>   >  『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で"1年間のフル3DCGのTVシリーズをつくりきる"ためにマーザ・アニメーションプラネットが取り組んだこと
『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で

『こねこのチー ポンポンらー大冒険』で"1年間のフル3DCGのTVシリーズをつくりきる"ためにマーザ・アニメーションプラネットが取り組んだこと

<TOPIC 3>リアルさとアニメらしさを併せもつアニメーション

これまでの資産を活用し
観ている人に刺さる作品をつくる

アニメは「映像言語」だと草野監督は語る。脚本段階では面白いアイデアが入っていることを優先し、絵コンテでそのアイデアを動きとしてふくらませる。ビデオコンテはひと目で芝居がわかるクオリティにし、その素材を編集して尺を決め込むことで、アニメーターは何をすべきかすぐにわかり、タイムシートも不要となったそうだ。「アイデアを重視し、話数ごとにテイストが異なった、バラエティに飛んだ作品に仕上がっています」と福井氏は本作の魅力を語る。

作品の中心となるチーのアニメーションの方向性は、3DCGの良さであるリアルな動きとコメディチックなアニメ的な動きを両立すること。そのために「アニメーターたちと意見交換をくり返してリグを作成しました」と赤木達也リギングスーパーバイザーは話す。映画『キャプテンハーロック』(2013)で用いられたリギングシステム「eST」を採用することで、チーの動きを他の猫に入れたり、リグを四足動物と他の動物で共有したりして、コストカットしているという。ただし、難しい動きは全フレームスカルプトしているものもあるそうで「クロいのはだんだんアクションがゴージャスになり、良い意味で苦労しています」と田中 剛アニメーションスーパーバイザー。赤木氏は「ポンポンらーはリグ的にも大変でした」と話してくれた。

基本的な歩きや走りのサイクルモーションは、四足歩行の動物を参考にしたという。「3DCGはリアルな動きが得意です。猫の動きをリファレンスに、作中に多く出てきそうなモーションをライブラリに登録しています」と杉山由里子アニメーションスーパーバイザー。チーだけでも28のモーションが登録されており、それらを組み合わせれば誰でもチーらしい歩様が付けられ、効率・品質の両面で効果的だ。

効率化を図りつつ見ごたえある作品にするには演出の妙もあり「奇抜なカメラワークは使わず、流背や止メ、集中線など古めの作画アニメ的な手法を採り入れています」と沓名副監督。原作のフラットな感じの表現にも効果的だという。草野監督は「作画量を抑えて過度なCGディテールへのこだわりも捨てて、現場の負担はなるべく減らしながら、観ている人に刺さる面白いものをつくりたい。そのためにまずは現場の人間が楽しんでつくれることを心がけています。その楽しいエネルギーが子どもたちにも伝わると良いですね」と楽しそうに話してくれた。


左から、赤木達也リギングスーパーバイザー、杉山由里子アニメーションスーパーバイザー、田中 剛アニメーションスーパーバイザー

猫のリグ


本作のリグについて、チーを例に紹介する。画像はチーのアニメーション用リグとコントローラGUI。伸びをしたり、しゃがんだりできる。リガーとアニメーター間のやり取りをくり返し、チーらしさを再現できるリグを構築していった。「リグのオーダーでは原作に出てくる目や口の形状の表現についてくり返し要求を出しました。体も、座らせたときに後ろ足が猫らしくぽっこりするようにとか、二足で立ったときにも破綻しないようになどをお願いしています」と杉山氏。作中ではヨガなど通常の猫ではしない動きをすることも多いチーだが、ほとんどの場面はリグの操作で対応できるという。リグとしては難所だったというポンポンらーのかわいらしい動きにも注目だ

舌の形の工夫



  • リアルな形状の舌



  • 球形の舌

舌の形ひとつとっても原作を忠実に再現しようとこだわっている。原作では舌は丸く簡略化されて描かれることもあるため、リアルな舌では印象が変わってしまう。しかし球形であれば横から映されるカットでも見た目の印象を崩すことはない。ただし、舌でなめるといったときはリアルな舌を使っているという。表現面と効率面の双方に利点がある素晴らしいアイデアだ

