<2>次回作はチームでの制作にチャレンジ、よりクリエイティブな環境を目指して
――本作の世界観をつくる上で、何か影響を受けた作品はありますか?
ジルバロディス:映画では、長回しで有名なアルフォンソ・キュアロン監督の作品に影響を受けているよ。僕はあまり完璧すぎるカットが好きじゃないんだけど、彼の作品は手もちカメラの揺れみたいなところも映像に反映されている。他には、ウォルター・サレス監督の『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)、バスター・キートン監督の『大列車追跡』(1926)などがあるね。アニメーションではジブリ作品からもインスピレーションを受けたよ。
▲バイクで疾走する少年
『大列車追跡』の中で繰り広げられる追跡劇は、ある場所から他の場所へと移動するだけのシンプルな構図だ。これは、『Away』の中で少年が「黒い影」に追われながらバイクで駆け巡る様子とよく似ている。また、ジルバロディス監督はインディーゲームからも多くの影響を受けていることを認めている。『ワンダと巨象』や『INSIDE』など、プレイヤーが環境に没入できるゲームからの影響も、本作の映像から見てとれる。
▲崖に架かる橋
本作に登場する様々なモチーフは、ストーリーの進行度を視聴者に理解してもらうための役割も担っている。例えば、半円のアーチは、主人公がバイクで進んだ道のりの進行度を視覚的に理解するために役立っている。
――制作を進める中で技術的な課題や不便を感じたことはありませんでしたか?
ジルバロディス:自分はどちらかというとクリエイティブ側の人間だと思っていて、制作中に技術的な問題が生じるとフラストレーションを感じることがあった。実は、今回の作品ではキャラクターたちに影はつけていないんだ。これは、Mayaのビューポート作業で自分が答えを見つけることができなかったためだ。でも、結果的にシンプルなグラフィックになって良かったと思っているよ。
▲飛べない小鳥
▲カメとネコ
確かに、キャラクターたちには影がないが、それが巨大な影との良い対比になっている。今作は全体を通してシンプルなグラフィックとなっており、これにより複雑でダイナミックなカメラワークの中でもキャラクターたちの存在が際立って見える。では、技術的な問題を乗り越えるために、次回作から何か環境を変える予定はあるのだろうか。
ジルバロディス:次回作は『Flow』という作品を予定しているけど、これはMayaじゃなくてBlenderで制作する予定だ。理由はいくつかあって、リアルタイムレンダリングの性能がMayaより良いこと、そして何より無料だということだね。と言うのも、次回はひとりではなくて何人かのチームで制作しようと思っていて、全員がMayaのライセンスを取ろうとすると高額になってしまうからなんだ。
▲湖の象
10代の頃からひとりで制作を続けてきたジルバロディス監督だが、次回作では初めてチームを編成するということは興味深い。まだチームでBlenderをどう利用していくか、詳細は決まっていないそうだが、すでにチームの構想は彼の頭に浮かんでいる。その一部を聞かせてもらった。
ジルバロディス:アニマティクスは自分でつくりたいと思っているよ。ストーリーやカメラワークは自分で決めたい。でも、実際に映像を動かす作業は才能のあるアニメーターたちに任せて、より深みのある演技を生み出してほしいと思っているんだ。実は、技術系のアーティストとの作業はもう始めている。次の作品は海が舞台だから、水の動きをアニメーションで再現する必要があるんだけど、自分ではとてもできないからね。チームは、10人くらいの小さなものになると思うよ。自分の独立性を保ちながら、よりクリエイティブな作業もできるよう、そのバランスを模索しているところなんだ。
▲流れる水(コンセプトアート)
▲少年と小鳥
クリエイターは自分のプロジェクトを終わらせるまでモチベーションを保たなければならない。ジルバロディス監督は作品に技術的な完成度を追求しすぎるよりも、むしろプロジェクトを最後までやり遂げることに重きを置いてきたという。グラフィックは必ずしも最先端の技術を用いているわけではないが、そのシンプルさがストーリーとマッチしている。最後に、今後の展望について教えてもらった。
ジルバロディス:次回作の『Flow』ではキャラクター数も増やすので、キャラクター同士の関係性を掘り下げていけるのは楽しみにしている。『Flow』の後はどうなるかわからないけど、台詞のある作品をつくってみたいのと、実写作品もチャレンジしてみたいと思っているよ。
▲砂漠の影と少年
ジルバロディス監督の制作意欲はまだまだとどまることを知らない。