヌ氏によるもの。仮想世界の中にchlomaのプロダクトが並ぶ姿は何とも不思議だが、chlomaの「仮想世界と物理世界の境界を越えるファッションブランド」というコンセプトがよく表れた世界観となっている

山口:それって期間限定的にやってるの? 今もある?

鈴木:今回は1日2時間ずつで2日間しかやらなかったです。友だち同士で来てくれたお客さんが、お互いに「これ似合うんじゃないの?」とか言って試着していたんですよ。その姿を見たときに、体験としてすごく良かったなと思いました。

山口:それ良いね! アバター用の服を売るの? リアルな服を売るの?

鈴木:展示は全てアバター用で、洋服や帽子、サングラスなどを出品していたのですが、販売していたのはアクセサリーだけです。CLOでつくったモデルをアバターに着せて動くようにするには技術が必要で、まだあまり上手にできなくて。洋服はまだVRoid用でしか販売してないです。アクセサリーは固まっていても平気なので。

山口:なるほどなるほど。

鈴木:オーバーサイズの服はかなり難しいんですよ。脇の下は細くしないと、腕を下ろしたときにポリゴンが体から突き出しちゃったり。チャレンジしたのですが、まだ無理だなと。 

山口:布の表現とかは難しいね。

鈴木:VRChatで水着を着てプールに入った写真も撮りましたよ(笑)。

山口:へー! 面白いね!

鈴木:自撮りできるんです(笑)。レディースの服をデザインするデザイナーだったらやった方が良いですよ。

chlomaの水着


▲リアルな世界の水着の模倣ではない創造性豊かな形を目指したというこちらのプロダクト。chlomaの新作コレクションのテーマである「水」を意識し、まるで水を纏っているかのような独創的なデザインに仕上がった。現実世界では難しい形でも、仮想世界であれば楽しめるということがよくわかる。クリエィティブなファッションという瑞々しい流れを呼び込む水着だ
参考:chloma.com/collections/avatar-wear-_-2020-2021cellular/products/avatar-wear-chloma-miq-corallite-swimwearv

山口:なるほど。自分ではなかなか着れないもんね。アバター用のブランドというか、データの世界だけで存在するブランドみたいなものを立ち上げるとなったとき、淳哉くんならどうする?

鈴木:chlomaと区切ったものはやるつもりはないんです。

山口:熱い!

鈴木:洋服のつくり方、仕様、素材、トレンド、ジェンダー観とか、そういったことを一般の方より多く吸収していると思うし、逆にそれを活かした洋服じゃないと勝てないと思うんですよ。

山口:なるほど。それは正直なやり方だと思うけど、ある種ゼロから再構築するつもりでCGに向き合ってブランドをつくっていく方が、ビジネスの可能性が高くなるのかなと思う。

鈴木:なるほど。

山口:極論だけど、例えばタイトなパンツをつくるときって脱ぎやすさとかも気にするけど、データの世界ではそんな機能性は必要ないわけだよね。つまり、身体との向き合い方が変わってくるし、世界の秩序も成り立ち方もちがうし、佇まい自体がまったく異なるんじゃないかなと。その中で現実のファッションをどう翻訳するかを考え始めると、難解でアクロバティックな作業になるなと。

鈴木:バーチャルマーケット等で現在取引されているファッションアイテムの現状を見ていると、「何でもできちゃうからこそ何でもあり」ではなくて、既知のものに収束せざるを得ない状況もあるなと強く思います。

山口:おお、なるほどね。

鈴木:SNSであって人とコミュニケーションができてなんぼのコンテンツだから、みんなが知っているものから逸脱したものは表現しづらいなと感じます。リアルの模倣やいわゆるコスプレ的なものの上に成り立っているようなデザインがすごく支持されていて。そういう意味では、壮大さんの言う「この世界ならではの装い」っていうのは思ったよりも進歩していない、支持されていない感じがします。

山口:エンタメ感あるなと思うんだけどね。エンタメ感があるファッションって、リアルではレベルの高いファッションだと感じるんだけど、それが制約のないCGの世界であれば逆にありえるのかなとか。

鈴木:やってみたいことではあるんですけどね。装いに限らず言えば、エンタメ感のある生活は様々な例があって、案外、現実的なラインに着地していると感じていて。VRに浸って、そこに「生活」があるからこそなのかもしれません。

