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満を持して世界に挑む! 映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』荒牧伸志監督インタビュー

満を持して世界に挑む! 映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』荒牧伸志監督インタビュー

限りあるリソースを最大限活かすために

『STi』制作では、原作『宇宙の戦士』や実写映画シリーズのファンに観てもらいたいという方針の下、フォトリアル路線が目指された。
「とは言え、あらゆる要素をフォトリアルに仕上げようとしたら莫大なコストがかかり、あっという間に採算割れしてしまいます。そこで本作では、今まで以上に監督として表現したい、絶対に譲れない要素をプリプロの時点で明確にすることにまずは注力しました。加えて、クオリティを維持できるギリギリのボリューム(尺やカット数など)についてもかなり細かく考えました」。
つまり、『STi』プロジェクトでは、技術としてではなく、フル CG アニメーションの劇場長編というコンテンツとして、現在の日本で実現できる最高レベルが目指されたわけだ。こうした意図の背景には、SOLA DIGITAL ARTS を拠点に、荒牧監督を中心とする日本人デジタル・アーティストたちが生み出すワン・アンド・オンリー(※「SOLA」という言葉は、ラテン語で "唯一" という意味を持つ)なクリエイティブワークを、継続して制作していくのだ(=どんなに素晴らしい表現が生み出せたとしても採算が合わず単発で終わってしまったのでは意味がない)という強い決意が伝わってくる。

「今回は企画当初から80分でまとめようと決めていました。製作サイドからも80分以上というオーダーがあったのですが、『じゃあ、80分と1フレームでもいいですよね』と冗談で話したりもしていました(笑)。ひとえにコスト割れを起こさずに最大限クオリティを高めるための戦略だったわけですが、同様にカット数も1200カット程度と決めていました。最終的にはエンドロールなどが加わり90分弱にまで延びましたが(※荒牧監督の過去作品『APPLESEED』と『EX MACHINA』は共に100分を超えている。表現様式も制作体制も異なるので単純比較はできないが参考まで)、最初から最後まで一貫して、クリエイターとしての高いモチベーションと、ある意味で相反する冷静さが求められるプロダクション・マネジメントをチーム全体で維持できたことも大きな収穫でしたね」。

場面写真01

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
宇宙戦艦「ジョン・A・ウォーデン」号。物語は主にこの艦内で進行してく

では、荒牧監督は何をこだわり、逆にどんな要素を大胆に割り切ったのだろうか?
「まず割り切ったのは、ヘアとクロスのシミュレーションですね。『STi』には女性キャラクターも登場しますが、男女ともに基本は短髪。衣装についてもパワードスーツをはじめ硬い材質のデザインにまとめ上げることでユレモノを極力省きました。また、比較的ロングのカットでは兵士にヘルメットを被せて演出することを基本としました。もちろん、その分だけ各キャラの芝居(アニメーション)にはこだわっていますよ」。

場面写真02a 場面写真02b

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
登場するほぼ全てのキャラクターは男女ともに短髪。1人だけ髪の長い女性キャラ(通称トリッグ)が登場するが、彼女も髪を束ねたデザインに仕上げられている

フォトリアル表現の要素を大胆に切り捨てるといっても、ただ諦めるのではなく、観客に気づかせないように細かな配慮がされていることが窺える。そうした荒牧監督の英断の好例が、パワードスーツのバイザー(目を覆う部分)の表現だろう。
「アニメや実写を問わず、ミリタリー作品を演出する上で各キャラクターを観客が判別できるようにするねらいから、バイザー部分は目の周りが透過されたデザインを採用することが多いのですよね。しかし『STi』では、敢えて不透明なバイザーに仕上げることでライティング、レンダリング、コンポジット等の作業負荷を軽減させました。キャラクターの描き分けについてはカラーリングやマーカーのデザインで判別できるようにしつつ、表情をしっかり見せたいカットでは、ヘルメットが開閉されるギミックを加えました」。
こうした判断ができるのは、ひとえに荒牧監督が 3DCG の特性を適確に理解しているからである。

場面写真03

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
パワードスーツのバイザー部分は敢えて不透明に仕上げられた。3DCG はあらゆる事象を表現(シミュレーション)できることが強みである一方で、「何を描きたいのか」 を明確にしないと膨大なコストが発生したり、八方美人な表現に陥りかねない。『STi』では、荒牧監督が自負する通り作り手の意図が明確であり、観客も自然にそれを楽しむことができる

パワードスーツのデザイン画a パワードスーツのデザイン画b パワードスーツのデザイン画c

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
パワードスーツのデザイン・バリエーション例。所属部隊によって色分けや胸部のマーカーを変えつつ、各キャラクターの設定に合わせた細かな描き分けが施されていることが判る。なお、『STi』のコンセプト・アートは、ゲーム業界を中心に活躍する臼井伸二氏によって原作の設定を踏まえつつ、より現代的なデザインへと昇華された

女性用パワードスーツのデザイン画a 女性用パワードスーツのデザイン画b

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
リアル志向のミリタリーアクションゆえ、戦闘シーンではヘルメットを被った状態の芝居が続く。そこで女性用のパワードスーツは、女性らしいシルエットになるように男性用よりも細いシルエットに。ただし、そうした調整を施す上でも『SST』シリーズの持ち味を損なわないよう無骨な軍用デザインと女性らしさのバランスには細心の配慮がされた

Profileプロフィール

Shinji Aramaki

Shinji Aramaki

1960年10月2日、福岡生まれ。
メカデザイナーとしてアニメーション界で頭角を現わし、『機甲創世記モスピーダ』(83) や 『ガサラキ』(98)、『アストロボーイ・鉄腕アトム』(03)、『REIDEEN』(07)などの作品で才気を発揮。
OVA 『メタルスキンパニック MADOX-01』(88) では原案を手がけるとともに監督デビューを果たす。04年には『攻殻機動隊』の士郎正宗原作による『APPLESEED』を発表。
フル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャという手法を用いた、この画期的な作品は日本のファンはもとより海外でも称賛の声を集め、07年にはその続編『EX MACHINA』を監督。
次回作として『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK(仮題)』(2013年公開予定)が控えているなど、日本を代表するフルCGアニメーション表現に精通した演出家として知られている。
『STi』を制作した SOLA DIGITAL ARTS では、CCO(Chief Creative Officer)も務める。

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