<2>絶大な支持を得る『Unity』にビジネスモデル変更の影響はあるか!?
『UE4』が、比較的派手めな多方面への活用の話題を多く提供した一方で、もうひとつの雄である『Unity』のセッションでは、『Unity 5』世代最後のリリースバージョンとなる『Unity 5.6』へのバージョンアップが3月31日に行われることが発表された。
この『Unity 5.6』の機能のうち、アーティストにとって最も恩恵が得られる機能は、プログレッシブ・ライトマッパーの改良だろう。シーン内のライトをスタティックなオブジェクトに対してライトマップとしてベイクする処理は、シーン内の光源数や反射面の状況にもよると思うが、かなり時間がかかってしまう。ゲームアプリケーション実行時のパフォーマンスを稼ぐためとはいえ、実作業上、作業の手が止まってしまうライトベイクに嫌気するアーティストも多いことだろう。
この日常の問題を解決してくれるのが、プログレッシブ・ライトマッパーだ。本機能の導入によって、エディタ上のシーンで、ひとつのエリアライトの光源色を変更した結果、新たなライトベイクが生じる際、わずか2、3秒でベイクが完了するようになる。これは、変更時にエディタ上でカメラの画角内に捉えている部分のみ優先してライトベイクを行い、画角外のライトベイクを行わないことによって実現している。シーン中の他の領域が光源変更の影響を受ける場合、その領域がカメラの画角内に入った時に始めて、新たに視界に入った部分のみライトベイクを行うといういったように「段階的に」ライトベイクを実行していく。日常的な作業上のストレスが軽減されるため、クオリティアップを求めて積極的にライティングの調整を行おうというマインドにつながるだろう。
同じくライティングに関する事項で、ランタイムの製品品質に影響するのは、ミックスドライトの追加だろう。ミックスモードのアトリビュートが設定されたライトは、シーン内の静的オブジェクトにはライトベイクされ、動的オブジェクトにはランタイムで光源計算されるため、パフォーマンスとクオリティのバランスのとれた実用性の高いライトといえる。ライト自体がアニメーションを持つ場合はダイナミックライトを使わざるを得ないだろうが、シーン内の点光源がほとんどのケースでキャラクターなどの動作物に影響を与えないが、特にプレイヤーキャラクターなど、重要な動作物がライトの影響下を通過する場合に影響を受けないと不自然さが目立つ場合に有効に機能する。
▲エディタ画面から、プログレッシブ・ライトマッパーによるライトベイク様子を改めて確認することができた。以前からベータ公開されていた機能だが、いよいよ正式に導入されることになる
『Unity 5.6』の次のバージョンとなる『Unity 2017』については、開発ビジョンが語られるにとどまっていたが、エンジンの安定化を重視した開発が行われるほか、アート制作の新たな機能の目玉として、タイムラインベースでカットシーンとゲームプレイをシームレスに切り替える仕組みが導入される。これは、ユーザーキャラクターの動作やユーザーの入力に依存して動作しているゲームカメラから、あらかじめアーティスティックにキーフレームアニメーションをつけておいたカットシーンにシームレスにつないで、演出が終了すると、またゲームカメラに戻してあげるという一連の流れが制作できるエディタとエンジンへの機能追加からなり、ゲームをシネマチックに演出する重厚なカットシーンだけでなく、ゲームプレイ中のごく短いトランジション演出や、ちょっとしたインタラクティブ要素を持つ映像コンテンツの制作にも役に立つ。
▲『Unity 2017』のカットシーンエディタでは、カメラアニメーションをブレンドして、インゲームからシームレスに演出に流すことができる
上記に加えて、基調講演では『Unity』を活用したインタラクティブなVRアニメ映像『ASTEROID』が、『Unity』のゲーム以外への最新活用事例として紹介されていた。『ASTEROID』のルックは、PixerやDisneyの近年のアニメ作品のシェーディングを原点に、やや質感をマットにしたようなビジュアルで、一世代前の『Unity 4』では考えられなかったようなテイストの作品だ。こういったレンダリングテイストの作品を見ていると、『Unity』が5.x世代になって、いかにモダンなビジュアルを獲得したのか、改めて実感させられる。Unity Technologies自身の手による技術デモ『Adam』が、『Unity』のリアルタイムレンダリング性能をフルに活かしたフォトリアルCGの王道として、ひとつの完成形を示したものだとするならば、『ASTEROID』のルックはモダンな3Dアニメの王道を目指したものだといえるだろう。しかも本作はVR HMD向けに制作されている。現状のPCのスペックでは、高解像度、高リフレッシュレートが要求されるVR HMDに対する描画は、まだまだ厳しく、VR世界の情報量は自ずと限られることから、必然的に世界が記号化されるアニメコンテンツは有利だといえるだろう。
