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『フルメタル・パニック! Invisible Victory』におけるリアル路線のメカ&背景表現のこだわり

『フルメタル・パニック! Invisible Victory』におけるリアル路線のメカ&背景表現のこだわり

POINT 03
広く用いられているCGの背景

本作を支えるCGはメカだけではない。取材時(5月)の時点で作成された背景モデルは10点以上。基本的にガイド用途のため、放送上では美術の背景に変わっているものがほとんどだが、学校や基地の内部、コンソールパネルなど多岐にわたる3Dモデルが作成された。CG部が社内にあるため、作画チームからCGガイドの相談をされることも多々あるという。「相談してもらえるのはCG部が社内にある強みですね。絵コンテを見ながら相談して、実際に3Dモデルをつくるかどうかは私が判断します」と上地氏。相談の結果『宇宙戦艦ヤマト2199』(2012~2013)の経験から、作画で描き続けるのが大変な椅子は質感を含めてCG側で作成している。

3DBGには、セットデザインを務めた柳瀬敬之氏が作成したデータを基につくるものもあれば、絵コンテを参考につくったものもある。第5話の闘技場は設定に合わせて大きさから全てCG側で検証し、中山監督と相談しながらアタリをつくり、原図が起こされた。さらに、第1話冒頭の墓地のカットと第2話のカーチェイス時の街並みは3DBGで描かれている。特に中山監督きっての要望であった墓地のシーンは大変で、ほとんどアニマティクスをつくらない制作体制の中で、このシーンだけは中山監督と共にCG画面を確認しながらカメラワークから決めていったそうだ。

「本作では美術とCGのハイブリッドモデルなど、テストケースとなるような工夫も試しています。全体の効率を考え、今後も臨機応変にやっていきたいですね」と上地氏。また橘氏は「ずっと憧れていた作品に関われているので、ファンの方にも満足いただけるように、迫力のあるカッコ良い作品にしたいです」と意気込みを語ってくれた。3DCG制作として全体を見ている田村浩一氏も「自分も『フルメタ』のファンで、この業界に入りました。第9話以降も、第4、8話に負けないくらいのAS戦が予想されています。制作現場は毎日大変な状況ですが、観てくださる皆さんの期待を裏切らないように制作しているので楽しみにしてください」と自信を覗かせた。非常に人気の高いシリーズだけに重圧は大きかったようだが、ファンからの好反応に手応えも感じているという。今回お話を伺った4名どなたからも、作品への強い愛を感じた。彼らはこれからも、相良宗介たちと共に闘いを続けていく。

墓地

テスタロッサ両親の墓地の美術設定画。設定画はこの2枚のみだ

墓地周辺の3Dモデル

海周辺の3Dモデル

完成画の連番。わずか2枚の美術設定画のみから、手探りで3DBGの制作をはじめたという。V-RayPhoenix FDなど使えるものは全て使い、樹木はForest Pack、地面や岩はZBrushで彫り込んでいる。通常3DBGは、その後の使いやすさや効率を考えて作業するが、この墓地は一度しか登場しないため、時間優先でどんどんとつくっていくように心がけたそうだ(上地氏談)。最終的には美術ボードなどに合わせて完成させている。冒頭から、広大な3DBGをカメラワークで見せるこのシーンによって、視聴者にかなりのインパクトを与えたことは間違いない

カーチェイス



  • 美術ボード



  • 美術ボードを基に作成したBGモデル

場面カット

区画に分けた状態のアセット

2区画のアセットを配置した街データ。美術ボードは1枚だけだったが、実在する調布市の街を参考に作成している。流れる背景なのでつくり込みは抑え、コストを削ることが意識された。交差点、直線道路、丁字路の3パターンのアセットをブロックで作り、それを組み合わせている。ブロックの組み合わせ方やマテリアルの調整などによって、コストを抑えながらも単純なループではない背景となった

トゥアハー・デ・ダナン

この巨大潜水艦トゥアハー・デ・ダナンは3Dモデルと美術のハイブリッドモデルである。甲板などの一部では美術によるテクスチャが描かれ、その他の部分は、そのテクスチャを参考に、長岡氏が質感(テクスチャ)を作成した。当初の設定よりもメカニカルなギミックが増え、メカとしてのクオリティもアップしている。3Dモデルとしても美術背景としても使える不思議なデータだという



  • トゥアハー・デ・ダナン全体の3Dモデル。ライン、カラー、AOで構成されている



  • カタパルトの切り返し。ハッチなどのギミックまで組み込まれた。美術による質感も乗っている

テクスチャ素材。サイズは誌面掲載用に調整したもの



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