>   >  コロナ禍におけるXRイベントの工夫と、そこから出てきた新しい作品の形とは~稲見昌彦氏とふり返るIVRC 2020
コロナ禍におけるXRイベントの工夫と、そこから出てきた新しい作品の形とは~稲見昌彦氏とふり返るIVRC 2020

コロナ禍におけるXRイベントの工夫と、そこから出てきた新しい作品の形とは~稲見昌彦氏とふり返るIVRC 2020

6:『在宅茶会』(Laval Virtual Prize、DMM.com賞)

青山学院大学 総合文化政策学部/チーム名:MHK2020

2名の体験者が「亭主」と「お客」に分かれてリモート茶会を実施する作品。「亭主」と「お客」はVR HMDを装着し互いにVR茶室で対面する。亭主が抹茶を点てる動作を行うとお客の場に用意したロボットアームが亭主と同じ動作を行い、抹茶を点てるしくみだ。ポットなどでお茶を入れるのではなく、亭主の腕の動きをロボットアームがトレースすることで、亭主の腕さばきを再現している点がポイント。その際も機械学習による動画認識やRPA(Robotic Process Automation)などの技術を活用することで、亭主が意識せずにロボットアームを操作できるように工夫されている。

稲見氏のコメント
本作のポイントはロボットアームですよね。VRといえども、ここだけはバーチャルにできなかった。VRにおけるフィジカルとデジタルの線引きの重要性について、改めて示した作品だと思います。青山学院大学という、これまでIVRCとは縁遠かった大学からの応募作品という点も注目です。初参加でLaval Virtual Prizeを獲得した初めてのケースではないでしょうか。


7:『匂いの暗号』(審査委員会賞)

慶應義塾大学 環境情報学部 総合政策学部/チーム名:9bit

体験者は犬の鼻を模したデバイスを装着して「匂いの暗号」を解読する作品。微細な平面空間に対して高密度に付与された匂い成分を知覚することで、ミリメートル単位で匂いの定位を可能にしている。体験者は犯罪組織に潜入している諜報員で、組織の計画を阻止するため、地図上にあぶり出しで描かれた爆弾の運搬ルートを自身の鼻を使って解読していくという設定。匂いの源がセンサの先に近づくと、デバイス内に設置された脱脂綿がサーボモーターの働きで(デバイス内で)鼻に近づく。脱脂綿には香料が染み込ませてあり、これで嗅覚が拡大した体験が得られるしくみだ。

稲見氏のコメント
IVRCで嗅覚といえば、1997年の『うちのポチ知りませんか』が思い出されます。本作もそれに連なる内容ですが、最大のちがいは市販されている道具や素材を組み合わせて自宅で体験できるようになったことです。HMDを鼻に付けたという身体性もポイントですね。


8:『物語ハコ便』(審査委員会賞)

電気通信大学 情報理工学域 大学院情報理工学研究科/チーム名:Uber Stories

今回のIVRCの「2箱程度の段ボール箱に作品が収まること」という規定からアイデアを膨らませた作品で、箱を持ち上げたり、ふたを開けたりすると、動作に従ってモニタ上でストーリーが展開したり、箱自体が振動したりする。物語は「Signal from Black Box」「はこにっき」の2種類で、星座と夏休みの遊びを題材とした内容になっている。箱には3枚のふたがあり、そのうち2枚はリミットスイッチによる開閉検知、3枚目にはサーボモーターの働きで自動開閉が可能だ。箱の内部には持ち上げ検知用のフォトリフレクタ、スピーカー、ファン、ペルチェ素子が仕込まれている。

稲見氏のコメント
VRといえば「体験者の周りに空間をつくる」という話になりがちです。本作では、モノの中に体験者を引きずり込んでしまうような、まったく異なった発想でつくられていた点が斬新でした。同じ箱をモチーフにしている点で『テレポ腕テーション』との関連性も気になります。両者がコラボすることで、また新しい何かが生まれるかもしれません。


9:『老化タイムラプス』(Unity賞、ソリッドレイ賞)

電気通信大学 情報理工学域/チーム名:HGW

手回しデバイスを回転させると、VR空間内の風景がタイムラプス(低速度撮影=コマ落とし)のように急速に変化しつつ、体験者自身も急速に老化(筋力低下、手の震えやしびれ、視力と聴力の低下)が進んでいく様をバーチャルに体験できる作品。VR HMDにはOculus Quest 2が使用されている。VR空間内の風景にも、家族写真やランドセルといった人生を感じさせるオブジェクトを盛り込んだ。手回しデバイス内には、往復振り子を設置して手の震えを表現。クランクを回す側の手に高周波振動を提示する布型デバイスを巻くことで、手のしびれを表現している。

稲見氏のコメント
老化というテーマだけであれば過去にも様々なものがありましたが、それをここまできちんと体験としてつくり込んだ作品は初めてではないでしょうか。VR空間で描かれる風景も今の学生にとっては生まれる前のもので、異世界だと言えます。そこをしっかりとつくり込んだ点が素晴らしいですね。


10:『瞼内映像投影装置』(総合優勝、審査委員会賞、teamLab賞)

東京大学 教養学部/チーム名:FuGu

目を閉じたまま映像を見ることを可能にした作品。体験者は仰向けになって横たわり、専用デバイスを目の前に設置する。映像はPCで再生され、高輝度LEDと多数の光ファイバーを通して専用デバイスから瞼の上に投影されるしくみだ。投影される映像はサイケデリックな色合いの模様が動き回るというものや、スマートフォンの画面を指でなぞった軌跡が反映されるものなど様々。映像だけでなく、サウンドも映像に合わせて自動的に変化するといった工夫がされている。審査員からは「10年に1度の作品」などのコメントも聞かれたほどで、総合優勝に輝いた。

稲見氏のコメント
これは学部2年生の作品なんですよね。自分も東大で教えている中で、こういった作品がつくられていたことを知り、改めて驚かされました。まさに体験しなければわからない作品であり、体験できないことが悔しくて自分でつくってしまった審査員もいたほどです。審査員をそこまでさせた作品は初めてではないでしょうか。


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今つくらなければならない作品は何か、学生が真摯に向き合った

Profileプロフィール

稲見昌彦/Masahiko Inami

稲見昌彦/Masahiko Inami

東京大学総長補佐・先端科学技術研究センター 教授

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