>   >  『FFXV』のゲームAIはどこまで進化したか? 書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~プログラマー編
『FFXV』のゲームAIはどこまで進化したか? 書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~プログラマー編

『FFXV』のゲームAIはどこまで進化したか? 書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~プログラマー編

メタAIはおばあちゃん

並木:『FFXV』での新たなキーワードとして、「メタAI」というものもありました。今回メタAIを作ってみてどうでしたか?

上段:仲間班で作っていたメタAIは、言い換えるなら「チームAI」だと思っています。プレイヤーが操作するノクティス(以下、ノクト)を除いた仲間3人のコントロールですよね。ノクトがピンチになったら誰が助けにいくか、みたいな。AIの1つ上の立場から状況を俯瞰して、誰を動かすかを決めていく。広いオープンワールドだと何が起こるかわからないので、そのような存在は必要になってくるんだと思います。

高橋:上段さんが言うところの「集団の知性」というやつですね。

上段「メタAIは集団の知性を作る力もある」というような話ですね。ただ、メタAIって定義があやふやで。さっきも「僕らが作ったメタAIはチームAIです」と言い直したくらいで。

例えば『Left 4 Dead』(2008)のように、どこで敵をスポーンさせるかを決めるAIディレクターというものがあったり、『ゼビウス』(1983)のように操作に応じて難易度を変えるものもあったりと。そういう動的なレベルコントロールもメタAIって言いますよね。だから言葉の意味が広いなと。

並木:ポイントは、なんでAIという言葉を使ったかですね。『Left 4 Dead』の例で言えば、「生理学的にどういう状況だと人が緊張するのか」というテストを重ねてでき上がったAIです。だからモンスターの量を出すことが目的じゃなく、プレイヤーの状態をコントロールすることが目的になっている。簡単に言うと、「おもてなし」なんだと思います。

高橋:それを動かすための根拠が知性だから、AIと呼ぶと。

並木:単なるゲームロジックの場合「すでにできているものをプレイヤーが遊ぶ」というニュアンスを感じます。でもそこに知性が出てくると、知性の方からプレイヤーに働きかけるような、逆のフィードバックが発生する。『Left 4 Dead』はそういうものを目指したかったのかなと。

並木: これからはもっと、同じようなものが増えると思います。音声入力もそうだし、モーション入力もそうだし、プレイヤーのインプットの幅が広がってくると、それに対してゲーム側がどう働きかけるかも複雑になってきます。だからスクリプト書いておしまい、みたいなものは減っていくんじゃないでしょうか。

高橋:少し話がずれるかもしれませんが、「メタAIって何?」と聞かれたときに思い出したことがあって。サンさん(サン・パサートウィットヤーカーン・パサート氏。現Luminous Productionsシニアゲームデザイナー)からメタAIの説明を受けたとき、サンさんはいきなり「メタAIはおばあちゃんなんです」って言い始めて。要は、実際には姿を見せないけど、困ったときに調整したり助けたりするような、見守ってくれている存在なんだと言うんです。

上段:当時、サンさんの中で「おばあちゃん」でたとえることが流行ってただけだと思うけど(笑)。一般的には神様にたとえられますよね。

高橋:僕としては、神様と言わないところにこだわりを感じました。俯瞰はしているけど、あくまで親しい存在なんだと。そう考えると、対象がプレイヤーじゃなくても、姿が見えない俯瞰したAIであれば、全部メタAIと呼んでいいように思いました。

並木:うーん、これは、分野の再定義が必要かもしれないよね。

上段:三宅さん(三宅 陽一郎氏。スクウェア・エニックス リードAIリサーチャー)に定義してほしいですよね。「メタAIはこれだ」って。

高橋:最後は投げてしまえと(笑)。

並木:キャラクターAI、非キャラクターAIだと、これからは後者の方が分野は広くなるから、収拾がつかなくなるかもしれない。ただ、カオスから色々生まれてくるので、そうしたらまた改めて再定義すればいいんじゃないかな。だから、まだ、ふんわりとした枠のメタAIでいいと思う。

上段:本当に、今はまだ発展途上ですね。

自社でAIツールを作る意義

並木:下川さんに聞きたいのですが、今回、新しく[AIグラフエディター]というAIシステムを作りましたよね。例えば、Unreal Engine 4でもビヘイビアツリーは作れますが、あえて自社で作る意義はどこにありましたか?

