いよいよ封切られた2012年の要注目フルCGアニメーション長編、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』。現在、新宿ピカデリーほかにて全国で公開中だ。今年は 3DCG を積極的に採り入れた和製アニメーション劇場長編が多く公開されるが、本作は、昨今注目を集めるセルルックのリミテッドCGアニメとは一線を画しつつも、紛れもない "ジャパン・クオリティ" であり、日本発のフル CG アニメーションの新たな可能性を、表現や技術、さらにはビジネスとしても切り開いたといっても過言ではない。今回は、荒牧伸志監督に本作で目指したこと、そして『STi』の先に見据えるものについて話を聞いた。

『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』
新宿ピカデリーほか全国で上映中!
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
www.ssti.jp

新スタジオ「SOLA DIGITAL ARTS」の記念すべき第1作

日本でフル CG アニメーションが制作され始めて約15年が経つ。その歴史の中で最も継続して、そして最も多くのフル CG 作品を監督してきた人物、それは 荒牧伸志 であることはまちがいない。
2004年公開の 『APPLESEED』 を皮切りに、今回の 『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン(以下、STi)』 まで、フルCG長編3本と、短編1本( OVA 『Halo Legends』 の一編『The Package』)の監督を務め、さらに『STi』の次作も控えている(恐らく世界的にみても ジョン・ラセター に次ぐハイペースではないかと思う)。

「フルCGアニメーションというフィールドで約10年にわたり継続して活動できていることは素直にありがたいことだと思います。ですが僕の場合、セル(2D 作画)の頃から、変形機構を持ったメカやパワードスーツによるアクション描写を追求し続ける中で、そうした表現を生み出す上で最も効果的だったのが 3DCG だったということに過ぎないのですよ。その意味では、『この技法を使って、こんな表現がやりたい』 といった具合に、自身の中でやりたいことが明確なクリエイターがフル CG アニメを監督する際に高いパフォーマンスを発揮できるのかもしれませんね」。

この度『STi』を実際に観て、まず感心したのが、2D か 3D か、はたまたセルルックかフォトリアルかといった具体的な表現様式のことを意識せずに夢中で観終えてしまったことだ。作り手としてのこだわりが作品クオリティに大きな影響を与えることは言うまでもないが、実際にそれを楽しむ観客たちはその映画が面白いかどうかでしか評価しない。そうした意味において、『STi』は素晴らしいエンターテインメント作品だと思う。


『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』予告編

ご存知の方も多いと思うが、『STi』の原作であるロバート・A・ハインラインの 『宇宙の戦士』 は SF 小説の大傑作であり、『STi』以前には、ボール・バーホーベン監督による 『スターシップ・トゥルーパーズ(以下、SST)』(1997) を皮切りに3本の実写映画が制作されてきた。

「つまり、それだけ確固たるファンが存在する題材だったわけですね。そこで今回フル CG アニメーションとして『STi』を制作する上でも、原作小説や実写映画シリーズのファンに観て貰えるような作品にすることをまずは目指しました」。
その具体的な戦略が、フォトリアルなルック であり、実写映画シリーズのエッセンスでもあった行き過ぎた軍国主義や愛国精神がもたらす悲劇をパロディとして描く上での アメリカ人特有の立ち居振る舞いの再現 であった。

「『APPLESEED』シリーズでは、同じようなアプローチから日本の漫画が原作だったのでセルシェーディングを採用したわけですね。僕としては題材やターゲットに応じて最適なルックを選択したいといつも考えています。そして、CG キャラクターに生身のアメリカ人の立ち居振る舞いを反映させる上ではやはりモーションキャプチャが最適でした。今回はアクターにもこだわり、本国で活躍するアメリカン陣の役者さんをオーディションして決めました」。

時計の針を少し戻そう。『STi』プロジェクトが日本の CG・VFX 制作者の注目を大きく集めたのは、荒牧伸志監督の最新作というだけではない。荒牧監督が SOLA DIGITAL ARTS という新たなスタジオを起ち上げ、そこで『STi』を制作するという座組みに対する関心も大きいことだろう。
「その前段として、『Halo Legends』プロジェクト制作時から抱いていた思いがありました。ここからさらにステップアップを果たすためには、同じ志を持つ仲間たちと腰を据えて良いものづくりを実践していかなければならない。そのためには拠点となるスタジオが必要だと考えたのです。そんな時に、2009年の コミコン・インターナショナル の会場で、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(以下、SPE)のプロデューサーさんと知り合う機会がありました。自分たちのビジョンを伝えたところ、大変共感してもらえて、フル CG で何か一緒にやりましょうということになり、SPE さんには『SST』シリーズがあるから、これを題材にしましょうと、トントン拍子で話が進みました」。

