>   >  『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で"1年間のフル3DCGのTVシリーズをつくりきる"ためにマーザ・アニメーションプラネットが取り組んだこと
『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で

『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で"1年間のフル3DCGのTVシリーズをつくりきる"ためにマーザ・アニメーションプラネットが取り組んだこと

<TOPIC 2>シンプルながらも工夫して作成された3Dモデル

ツールを多用して効率化し
クオリティアップにつなげる

作成されたキャラクターモデルは59体。人型はメインのヨウヘイ、お父さん、お母さんの3体とモブが12体。猫型はメインのチー、クロいのをはじめとする6体とモブが十数体、そこに鳥や犬などが加わる。BGは大きく屋外と屋内に分けられ、ステージは43個、プロップは161個で、クルマなども含めると230個ほど。今後キャラクター等も含めたモデル総数は300個くらいまで増える予定だという。多くの3Dモデルを扱う工夫について天野 洋BG&プロップスーパーバイザーは「プロップに関してはレンダリングモデルとアニメーションモデルを分けず、テクスチャの解像度を低くしたりカラー表示だけにしたりしています」と語る。

キャラクターモデルは人型も猫型もそれぞれ同じトポロジーを使い、テクスチャなどでバリエーションを増やしている。「レンダリングモデルにアニメーション用のテクスチャも入っており、ひとつのアセットで済むように設計しました」と語るのは鴻巣 智キャラクタースーパーバイザー。皆川恵美里キャラクターモデラーの「ポリゴンの割りも軽めにつくっています。原作の優しいテイストを再現するために髪の毛をクレイっぽくし、ディテールよりも色と形で表現しています」という言葉通り、シンプルな造形でありながら原作のかわいらしさがあふれている。テクスチャ制作はMARIを使用し、最終的に後の修正などで汎用性の高いPSDファイルにまとめられた。チーは一見シンプルだが、寄ってみると色の境目は毛が生えているようにギザギザさせているそうだ。

ステージはレンダリングモデルとレイアウトモデルが作成され、レンダリング時にこれらのモデルを差し替えられるツールをつくることで利便性が高められた。ステージのシーンは分かれているが、読み込むだけで自動的に配置されるようになっている。例えば山田家の庭は、リビングと庭の3Dモデルを読み込むと自動的にくっついて配置され、手間が省ける。さらに「解像度の大きなテクスチャはアニメーション作業時にMayaの動作が遅くなってしまうため、ツールで解像度256~512pixelくらいまで落としたシーンを作成しました。ほかにも、もともと使っていたV-RayのマテリアルをMayaの標準シェーダへ変えるツールも作成してもらっています」と天野氏。手間やコストを抑えながら工夫することで、高いクオリティを維持しているのだ。


左から、鴻巣 智キャラクタースーパーバイザー、皆川恵美里キャラクターモデラー、天野 洋BG&プロップスーパーバイザー

初期のマケット

モデリングの初期では、ZBrushを用いて時間をかけずにマケットを作成し、テストされた。ZBrushは修正しつつ提案できるため、短期間でのトライ&エラーが可能だったという



  • ヨウヘイの表情を探るために作成したマケット



  • メインキャラクターのマケット。原作のテイストを活かし、3Dモデルで起こす際のデフォルメ具合などを試行錯誤した

服飾デザインのバリエーションの一例

本作のこだわりのひとつとして、フランスでもセンス良く見られるような服装が意識された。キャラクターの服装のデザインは、外部のアパレル業界で活躍するコーディネーターの石原有子氏がスタイリングを考え、それを基に梅田氏を含めたアートチームが3Dモデルに落とし込んでいる。服のシワはリアルにしすぎず、あえてデフォルメして記号的に表現することで、作風に合ったお洒落でかわいいものとなった

鼻の造形



  • 鼻なし



  • 鼻あり

ヨウヘイの鼻なしモデルと鼻ありモデルの比較。原作の画では鼻が描かれているときと描かれていないときがあるが、3Dモデルで起こすと様々な角度から映されるため、鼻がないと違和感が生まれてしまい、最終的に鼻ありモデルが採用された

