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『フルメタル・パニック! Invisible Victory』におけるリアル路線のメカ&背景表現のこだわり

『フルメタル・パニック! Invisible Victory』におけるリアル路線のメカ&背景表現のこだわり

現在放送中の、人気SFアクションアニメ『フルメタル・パニック!』シリーズ最新作『フルメタル・パニック! Invisible Victory』。メカなどのCGワークを担当したジーベックCG部の制作現場に迫る。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 239(2018年7月号)からの転載となります。

TEXT_野澤 慧
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

『フルメタル・パニック!Invisible Victory』
AT-X、TOKYO MX、サンテレビ、BS11ほかにて放送中!/Abema TV、dアニメストア等にて順次配信中!
原作:賀東招二/原作イラスト:四季童子/監督:中山勝一/シリーズ構成・脚本:賀東招二/キャラクターデザイン・総作画監督:堀内 修/メカニックディレクター:西井正典/メカニックデザイン:海老川兼武・渭原敏明/セットデザイン:柳瀬敬之/3DCGディレクター:上地正祐/アニメーション制作:ジーベック
fullmeta-iv.com
©賀東招二・四季童子/KADOKAWA/FMP!4

SFアクションアニメの金字塔『フルメタル・パニック』。『フルメタ』の愛称でファンからの支持を集める人気シリーズの最新作が、4月から絶賛放送中だ。前シリーズの正当な続編として描かれている本作は、作画で制作された前作と異なり、CGがふんだんに用いられている。そのCG制作を担当しているのが、2015年に設立されたジーベックCG部だ。実は同社では過去にも一度CGの部署が起ち上げられたが、本作の制作に合わせて心機一転、再編成されたという。スタッフは総勢8名と少数ながら、それぞれが情熱と技術をもった精鋭たちだ。まだチームとしての経験やノウハウの蓄積は少ないが、3DCGディレクターの上地正祐氏を中心に制作を続けている。

左から、CGデザイナー・近藤孝一郎氏、3DCG制作&メカ設定制作・田村浩一氏、CGデザイナー・橘 眞朗氏、CGデザイナー・長岡雄太氏、CGデザイナー・佐藤亮太氏、CGデザイナー・権藤 Solier Joseph Antony氏、3DCGディレクター・上地正祐氏、冨田基貴氏(写真なし)。以上、ジーベック
www.xebec-inc.co.jp

実制作の動き出しは2017年。CGのワークフローでまず行われるのが「CG分解打ち」だ。一般的に言われる演出打ち合わせのことで、3D先行かレイアウト(作画)先行か、カットを振り分け、3D先行の場合はガイドを作成するか否かも上地氏が判断する。CG分解打ちの後は、CG打ちを経てカット作業に入り、そこからは一般的なワークフローの中で作画・美術・撮影班と協力しながら制作していく。また、CGというデジタル工程をはさむことから、コミュニケーションツールにはチャットツールとSkypeが用いられた。作画用紙を見ながら実際に集まって打ち合わせるアナログと比べ、これらのツールを使うことで情報伝達やカットチェックが早くなったそうだ。本作はデジタルとアナログ(紙)が混在しており、CGと作画が絡むとスキャン工程が必要になるなど、完全に効率的なフローとは言えないが、他の部署でもデジタルツール・コミュニケーションツールの採用を検討しているとのこと。

CGカットは1話あたり120~130カットあり、多い回では200カットを超え、平均的な1クールアニメの約1.5倍のボリュームだという。これだけの物量を、設立されたばかりの若いチームでどのようにさばいているのだろうか? そこには、各人の経験に裏打ちされた工夫が詰まっていた。

POINT 01
先の工程を考慮したモデリング&セットアップ

『フルメタル・パニック』と言えば、やはりARM SLAVE(以下、AS)をはじめとするメカたちだろう。本作でも様々なASが登場し、戦場を駆け回っている。バリエーション機も含めると、ASだけで44機、それとは別に第3~4話に登場する壊れていく機体が56タイプもある。何とも驚きの物量だ。

モデリング作業のはじまりは、カット制作に入る少し前。これまでは作画で描かれていたメカを、本作では一転してCGで制作するということで、どのようなルックにするか悩みながら進めていったという。過去作で玩具をつくった際のCADデータも残っていたが、本作ではデザインがリファインされたため、デザイナーのこだわりを受けとりつつ、CG側からも要望を伝えて作成している。デザイン→ラフモデル→モデルチェック→質感チェック→セットアップ→データチェックという工程で、メイン機体の制作には1~2ヶ月を要した。

主な使用ツールは3ds Max 2016とPencil+ 3。モデリングは1/1スケールで、これは『フルメタ』の作風がリアル路線であることに加え、m単位で制作することによって背景とメカの整合性が取りやすくなり、アニメーション作業がしやすいからだという。モデリングを担当した長岡雄太氏は「3Dモデルでカッコ良いポーズを取らせようとすると、めり込みや干渉が起きてしまいますが、現実ではありえませんから、そうした破綻が目に見えるところで起きないように意識して作成しました」と話す。CGのアニメーションで、めり込みなどはどうしても発生してしまうものだが、極力ないように、下地となるモデリングやリグの段階から気を付けているそうだ。

