バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)が展開するアイドルコンテンツ『THE IDOLM@STER』。その作中に登場する芸能事務所「765プロダクション」(以下、「765プロ」)の女性アイドル13人が、横浜市のDMM VR THEATERにて「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」(以下、「MR ST@GE!!」)というライブに出演した。

声優が出演するライブではなく、これまでゲームの世界にいたアイドルが現実世界のステージでリアルタイムに歌い踊り、来場者とインタラクティブなトークも行うライブ。彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか? 前編では2018年10月7日に行われた「MR ST@GE!! 2nd SEASON」の「双海亜美・双海真美 主演回(第二部)」のレポートと、アイドルのパフォーマンスを陰で支えたバンダイナムコスタジオ(以下、BNS)の『THE IDOLM@STER』開発メンバーへのインタビューの模様をお送りした。続く後編でも、同メンバーへのインタビューを通して、「双海亜美、双海真美の共演」という『THE IDOLM@STER』史上初の偉業に挑戦した経緯や、アイドルをより輝かせるためのこだわりをお伝えする。

TEXT_田端秀輝 / Hideki Tabata(@hitabataba
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

「プロデューサー」の夢だった「双海亜美、双海真美の共演」

CGWORLD(以下、C):双海姉妹の共演は、どんな経緯で実現にいたったのでしょうか?

遠藤暢子氏(以下、遠藤):1st SEASONのとき、「アイドル2人にリアルタイムで一緒に出演してもらったら、どうなるんだろうね」と試したことがありました。「そんな仕組みはつくってないから、無理だと思います」とプログラマーには言われたんですが、できてしまったのです。その後、双海姉妹も一緒に出演できることを確認した時点で、チーム全体が「いける」「これはやんなきゃダメだろう」という雰囲気になりましたね。

C:共演が可能とわかったにしても、高槻やよいと水瀬伊織とか、我那覇 響と四条貴音とか、まずは声がちがうアイドルの組み合わせでやった方が技術的なハードルは低いと思うんですが、どうして同じ声の双海姉妹の主演回を最初にやったのでしょうか。

▲うさぎの耳で隠れているが、向かって左側を髪留めで結わいているのが妹の双海亜美(写真左)。ねこ耳を着けている、向かって右側をサイドポニーにしているのが姉の双海真美(写真右)。双海姉妹の声は同一人物が担当しているため、「プロデューサー(ファン)」たちも同時出演は難しいだろうと予想していた


土井良文氏(以下、土井):難易度の高い方からチャレンジしました(笑)。

遠藤:そこさえクリアしたら後は簡単だろうと(笑)。

C:かつてひとりずつしかステージに立てなかった2人(※1)の同時出演は、多くの「プロデューサー」の夢だったと思います。私自身、ステージに立つ双海姉妹の姿を見ただけで泣いちゃいました。

※1 かつてひとりずつしかステージに立てなかった:初期の『THE IDOLM@STER』における双海姉妹は「2人が代わりばんこで『双海亜美』というアイドルをしている」という設定もあり、同時にステージに立てない仕様だった。双海姉妹の声の担当は同一人物のため、声優が出演するライブでも2人は同時に立てないこともあり、リアルタイムでの2人同時出演は『THE IDOLM@STER』史上初の偉業であった。

飯島弘通氏(以下、飯島):だからこそ、期待に応えたいと思いました。

C:2人の主演回では「亜美が」「真美が」「亜美が」「真美が」と早口で言い合う場面もありましたが、ちゃんと各々の声、口パク、表情、身体の動きがシンクロしていて驚きました。

佐々木直哉氏(以下、佐々木):プロジェクトメンバー全員による入念な事前準備と、現場での咄嗟の対応力のおかげですね。実際、私の勘違いをキャストさんの機転で乗りきってもらったこともあります(笑)。皆の愛があったからやり遂げられました。

