>   >  「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!」レポート&インタビュー(後編)>>彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか?
「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!」レポート&インタビュー(後編)>>彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか?

「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!」レポート&インタビュー(後編)>>彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか?

「プロデューサー」も含めた、その場の全員でつくりあげたステージ

C:リアルタイムのライブやトークでは、映像と音声をいかに違和感なく同期させるかが課題だと思います。「MR ST@GE!!」では、どうやって課題を解決したのでしょうか?

遠藤:ライブの場合は、本来よりも少し早いタイミングでモーションアクターさんの動きをキャプチャしています。その結果を踏まえて、われわれアニメーターがアイドルに表情の指示を出します。そうして生成された映像が、少しのタイムラグを経て表示され、音声ともぴったり同期するのです。トークの場合は、声と動き、リアクションの結果を踏まえて、アニメーターがアイドルに表情の指示を出します。

C:つまり表情に関しては、ライブならほんの数フレームの先行、トークはほぼリアルタイムというわけですね。まさに職人芸としか言いようがない......。

遠藤:飯島と吉武は『アイドルマスター2』(Xbox 360/PS3対応、2011年発売)、私はXbox 360版の『アイドルマスター』(2007年発売)の頃から『THE IDOLM@STER』に関わっているので、「765PRO ALLSTARS」(※4)との付き合いは長く、彼女たちのことを熟知しています。だから「このアイドルだったら、こういうリアクションをする」という判断が悩むことなくできたのだと思います。

※4 765PRO ALLSTARS:「MR ST@GE!!」に登場した13人のアイドルたちによるユニットの名称。

石田:飯島や遠藤たち裏方の皆さんの息はピッタリで、奇跡のようなアドリブが何度も繰り広げられていましたね。

C:「双海亜美・双海真美 主演回」の第三部では、亜美が始めたソーラン節のような踊りを、真美も真似して踊り始める一幕がありました。その前の第一部、第二部では見られなかった動きでしたが、あれもアドリブですか?

遠藤:そうです。モーションアクターさんたちが「アドリブやっちゃうよ!」と言っているのが聞こえたので、飯島と私も呼吸を合わせてがんばりました(笑)。

▲【左】ダンス中にウインクをする双海亜美/【右】胸の前で両手を握る双海真美の仕草は、ゲーム中でもよく見られる


▲【左】トークコーナーで秋月律子になりきって喋る双海真美。声に合わせて、姿勢はもちろん、左手で眼鏡をもち上げる仕草までばっちり律子を真似ている/【右】モノマネの成功を喜ぶ双海姉妹


▲【左】トークコーナーで「プロデューサー」を指名するためのルーレットが回っている間、楽しそうにグルグル回り続ける双海姉妹。この動きはモーションアクターからの提案だったという/【右】デュオならではの、シンメトリーの振り付け


C:双海亜美のソロ曲の「トリプルAngel」は、ゲームだと「ぺたっと」という歌詞に合わせて自分の胸に手を当てて、胸の大きさを確かめる振り付けですよね。それが「MR ST@GE!!」だとお互いの胸に手を当てる振り付けに変わっており、2人で歌っていることを強く実感できました。

遠藤:ひとりだと、自分の胸に手を当てることしかできないですからね(笑)。あれは「MR ST@GE!!」の振付師さんがゲームの振り付けをリスペクトして、デュオならではのアレンジをしてくださったんですよ。

石田:先ほど土井が言ったように、秋月律子の主演回も印象的でしたね。キャストさんが、「プロデューサー」の見慣れた、いつもの律子をステージに立たせたいと希望されたので、「遠藤はXbox 360版の『アイドルマスター』からのプロジェクトメンバーだから、律子をよく知っているんですよ」と伝えたら「そうだったんですかぁ」とすごく安心した顔をなさったんです。遠藤に任せておけば、律子の声に合わせた、律子らしい表情にしてくれるだろうと、全幅の信頼を置いていましたね。

遠藤:こちらはだいぶハードルが上がったのですが、「お任せください」と伝え、その信頼に応えるべくがんばりました。「MR ST@GE!!」ではアイドルがリアルタイムで出演するため、キャストさんたちも何かしらの不安があっただろうと思います。律子は「テンションのダイナミックレンジ」が広いアイドルで、プンスコと怒った直後に、モジモジと恥ずかしがったりするんです。トークコーナーでは「プロデューサー」に対して「もぉ!」と怒った直後に、「でも、ありがとうございます!」という感じで照れたりしたので、その変化に付いて行くのは大変でしたが、やりがいがありました!

あるモーションアクターさんは「キャストさんの生の歌唱や声を聞くと、動きに熱が入る」と語っていました。周囲の熱演に刺激されて、全員のパフォーマンスに磨きがかかっていったように思います。

佐々木:律子は「音量のダイナミックレンジ」も広く、思いっきり熱唱することもあれば、モジモジと小声で話すこともあったので、口パク用の音声解析ツールの値をどこに設定するか、本番直前まで調整を続けていました(笑)。

C:キャスト、モーションアクター、アニメーター、プログラマー、「BanaCAST」メンバーなどが力を合わせることで、ステージのアイドルたちが最高に輝いたわけですね。

佐々木:それだけでなく「プロデューサー」の皆さんや、DMM VR THEATERのスタッフも含めた、その場の全員が「ステージにアイドルを立たせよう」という熱意を共有していました。

