>   >  "文化の森"をつくるために~「広島国際アニメーションフェスティバル」36年の足跡と2020年(第18回)コンペ作品の見どころ
"文化の森"をつくるために~「広島国際アニメーションフェスティバル」36年の足跡と2020年(第18回)コンペ作品の見どころ

"文化の森"をつくるために~「広島国際アニメーションフェスティバル」36年の足跡と2020年(第18回)コンペ作品の見どころ

<3>「悪口を言わない」7日間かけて行われるコンペ会議の舞台裏

第18回開催は世界的な新型コロナウィルスの影響により、現地での開催が中止となり、コンペティションのみがオンラインで行われた。その模様を国際審査委員長の伊藤有壱氏に聞いた。

応募作品は5ヵ国の国際選考委員による一次審査が行われる。従来であれば現地・広島に集まり、全作品(第18回の応募総数は2,339作品)を数週間かけて観て選んでいく。また、どんなジャンルの作品でも平等に扱うのが同イベントの特徴だ。商業作品、学生作品、短編などを一元化して審査を行なうことで、カテゴリー別の受賞狙いを防ぐのが狙いだ。そうして選ばれたコンペティション作品(第18回では59作品)から4〜5名の国際審査委員が選定していく。

今回の選定は同様にオンラインで行われた。初日に審査委員長を決めた後、5日間、毎日数時間かけて、審査員のみのミーティングで受賞作を丁寧に検討していく。そして、最終日には各審査員が分担して贈賞コメントを書き、その一字一句まで確認するという7日間に渡る長丁場だ。

また、コンペでは悪口を言わないことも大きな特徴だ。1人でも審査委員が高い評価をした部分があれば、その部分を拾い上げていく。ただし、それは批評性を甘くするということではない。ある作品において、選考委員のひとりオットー・アルダー氏は、別の作品の亜流であるということを目ざとく見つけた。これは他の選考委員が気づかなかった指摘だった。



伊藤有壱/Yuichi Ito
第18回広島国際アニメーションフェスティバル コンベティション部門 国際審査委員長

アニメーションディレクター、東京藝術大学大学院教授。1962年生まれ。ビジュアルエフェクツ、コンピューター映像会社を経て、1998年、I.TOON Ltd.を設立。同代表。 クレイを中心にあらゆる技法を駆使したアニメーション映像、キャラクターデザイン等を手がける。
www.i-toon.org



「オットーさんは映画祭の創設を含め教育者として多くの才能を輩出してきたので、作品を広く深くご存知で、今回もそれを発揮されました。良い意味での厳しさのある方です。また、クリスチャン・フェイゲルソンさんは映画と社会学という専門分野の視点から、自分の感覚を踏まえて正直に言う方。チャン・ヒュンユンさんはヒューマンライクな作品に対しての興味が強い方。韓国のインディペンデントアニメーション協会の代表であり、現役のクリエイターでもあるため、見る目が肥えています」。

このように様々なバックグラウンドをもつ審査員が限られた日程の中で、価値観のちがいを素直にぶつけあい、納得の審査結果に至った。伊藤氏の場合は「個人としてのこだわりに囚われないと言い聞かせた」という。好き嫌いではなく、大事なものを見落とさず、間違いなく頂点に相応しい作品を探し当てる緊張感があったという。

「広島国際アニメーションフェスティバルは、世界中から訪れる日本唯一と言っても過言ではない国際アニメーション映画祭でした。加藤久仁生氏の『つみきのいえ』も、山村浩二氏の『頭山』もこの広島で顕賞され、アカデミー賞受賞者、ノミネート者となりました。その実態がこれで終わってしまうのは本当に残念です」と、伊藤氏は語る。

「始まった35年前から比べ、アニメーションを取り巻く環境が世界中で劇的に変化をしました。この先、映画祭は、例えばVR部門ができるといった新しいスタイルに対応していくかたちになると思います。広島国際アニメーションフェスティバルはASIFAが中核となって、世界中に協力する方がいたことで、予算規模をはるかに超えたフェスティバルを実現してきました。今後、続けていく方たちがそういったスピリットを引き継いで運営していただければ、応援したいと思います」。