▲双海姉妹のトークコーナーでは、双海真美の楽曲「放課後ジャンプ」を「2人で歌おうと提案したのは自分だ」という真美と、「それは自分のアイデアだ」と言い張る亜美による「亜美が」「真美が」「亜美が」「真美が」という言い争いが勃発。双子ならではの鉄板のコンビ芸を見せてくれた

普段のゲーム以上に、意識して「プロデューサー」たちと目を合わせる

C:「MR ST@GE!!」では、そのアイドルらしいかわいらしい表情や、ドキっとさせられる表情などがあり、「そこにいる」という実在感がすごく伝わってきました。

遠藤:普段のゲームでは笑顔で歌っていることが多いのですが、秋月律子や菊地 真はシリアスな表情で歌う場面もあったので、アイドルの新たな一面をお見せできたと思います。

▲【左】飯島氏や遠藤氏の指示に合わせ、トーク中もコロコロと表情を変えていく双海姉妹/【右】歌唱中、口を開けて驚きの表情を見せる双海真美。「普段のゲームのアイドルたちは、逆三角形の口をして笑顔で歌っています。「MR ST@GE!!」ではあえて笑顔で歌わない仕組みもプログラマーが実装してくれたので、アイドルたちがシリアスな表情でも歌えるようになりました」(飯島氏)


C:目パチや口パクの自動化は行なっていますか?

土井:どちらも行なっています。目パチに関しては、普段のゲームと同様、ランダムにまばたきします。さらに2nd SEASONからは、より柔軟に目線を動かせるようになりました。

▲トークコーナーで話す双海真美を、双海亜美が見守っている様子が、目線からもはっきりわかる


遠藤:萩原雪歩は、恥ずかしくなると地面に穴を掘って埋まる癖があるアイドルです。「MR ST@GE!!」でも「穴を掘って埋まってますぅ」という定番の台詞と共にステージ上でしゃがんだら、客席の「プロデューサー」が「いつも見てるながれだ」と沸き立ちました。そうしたら雪歩が「えっ、どうしてみんな喜んでるの?」と意外そうに客席をチラっと見たんです。そういう目線によるコミュニケーションも今回のライブでは実現できました。

佐々木:口パクに関しては、2nd SEASONではアイドルの声を内製の音声解析ツールでリアルタイムに解析し、それに合わせて口の形が「あ」「い」「う」「え」「お」のいずれかに自動的に変化する仕組みを実装しました。

▲双海真美が喋るときは、その声に合わせてちゃんと本人の口が動いている。一方で、双海亜美の口はちゃんと閉じている


遠藤:モーションキャプチャと同様、声も主演アイドルによって個人差があるので、音声解析ツールの値は主演アイドルに合わせて本番前に調整していました。

佐々木:主演アイドル全員分のボーカルトラックだけの歌唱データを事前にもらい、その中から「あー」とか「いー」とか言っている部分を抽出し、それに合わせて個別に値を調整しましたが、それだけでは不十分なので現場でも毎回調整していましたね。

土井:ライブとトークで声の音量が全然ちがうアイドルもいましたし、その時々のテンションで音量が変わるアイドルもいましたので、現場での調整は必須でした。例えば秋月律子は思いっきり情熱を込めて歌うので、その音量に合わせて値を調整しています。2nd SEASONの途中からは、直前のリハーサル時の音量と値を記録しておき、臨機応変に切り替えられる仕組みも追加しました。

飯島:目線や口の動きがよくなったことで、1st SEASON以上にアイドルたちがいきいきと輝いてくれたことが、すごく嬉しかったですね。

C:トークコーナーでは指名された「プロデューサー」とアイドルが1対1で会話する場面もあったので、アイドルの実在感が特に際立っていたように思います。天海春香は最近のゲームでは見せなかったアマアマな拗ね方をしていたのでキュンとしましたし、菊地 真はすごくジェントルな振る舞いをしていたので惚れ直してしまいました。