C:確かに、会場案内スタッフが来場者に「プロデューサーさん」と呼びかけたり、売店スタッフが当日の主演アイドルと同じ髪型をしていたり、秋月律子の主演回では眼鏡を着けていたりして、全員の熱意がしっかりと伝わってくるステージでした。

飯島:あるキャストさんは「みんなでつくりあげたステージだった」と語ってくれました。その言葉は、ずしんとくるものがありましたね。

▲「THE IDOLM@STER OFFICIAL Web」のBLOGに掲載された大千秋楽の写真。当日の主演アイドルだった高槻やよいだけでなく、ダンサー、公演スタッフ、DMM VR THEATERのスタッフなど、できる限りの関係者が持ち場を離れてステージに上がり、客席の「プロデューサー」に挨拶。「プロデューサー」たちは、持ち場を離れられない人も含めた、全ての関係者に鳴りやまない拍手をおくった。「大千秋楽でステージに向かって拍手していた『プロデューサー』の皆さんが、来場者席後方のオペレーターブースにも顔を向け、満面の笑顔で「ありがとうございましたー!」と言ってくださったんです。「こちらこそ!」と思いましたね。本当にありがたくて、涙が出ちゃいました」(遠藤)

ゲーム開発者による、これからのリアルタイムライブへの挑戦は?

C:「MR ST@GE!!」は、長年かけて蓄積されたゲーム開発の知見と、リアルタイムのライブだからできる挑戦と、皆さんの熱量があったから実現できたのだと実感しました。新たに発見したゲームとライブのちがいがあれば、教えていただけますか?

遠藤:サウンド担当の中川浩二(※5)が「モーションにしろ、サウンドにしろ、ゲームだと粗い部分を削り落とし、洗練させた状態でリリースしているけど、生(ナマ)の状態を出すだけでもこんなに良いんだね」と言っていたのが印象的でした。例えばダンスモーションであれば、動きのキレやメリハリを残しつつ、綺麗なシルエットになるよう整えています。「MR ST@GE!!」では、そういう過程を経ていない状態の動きをお見せできたので、より生々しさが感じられて刺激的だったと思います。

※5 中川浩二氏:BNS所属の『THE IDOLM@STER』サウンドプロデューサー。「MR ST@GE!!」でもサウンド担当としてクレジットされている。

C:そういったライブでの発見が、今後のゲーム開発に与える影響はありますか?

佐々木:ゲームの場合は「プロデューサー」の皆さんが繰り返しプレイしてくださるので、粗は取って、当たり障りのない状態に収束させがちです。でもプログラマーとしては、プロシージャルに生成されるライブシーンにも挑戦したいですね。アイドルにも調子の波があると思うので「毎回、ちょっとずつダンスがちがう」という仕組みも取り入れてみたいです。

C:今後「MR ST@GE!!」を発展させるとしたら、どういったことに挑戦してみたいですか?

遠藤:アイドルの影を表示させて、実在感や接地感を強化したいですね。

佐々木:「プロデューサー」が見慣れている絵から変わってしまう怖さはありますが、もっと立体感が出るようにシェーディングを改良したいですね。

C:「ヴァリアブルトゥーン」に代わる、新たなシェーダが誕生する可能性もあるのでしょうか?

佐々木:そうですね。アイドルと現実世界のダンサーが並ぶ「MR ST@GE!!」の場合は、普段のゲームよりも立体感を出した方がいいのではないかと思うんですよ。

飯島:では、新しいシェーダの名前を付けてください。

佐々木:「なんか......すごいトゥーン」で。

土井:「すごいトゥーン」(笑)。

C:高槻やよいちゃんが考えたっぽい名前ですね!

石田:指のキャプチャは、もっと改良したいですね。5本の指にマーカーを付けると位置情報が混在して手の形が崩れてしまうので、今は親指、人差し指、小指の3本に付けていますが、グローブを使った光学式以外のキャプチャを試してみるなど、技術研究をしつつ探っているところです。

飯島:今後、2人、あるいは3人が主演する回が増えていくなら、ゲームで実装されている「手つなぎ」「手合わせ」などもプログラマーに相談しながら実現させたいですね。ダンス中に接触できるようになると、「そこにアイドルがいる」感じがさらに強くなり、アイドルの魅力が増すと思います。

C:皆さん抱負は尽きないようですが、今後もチャンスがあれば、リアルタイムライブをやっていきたいですか?

飯島:「MR ST@GE!!」を通して、すごくチームの結束が強くなったので、ぜひまた同じチームで一緒にやっていけるといいなと思います。

遠藤:客席の「プロデューサー」さんたちがお礼を言ってくださった姿を胸に、次の機会までがんばろうという気持ちです。

土井:「次もがんばんなきゃ」という気持ちになれたことが一番の思い出ですね。

佐々木:私は「誰かの夢を自分の技術で実現したい」という思いでプログラマーになったのですが、「MR ST@GE!!」はその達成を強く実感できる仕事でした。......最初は巻き込まれた仕事だったのですが、今は「ぜひスケジュール空けますんで」という気持ちです(笑)。

石田:双海姉妹の共演は実現できたので、複数アイドルによるリアルタイムライブの可能性も出てきましたしね。

飯島:最終的には「765PRO ALLSTARS」の13人で、東京ドームでライブを!

C:期待しています。お話いただき、ありがとうございました。

▲2nd SEASONの会期中、DMM VR THEATERの入口に飾られていた看板の前でポーズをとる、(写真左から)佐々木氏、土井氏、飯島氏、石田氏。(遠藤氏は撮影時不在)


©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

特集