<2>海外からの参加者も招いて盛り上がるPixel Challenge
それではPixel Challenge、WAQ、そしてCatapultの主要3イベントについて、より詳細に紹介していこう。前述の通りPixel Challengeは参加者がグループに別れ、48時間かけて1本のコンテンツをつくるハッカソン(ハック+マラソンの意味の造語)であり、GameJamだ。2013年にスタートし、今回で5回目の開催となる。初年度の参加者数は102名だったが、年々拡大し、今年度は384名にまで成長。直前の雪嵐を受けて設定されたテーマ「パーフェクトストーム」に沿って進められた。
主な参加者は地元のゲーム開発者と学生で、参加者総数は384名。プロとアマの割合は1:4といったところ。中にはフランスから38名、メキシコから45名、ベルギーから15名の学生の姿もみられた。フランスとベルギーはフランス語圏の国々でもあり、渡航費用の一部を助成するなど、戦略的に参加を受け入れている。メキシコのゲーム産業とも近年、海外分業で関係性が強まっているという。
Pixel Challenge2018のメキシコ人学生チーム
www.pixelchallenge.org/
そのほか、Pixel Challengeでは他のGameJamでは見られない特徴がある。それが総額15500カナダドル(約131万円)の賞金が用意されている点だ。前述の通りゲームだけでなく、短編アニメーション(30秒以上)部門や、シナリオ、サウンドの個人賞部門も存在する。今年度の参加内訳ではゲーム部門が252名、アニメーション部門が100名、サウンド部門が29名、シナリオ部門が3名となった。にもかかわらず、会場内はトゲトゲした雰囲気がなく、終始楽しみながら開発が進められてた。
こうしたレギュレーションについて、Pixel Challengeのディレクターを務めるLouis Leclerc氏は「Pixel Challengeの主目的は地元の開発力を世界にアピールすること。そのため、全力でコンテンツをつくってもらえるように、チーム参加としている。トランスメディア(=メディアミックス)の重要性から、ゲーム以外のコンテンツ部門も第1回目から設置している」と説明された。
ちなみにPixel Challengeの参加費は200カナダドル(約17800円)で、参加者には食事と飲み物、軽食、そして仮眠コーナーが提供される。これに協賛企業からの協賛費が加わり、不足分を市税で補填する形で予算が組まれている。会場は夏期だけ運行されるクルーズ船の発着場で、市所有の施設を流用。Leclerc氏は市税と協賛費の割合は4:6だとあかした。
このほか本年度で初めての試みとして、施設内にeスポーツのエキシビジョンマッチとレトロゲームの試遊コーナーPixelWarzoneが設置された。1Fでゲーム開発が行われ、2Fでeスポーツの観戦やレトロゲームが楽しめる趣向だ。Leclerc氏は「Pixel Challengeにもっと一般層を引き込みたかった」とコメント。ゲーム開発の風景を地元の家族連れが見学して回るといった風景も見られた。来場者数は500名を見こしているという。
<3>インディゲームを世界の市場に打ち出すCatapult
優勝したSWEET BANDITSのプレゼンテーション
一般的にGameJamではゲームのプロトタイプをつくることに終始しがちだ。しかし、Digital Weekではそこからステップアップする手段も提示されている。それがインディゲーム開発者向けのピッチイベントCatapultだ。Pixel Challengeがはじまった翌年、2014年にスタートしたもので、優勝者は現金5万5000カナダドル(約480万円)を含む、総額10万カナダドル(約890万円)の支援が受けられる。
第1回目の優勝者は最大8人までオンライン対戦ができる、『ボンバーマン』と『ガントレット』を融合させたようなアクションゲーム『Knight Squad』(Chainsaw Games)。FLIMA出身の開発者3名で2012年に設立されたスタジオによるもので、同作のプロトタイプはPixel Challenge 2013で開発された。48時間で制作したゲームがアワードを受賞したことがきっかけで、イベント終了後も開発が継続され、Catapult 2014に応募。見事、初代受賞者に輝いたのだ。
その後、『Knight Squad』は2015年にSteamとXbox Oneでリリースされ、累計140万ダウンロードを記録したという。Steamでは1480円で販売されており、単純に乗算すると、約20億円程度の売上を達成したことになる。Pixel ChallengeからCatapultへのながれが早くも成果をあげたというわけだ。第2回目の受賞作『Light Fall』(Berzerk Studio)も2018年夏にリリースを控えており、5月に京都で開催されるインディゲーム展示会BitSummit 2018にも出展が予定されている。
こうした中、今年度は個性豊かな5作がファイナリストとして壇上にあがり、企画概要・開発概要・資金調達などのプレゼンテーションを実施。その結果、動画共有サイトのTwitchと連携する新機軸のマルチプレイ・スパイアクション『DECEIVE INC.』(SWEET BANDITS)が受賞した。代表のPhilippe Pelletier Baribault氏は、現在はバーティパルスライス(ゲームの一部分を完成形に近いレベルまでつくり込んだもの)の段階と説明し、2019年11月のリリースに向けて意欲を示した。
Philippe Pelletier Baribault氏(中央)と歴代の受賞者
CatapultはQuébec Internationalと、同じく非営利組織のDigital Arts and Interactive Entertainment (ANDI)の協業によってスタートした。どちらもケベック・シティーの経済活性化と貿易振興などを目的としており、日本で言えば商工会議所などに相当する。
このほか、審査員にはUBIケベックなどの名前が並ぶ。前述のように彼の地では、多くのインディゲーム開発者は大手スタジオから独立する。こうしたながれを奨励する行為にもつながりかねず、日本では考えにくい光景だ。
実際、Baribault氏はインディの人材採用について「ケベック・シティーのゲーム開発者コミュニティは非常に小さいため、互いに顔なじみだ。一方で自分たちが学生にリーチするのは難しいし、育てる余裕もない。そのため大手スタジオが人材を育成し、そこから独立する開発者を直接すくい上げる方式が一般的」とあかした。日本でもしばしば見られる光景だが、これをあっけらかんと言ってのける点が興味深い。
審査員の一人で、UBIケベックでゼネラルマネージャーをつとめるPatrick Klaus氏も「どれか一社だけでなく、ケベック・シティー全体でデジタルメディア産業のエコシステムが構成されていて、互いに連携して成長していく。そこに意義を感じてCatapultに協賛している」と語った。そこには、地域に根ざして発展する大手スタジオの責任感や理想が感じられた。