>   >  なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)
なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)

なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)

<7>ILMにおける挑戦

さて、やはりILM/Industrial Light & Magicにおけるヴァーチャル・ヒューマンの活動にも、触れないわけにはいかない。数ある同社の仕事の中でも重要と思われるのが、『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』("A Series of Unfortunate Events"、2004)に登場する、何にでも噛みつく幼い末っ子サニーの表現である。

" Lemony Snicket's A series of Unfortunate Events" - Trailer

通常アメリカ映画に登場する幼児は、双子を起用することが多く、本作でもカラ&シェルビー・ホフマンという双子が演じている。これは、幼児の連続労働時間への規制から生まれた対処法で、双子が交互に演じているのだ。ただしこの映画に登場するサニーは、噛みついたり机にぶら下がったりというアクションが要求されたため、ILMがヴァーチャル・ベビー【図12】を用意することになった。その出来は、本物とまったく見分けがつかない完璧なもので、幼い子供でも十分な時間さえ掛ければここまで可能であることを示している。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図12】『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(2004)

ILMはまた、『ターミネーター4』("Terminator Salvation"、2009)における、若きアーノルド・シュワルツェネッガー/Arnold Schwarzeneggerのヴァーチャル表現にも挑戦している。【図13】シュワルツェネッガーは当時カリフォルニア州知事を務めていたことから、スキャンやキャプチャなどは行えなかった。そこでILMスタッフは、シリーズ1作目の『ターミネーター』(1984)でスタン・ウィンストン/Stan Winstonが特殊メイク用に採ったライフマスクをスキャンし、さらに80年代の映画や写真を参考にして、CGヘッドを作り上げた。この頭部は、ボディビルダーのローランド・キッキンガー/Roland Kickingerの身体に合成され、無事1作目のT-800が再現された。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図13】『ターミネーター4』(2009)

なおシリーズ5作目の『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』(Terminator Genisys, 2015)にも、1作目当時のシュワルツェネッガーが再現されているが【図14】、こちらはMPCの仕事だった。当初はT4と同様に、ボディビルダーのブレット・アザー/Brett Azarが演じた映像をベースとして、頭部だけCGに置き換える予定だった。しかしシュワルツェネッガーとアザーの体格差が大きかったため、ほとんどの場面において全身がCGで表現されている。表情や口の動きは、シュワルツェネッガー本人からMova Countourを用いてキャプチャしたデータが使われている。モデリングやリギングは、T4と同様に1作目のライフマスクと80年代の映画や写真が参考にされているが、細かな筋肉や眼球の虹彩など、より解剖学的に正確なアプローチが行われた。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図14】『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015)

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<8>犯罪抑止へのヴァーチャルヒューマンの起用

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