▲SIGGRAPH 2016の記事でも紹介したUnity Technologiesによるリアルタイム映像作品『Adam』とBaobab StudiosのVR映像コンテンツ『ASTEROID』。ビジュアルの方向性は異なっても、『Unity』のレンダリング品質がゲームのみならず映像コンテンツでも通用することが分かる
エンジンそのものの開発動向とは関係がないが、『Unity』の話題の最後に、Unity Technologiesのビジネス動向の変化にも触れておきたい。その象徴的な出来事として、今回の基調講演では、中国の新興スマートフォンメーカーXiaomi(小米科技)とガッツリ組んで、いわゆる西側のゲーム会社の中国進出を支援することが大きくクローズアップされていた。
いち早くアジア各国に拠点を設け、十分に中国マーケットの情報を収集していると思われるUnity Technologiesが、中国でのゲームアプリ販売パートナーにXiaomiを選択したのは興味深い。勢いがあるとはいえ、大手通信キャリアやもっとデバイス販売シェアの大きいスマホベンダーではなく、なぜ新興のXiaomiなのか。このパートナーシップは、中国市場に向けたゲームの開発が促進されることで、サブスクリプションモデルに移行する『Unity』のユーザー増を狙うUnity Technologiesと、より多くの良質なゲームコンテンツが欲しいXiaomiとの思惑が一致したからだと考えられる。
ただし、Xiaomiのゲームアプリ専門ストア「Xiao Mi Game Center」の立ち上げはこれからだ。この新しい試みが成功するかどうかは、まだ分からないが、アプリの中国語ローカライズや「Xiao Mi Game Center」との繋ぎこみといった技術的な支援にとどまらず、Unity Technologiesが中国進出に際して販売面でも大きな役割を果たすことにより、一定の成功を収めた暁には、Xiaomiあるいはアプリ開発者側からBtoBで収益を得ることを企図しているように思われてならない。
この背景には、Unity Technologiesの成長鈍化があるのではないだろうか。『Unity』の新規ユーザーが右肩上がりで順調に推移しているうちは良かったのだろろうが、ユーザー数の伸びは鈍化して、新規ライセンス販売収入は頭打ちになっていると考えられる。だからこその永久ライセンス買い切りモデルから、サブスクリプションモデルへの移行というわけだ。AdobeやAutodesk、Microsoftのようにサブスクリプションモデルへの移行は、たとえ新規ユーザー数の伸びが止まったとしても、毎年持続する収益という商業的な「成功」をもたらすだろうが、その一方で、『Unity』が既存のユーザーに対して常に新たな「魅力」を提供し続けなければならないという使命を負う。今まではエンジンそのものの機能強化に努めていれば、ユーザーの支持を受けることができたが、これからは開発のコミュニケーション環境としてのCollaborate、また販売環境として中国を筆頭にした「閉じたマーケット」への参入支援といった『Unity』を取り巻く周辺環境をも事業領域にいれ、新たな魅力づくりに努める必要があるだろう。その延長線上に、新たな収益源が見えてくるはずだ。
▲EXPO会場では、各種ゲームエンジンに対応するエフェクトに特化したミドルウェアも目を引いた。
ポストエフェクトでは、『PopcornFX』が昨年のものからさらにバージョンを上げたものを今年も出展していた。エフェクト制作は、エンジンの開発環境にビルドインのものを用いたり、評判の良いものをストアから入手することが多いと思われるが、この『PopcornFX』はパフォーマンスプロファイラの機能が秀逸で、負荷の高いエフェクトを可視化できる。現状は、スクリプト言語を用いてエフェクトの流れを記述する方式を採用しているが、アーティスト向けにタイムラインベースでエフェクトをオーサリングできるようにしたいとのことだった。
??次ページ:<3> ブレイク間近!?ポテンシャルを秘めた後発ゲームエンジン