>   >  GDC2017にみるゲームエンジン最新動向応用範囲がさらに広がるゲームエンジンと連携を深めるツール群【GDC2017レポート vol.3】
GDC2017にみるゲームエンジン最新動向<br>応用範囲がさらに広がるゲームエンジンと連携を深めるツール群【GDC2017レポート vol.3】

GDC2017にみるゲームエンジン最新動向
応用範囲がさらに広がるゲームエンジンと連携を深めるツール群【GDC2017レポート vol.3】

<3> ブレイク間近!?ポテンシャルを秘めた後発ゲームエンジン

さて、新興のゲームエンジンの明るい話題の前に、ちょっと残念な話題について、先に触れておこう。前述のように『UE4』『Unity』が例年通りの存在感を示すなか、Crytekの『CryEngine』は完全に姿を消してしまっていた。昨年の第4四半期あたりから、世界各地のスタジオを閉鎖し、拠点規模を縮小するなど、業績不振が伝えられてきたCrytekだが、GDC 2017出展においても、不振を裏打ちする結果になってしまっていた。

昨年はビジネスモデルの転換というビッグニュースを引っさげ、VRや3Dサウンドのセッションを積極的に開催し、EXPOにも大きなブースを構えていたのに対して、今年のGDCでは、Crytekの例年通りの姿を見ることはできなかった。通常、本稿のようなレポート記事では、「やっていたこと」をお伝えするわけで、「やっていなかった」事実をお伝えすることは少ないと思うが、少なからず衝撃的な出来事であったため、あえてこの事実をお伝えしておきたい。

GDC不参加の決断をしたほどの業績不振とはいえ、創業者がトルコ出身という縁もあってか、自国のゲーム産業育成に力を入れるトルコ政府がイスタンブールスタジオの閉鎖を思い止まらせると共に、Crytekに投資を行って支援するという話もあり、そこまで悲観的な状況ではないと考えられる。今秋Gamescomと同時期にドイツのケルンで開催されるdevcomでは、Crytekのお膝元ドイツということもあるのだから、是非とも復調した元気な姿を見せて欲しいものだ。

▲GDC 2016では、2大ゲームエンジンと同規模のブースを構え、VR技術デモを行っていたCrytek

Crytekが完全に姿を消す一方、『CryEngine』派生のゲームエンジンであるAMAZON『Lumberyard』の方は、ブース内に『Lumberyard』の各種開発環境を解説するPCセットを昨年より多く設置して、『Lumberyard』環境での開発イメージを盛んにアピールしていた。2大ゲームエンジンほどの来場者ではないものの、昨年の様子見ムードとは打って変わって、ブース担当者に対して即座に質問できない状況で、解説に熱心に聞き入る開発者の姿が多く見られた。

昨年は、『CryEngine』から完全にブランチした独自路線ということで、いくら有能な開発者をヘッドハンティングしたといっても、Crytekの支援なしに開発技術力的に大丈夫なのだろうかと思ったものだが、先述の通り、Crytekの業績不振という状況を考えると、結果としてAMAZONの選択は奏功したということになるだろう。

セッション受講スケジュールの都合とブースの混雑の関係で、あまり多くの情報を収集することはできなかったが、AMAZONのブース展示をみる限り、2017年は『Lumberyard』にとって、導入を検討するに価するゲームエンジンとして定着するかどうか試される年になりそうだ。昨年末ごろから、Cloud Imperium GamesのMMOゲーム『Star Citizen』への採用に加え、『GTA』シリーズのLeslie Benzies氏率いるスタジオが『Everywhere』というアクションアドベンチャーを開発中との報もあり、いよいよAAAタイトルへの採用が始まっている。AMAZON AWSという他のゲームエンジンにはない強みがあることから、2017年はさらなる普及を期待したい。



▲ブースを拡大したAMAZONは、昨年より多くの来場者を集めていた

EXPOブースでは、和製のゲームエンジンの出展も見られた。Silicon Studioのオープンソースゲームエンジン『Xenko』がそれだ。昨年は主力製品の『YEBISU』『MIZUCHI』と比較して、やや扱いが控え目な展示であったが、今年は同格の扱いで、同社の『Xenko』への力の入れようがうかがえる。

『Xenko』は、かつて『Paradox 3D』という名称でリリースされていたゲームエンジンの進化形だ。GIをサポートするモダンなPBRを備えるほか、『Unity』同様C#を使って開発できるのが特徴だ。GDC 2017にあわせて、4月より正式リリースに移行することが発表されている。

