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『フルメタル・パニック! Invisible Victory』におけるリアル路線のメカ&背景表現のこだわり

『フルメタル・パニック! Invisible Victory』におけるリアル路線のメカ&背景表現のこだわり

POINT 02
作業時間を意識し、他部署と連携した制作体制

ここまでの話だけでも、非常に周到な準備を積み上げて制作していることが伝わってきたが、アニメーションの話に入ると、上地氏から驚きの言葉が飛び出した。「ほとんどのカットでアニマティクスはつくっていません。いきなりテイク1ですね」(上地氏)。というのも、ジーベックでのカットチェックは週1回、7時間ほどの時間をかけて、CGも作画もまとめて行われるため、チェックだけで1日の作業時間の大半が奪われてしまう。本作のCGカットは平均的なアニメより多いため、チェックを何度もくり返せばその分時間が取られ、現場はタイトな状況となっていく。そこで基本的にはテイク1で本撮というスタイルが採られた。カットの難易度にもよるが、平均して3テイクくらいに収まっているという。先述したモデリング・セットアップによって、複雑な作業を行わずにカット制作に集中できることも、早くカットを完成させられる要因だろう。

本作のアニメーションは全て手付けで、特に「作画アニメ準拠のタメ・ツメ感」が意識された。アニメーションを担当した橘 眞朗氏は「作画出身の中山勝一監督や西井さんが好まれるような、作画のモーションを意識しています」と話す。従来の作画アニメで学んだ感覚や技術を活かしているのだ。そんな橘氏は、カッコ良いCGシーンをつくるコツとして「多くの引き出しをもっていること」を挙げる。「私はもともとアクションフィギュアで遊ぶのが好きで、自分で考えたカッコ良いポーズを頭の中に蓄積していました。アニメもたくさん観ています。後は、作品を良くしたいという想いと、そのためにはどうすれば良いかを考えるだけです」(橘氏)と熱い想いを語ってくれた。

たとえCGカットであろうと、CG部だけでは成立しない。細かな質感や海のエフェクトなど、CGだけでは難しい表現もあるため、作画や撮影、美術班と連携を取りながら得意分野を補い合っている。CG部では、作画等では大変そうなエフェクトをAfterBurnFumeFXRayFireなどを用いて自発的に用意し、使うか使わないかの判断も他の班に任せることで、負担軽減を図っているという。このような連携が取れるのは、社内にCG部があるからだ。各人の力とお互いを想い合う心の両方が、良い作品の成立には不可欠なのだろう。

カッコ良いメカのポージング

観ている者の心をくすぐるカッコ良いポージングは、メカアニメの醍醐味のひとつだ。本作でも、ファンの心をつかむようなポージングが描かれている。橘氏いわく「昔のロボットアニメを意識している」とのこと。自身が胸を躍らせたアニメに負けじと、こだわりをもって描いているようだ

絵コンテ

3ds Max上のカメラアングル

完成画。絵コンテには単分子カッターを持ち直すアクションはなかったが、アニメーション作業の際に、アニメーターからの発案でポーズが追加された。「プロの戦い」であることや「確実に仕留める」という感情が丁寧に描写されている

ギミックを用いたアニメーション

先の項にて、隠れたギミックについて紹介したが、ここではそのギミックの使用例をいくつかご紹介する。実は設定上、アーバレストなどM9系の脇の下にはダガーやグレネードなどが収納されている。しかし、実際のカットではそれほど使われていなかった。そこで、このOPカットでは、橘氏の自己判断でダガーを脇から抜くアニメーションを付けたという。さらに、画像では見えづらいが、足裏のスパイクも立てられている。細かなところに愛を感じるカットだ



  • ダガーのギミックの使用例



  • スパイクのギミックの使用例

スパイクの設定画。【画像右】はスパイク部分のアップ

ダガーのギミックの設定画

作画とのコラボレーション



  • CGの作業画面



  • CGのメカに作画で加筆を施した状態

完成画。CGだけでは難しい表現や細かな描き込みに関しては、作画や特殊効果のスタッフに描き足してもらい、仕上げている。このカットのように質感を乗せたり、一瞬だけキラリとハイライトを光らせたり、ほかにも爆破の衝撃波など、細かなエフェクト表現では作画の力も大きく貢献した。反対にCGスタッフも、BGガイドやエフェクト素材を用意するなど、作画の負担を減らせるように努めているという。「内部にCGスタジオを抱えているからこそ、相互に協力しやすいですね」と上地氏は話す

リアル路線の表現方法



  • 完成画



  • 3ds Max上での、カメラからの見え方

3ds Maxのパースビューからの見え方。一般的にCGアニメでは、ケレン味を演出するためにPencil+のパース変形 モディファイヤやデフォーマを使用して、3Dモデルを極端に変形させることが多い。当然、別角度から見れば大きく破綻した3Dモデルとなる。しかし、本作はリアル路線のメカアニメということで、写実性が大切にされ、極力変形はさせずにケレン味が表現された

3Dレンズのちがいによる表現

第4話のOPカットの連番

パースビューからの見え方。カメラがメカを追いかけている

背景原図用のカメラの見え方。背景用カメラは基本的に動かさない



  • 原図用に出力された3Dモデル



  • 描かれた美術素材。メカが大胆に跳び上がる迫力のあるシーンは一見大幅な誇張で描かれていると思いきや、メカと背景のカメラを別に設定し、レンズも使い分けて対応することで、リアル路線に沿って表現している

ECSエフェクト

ECSは『フルメタ』に登場する独自の光学迷彩機構だ。本作ではCGで見事に表現されている



  • ディフューズ



  • ライン



  • オクルージョン



  • マスク



  • ノイズ



  • ノーマルマップ

最終合成した状態

マスク素材(3ds Max)。A(左)はマテリアルで作成したマスク素材で、B(右)はオブジェクトを使用して作成したマスク素材。ECSレンズの位置からマスクを展開したい場合や寄りのカットでの細かい調整が必要な場合にはB(右)を使用している

ECSエフェクトが展開された場面カットの例

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POINT 03 広く用いられているCGの背景

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