下川:柔軟性は高かったように思います。[AIグラフエディター]の制作者がそばにいて、好きなようにアレンジできるのはメリットだったのかなと。

高橋:それと、非エンジニアが使えるエディターだったと思います。GUIになっていたので、プランナーにも使ってもらえていたのではないでしょうか。

  • FFXVの[AI グラフエディター]では、「ビヘイビアツリー」と「ステートマシン」を共存させることが可能
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並木:柔軟性という点で、『FFXV』だと特に要望が多いじゃないですか。チームごとにこだわりがあって、仲間班、モンスター班、ニフル兵班とAIの責任者によって求めるものがぜんぜん違っていて。

高橋:その辺り、すべて下川さんが吸収してくれたんですよね。

下川:はい。ただ、忙しくなってくると対応しきれないので、それぞれのチームにどこか妥協してもらっていました。

並木:社内の意見としては色々あったけど、なんだかんだ言って検索ウィンドウからアイテムを全部検索できるのは、実はすごいことだと思います。生半可なツールではできないですよ。

高橋:色々なチームの様々な視点からの要望を聞いて、[AIグラフエディター]を調整していたようですが、それができたのも自前のエディターだったからなんだなと、今なら思いますね。

並木:普通なら諦めるところもサポートできましたからね。これからの課題としては、「高いスタディコストをいかに下げていけるか」「いかにツールの機能性を上げてよりよいものにしていくか」。僕の理想としては、公開してしまうのが1番スマートな解決策かなと思っています。

公開して、Unreal Engineのプラグインみたいな感じで使えるようにすると「実はこっちの方がいいんじゃない?」ってなる人がいるかもしれない。使ってくれた人は、スクウェア・エニックスの次のプロジェクトに入っていただいてもいいと思う。

高橋:公開すると、Web上で使い方とかを書いたり、調べたりするようになるので、Web上に知見が溜まっていきますよね。そこで生まれてくるものを考えると、ポジティブな話だと思います。

機械学習とゲームAIは相容れない?

並木:[AIグラフエディター]にもつながる話ですが、次は機械学習の話に移ります。『FFXV』ではモンスターの攻撃判定などがそうなのですが、開発にもAIが入ってくるようになりました。今までプランナーが一つひとつがんばっていた部分を、いかにスマートにしていくのかは今後の課題ですよね。それがAIとは限らないとは思いますが、もう一段階、インテリジェントな仕組みになってもいいのかなと。

高橋:部分的に機械学習を導入していくだろうと予感しています。一連の行動を作るときに、何から何まで機械学習でやるんじゃなくて、どの攻撃を出すかだけを機械学習でやるような。

上段:それがいいのかもしれないですね。今、AIを学習で作る研究をしていますが、どれだけ自動生成できたとしても、プランナーさんがそれをよしとするかは別問題なんです。プランナーさんがもっとこうしたいと言ったとき、学習で作っていると調整がきかない。微調整が難しいというのが、学習とゲームAIの相容れないところなのかなと思っています。

高橋:雰囲気を変えたいとか、パターンをもっと入れたい、みたいなときに困ってしまいますね。

上段:ただ強いだけじゃなくて、面白い動きが必要だから。

並木:それはモーションも似ているかもしれないね。今まではモーションの担当がしっかりと作り込んでいたから、そこを軽い気持ちで変えるとキレる人もいた(笑)。でも最近では、モーションをブレンドする手法が増えてきて、個々のアニメーションよりは全体で見たときの体験が重視されるようになった。大筋は意図的に作るんだけど、細かいところは柔軟にフィッティングしてくれる自動化システムみたいなものがあると、自由度が上がりそうだよね。

あとは四足キャラクターのモーションは大きな課題ですね。人間キャラクターのモーションは、モーションキャプチャが出てきたときに飛躍的にクオリティが向上したんですよね。それに対応するような技術が四足キャラクターでも出てくると変化がありそうです。

上段:四足の動物は簡単にモーションキャプチャができないってことですね。

並木:動物は意図通りに動いてくれないんだよね。犬とか馬とかを連れてきても、攻撃モーションをしてくれるわけがない(笑)。アクターさんに「熊と戦ってください!」とも言えないし(笑)。

高橋:カットシーンでも犬の登場シーンは何度も撮り直すって聞きますね。

並木:そう、コストが高いんだよね。動物の動きを物理的なパラメーターで生成して強化学習するようなことができると、クオリティが自然と上がっていくように思います。

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