2010年からシナリオ制作がスタート、同年の夏からプリプロダクションが行われた。そして、翌2011年の初頭に念願だった制作スタジオ、SOLA DIGITAL ARTS がオープンしたのであった。
「設立時は、僕たち経営陣(荒牧監督がCCO、『STi』プロデューサーのジョセフ・チョウ氏が CEO、同 CGI プロデューサーの河田成人氏が CTO)を含めても5人しかいないという最小人員でした。最初の数日はマシンのセットアップで過ぎてしまったので本当にゼロからのスタートでしたね」。

パワードスーツ01 パワードスーツ02 パワードスーツ03 パワードスーツ04 パワードスーツ05 パワードスーツ06

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一番最初に公開された『STi』ティザートレーラーにも登場するパワードスーツを身に纏った兵士の全身をクローズショットで見せていくシーン。『STi』は、日本のクリエイターがハリウッド映画を制作する という意味でも非常に画期的なプロジェクトだが、このシーンの完成度の高さからは、荒牧監督をはじめとする中核スタッフの高いモチベーションが伝わってくる。また、荒牧監督ならではのメカシズル溢れる観る者を大いに高揚させる本編でも印象的なシーンのひとつでもある

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限りあるリソースを最大限活かすために

『STi』制作では、原作『宇宙の戦士』や実写映画シリーズのファンに観てもらいたいという方針の下、フォトリアル路線が目指された。
「とは言え、あらゆる要素をフォトリアルに仕上げようとしたら莫大なコストがかかり、あっという間に採算割れしてしまいます。そこで本作では、今まで以上に監督として表現したい、絶対に譲れない要素をプリプロの時点で明確にすることにまずは注力しました。加えて、クオリティを維持できるギリギリのボリューム(尺やカット数など)についてもかなり細かく考えました」。
つまり、『STi』プロジェクトでは、技術としてではなく、フル CG アニメーションの劇場長編というコンテンツとして、現在の日本で実現できる最高レベルが目指されたわけだ。こうした意図の背景には、SOLA DIGITAL ARTS を拠点に、荒牧監督を中心とする日本人デジタル・アーティストたちが生み出すワン・アンド・オンリー(※「SOLA」という言葉は、ラテン語で "唯一" という意味を持つ)なクリエイティブワークを、継続して制作していくのだ(=どんなに素晴らしい表現が生み出せたとしても採算が合わず単発で終わってしまったのでは意味がない)という強い決意が伝わってくる。

「今回は企画当初から80分でまとめようと決めていました。製作サイドからも80分以上というオーダーがあったのですが、『じゃあ、80分と1フレームでもいいですよね』と冗談で話したりもしていました(笑)。ひとえにコスト割れを起こさずに最大限クオリティを高めるための戦略だったわけですが、同様にカット数も1200カット程度と決めていました。最終的にはエンドロールなどが加わり90分弱にまで延びましたが(※荒牧監督の過去作品『APPLESEED』と『EX MACHINA』は共に100分を超えている。表現様式も制作体制も異なるので単純比較はできないが参考まで)、最初から最後まで一貫して、クリエイターとしての高いモチベーションと、ある意味で相反する冷静さが求められるプロダクション・マネジメントをチーム全体で維持できたことも大きな収穫でしたね」。

場面写真01

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宇宙戦艦「ジョン・A・ウォーデン」号。物語は主にこの艦内で進行してく

では、荒牧監督は何をこだわり、逆にどんな要素を大胆に割り切ったのだろうか?
「まず割り切ったのは、ヘアとクロスのシミュレーションですね。『STi』には女性キャラクターも登場しますが、男女ともに基本は短髪。衣装についてもパワードスーツをはじめ硬い材質のデザインにまとめ上げることでユレモノを極力省きました。また、比較的ロングのカットでは兵士にヘルメットを被せて演出することを基本としました。もちろん、その分だけ各キャラの芝居(アニメーション)にはこだわっていますよ」。