遠藤:菊地 真は、「プロデューサー」と接するときの物腰がすごく紳士的でしたね。いきなり指名された「プロデューサー」の中には「はわっ」とテンパってしまう方もいましたが、 真は「大丈夫、ゆっくり考えていいんだよ」という紳士的なオーラを、声と表情と身体の全てから発していました。そういう真らしい振る舞いを見ていただけたのも「MR ST@GE!!」ならではの醍醐味だったと思います。

真に限らず、「プロデューサー」とアイドルが1対1で会話するときは、明確な感情のながれが生じます。しかも指名された「プロデューサー」はアイドルだけでなく、周囲にいる「プロデューサー」たちの注目も集めるので、より濃密なコミュニケーションが発生するんです。だからアイドルには、指名された「プロデューサー」がリラックスして話せるように、ちゃんと目線を合わせて、心のこもった表情をするようにお願いしました。それがアイドルの実在感につながったのだと思います。

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「プロデューサー」の話に耳を傾ける双海姉妹


C:だからこそ、感極まって泣き出す「プロデューサー」が続出したわけですね。

飯島:公演が終わっても、感涙して立ち上がれない「プロデューサー」もいらっしゃいました。その姿を見られたことも、得がたい体験でした。アイドルには、普段のゲーム以上に、意識して「プロデューサー」たちと目を合わせてもらうようにしましたね。「弓なりにした細い目の笑顔」はゲームの中では映えるのですが、その表情のまま動き続けると不自然なんです。あまり目を閉じっぱなしにせず、客席に目を向けてもらうようにしました。


©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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現実世界の椅子の上に立ち
さらに飛び降りる菊地 真

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現実世界の椅子の上に立ち、さらに飛び降りる菊地 真

C:現実世界のダンサーがアイドルと一緒に踊る演出も「MR ST@GE!!」の大きな特徴でした。この演出は最初から決まっていたのでしょうか?

飯島:その点は1st SEASONの前に時間をかけて議論がなされました。最終的には、「そこにアイドルがいる」ことを強く感じられるステージにするため、アイドルと現実世界のダンサーに、一緒にパフォーマンスをしてもらおうという結論になりました。

遠藤:期待通り、この演出を見た瞬間から「刺さる」方が多くいたように思います。ユニットライブパートでアイドルたちだけが歌唱しているときは普段のゲーム体験の延長のような感覚だったけど、アイドルとダンサーの共演が始まった瞬間に「あれ!?」となり、「世界が変わった」と多くの人が語っていました。

▲ライブ中にポーズを決める双海姉妹とダンサー。向かって左のダンサーは双海亜美、右のダンサーは双海真美の髪型を真似ている


C:現実世界のダンサー、小道具などとアイドルがインタラクションする演出は、実在感を強く感じさせてくれましたね。菊地 真の主演回では、ステージ上に置かれた椅子に片足を乗せながら歌い、その後椅子の上に立ち、さらに飛び降りるというパフォーマンスが披露されました。「今、真が椅子の上に乗ったよね? 何が起こったの?」と、多くの「プロデューサー」が驚愕していましたが、このパフォーマンスが生み出された経緯も教えていただけますか?

遠藤:1st SEASON中の休憩時間に、如月千早がステージ上で座っている姿を見たJUNGOさん(演出家)が、「椅子に座る演出も有りじゃないの?」とひらめき、千早が現実世界の椅子に座って歌うパフォーマンスが生まれました。そんな感じで、リハーサル中のアイドルの姿がヒントになって、新しい演出が考え出されることも多かったです。

石田直秋氏(以下、石田):その発展版が、菊地 真のパフォーマンスです。でも、椅子の上に立ったり飛び降りたりするのは、椅子に座る以上に難易度が高かったです。真とモーションアクターさんとでは足の比率がちがうため、ステージ上の椅子と同じ高さの椅子を使ったキャプチャでは、自然なパフォーマンスにならないんです。そこで、ちょうどいい高さを測り、その高さの椅子の代用品を新たにつくり、それを使ってキャプチャするというアナログな対策で乗り切りました。

臨機応変に選ばれる衣装と、それに応じた「衣装合わせ」

C:「MR ST@GE!!」では「プロデューサー」のリクエストに合わせてアイドルが着替えてくれる一幕もありました。家庭用ゲームの『THE IDOLM@STER』のシステムがベースになっているからこそ、実現できたパフォーマンスだったのでしょうか?

