<4>ゲームと日本のフルCGアニメ
ゼメキスの失敗で、ハリウッド映画からはフォトリアルなフルCGアニメが姿を消した。例外として、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』("The Adventures of Tintin"、2011)やドイツ映画の『ターザン』("Tarzan"、2013)などがあるが、これらはキャラクターデザインがフォトリアリズムとデフォルメの中間になっていた。
『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』(予告編)
一方ゲームの世界では、専用機やPC用グラフィックスボードの高性能化に合わせて映像がどんどんリアルになっていき、特に緊迫感が重要視される対象年齢の高いゲームでは、実写映画さながらの現実感が要求されるようになる。その結果、欧米でもフォトリアルなフルCGアニメが定着しており、違和感を訴えるユーザーは少ない。この辺りが伝統の長さや、インタラクティブ性の有無と関係していると思われる。
日本では、映画『ファイナルファンタジー』が興行的に不振だったにも係わらず、いくつかのゲームメーカーが作品発表の場を劇場用フルCGアニメに求め始める。例えばカプコンとデジタル・フロンティアが手がけた、『バイオハザード ディジェネレーション』(2008)や『バイオハザード ダムネーション』(2012)。同じくデジタル・フロンティアとバンダイナムコゲームスによる『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』(2011)などがそれで、キャラクターはフォトリアルに表現されていた。
『バイオハザード ダムネーション』予告編
7月9日からは、スクウェア・エニックスの『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV(キングスグレイブ ファイナルファンタジー15)』(2016)が公開され、カナダのイメージ・エンジン・デザイン(Image Engine Designや、ハンガリーのデジック・ピクチャーズ/Digic Picturesなどがアニメーション制作に参加している。さらに『BIOHAZARD: VENDETTA』(2017)が、カプコンとマーザ・アニメーションプラネットによって制作中である。
『KINGSGLAIVE FFXV』劇場特報第2弾
だがハリウッド映画では、ゲームが原作でも『バイオハザード』シリーズ(2002~)や、『トゥームレイダー』シリーズ(2001~2003)、『サイレントヒル』シリーズ(2006~2012)、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010)、『ニード・フォー・スピード』(2014)などのように実写化が前提となり、フルCGアニメとして企画されることはほとんどない。
一方で、日本映画でもゲームを原作とする『サイレン FORBIDDEN SIREN』(2006)や、『龍が如く 劇場版』(2007)、『劇場版 零~ゼロ~』(2014)などの実写化作品は存在するものの、設定やストーリーが現代の国内を舞台にしているものに限られる。これは、これは異世界が描かれるファンタジーや、未来を舞台とするSFと日本人の顔の相性が悪いことや、ロケやセットに多額のコストが掛かるという問題が大きく、このことがフォトリアルキャラのフルCGアニメ映画を作る動機にもなっていると考えられる。
またゲームメーカーとは別に、現在もっともこの分野に積極的なのが荒牧伸志監督である。彼はまず、トゥーンシェーディングとモーション・キャプチャを組み合わせた『APPLESEEDアップルシード』(2004)や『エクスマキナ』(2007)を手がけた。
その後、「トゥーンのルックが嫌いということはなくて、せっかく3Dでやるのなら、手描きとはちがった3Dなりのトゥーンをベースにした新しいルックを作り出してみたい」(
「3DCGの夜明け〜日本のフルCGアニメの未来を探る〜 第28回:荒牧伸志氏(監督/メカニックデザイナー)」より)ということで、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』(2012)や『キャプテンハーロック-SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』(2013)、『アップルシード アルファ』(2014)など、フォトリアルな人物表現を行なったCGアニメを追求し続けている。
『アップルシード アルファ』本予告
だが、まだ残念なことにフォトリアルのCGアニメからは、大ヒットと呼べる作品が登場していない。だが幼いころから、ゲームでリアルキャラのCGに親しんできた世代が成長すれば、抵抗なく受け容れていく可能性も考えられる。それはちょうど、若い人たちがボーカロイドで演奏された歌を、生声と区別することなく聴いているのと似ている。そしていずれはCG技術が十分に成熟することで、実写との違いがまったく不明確になるだろう。そうなれば、純粋に作品の面白さなどで判断されるようになるはずだと考えられる。