場面写真02a 場面写真02b

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登場するほぼ全てのキャラクターは男女ともに短髪。1人だけ髪の長い女性キャラ(通称トリッグ)が登場するが、彼女も髪を束ねたデザインに仕上げられている

フォトリアル表現の要素を大胆に切り捨てるといっても、ただ諦めるのではなく、観客に気づかせないように細かな配慮がされていることが窺える。そうした荒牧監督の英断の好例が、パワードスーツのバイザー(目を覆う部分)の表現だろう。
「アニメや実写を問わず、ミリタリー作品を演出する上で各キャラクターを観客が判別できるようにするねらいから、バイザー部分は目の周りが透過されたデザインを採用することが多いのですよね。しかし『STi』では、敢えて不透明なバイザーに仕上げることでライティング、レンダリング、コンポジット等の作業負荷を軽減させました。キャラクターの描き分けについてはカラーリングやマーカーのデザインで判別できるようにしつつ、表情をしっかり見せたいカットでは、ヘルメットが開閉されるギミックを加えました」。
こうした判断ができるのは、ひとえに荒牧監督が 3DCG の特性を適確に理解しているからである。

場面写真03

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パワードスーツのバイザー部分は敢えて不透明に仕上げられた。3DCG はあらゆる事象を表現(シミュレーション)できることが強みである一方で、「何を描きたいのか」 を明確にしないと膨大なコストが発生したり、八方美人な表現に陥りかねない。『STi』では、荒牧監督が自負する通り作り手の意図が明確であり、観客も自然にそれを楽しむことができる

パワードスーツのデザイン画a パワードスーツのデザイン画b パワードスーツのデザイン画c

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パワードスーツのデザイン・バリエーション例。所属部隊によって色分けや胸部のマーカーを変えつつ、各キャラクターの設定に合わせた細かな描き分けが施されていることが判る。なお、『STi』のコンセプト・アートは、ゲーム業界を中心に活躍する臼井伸二氏によって原作の設定を踏まえつつ、より現代的なデザインへと昇華された

女性用パワードスーツのデザイン画a 女性用パワードスーツのデザイン画b

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リアル志向のミリタリーアクションゆえ、戦闘シーンではヘルメットを被った状態の芝居が続く。そこで女性用のパワードスーツは、女性らしいシルエットになるように男性用よりも細いシルエットに。ただし、そうした調整を施す上でも『SST』シリーズの持ち味を損なわないよう無骨な軍用デザインと女性らしさのバランスには細心の配慮がされた

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キャラクター表現の要〜フェイシャルアニメーション

逆に、『STi』プロジェクトにおいて、荒牧監督をはじめとする制作チームがこだわったのがキャラクター・アニメーション、その中でもフェイシャルである。
「実写版『SST』シリーズのエッセンスをフル CG アニメーションに継承させる上では、生身の俳優の芝居をできるだけ活かそうと考えました。中でもフェイシャル作成では、今回初めて Autodesk Softimage に統合されている Face Robot を採用しています。映画における導入事例はまだ少ないですが、手数少なく豊かな表情を描ける勝算があったので採り入れました。スケジュール等との兼ね合いもあり、見切り発車で実戦投入した面もありましが、当初の狙い通りに使い切ることができたと自信を持って言えますよ」。
Face Robot はフェイシャルのキャプチャ方法も一般的な手法とは異なるため、一連のモーションキャプチャを担当した MOZOO と協力してイチからパイプラインを構築していったそうだ。

フェイシャルキャプチャ例1 フェイシャルキャプチャ例2

image courtesy of SOLA DIGITAL ARTS INC.
フェイシャルキャプチャのイメージサンプル(※右の写真は、キャプチャ時のスナップでありキャプチャ作業時のものではない

モーションキャプチャ収録の際は、絵コンテと多少芝居が違っていても良かったら採用、といった具合に現場のライブ感を活かす形で即興的に演出したという。
「今回はアニメーションの約半分がキーフレーム(手付け)ではなく、パフォーマンスキャプチャで仕上げているんですよ。モーションキャプチャ収録は全て MOZOO さんで行なっています。『Halo Legends』でお世話になった際に、モーションデータの出し方などがとてもスムーズで素晴らしいなと思っていたので今回もお願いしたのですが、期待以上の活躍をして頂きました」。

モーションキャプチャ収録風景

image courtesy of SOLA DIGITAL ARTS INC.