飯島:そうです。家庭用ゲームで用意されている衣装やアクセサリーは全て身に着けられる仕組みになっています。1st SEASONではアクセサリーまでは着けられなかったので、2nd SEASONの直前に、土井に仕組みを追加してもらいました。そのことをBNEの勝股春樹P(※2)に2nd SEASONのリハーサル中に報告したら、「ぜひ着けましょう!」と言っていただき、当初の予定を変更してアクセサリーも身に着けてもらうことになりました。その効果は、思った以上に大きかったと思いますね。

※2 勝股春樹P:BNE所属の「MR ST@GE!!」のプロデューサー。勝股氏へのインタビュー「2次元アイドルが現実世界に!?THE IDOLM@STER MR ST@GE!!勝股Pの挑戦」「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!で広げたい、アイドルプロデュースの可能性」も本記事と合わせてご覧いただきたい。

土井:身に着けたアクセサリーの中には、すごく大きいものもあって、共演するダンサーさんに立ち位置を変えてもらったこともありました(笑)。いつもの立ち位置だとダンサーさんがアクセサリーにぶつかってしまうことにリハーサル段階で気付いて、振付師さんが変更をお願いしていましたね。

遠藤:双海亜美の「キリン」と、双海真美の「かっぱ」はインパクトがありましたね。こういうアクセサリーは双海姉妹じゃないと着けられません(笑)。ほかのアイドルは、アイドルらしい恰好をしていました。

▲PS4ゲーム『アイドルマスター ステラステージ』(以下、『ステラステージ』)のゲーム画面より、「キリン」のアクセサリーを身に着けた双海亜美【上】と「かっぱ」のアクセサリーを身に着けた双海真美【下】。特に「キリン」の頭部は、身に着けるだけで2頭身ほど伸びる。「双海亜美・双海真美 主演回(第一部)」では、このアクセサリーを身に着けた2人がハチャメチャなライブを展開してくれた


佐々木:でも、そのながれで翌日の主演アイドルだった高槻やよいは、「とら」のアクセサリーを身に着けていましたね。

▲「ステラステージ」のゲーム画面より、「とら」のアクセサリーを身に着けた高槻やよい。ゲーム中では「衣装」と、「頭」「体」「手」「足」の4ヶ所の「アクセサリー」を自由に着せ替えることができる。2nd SEASONでも、その日のアイドルのコンディション、演出、客席の「プロデューサー」の声などに応じて、臨機応変に衣装とアクセサリーが変わっていった


C:高槻やよいは、もともと「とら」のアクセサリーを身に着ける予定だったのでしょうか?

飯島:直前のリハーサル中に決まりました。前日に双海姉妹が「キリン」と「かっぱ」を着けたから、やよいも......というながれでした。衣装やアクセサリーは、その日の公演の雰囲気や、直前の「プロデューサー」の反響によって変えることも多かったですね。

石田:ゲームと同じように衣装やアクセサリーをすぐに変更できることはメリットでしたが、一方で、モーションアクターさんには「次に着るスカートはボリュームがあって形が崩れやすいので、上から手で押さえこむような動きはしないでください」といった注意点を伝え、実際に身に着けた上で、衣装やアクセサリーに合わせた動きの練習をしていただく必要がありました。それこそ本番が始まってからも、ユニットライブパートが展開している舞台裏で、一生懸命に練習していたんですよ。