第18回広島国際アニメーションフェスティバル コンペティション受賞作品のうち3作品に対して、伊藤氏から解説を行なっていただいた。また受賞を逃した作品のなかで、特にCG表現が光る2つの作品についてもコメントを寄せていただいた。

■グランプリ
『ドーター』(原題:Daughter / Dcera)

監督:ダリア カスチエヴァ/ Daria Kashcheeva

プラハ芸術アカデミー映像学部生の卒業制作。監督はもともとバレエの研究をしており、実質的にアニメーション作品ではデビュー作。これまでも多くのコンペティションでグランプリをとっており、広島でも全員の合意の下、グランプリに挙げられた。

ボロボロの人形から生身の人間の気配を感じさせるそのギャップがみるものを突き刺す。誰かがその場にカメラを構えているのかと感じるほど、生々しいカメラワークで、人形に込められた心情が伝わってきて、その繊細な仕草からは人形でしかできない設定の跳躍というキャラクター性を感じる。全編にわたり緊張感が気持ちよく、ベテラン作品を凌ぐ強さと純度がある。自分の考えを純粋に物語化した脚色力が発揮されており、20代後半の力のあるフレッシュな演出になっている。10年後、20年後が楽しみな才能の出現だ。

■国際審査委員特別賞
『オージャスティック ハイパー - プラスティック』(原題:Orgiastic Hyper-Plastic)

監督:ポール ブッシュ/ Paul Bush

海洋プラスチックゴミを簡単なラブストーリーのようなちょっとふざけた可愛らしい仕立て(ポール・ブッシュ監督談)にしたもの。海洋投棄されたプラスチックの問題は様々な場所で語られているが、この作品ではプラスチックの身近さや安さ、カラフルで可愛らしい部分に注目し、人間の浮気に喩えて"使い終わったらすぐに捨ててしまう"ことの愚かさをショートフィルムにしている。科学的なものよりもむしろ含み毒のようなアイロニーを感じさせる。一見すると可愛いだけの作品と見過ごしてしまうが、そのなかに痛烈なメッセージを込めている作品。

■優秀賞
『神性』(原題:Divinity)

監督:ファーヌーシュ アベディ/ Farnoosh Abedi

人形アニメにしか見えないCG作品。クラシック映画や技法に対するオマージュが非常に強く、賛否は分かれた。それでもストップモーションのメカニズムとその特徴を上手く使った劇空間の質はとても高く、独創的な世界観を表現している。制作メンバーの若さと、ストップモーションやCGで独自のワールドを目指す強い意思が感じられ点が受賞につながった。

■その他の注目作
『バイオレント イクウェイション』(原題:VIOLENT EQUATION)

映画としてというより、映画空間と時間軸の空間があるコンピューターによる絵画のような感覚でつくられている(監督・アニメーション制作:Antonis DOUSSIAS)。その"歪なファインアート"の存在感をストレートに表現している作品。

Violent Equation (animation) Teaser Trailer



『パイル』(原題:Pile)

英ロイヤル・カレッジオブアート学生 Toby Auberg氏の個人作品。"人間の本質的な部分は、時間が経っても変わらない"という、文明批判を皮肉めかして時間絵巻のようにつくった若者らしい作品。社会に対する疑問を醜い要素を使って表現したり、自分が可愛いと思うプラクティカルな要素を織り交ぜながら、ショートフィルムに仕上げている力量を評価した。

PILE [TEASER] from TOBERG on Vimeo.



Profileプロフィール

木下小夜子/Sayoko Kinoshita

木下小夜子/Sayoko Kinoshita

広島国際アニメーションフェスティバル フェスティバル・ディレクター。国際アニメーションフィルム映画協会(ASIFA)会長

伊藤有壱/Yuichi Ito

伊藤有壱/Yuichi Ito

第18回広島国際アニメーションフェスティバル コンベティション部門 国際審査委員長

スペシャルインタビュー