セットアップに関しては、全機体統一したリグで、リグ自体もシンプルな構造にしている。「自動化など複雑なリグは便利な点もありますが、本作ではカット数が多いことが想定されていたので、共通のシンプルなリグを採用しました」と上地氏。ギミックの動作機構もセットアップで組み込まれ、アニメーション作業では尺やタイミングの調整だけで済むという。リアリティの追求もさることながら、冷静に制作の先を見通したモデリング・セットアップとなっている。長岡氏は「愛されている作品なので、ダメだと思われないようにがんばっています。ASは小さいギミックが大量にあるので注目してもらえると嬉しいですね」と話してくれた。

メカモデルのバリエーション



  • M6ダオ専用機の設定画



  • M6ダオ専用機の差し替えパーツの設定画

M6パーツ差し替えバリエーションの一覧。M6ベースモデル、M6実戦仕様機、M6ポールソン機、M6ダオ機など、様々なパーツ差し替え機体が作成された。このように、本作では多くのバリエーション機が登場するが、全てをイチから作成しているわけではない。デザイナーとの発注打ち合わせに上地氏が同席し、差し替える箇所を固定するように依頼したことで、素体の部分は変更せずに、特定の箇所のパーツだけを変えてバリエーションを増やし、コストを削減している。そうして作業量を抑えつつも、個性的なバリエーション機を実現した

壊れモデル(アーバレスト)

アーバレストの壊れ方の参考画。絵コンテの完成後、デザイナーへ壊れモデルの参考画が依頼された。参考画には壊れたアーバレストの画のほかに、壊れる順番と壊れ方の説明、そして該当カットの絵コンテも載せてあり、非常にわかりやすくまとめられている。これを基に壊れていく機体モデルが作成された

作成された壊れモデル。アーバレストは物語の進行に合わせて徐々に壊れていくため、壊れ具合の整合性を考えねばならない。カット作業にあたるスタッフに、どの壊れモデルを使うか考えるという余計な負担をかけないように、カットナンバーごとにモデルデータを分けて渡すことで、その負担を解消した。アニメーターは与えられた3Dモデルを使ってカット作業を行えば良いので、間違いも起きなかったという

作画の質感表現

作画によるメカの描き方に「影抜き」という、影色の線の下にノーマル色を入れる独特の表現があるが、これをCGで再現するにはUV展開やテクスチャ制作など相当の時間を要する。そこでメカニックディレクターの西井正典氏に協力を仰ぎ、作画参考が作成された。今回はPhotoshopでマスク作成し、AEで余分な部分のマスクを消すことで、低負荷で影抜きを表現している。使用したマスクは、素体が同じバリエーション機であれば流用することも可能だ

影抜き用マスク

左から、作画による影付け、色見本、3Dモデル。見事にCGで影抜きを表現した

コクピットモデル

メカの外側だけでなく内側、つまりコクピットも3Dモデルがつくられている。画像で見ると思いのほか狭く感じるが、これも機体が8m級という設定で作成したリアルなつくりなのだという。コクピット部分は極力軽くするために、2万ポリゴン程度でつくられた。機体に組み込んだ状態でアニメーション作業をすることもあるそうだが、それでも合計10万ポリゴンほど。動かす際の操作性を重視し、効率向上やストレス負担軽減が考慮されているのだとか

コクピットの3Dモデル。メカニックデザインの海老川兼武氏も監修している



  • カット作業画面



  • 完成画。簡素なつくりではあるが、それがむしろ無駄のない軍事用メカの雰囲気を上手く演出している

ギミック

アーバレストをはじめ、メインの機体には細かなギミックが詰め込まれている。例えばアーバレストの手首の内部には、関節のギミックが隠されており、手首の可動域は広く、自在に動かすことが可能だ。ほかにも、足の裏にスパイクが仕込まれていたり、首の下にECSが組み込まれていたりと、実は本編でほとんど使われていないようなギミックもあるという。それでも、デザイナーのこだわりや設定はなるべく忠実に再現された

アーバレストの腕部のギミックの設定画。外装に隠れてしまう部分にもこれだけのギミックの設定がある

CG作業画面。手首の関節のギミックにより可動域は広い

【画像左】瞳素材表示なしと【画像右】瞳素材表示あり(近距離時)。目の表現ひとつで、奥行きを感じさせられる

セットアップ

前述の通り、本作では非常に多くの機体が登場するが、その全ての機体のリグ構造は共通のものとなっている。機体数は多いが手足の長さくらいの差しかないため、一度使ったモーションはどの機体でも流用が可能だ。また、リグ構造自体もシンプルなため、新しく登場する機体のアニメーション作業をするときにも、動かし方に戸惑うことはないという

アーバレスト(左)とサベージ(右)のリグの比較。共通の構造となっている

アニメ本編の走るアーバレストの場面カット



  • 共通の走りモーションをながし込んだアーバレストとサベージの比較画像



  • アーバレストのモーションB をサベージへながし込んだ比較画像。リグが共通のため、モーションの流用もしやすい

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POINT 02 作業時間を意識し、他部署と連携した制作体制

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