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満を持して世界に挑む! 映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』荒牧伸志監督インタビュー

満を持して世界に挑む! 映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』荒牧伸志監督インタビュー

キャラクター表現の要〜フェイシャルアニメーション

逆に、『STi』プロジェクトにおいて、荒牧監督をはじめとする制作チームがこだわったのがキャラクター・アニメーション、その中でもフェイシャルである。
「実写版『SST』シリーズのエッセンスをフル CG アニメーションに継承させる上では、生身の俳優の芝居をできるだけ活かそうと考えました。中でもフェイシャル作成では、今回初めて Autodesk Softimage に統合されている Face Robot を採用しています。映画における導入事例はまだ少ないですが、手数少なく豊かな表情を描ける勝算があったので採り入れました。スケジュール等との兼ね合いもあり、見切り発車で実戦投入した面もありましが、当初の狙い通りに使い切ることができたと自信を持って言えますよ」。
Face Robot はフェイシャルのキャプチャ方法も一般的な手法とは異なるため、一連のモーションキャプチャを担当した MOZOO と協力してイチからパイプラインを構築していったそうだ。

フェイシャルキャプチャ例1 フェイシャルキャプチャ例2

image courtesy of SOLA DIGITAL ARTS INC.
フェイシャルキャプチャのイメージサンプル(※右の写真は、キャプチャ時のスナップでありキャプチャ作業時のものではない

モーションキャプチャ収録の際は、絵コンテと多少芝居が違っていても良かったら採用、といった具合に現場のライブ感を活かす形で即興的に演出したという。
「今回はアニメーションの約半分がキーフレーム(手付け)ではなく、パフォーマンスキャプチャで仕上げているんですよ。モーションキャプチャ収録は全て MOZOO さんで行なっています。『Halo Legends』でお世話になった際に、モーションデータの出し方などがとてもスムーズで素晴らしいなと思っていたので今回もお願いしたのですが、期待以上の活躍をして頂きました」。

モーションキャプチャ収録風景

image courtesy of SOLA DIGITAL ARTS INC.

フルCGが苦手とする表現にも真っ向から挑む

荒牧監督はパワードスーツをはじめとした一連のメカアクションに定評あることは周知の通り。『STi』でもその卓越した手腕が大いに発揮されている。しかし、"一本の映画" として成り立たせるためには、3DCG が得意とする表現だけでまとめるのにも限界がある。
「今回はセル調ではなく、フォトリアルということで、キャラクター表現には色々と苦心しました。例えば、女性キャラのヌードシーン。実写版『SST』シリーズのファンが期待する要素であり、『STi』を制作する上で避けては通れませんでした(笑)。とは言え、お色気描写は 2D アニメでもお約束の要素なわけで、特に難しくは考えませんでしたよ。中盤にラブシーンも登場しますが、パフォーマンスキャプチャを採り入れたことで、それこそ効果的に生身の俳優の演技を CG キャラクターに反映させることができましたね」。

公式サイトでも触れられていることだが、ラブシーン(キス・シーン)を演じたアクターたちは実際にフィアンセだったそうで、監督が演出指示を出すまでもなく濃密な芝居(?)を演じてくれたという。
「実は、絵コンテの段階ではキスまで予定していませんでした(笑)。収録を始めたところ、2人が勝手にキスをし始めたので使ってみるかみたいな。プロ根性と実生活が融合した結果だと思いますが、彼らのモーションデータをキャラクターに当てはめてカメラを置いてみたらなかなか良かったのです。じゃあ、脚の方にカメラを寄せてみよう、アングルをこうしようかみたいな感じで作り込んでいったのですが、劇中でも印象的な艶かしいシーンに仕上げることができました」。

『STi』場面写真 『STi』場面写真

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
劇中でラブシーンを演じるバグスプレイ(Bugspray)とトリッグ(Trig)。上の画像は、ラブシーン直後に艦内で2人がすれ違う際にアイコンタクトするというカットだが、2人が以前よりも深い関係になったことが一連のアニメーションだけで見事に描かれている

「女性のヌードに限らず、有機的な表現を 3DCG で行うのはまだ難しいことが多いですね。例えば、本作のヒロインであるカルメン・イパネスがシャワーを浴びるシーン(下)が登場しますが、シャワーの流水をまともに描こうとすると技術的な難易度が非常に高くなることが予想されました。そこでシャワーではなく、未来なのだからミストサウナのようなものが進化しているはずだという設定に変えてしまいました(笑)」。
もちろん、荒牧監督の演出力だけでは 3DCG アニメーションは完成しない。ラブシーンやヌード描写を制作する上では、担当アーティストたちが肌の接触やキャラクターの距離感(位置関係)といった具体的な要素について、細部までこだわりぬいたという。

『STi』場面写真

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
上で触れた、物語のメイン舞台となる戦艦「ジョン・A・ウォーデン」の艦長カルメン・イパネスのシャワーシーン。その出来映えは、ぜひ劇場で確かめてもらいたい

お色気描写以上に『SST』シリーズファンが期待しているのがゴア(流血)表現かもしれない。
「プロジェクトスタートの段階から、アメリカで R指定(17歳以下の鑑賞は保護者の同伴が必要) になってもかまわないという条件だったので、ヌードと同じく "絶対に外せない表現" でした。製作サイドが『どんどんやってくれ』的なスタンスで終始いてくれたので、ゴア表現を抑えるといった配慮はまったくしませんでしたね。そこでバグについては派手に破壊しようと。逆に兵士たちについては正直言って工数や手間の観点から描き方を決めていったという面の方が大きかったかもしれません。シャワーと同様に、血飛沫を 3D で描くのはなかなか大変ですから。そうした 3DCG の特性を加味しつつ演出を考えた結果、むしろ生身ではなくパワードスーツごしに人体破壊を描いた方が却って痛さが伝わるのではないかという結論に達しました。僕自身はスプラッタ描写を得意としているわけではないので、『STi』がシリーズ化した際には改めて追求したいと思っています。そんなわけでよろしくお願いします(笑)!」。

『STi』場面写真 『STi』場面写真

© 2012 Sony Pictures Worldwide Acquisition inc. All Rights Reserved.
ゴア描写の一例。苦手な読者もいるかと思うが、様々な流血表現が登場するのでそうした面でもエポックメイキングな作品である。「面白いことに日本の映倫では一般映画に格付けされました。『実写ではなくアニメですよ』と、断っておいたのが功を奏したのでしょうか(笑)」

Profileプロフィール

Shinji Aramaki

Shinji Aramaki

1960年10月2日、福岡生まれ。
メカデザイナーとしてアニメーション界で頭角を現わし、『機甲創世記モスピーダ』(83) や 『ガサラキ』(98)、『アストロボーイ・鉄腕アトム』(03)、『REIDEEN』(07)などの作品で才気を発揮。
OVA 『メタルスキンパニック MADOX-01』(88) では原案を手がけるとともに監督デビューを果たす。04年には『攻殻機動隊』の士郎正宗原作による『APPLESEED』を発表。
フル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャという手法を用いた、この画期的な作品は日本のファンはもとより海外でも称賛の声を集め、07年にはその続編『EX MACHINA』を監督。
次回作として『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK(仮題)』(2013年公開予定)が控えているなど、日本を代表するフルCGアニメーション表現に精通した演出家として知られている。
『STi』を制作した SOLA DIGITAL ARTS では、CCO(Chief Creative Officer)も務める。

スペシャルインタビュー