フルCGが苦手とする表現にも真っ向から挑む

荒牧監督はパワードスーツをはじめとした一連のメカアクションに定評あることは周知の通り。『STi』でもその卓越した手腕が大いに発揮されている。しかし、"一本の映画" として成り立たせるためには、3DCG が得意とする表現だけでまとめるのにも限界がある。
「今回はセル調ではなく、フォトリアルということで、キャラクター表現には色々と苦心しました。例えば、女性キャラのヌードシーン。実写版『SST』シリーズのファンが期待する要素であり、『STi』を制作する上で避けては通れませんでした(笑)。とは言え、お色気描写は 2D アニメでもお約束の要素なわけで、特に難しくは考えませんでしたよ。中盤にラブシーンも登場しますが、パフォーマンスキャプチャを採り入れたことで、それこそ効果的に生身の俳優の演技を CG キャラクターに反映させることができましたね」。

公式サイトでも触れられていることだが、ラブシーン(キス・シーン)を演じたアクターたちは実際にフィアンセだったそうで、監督が演出指示を出すまでもなく濃密な芝居(?)を演じてくれたという。
「実は、絵コンテの段階ではキスまで予定していませんでした(笑)。収録を始めたところ、2人が勝手にキスをし始めたので使ってみるかみたいな。プロ根性と実生活が融合した結果だと思いますが、彼らのモーションデータをキャラクターに当てはめてカメラを置いてみたらなかなか良かったのです。じゃあ、脚の方にカメラを寄せてみよう、アングルをこうしようかみたいな感じで作り込んでいったのですが、劇中でも印象的な艶かしいシーンに仕上げることができました」。

『STi』場面写真 『STi』場面写真

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劇中でラブシーンを演じるバグスプレイ(Bugspray)とトリッグ(Trig)。上の画像は、ラブシーン直後に艦内で2人がすれ違う際にアイコンタクトするというカットだが、2人が以前よりも深い関係になったことが一連のアニメーションだけで見事に描かれている

「女性のヌードに限らず、有機的な表現を 3DCG で行うのはまだ難しいことが多いですね。例えば、本作のヒロインであるカルメン・イパネスがシャワーを浴びるシーン(下)が登場しますが、シャワーの流水をまともに描こうとすると技術的な難易度が非常に高くなることが予想されました。そこでシャワーではなく、未来なのだからミストサウナのようなものが進化しているはずだという設定に変えてしまいました(笑)」。
もちろん、荒牧監督の演出力だけでは 3DCG アニメーションは完成しない。ラブシーンやヌード描写を制作する上では、担当アーティストたちが肌の接触やキャラクターの距離感(位置関係)といった具体的な要素について、細部までこだわりぬいたという。

『STi』場面写真

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上で触れた、物語のメイン舞台となる戦艦「ジョン・A・ウォーデン」の艦長カルメン・イパネスのシャワーシーン。その出来映えは、ぜひ劇場で確かめてもらいたい

お色気描写以上に『SST』シリーズファンが期待しているのがゴア(流血)表現かもしれない。
「プロジェクトスタートの段階から、アメリカで R指定(17歳以下の鑑賞は保護者の同伴が必要) になってもかまわないという条件だったので、ヌードと同じく "絶対に外せない表現" でした。製作サイドが『どんどんやってくれ』的なスタンスで終始いてくれたので、ゴア表現を抑えるといった配慮はまったくしませんでしたね。そこでバグについては派手に破壊しようと。逆に兵士たちについては正直言って工数や手間の観点から描き方を決めていったという面の方が大きかったかもしれません。シャワーと同様に、血飛沫を 3D で描くのはなかなか大変ですから。そうした 3DCG の特性を加味しつつ演出を考えた結果、むしろ生身ではなくパワードスーツごしに人体破壊を描いた方が却って痛さが伝わるのではないかという結論に達しました。僕自身はスプラッタ描写を得意としているわけではないので、『STi』がシリーズ化した際には改めて追求したいと思っています。そんなわけでよろしくお願いします(笑)!」。