『Xenko』のシェーダのカスタマイズ性は強力で、マテリアルのアトリビュートを与えて変化させるのみならず、処理フローにまで手を入れてオリジナリティの高いビジュアル出力を得ることができる。また、かつてC++で記述する仕様であったゲームロジックは、C#での記述が可能なように手が入っており、開発のハードルが下がっている。製品イメージとしては、ビジュアルは『UE4』より柔軟に拡張できるもの、ゲームロジックは『Unity』開発者が移行しやすいものを狙っているということだろう。

ただし、後発であり、アマチュアやインディを含めて、より多くの開発者の獲得を狙っている段階のゲームエンジンとしては、現状、なかなかに玄人好みするストイックなゲームエンジンに仕上がっているように感じられる。同社らしい高品質なビジュアルを実現できる点は魅力だが、より多くの開発者に触ってもらうためには、今後はこういった層に対してもアピールする機能やデータセットの提供が必要になっていくように感じられた。

▲数少ない日本企業でありながら、例年通りEXPO出展していたSilicon Studioは、オープンソースゲームエンジン『Xenko』をアピール

その他、Sony Interactive Entertainmentのブースでは、Playstation VR向けの新しい描画エンジンのデモが行われていた。カメラが近接しても、オブジェクトの曲面は滑らかで、サブディビジョンレベルまでメッシュサーフェイスが動的に分割、描画されていることが分かる。SIE提供の描画エンジンの機能であるため、あくまでPS VRを含むPS4プラットフォーム限定の話になってしまうが、ゲームにこの描画エンジンを使えば、DCCツール側でサブディビジョンサーフェイスの機能を用いてスムージングする設定を行ったモデルデータなら、そのままの形でゲームコンソール側で実行される描画エンジンに渡して、ライタイムでモデルをスムージングしながら美しくレンダリングできることになる。メッシュの増大はフレームレートの低下を引き起こすため、パフォーマンスとのトレードオフはあるが、常に一人称視点でゲーム内のオブジェクトがプレイヤーに近接しがちなVRゲームほど、メッシュが滑らかに描画されることによる恩恵は大きいだろう。



▲Sony Interactive EntertainmentのブースはPS VRを前面に押し出した展示内容。そんな中でも特に目を引いたのが、新しい描画エンジンだ。開発担当者は非常に良いクオリティに到達していると語っていた。サブディビジョンサーフェイスをサポートするといっても、描画パフォーマンスは画面にドローされるデータ量次第という部分はあるにはあるが、PS VRは最大120Hzのフレームレートをサポートしていることから、パフォーマンス的にも十分に満足のいくレベルに到達していると予想される。ちなみにシェーディング方式は、ディファードとのことだ。

その他、会場で目を引いたVR関連デバイスをまとめて紹介しておこう。ひとつはTACTICAL HAPTICSのForceフィードバック入力デバイスで、まだプロトタイプの段階の製品だ。既存のものとは異なり、バイブレーションではなく3軸の方向に回転駆動してプレイヤーの手のひらに感覚を伝える。もう一つの入力デバイスは『3dRudder』というフットコントローラで、ドライブやサーフゲームなどの入力にフィットする。すでに本製品はリリースされており、日本でも入手可能だ。現状はフォースフィードバック機能を持たないが、すでに次世代の製品の開発に着手しており、フォースフィードバックを盛り込む予定とのこと。最後は、OptiTrackで、本年は例年のモーキャプではなく、VRを活用してチームの銃撃をトレーニングする環境を提案していたのが目新しかった。






GDC2017は、初めてVRDCが併設され、VR元年の幕開け直前であった昨年のDGC 2016と比較して、VR関連のEXPO出展はややトーンダウンして、会場の雰囲気は、それ以前のGDCに近くなったように感じられた。開発用や業務用、大型アトラクション用といった、人目を引く有象無象の入出力デバイスの出展が随分減ったからだろう。かといって、それは「VR熱が冷めた」ということではない。現実に第1世代VR HMD製品がリリースされ、それらを前提に制作されているVRゲームや360度映像の妥当な造りが類型化されたため、以前にも増してコンテンツを支えるツールやゲームエンジン、ミドルウェアに対するプロダクションの要求も、より現実的でより実践的なものに集約されている。目新しいものこそなかったが、こうしたVRコンテンツからの要求を貪欲に取り込み、地に足を付けて正当に進化を続けている様子が確認できたのは、GDC 2017の大きな収穫であった。

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