C:普通のライブと同様、「MR ST@GE!!」にも「衣装合わせ」があったのですね。

石田:まさに「衣装合わせ」でしたね。

C:秋月律子の主演回のトークコーナーでは、「961プロダクション」(※3)所属の詩花の衣装「メルヘンリリー」が登場したそうですね。

※3 961プロダクション:『THE IDOLM@STER』シリーズに登場する、「765プロ」のライバル事務所。

土井:当日は詩花の誕生日(9月16日)でもあったので、「秋月律子に着せたい」という提案がメンバーのひとりから出されました。それを受けて僕の方で「メルヘンリリー」を含む2着の衣装を用意して、「プロデューサー」に選んでもらうことにしました。「プロデューサー」の多数決では「メルヘンリリー」が選ばれたのですが、律子が断固として拒んで、結局もう1着の衣装を着ていました。もう少しで着せられたのですが、惜しかったですね(笑)。

石田:だから次の律子主演回のトークコーナーでは、「961プロに衣装を返しに行く」という話をしていましたね。

土井:律子主演回は本当にいろいろありましたね......。

▲「MR ST@GE!!」のオペレーターブースでアイドルを見守る(写真右から)土井氏、飯島氏、佐々木氏


©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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「プロデューサー」も含めた
その場の全員でつくりあげたステージ

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「プロデューサー」も含めた、その場の全員でつくりあげたステージ

C:リアルタイムのライブやトークでは、映像と音声をいかに違和感なく同期させるかが課題だと思います。「MR ST@GE!!」では、どうやって課題を解決したのでしょうか?

遠藤:ライブの場合は、本来よりも少し早いタイミングでモーションアクターさんの動きをキャプチャしています。その結果を踏まえて、われわれアニメーターがアイドルに表情の指示を出します。そうして生成された映像が、少しのタイムラグを経て表示され、音声ともぴったり同期するのです。トークの場合は、声と動き、リアクションの結果を踏まえて、アニメーターがアイドルに表情の指示を出します。

C:つまり表情に関しては、ライブならほんの数フレームの先行、トークはほぼリアルタイムというわけですね。まさに職人芸としか言いようがない......。

遠藤:飯島と吉武は『アイドルマスター2』(Xbox 360/PS3対応、2011年発売)、私はXbox 360版の『アイドルマスター』(2007年発売)の頃から『THE IDOLM@STER』に関わっているので、「765PRO ALLSTARS」(※4)との付き合いは長く、彼女たちのことを熟知しています。だから「このアイドルだったら、こういうリアクションをする」という判断が悩むことなくできたのだと思います。

※4 765PRO ALLSTARS:「MR ST@GE!!」に登場した13人のアイドルたちによるユニットの名称。

石田:飯島や遠藤たち裏方の皆さんの息はピッタリで、奇跡のようなアドリブが何度も繰り広げられていましたね。

C:「双海亜美・双海真美 主演回」の第三部では、亜美が始めたソーラン節のような踊りを、真美も真似して踊り始める一幕がありました。その前の第一部、第二部では見られなかった動きでしたが、あれもアドリブですか?

遠藤:そうです。モーションアクターさんたちが「アドリブやっちゃうよ!」と言っているのが聞こえたので、飯島と私も呼吸を合わせてがんばりました(笑)。

▲【左】ダンス中にウインクをする双海亜美/【右】胸の前で両手を握る双海真美の仕草は、ゲーム中でもよく見られる


▲【左】トークコーナーで秋月律子になりきって喋る双海真美。声に合わせて、姿勢はもちろん、左手で眼鏡をもち上げる仕草までばっちり律子を真似ている/【右】モノマネの成功を喜ぶ双海姉妹


▲【左】トークコーナーで「プロデューサー」を指名するためのルーレットが回っている間、楽しそうにグルグル回り続ける双海姉妹。この動きはモーションアクターからの提案だったという/【右】デュオならではの、シンメトリーの振り付け


C:双海亜美のソロ曲の「トリプルAngel」は、ゲームだと「ぺたっと」という歌詞に合わせて自分の胸に手を当てて、胸の大きさを確かめる振り付けですよね。それが「MR ST@GE!!」だとお互いの胸に手を当てる振り付けに変わっており、2人で歌っていることを強く実感できました。