特別なアイライン


目をつむったときのアニメ的な表現を紹介する。目を開いた状態では輪郭線が黒く塗られていないため、ただ目をつむらせただけでは画像のような黒い太線にはならない。そこで、目を閉じたときのみ、まぶたの上下からメッシュが生成され、隙間を埋めるように設定することで、漫画・アニメ的な目の表現を実現した。さらに目をきつくつむったときに目が「><」のように二股に分かれる表現は、閉じている目の上にアニメーターが黒いオブジェクトを乗せて調整しているという。この他にも眉間のシワなどもオブジェクトを乗せて表現しているそうだ

逆立つ毛の表現

【画像左】原作でも特徴的な驚いて背中の毛が逆立つような表現を3DCGでいかにして実現するかは、今回のプロジェクトでも肝となる部分だったという。制作期間が短く予算も限られてくるTVシリーズでは、動物に毛を生やすことは難しい。最終的には、まずジオメトリで表示した3DモデルのメッシュをPoke Faceで三角化し、バーテックスの中心として引き出す(画の右から左へ)。そこにテクスチャ デフォーマをかけることでノイズ的に動かして再現したという。こうして【画像右】のように原作に忠実で躍動感あふれるコミカルな画が完成した

アニメーションツール



ツール例。通常、Trax Editor【画像上】を使用してアニメーションをクリップ化して利用する場合、CharacterSetをつくらなければならない。しかしその工程を自動化し、所定のウインドウから利用したいクリップを選択するだけで、キャラクターに適用できるように改良された。【画像上】のように、立ち上がり→歩き始め→走りに移行→走りから歩きに移行→立ち止まり→座りから伏せ、と並べるだけで動きが自動でつなげられる。このままではまっすぐ動かすことしかできないが、モーションデフォーマ【画像下】を使うことで、移動の軌道を自在に調整することが可能となる。軌道はNURBSカーブを使って自由にデザインでき、足の接地は維持したままカーブに沿ってキャラクターを移動させられる。NURBSカーブのCV数の調整や、アニメーションのタイムワープの使用もできるため、意図した軌道の再現のほか、動き自体のスピード感なども好きなように設計することが可能だ。もちろん四足歩行の動物だけでなく二足歩行の人間にも使用できる

原作特有の「ダララ」表現を探る

原作に登場する特有の動き「ダララ」の制作過程



  • 沓名氏による作画



  • 沓名氏の作画に合わせて作成した3DCGの完成アニメーション


アニメーションさせるために用意されたプロップ

チーのキャラクターリグだけでは「ダララ」の動きは再現できなかった。そこで作画のような足の残像のプロップをつくり、それらのオブジェクトをチーに組み合わせて配置し、作画アニメの「オバケ効果」を表現している。その他にも原作特有の「ひたひた」や「ぴょんこ」といった動きも力を入れて再現したという。どのような動きで表現されているのか、ぜひアニメを観て確認してほしい

こだわりの演出


絵コンテ


ビデオコンテ

通常のビデオコンテはコンテ撮のようなものが多いが、本作では2Dアニメーターの山下清悟氏がビデオコンテを担当し、作画アニメでいう原撮のように細かな動きまで付けられた。それを素材として編集を行い、尺を決め込んだものがカッティングムービーとなり、このムービーを参考にアニメーターは動きを付ける。またCGレイアウトとちがいキャラクターの表情もよくわかるため、アフレコ時に声優へ芝居のニュアンスを的確に伝えることができるという


完成画

監督・演出の意図が伝わる絵コンテ&ビデオコンテをアニメーターら3DCGスタッフが昇華し、完成画にしっかり落とし込んでいる



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    第2特集:プロが教えるお役立ちツール

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
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