>   >  なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)
なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)

なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)

<5>デジタル・ドメインの挑戦

第2回でも述べたように、デジタル・ドメイン/Digital Domainは、フォトリアルなヴァーチャル・ヒューマンにどこよりも積極的なプロダクションである。同社の技術が大きく進むきっかけとなったのは、「オーヴィル・レデンバッカー/Orville Redenbacher」というポップコーンのCM【図6】を手がけたときだった。同社の商品のパッケージには、創業者であるレデンバッカーの顔が印刷されていることで有名である。演出を依頼されたデヴィッド・フィンチャー/David Fincherは、1995年に亡くなったレデンバッカーをCGで復活させる企画を考え、デジタル・ドメインにおいて実行した。この映像は、SIGGRAPH 2007のComputer Animation Festivalで上映されている。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図6】「オーヴィル・レデンバッカー」のCM(2007)

この出来に自信を持ったフィンチャーは、以前から構想していた『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』("The Curious Case of Benjamin Button"、2008)【図7】の企画にGOを出した。
この作品は、80歳の老体で生まれ、歳を取るごとに若返っていくという男の人生を描くというもので、主演はブラッド・ピットが務める。太ることは特殊メイクでも可能だが、年齢を重ねて肉体がしぼんでいく状態は表現できない。そこでデジタル・ドメインのVFXスーパーバイザーであるエリック・バーバ/Eric Barbaや、『ファイナルファンタジー』にも参加していたキャラクター・スーパーバイザーのスティーブ・プリーグ/Steve Preegらは、年齢に応じた代役の身体に、CGで作ったブラッド・ピットの頭部を合成する方法を選んだ。そのCG頭部は、ブラッドのフェイシャル・キャプチャで表情が作られているが、デジタル・ドメインはSIGGRAPH 2006で発表されたばかりのMova Countourを採用した。これは従来のポイントマーカーを使用するシステムとは異なり、俳優の顔に蛍光染料を塗り、周囲約150度を囲む28台のカメラを用いて三角測量を行うことで、数千の点群データとして記録される。このシステムをデジタル・ドメインはエモーション・キャプチャと名付け、Mova社はリアリティ・キャプチャと呼んでいる。こうして完成した『ベンジャミン・バトン〜』は、初めて「不気味の谷現象」を克服した作品として高評価を受けた。しかし、題材が年老いた男性であったため、成功しやすかったとも考えられる。

"The Curious Case of Benjamin Button" - Trailer

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図7】『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)

続いてエリック・バーバのチームは、『トロン:レガシー』("TRON: Legacy"、2010)【図8】に取り組んだ。この映画は、1982年公開の『トロン』の直接の続編であり、前作の主人公ケヴィン・フリンを演じるジェフ・ブリッジスが実年齢で登場する。しかし、フリンの分身であるプログラムのクルーは、28年前と同じ姿という設定になっている。だが、当時のブリッジスのデジタルデータなど存在しない。そこで、特殊メイク工房のシノベーション・スタジオ/Cinovation Studiosのリック・ベイカー/Rick Bakerと辻 一弘が、『カリブの熱い夜』(1984)に出演していたブリッジスを参考にして彫刻を起し、さらに解剖学の知識を持つデジタル・ドメインのモデラーであるダン・プラット/Dan Plattが、最終的にCGのモデルとして完成させた。

"TRON: LEGACY" Official Trailer

ジョセフ・コシンスキー/Joseph Kosinski監督は、Mova Countourによるフェイシャル・キャプチャが、俳優の演技と別の日に座った状態で行われることを嫌った。そこでグレン・デリーのヘッドセット式システムを用い、身体役を務める俳優の撮影と同じステージで、ブリッジスも演じながらフェイシャル・キャプチャを行なった。完成した映像は、ブリッジス本人と並んでもまったく違和感のない仕上がりになっており、彫が深い成人男性なら、ほぼ「不気味の谷現象」は乗り越えられるまでに達していると言えよう。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図8】『トロン:レガシー』(2010)

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<6>亡くなった有名人を蘇らせる

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