山口:いずれCG制作の技術的なハードルが低くなったり、どんなデバイスからでも簡単に見られたり、手軽に行き来ができたりする未来になると変わってくるのかなと思うけど。

鈴木:良いですね。僕だけの力じゃどうしようもないですが(笑)。そうなる未来を信じています。


次ページ:
CG&バーチャルを活用したファッションにおけるマネタイズの可能性

[[SplitPage]]

CG&バーチャルを活用したファッションにおけるマネタイズの可能性

山口:ファッションについて代表的に語っている僕らですが、業界の中では特殊な立ち位置でもありますし、極論では大手アパレルメーカーがやっていることはファッションなのか日用品なのか......。この表現が正しいかはわかりませんが、ファッションという言葉の意味が広すぎて、非常に難解になってしまっているんですよね。

鈴木:「ファッションとは」ですか?

山口:そう。やっぱりCG界隈の方々が普段耳にする「ファッション」って言葉とは少し異なる使い方をしているなと思って。

鈴木:人それぞれ捉え方はちがっていて、明確な定義はできないと思うんですよね。その上で僕の中のひとつの仮説として、コスプレや模倣を仮装、つまり「仮の装い」とするのであれば、ファッションはその逆。自分自身を表す「真の装い」なのかなと。ただ、コスプレやバーチャルでの姿は元来「仮」のものでしたが、今ではそれこそが自分にとっての「真」になっている人もいるでしょう。

山口:うんうん。

鈴木: 自分を表現するには、自分のことだけ考えていれば良いのではなくて、社会という究極のオープンワールドを意識しなくてはいけない。「社会の中における自分はこういう存在です」というのを形どってくれるものがファッションなのかなと思っています。

山口:めっちゃ上手にまとめたね。非常にわかりやすい。

鈴木:壮大さんがCGWORLDの記事で使っている「ファッション」というのは、もうちょっとトレンド的な意識も強く表れているのかなと感じます。

山口:そうですね。でも、ブランドが提案する思想を採り入れることによって、社会に対する距離の取り方を表現するという意味では、淳哉くんの話に近いと思う。

鈴木:そういえば、壮大さんは今までアバターを使ったことはありますか?

山口:僕の悪い癖なんだけど、自分がそこに浸っちゃうと途端にわからなくなっちゃうんだよね。

鈴木:自分らしさを見失ってしまいそうってことですか?

山口:なんて言うのかな。自分自身がそこに没入していってしまうと、つくり手の方の気持ちに寄り過ぎてしまい、ディレクターとしてのスタンスが保ちづらくなるんですよね。だから、自分ではあまりやらないようにしてる。興味はとてもあるんだけどね。

鈴木:なるほど。

山口:逆に言うと淳哉くんは、ガーっと入って行くからすごいよね。

鈴木:結構ビクビクしながらやってますよ(笑)。ブランドの活動の一環としてやってるから、下手なことしたらファンが離れていってしまうんじゃないかなとか。

山口:その割に攻めまくってるけどね(笑)。

鈴木:いや、攻めなきゃなって思って(笑)。

山口:使命感があるのが良いよね。

鈴木:10年後や20年後、ファッションとバーチャルの関係が今のままだったら、一生後悔するなと思って。せっかく自分の好きな身体を選べて、好きな洋服が着れて、という時代になったんだからもっと発展してほしくて。それができたら、自分がお爺ちゃんになってもレディースの若い洋服着て楽しむこともできるし、たとえ歩けなくなっていたとしても、自分らしい装いで色んな人と遊んだり色んなところに行けたりするんですよ。でも、そこに積極的に取り組んでいる方は多くないから、僕がやらなきゃなって思っています。あと、ファッション業界のトレンドワードとして「サステナブル」があるじゃないですか。

山口:うんうん。

鈴木:ファッション業界って、需要を掘り起こして新鮮なデザインを提案して、たくさんの洋服をつくって買ってもらうというシステムですが、そういうシステムを見直そうという流れがあって。そこで極端な発想ですが、物理の洋服でなくてもファッションを生産して消費してもらうことができるんじゃないですかね。

山口:その視点で言うと、さっき話に上ったアバター用の水着とかもまさにそうだよね。ただ、アバターの装いと現実のものの間には、良くも悪くも距離感があると思うんだけど、どちらもつくっている淳哉くんの視点から、この距離に対してどういう風に見てる?