『STi』場面写真 『STi』場面写真

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ゴア描写の一例。苦手な読者もいるかと思うが、様々な流血表現が登場するのでそうした面でもエポックメイキングな作品である。「面白いことに日本の映倫では一般映画に格付けされました。『実写ではなくアニメですよ』と、断っておいたのが功を奏したのでしょうか(笑)」

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『STi』の先に見据えるもの

日本の実現可能なバジェットと制作環境で、ハリウッドと互角に渡り合える 3DCG コンテンツを制作していく。そんな高い志を掲げる SOLA DIGITAL ARTS の下に日本を代表するデジタル・アーティストたちが集い、完成したのが『STi』というわけだ。

「SOLA DIGITAL ARTS の中核スタッフは20名ほど。制作終盤のクランチタイムにはコンポジット班を中心に35名ぐらいまで増えましたが、この規模でやりきれたのはひとえに優秀なアーティストたちに参加してもらえたことが大きいです。通常のプロジェクトであればCGディレクターを務めるであろう百戦錬磨の方たちばかりですから」。
加えて、先述した MOZOO だけでなく、SOLA DIGITAL ARTS の CTO である河田成人氏が代表取締役を務める wonderium、伊勢田誠治氏率いる POLYG、本作のキャラクターパート全編を担当した コロッサス など、実力ある外部パートナーの存在も大きかった。さらに日本勢だけでなく、NEXT VISUAL STUDIOMACROGRAPH という韓国大手、カナダの Pix Ray VFX といった海外プロダクションも制作に参加。こうした世界規模で適材適所の分業体制を構築できることも SOLA DIGITAL ARTS の強みである。

『STi』場面写真

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「中核スタッフは『APPLESEED』から付き合いのある人たちが多かったので、彼らの得意なことや適性はかなり正確に把握できていました。ですので、僕の方からはラフなデザイン画を下に目指すビジュアルの骨子だけを伝えるに止めて、実制作は各アーティストさんのクリエイティビティに委ねることの方が多かったです。監督としては、手数少なく済みましたね」。
各パートのリード・アーティストたちが荒牧監督の意向を汲みつつ、ディテールを盛り込んでいくという流れで制作されたわけだ。

「物語は主に戦艦ジョン・A・ウォーデン内という閉ざされた空間内で進行していきます。そこで、ルックが単調にならないように、ストーリーも一本調子にならないように細かく配慮したのですが、実際の画づくりの上ではアート・ディレクターや各ショットを担当するアーティストたちの方でどんどんイメージを膨らませてくれました。その典型が、機関部のシーンです。ストーリーの鍵として、最初は暗く、段々と明るくなることで一気にドラマが展開するのですが、電源が回復した機関部シーンは『こんなに明るくしちゃって大丈夫?』と不安になったこともあるほど、戦艦とは思えない色使いですが、逆にそれがドラマの転調を効果的に描くことに繋がりました」。
そのシーンがこちら(下)。非常に豪華絢爛な見た目の中でリアルでハードな戦闘描写が繰り広げられるという虚と実のバランスが絶妙な、3DCG ならではの映像表現である。「多くのライトが Maya 上で仕込まれているので、その代償として非常に重たいシーンとなり、途中でレンダーファームが足りなくなりましたけどね(苦笑)」。

機関部シーン01 機関部シーン02 機関部シーン03 機関部シーン04

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それまで暗闇に閉ざされていたジョン・A・ウォーデン号艦内がある事をきっかけに電源が回復する。すると、それまで鳴りを潜めていたバグたちが一気に現れ、兵士たちに襲いかかるのだが、静から動へとテンポが転調するにあたり、この非現実的なまでに明るいシーンの色彩設計が視覚的にもドラマ性を高めることに成功した

これまでに培ってきたフル CG アニメーション制作ノウハウを武器に、戦略としても戦術としても非常に効率良く制作できたように感じるが、もちろん万事が順調だったというわけではない。新たな表現を追求していく過程では幾多の試行錯誤や予期せぬトラブルがあったという。
「プリプロ段階から相応に準備や配慮をしてきましたが、どうしても不測の事態は起こります。例えば、モブ表現は兵士よりもバグの方が外見が同じだし、モーションを二次利用もしやすいと考え、実際にカットを作ってみます。すると、バグの動きはモーションキャプチャできないので全てキーフレームになるから、やっぱり大変なんだと(苦笑)」。