完成モデル


メインキャラクターであるお母さん、お父さん、ヨウヘイ、チー、コッチ、クロいのの最終的なプロダクションモデル。ZBrushで作成したマケットから原作の静止画にすり合わせていった。正面画は原作の画にしっかり合うように精度を高め、原作「らしさ」を実現している。原作の優しいテイストを出すために、髪の毛はクレイっぽさを出し、目や眉毛は左右対称ではなく微妙に歪ませているとのこと。原作ではアイキャッチはないが、アニメでは表情によってアイキャッチや目の線を入れることでアニメとしての感情表現を豊かにしている

首の付き方



  • 大人の猫と子どもの猫の首の付き方の比較画像。チーをはじめとする子どもの猫はダイナミックな動きを可能にするために体と頭部が分けられている。対して、クロいのをはじめとする大人の猫は、子どもの猫ほどダイナミックな表現がないため首は繋がっている



  • いろいろな角度に顔が向くときに、繋がっている部分が多少浮いても途切れて見えないように造形されている。また、このような差をつけることで、大人と子どもの差別化を図っているとのこと

同一トポロジーの3Dモデル

キャラクターは目の形などが異なるように見えても、同じトポロジーを使ってテクスチャの差などで多くのバリエーションをつくっている。そのためターゲットシェイプのウェイトを使いまわすことも可能だ

上の画像はアン【画像内、左】とコッチ【画像内、右】をそれぞれブレンドシェイプで50%ずつチー【画像内、真ん中】へ適用した例。このように、メインキャラクターからモブを作成することで効率化が図られている

アニメーターに共有しているチーの表情のポーズ集

原作漫画から感情ごとにチーの表情をマッピングした表情集を作成し、表情のポーズがつくられた【画像左】。この感情(喜怒哀楽など)の最大値の表情を破綻させずにつくることが重要だという。エレメントシェルフ【画像右】に登録されている表情を使用することで、表情のばらつき防止対策にもなっているそうだ。話数が進むにつれ、新規でポーズを登録してアップデートが重ねられている

チーの目の表現


チーの頭の3Dモデル。大人の猫の目は眼球をモデリングしているが、チーはフラットなプレーン(板)を使用し、その上を目が動くようにすることで原作のチーらしさのあるルックを実現した。白目部分はNURBS、アイリスは平らなポリゴンで表現し、メッシュを白目に沿わせている。なるべく広い角度から見ても耐えられるように、白目の曲面を調整して目が飛び出して見えないように工夫された

手描き感のある背景

お父さんの部屋のリファレンスアート【画像左】とステージとプロップのレンダリング画像【画像右】。3DCGは直線や配置がキッチリしすぎており、硬く冷たい雰囲気となってしまう。本作では温かみのある手描きっぽさを演出するために、意図的に直線を歪ませたり、配置をずらしたりしている。本棚やコルクボード、コピー機などの歪みがわかりやすいだろう

レイアウトモデルとレンダリングモデル

レイアウトモデル【画像左】では、レンダリングモデル【画像右】で雑草が生えている箇所など植物関係がラフに切り抜いた簡易モデルに変更され、シェーダもレイアウト用に軽いものにされた。レイアウト時には、カメラが雑草にめり込まない範囲の目安になる。テクスチャはそれぞれのモデル用に2種類が用意され、人工物はレンダリングモデルがそのまま使われた。さらに解像度の縮小とシェーダの変換、テクスチャパスの付け替えまでを手間なくできるツールも作成されている

レイアウトモデルからレンダリングモデルへの入れ替え

ツールによって、木のレイアウトモデルが置かれているシーン【画像左】から、中心にある木をレンダリングモデルへ差し替えると、このシーンに置かれている全ての木がレンダリングモデルへと差し替わる【画像右】。たくさんのステージがある中で、この入れ替え作業をひとつひとつ行うのは非常に手間となる。こうしたツールの工夫によって現場はストレスなく作業ができるそうだ。ハイペースなTVシリーズでも無理なくクオリティを維持することができる秘訣だろう

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<TOPIC 3>リアルさとアニメらしさを併せもつアニメーション

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