鈴木:有名高級ブランドって、そのブランドがどういうファッション感覚をもっているかをみんなが知ってるじゃないですか。ブランド名を聞いてイメージができる。だけど実際に着たことがある人って、意外と少ないと思うんですよ。僕はそれとあまり変わらないんじゃないかなと。そもそもファッションもデジタルでの流通が普通になって、デジタル上で「ここのブランドはこういう感じ」とイメージを喚起されるのが当たり前になっている。それならばイメージだけっていうのもありだと思うんですよ。

山口:面白い、非常に(笑)。例えばchlomaのAnorakとかでも、実際につくっているものとVRoid WEARに落とし込んでるものって結構ちがうじゃない?

鈴木:そうですね。いくつかパターンをつくっているので、似せたものもありますが最終的には 異なっている点は多くあります。

Y2K Anorak(chloma)


▲chlomaのY2K Anorak(バーチャルのものと現実のもの)の比較。一見するとまったく同じようだが、よく見るとフードの付き方や襟、袖の長さのバランスなど異なる箇所がいくつもあることがわかる。「リアルでは細かく詰めてる箇所をあえてデータ上では解像度下げていたり、水着もそうだけどリアルじゃできないことをデータでやろうとしている」(山口氏)
参考:chloma.com/collections/avatar-wear-1/products/avatar-wear-y2k-anorak-for-vr-ver-parka

山口:でも、最初に見たときには同じものとして認識してたんだよね。細かく見ていくと全然ちがうと気付いたんだけど、デザインが変化しているのに同じものとして認識してしまうのは面白い。そう考えると、リアルのファッションをデジタルに翻訳する方法にも様々な手段や可能性があって、これからCGにおける流儀が確立されていくのではないかという期待感があります。CGのファッションにおけるマネタイズの可能性がどれぐらい見えているのかも気になります。

鈴木:正直まだまだ厳しいと思います。バーチャルマーケットでも1ケ月の売り上げが100万円を超えるクリエイターは数パーセント程度だと聞きました。現状では広報的な観点での参加が現実的なところですかね。

山口:プロモーションとしてバズっても、回収の方法がリアルな洋服の販売になった途端、いきなりハードルが上がってしまう。だから、回収方法としてもCGを活用する、みたいなフローができると良いよね。チャットを目的としたアバタービジネスって、プラットフォームとしてはまだまだニッチだと思うんだけど、淳哉君が興味をもっているプラットフォームって何かある?

鈴木:プラットフォームというより、この文化が一般女性にまで広まるのか、という点ですね。先ほど触れたように、ブランドが参加する場合は広報的な参加になると思うのですが、それによってアバターのための洋服が広告化していくことは恐れています。実際、今流行っているゲームでもそういったことが起きていますし。

山口:淳哉くんはCG業界とファッション業界を繋いでいて、畑を耕している立場でもあるわけで。先駆者として息吹を育てているわけだけど、でもそれがビジネスに直結するかと考えるとちがうと思う。さっきの仮装の話で言うと、あえて仮装だと割り切ってやっていく方がわかりやすかったりする。でも同時にマネタイズのために割り切ったクリエイティブにシフトいくっていうのは、ちょっと嫌だなとも思っていて。淳哉くんの活動が、ビジネスとしても大きなものになるやり方はないのかなとずっと考えてる。

鈴木:そうですね。アバターの洋服の売上は、かけた時間分のお金を回収するだけではないですからね。リアルの洋服への導線が現実的なところだし、プレイヤーのニーズもなんとなくわかるのですが、それに応えちゃうとウチのブランドらしさが失われてしまうことになるんですよね。

山口:確かにね。

鈴木:でもニッチな分、ディープな文化が熟成されているという面もあって、それはそれで僕はすごく面白いなと思っています。お金目的じゃなくて、みんながやりたいことをやって、それを褒め合うという環境があるんですよね。僕としては、いつかどこかでVRがブレイクして、スタークリエイターが出てくるようになれば良いなと思っています。


「CG×ファッション」という視点からみてきた今回。無数の意図が複雑に絡みあう「ファッション」というワードから、ファッションという分野の難しさを痛感させられたが、気鋭のお二方が紡ぎ出す鋭くしなやかな言葉にはこれからの展開を期待させる熱量があった。これからファッションという形が大きく変わっていくのだろう。しかし我々の心を包み込む暖かさだけはきっと変わらないはずだ。