>   >  正解なんてわからない。「今日1日をいかに楽しむか」しかない 〜若杉 遼氏インタビュー
正解なんてわからない。「今日1日をいかに楽しむか」しかない 〜若杉 遼氏インタビュー

正解なんてわからない。「今日1日をいかに楽しむか」しかない 〜若杉 遼氏インタビュー

情報に惑わされず「自分が何をしたいのかを知ること」

CGW:若杉さんの行動力も素晴らしいなと思うのですが、意識的にモチベーションを維持されているのですか?

若杉:それが、行動力はない方だと思うんですよ。これまでで唯一、行動に移して良かったと思うことは「海外に出たこと」で、もしあのままずっと日本に留まっていたとしたら、今さら海外に出るなんて怖くてできないはずです。日本で仕事をしていたなら、それなりに仕事があるだろうし責任も立場もあるだろうし。そういった「荷物」が多い上に、さきほど言ったようにメンタルも弱いので、一歩を踏み出すことができないんじゃないかな。だから23歳のときに、スーツケース1つで誰ひとりと知り合いのいない海外に出て、大学の手続きも全て1人でして......しかも英語で(笑)、と今考えると本当に良くやったなと思います。

「何歳からでも挑戦できる」と言うのもその通りだとは思いますが、それでも若いがゆえの無鉄砲さというか、とにかく背負っているものが少なく身軽だし動きやすいはずです。僕はだんだん保守的になってきていますね(笑)。

  • ◀日本を出て、サンフランシスコでの生活を始めた当時

CGW:確かに。年齢と共に守るべきものが増えますからね。さて新たな展開を迎え、アニメーターとレイアウトアーティストという2つの選択肢を前にされたわけですが、どんな局面でもやはり決断しなければならないわけですよね。迷ったときの判断基準はありますか?

若杉:まずは「自分が楽しいかどうか」で、「普通はこうするべきだよね」と理屈や一般論に縛られないようにすることです。そういった考えに縛られず「本当にやりたいことなのか」、「楽しいと思えるのか」をいつも考えているかもしれません。

CGW:もはや私の悩み相談になりつつあり恐縮ですが(笑)、AとBで迷ってどうしても決められないときってありませんか?

若杉:ありますね、わかりますよ(笑)。そうそう、そんなときにちょうど良いアイデアが1つあるんですよ。ついこの間、一緒にアニメーションエイドで教えている立中(順平)さんという方がめちゃくちゃ良い話をしていたのですが、普通は「Aを選んだらBを捨てなければならない」とか「Bの退路を断つ」とか、そう考えるじゃないですか。でも立中さんは決断に迷ったとき、どちらかを捨てるのではなく「ブーム」と考えるらしくって(笑)。それを聞いて、ブームっていう考え方めちゃくちゃ良いなと思いました。「ブームだったらまた戻ってこれるな」って。

CGW:すごい、もはや発明に等しい解決方法ですね! 心が救われます(笑)。

若杉:そうなんですよ。退路を断ってしまうと「Bの道がなくなってしまった......」と不安になるし怖いじゃないですか。でも「今はAのブームだから」と考えると「このブームが過ぎたらまたBのブームが来ても良い」と思えてとても気が楽になりますよね。立中さんのこの考え方、僕はすごく好きなんです。そう考えると、僕が悩んでいる「レイアウトアーティストに」という決断もブームなのかもしれないですね。

▲レイアウトのお仕事を始めて初の映画プロジェクトに参加。レイアウトチームでのオンラインミーティングの様子。とても楽しそう!

CGW:言葉の力って本当にすごいですね! 見方や感じ方を少し変えるだけで、こんなに心が楽になるんですから。

若杉:立中さんはサラッと言っただけでしたが、僕にとっては衝撃的で、とても良い表現だなと思いました。これで恐らく「悩む」というストレスが解消されるはずです。これからはとりあえず「ブーム」と考えて、どんどん前に進んでいけば良いんじゃないかなって。

CGW:驚きました。盲点ですね。しかし、小さなエピソードから大きな発見をされる若杉さんの感性にも脱帽です。

若杉:ははは。普段から考えていることだったりするので、そういうところに敏感なのかもしれませんね。

CGW:まだまだお聞きしたいことが沢山あるのですが、お時間となってしまいました。最後に、若杉さんが最近気になっていることや伝えたいことなどがあったらお聞かせください。

若杉:「絵の勉強をしなければ」とか「パースの勉強しなければ」とか、CGアニメーションの勉強するんだったら「ボールやらなきゃ、基礎やらなきゃ」、「基礎を固めてから演技しなきゃ」とか。最近、こういった「やらねばならない」という言葉が可視化されてしまっているがゆえに、「自分がやりたいかどうか」という肝心な部分がかすんでしまっている人が多い気がするんです。

CGW:可視化されているというのはどういう意味でしょうか?

若杉:SNSで「◯◯を身に付けるなら、まずはこれをやるべき」といった投稿をよく見かけるんですよ。確かにそれは役に立つ重要な情報だし、僕もブログでそういったことを書いてはいますが、そういった言葉によって「自分がそれをやってみたいかどうか」が見えなくなるのはちがうと思うんです。ひと口に「アニメーター」と言っても、かわいいアニメーションを作りたい人もいれば実写系のクリーチャーや恐竜を作りたい人もいて、いろんなアニメーターがいるわけです。だから「この道をたどれば上手くなれます」というものなんてないと思うんですよ。どうも「自分が何をしたいのかを知ること」ができていないように感じられて、それも真面目な子ほどできなくなってしまうんですよ。だから、「基礎をしっかりと固めてから......」と頑なになって、自分を見失ってしまわないようにみなさん気をつけてください!

CGW:情報に溢れ様々な意見が飛び交っているからこそ、「自分はどうなのか」を問い続ける必要がありますね。若杉さん、今日は本当にありがとうございました! これからのご活躍を楽しみにしています(あと連載も引き続きお願いします......)!





Profileプロフィール

若杉 遼/Ryo Wakasugi

若杉 遼/Ryo Wakasugi

2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など

●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com

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