『STi』場面写真 『STi』場面写真

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また、劇中後半に地球のある都市の上空をジョン・A・ウォーデン号が飛行していくシーンが登場するのだが、「わずか数カット(数秒)の短いシーンですが、レイアウトを決めると地上の建物を予想以上にハイディテールに作り込む必要があることが判ったのです。大気のあるオープンなシーンですから、レンダリングやコンポジットの負荷も当然高まりました(苦笑)。『STi』では自前のスタジオを構えたことにより、終始一貫して制作スタッフと密にコミュニケーションを重ねながら制作することができましたが、逆にそうした苦労も目の当たりにすることになるわけです。監督としてもスタジオ経営者の1人としても新たな悩みも多かったですね」。

上述の通り『STi』プロジェクトは、SOLA DIGITAL ARTS をわずか5人でゼロから起ち上げることからスタートした。「TD(テクニカル・ディレクター)もいない状態から始めたわけなので、今回に限れば、いわゆるパイプラインみたいなものは "溝" すらありません(苦笑)。パイプラインの構築はこれからの具体的な課題のひとつですね。ただ、そうした意味でも『STi』制作を通して改めて実感したのは、スタッフ間のコミュニケーションがいかに大切であるかということでした。どうして完成させることができたのか自分たちでもわからないぐらい、あり得ないスピードでコンポジットワークを終わらせたりできたのは、まさに密なコミュニケーションの賜物だなと。映画を作りたいのなら、パイプラインではなく、具体的な企画が何よりも大事。完成できたからこそ偉そうに言えるわけですけどね(笑)」。

『STi』場面写真

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現在(2012年7月下旬)、全国で上映中の『STi』は、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給による歴としたハリウッド映画であり、海外での展開も決まっている。日本はもちろんのこと、海外での評判も大いに気になるところだ。さらに荒牧監督ならびに SOLA DIGITAL ARTS としては、『(仮題)SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』プロジェクト(制作:東映アニメーション/マーザ・アニメーションプラネット) に参加中である。「お陰様で、その先のプロジェクトも進行中です。長編で、よりハイクオリティなものをどんどんやっていきたい。そうした方針に賛同してくれた一流アーティストたちに集まってもらったので、自分たちで企画をコントロールしながら、新しいことをやってみたいですね。語弊を承知で言いますが、日本の CG・映像制作者が生き残る道はここにしかないと覚悟しています」。
言うのも野暮だが、この路線を突き進むということは、欧米の大スタジオとも戦っていくということでもある。「技術力などポイントポイントでは勝てない面も確かにあるでしょう。ですが、作品全体のクオリティでは十分互角に渡り合える自信がありますよ」。

『STi』マスコミ試写を観て、ぜひ荒牧監督の話が聞きたいと思い、今回のインタビューが実現したのは先述の通り。では、なぜそう思ったかと言えば、この作品が全編にわたり、"しっかりと演出されている" と感じたからだ。
荒牧伸志というフィルム・メーカーの「このドラマを描きたい」という明確な意志が、全てのカットから伝わってくるように感じたと伝えると、「そう思っていただけたのならすごく嬉しいです。実のところ、『STi』では Face Robot を導入したりもしていますが、とりわけ技術的に新しいことをやろうとしたわけではありません。先ほどもお話した通り、パイプラインと言えるものもありませんでした。近年、フル CG アニメーション制作は、新しい技術の追求よりも演出面との兼ね合いで技術をみせていくというフェーズに入ったと考えています。そうした観点から工数やコストの削減だけではなく、『こうした方が演出的に面白くないですか?』 を、今の日本の制作現場で実現可能なことをやりきった作品だと自負しています」。

だからこそ、純粋に面白いエンターテインメント作品に仕上がっているのだなと納得した。押し売りするつもりはないが、日本発 3DCG アニメーションの新たな可能性 をぜひ劇場で体感していただきたい。

TEXT_沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』ポスターグラフィック

スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン

新宿ピカデリーほかにて全国で上映中
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:荒牧伸志
脚本:フリント・ディル
プロデューサー:ジョセフ・チョウ
ストーリー:荒牧伸志/ジョセフ・チョウ/河田成人
製作総指揮:エドワード・ニューマイヤー、キャスパー・ヴァン・ディーン
CGI プロデューサー:河田成人
提供:STAGE 6 FILMS
制作:SOLA DIGITAL ARTS

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