遠藤:ひとりだと、自分の胸に手を当てることしかできないですからね(笑)。あれは「MR ST@GE!!」の振付師さんがゲームの振り付けをリスペクトして、デュオならではのアレンジをしてくださったんですよ。

石田:先ほど土井が言ったように、秋月律子の主演回も印象的でしたね。キャストさんが、「プロデューサー」の見慣れた、いつもの律子をステージに立たせたいと希望されたので、「遠藤はXbox 360版の『アイドルマスター』からのプロジェクトメンバーだから、律子をよく知っているんですよ」と伝えたら「そうだったんですかぁ」とすごく安心した顔をなさったんです。遠藤に任せておけば、律子の声に合わせた、律子らしい表情にしてくれるだろうと、全幅の信頼を置いていましたね。

遠藤:こちらはだいぶハードルが上がったのですが、「お任せください」と伝え、その信頼に応えるべくがんばりました。「MR ST@GE!!」ではアイドルがリアルタイムで出演するため、キャストさんたちも何かしらの不安があっただろうと思います。律子は「テンションのダイナミックレンジ」が広いアイドルで、プンスコと怒った直後に、モジモジと恥ずかしがったりするんです。トークコーナーでは「プロデューサー」に対して「もぉ!」と怒った直後に、「でも、ありがとうございます!」という感じで照れたりしたので、その変化に付いて行くのは大変でしたが、やりがいがありました!

あるモーションアクターさんは「キャストさんの生の歌唱や声を聞くと、動きに熱が入る」と語っていました。周囲の熱演に刺激されて、全員のパフォーマンスに磨きがかかっていったように思います。

佐々木:律子は「音量のダイナミックレンジ」も広く、思いっきり熱唱することもあれば、モジモジと小声で話すこともあったので、口パク用の音声解析ツールの値をどこに設定するか、本番直前まで調整を続けていました(笑)。

C:キャスト、モーションアクター、アニメーター、プログラマー、「BanaCAST」メンバーなどが力を合わせることで、ステージのアイドルたちが最高に輝いたわけですね。

佐々木:それだけでなく「プロデューサー」の皆さんや、DMM VR THEATERのスタッフも含めた、その場の全員が「ステージにアイドルを立たせよう」という熱意を共有していました。

C:確かに、会場案内スタッフが来場者に「プロデューサーさん」と呼びかけたり、売店スタッフが当日の主演アイドルと同じ髪型をしていたり、秋月律子の主演回では眼鏡を着けていたりして、全員の熱意がしっかりと伝わってくるステージでした。

飯島:あるキャストさんは「みんなでつくりあげたステージだった」と語ってくれました。その言葉は、ずしんとくるものがありましたね。

▲「THE IDOLM@STER OFFICIAL Web」のBLOGに掲載された大千秋楽の写真。当日の主演アイドルだった高槻やよいだけでなく、ダンサー、公演スタッフ、DMM VR THEATERのスタッフなど、できる限りの関係者が持ち場を離れてステージに上がり、客席の「プロデューサー」に挨拶。「プロデューサー」たちは、持ち場を離れられない人も含めた、全ての関係者に鳴りやまない拍手をおくった。「大千秋楽でステージに向かって拍手していた『プロデューサー』の皆さんが、来場者席後方のオペレーターブースにも顔を向け、満面の笑顔で「ありがとうございましたー!」と言ってくださったんです。「こちらこそ!」と思いましたね。本当にありがたくて、涙が出ちゃいました」(遠藤)

ゲーム開発者による、これからのリアルタイムライブへの挑戦は?

C:「MR ST@GE!!」は、長年かけて蓄積されたゲーム開発の知見と、リアルタイムのライブだからできる挑戦と、皆さんの熱量があったから実現できたのだと実感しました。新たに発見したゲームとライブのちがいがあれば、教えていただけますか?

遠藤:サウンド担当の中川浩二(※5)が「モーションにしろ、サウンドにしろ、ゲームだと粗い部分を削り落とし、洗練させた状態でリリースしているけど、生(ナマ)の状態を出すだけでもこんなに良いんだね」と言っていたのが印象的でした。例えばダンスモーションであれば、動きのキレやメリハリを残しつつ、綺麗なシルエットになるよう整えています。「MR ST@GE!!」では、そういう過程を経ていない状態の動きをお見せできたので、より生々しさが感じられて刺激的だったと思います。

※5 中川浩二氏:BNS所属の『THE IDOLM@STER』サウンドプロデューサー。「MR ST@GE!!」でもサウンド担当としてクレジットされている。

C:そういったライブでの発見が、今後のゲーム開発に与える影響はありますか?

佐々木:ゲームの場合は「プロデューサー」の皆さんが繰り返しプレイしてくださるので、粗は取って、当たり障りのない状態に収束させがちです。でもプログラマーとしては、プロシージャルに生成されるライブシーンにも挑戦したいですね。アイドルにも調子の波があると思うので「毎回、ちょっとずつダンスがちがう」という仕組みも取り入れてみたいです。

C:今後「MR ST@GE!!」を発展させるとしたら、どういったことに挑戦してみたいですか?

遠藤:アイドルの影を表示させて、実在感や接地感を強化したいですね。

佐々木:「プロデューサー」が見慣れている絵から変わってしまう怖さはありますが、もっと立体感が出るようにシェーディングを改良したいですね。

C:「ヴァリアブルトゥーン」に代わる、新たなシェーダが誕生する可能性もあるのでしょうか?

佐々木:そうですね。アイドルと現実世界のダンサーが並ぶ「MR ST@GE!!」の場合は、普段のゲームよりも立体感を出した方がいいのではないかと思うんですよ。

飯島:では、新しいシェーダの名前を付けてください。

佐々木:「なんか......すごいトゥーン」で。

土井:「すごいトゥーン」(笑)。

C:高槻やよいちゃんが考えたっぽい名前ですね!

石田:指のキャプチャは、もっと改良したいですね。5本の指にマーカーを付けると位置情報が混在して手の形が崩れてしまうので、今は親指、人差し指、小指の3本に付けていますが、グローブを使った光学式以外のキャプチャを試してみるなど、技術研究をしつつ探っているところです。

飯島:今後、2人、あるいは3人が主演する回が増えていくなら、ゲームで実装されている「手つなぎ」「手合わせ」などもプログラマーに相談しながら実現させたいですね。ダンス中に接触できるようになると、「そこにアイドルがいる」感じがさらに強くなり、アイドルの魅力が増すと思います。

C:皆さん抱負は尽きないようですが、今後もチャンスがあれば、リアルタイムライブをやっていきたいですか?

飯島:「MR ST@GE!!」を通して、すごくチームの結束が強くなったので、ぜひまた同じチームで一緒にやっていけるといいなと思います。

遠藤:客席の「プロデューサー」さんたちがお礼を言ってくださった姿を胸に、次の機会までがんばろうという気持ちです。

土井:「次もがんばんなきゃ」という気持ちになれたことが一番の思い出ですね。

佐々木:私は「誰かの夢を自分の技術で実現したい」という思いでプログラマーになったのですが、「MR ST@GE!!」はその達成を強く実感できる仕事でした。......最初は巻き込まれた仕事だったのですが、今は「ぜひスケジュール空けますんで」という気持ちです(笑)。

石田:双海姉妹の共演は実現できたので、複数アイドルによるリアルタイムライブの可能性も出てきましたしね。

飯島:最終的には「765PRO ALLSTARS」の13人で、東京ドームでライブを!

C:期待しています。お話いただき、ありがとうございました。

▲2nd SEASONの会期中、DMM VR THEATERの入口に飾られていた看板の前でポーズをとる、(写真左から)佐々木氏、土井氏、飯島氏、石田氏。(遠藤氏は撮影時不在)


©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.