モーションとAIの問題
並木:『FFXV』に限らない普遍的な話になりますが、AIモードの仕組みに関してはどうですか?
高橋:見た目のリアリティにこだわりを持っていたので、変な動きを許さないようなところが『FFXV』にはありました。特に「オープンワールドならでは」のものが多かったんですが、サンさんは「可能性に対する耐久性を上げるためだ」とおっしゃってました。色々な要素が詰め込まれたオープンワールドの場合、A地点からB地点まで行けと言ったときに、何が起こるかわからない中を進まないといけない。つまり、そこで起こる数々の問題に対して、AI的な判断をこなした上で行動しないといけなくなったということです。可能性に対して耐久性を上げる、とはそのような意味ですね。
並木:イベントの最中でも「ニフル兵に出会う」みたいなことが起こるようになったんですよね、最近のゲームは。イベントスクリプトで「ワイワイ語らいながら歩く」とか書いてしまうと、目の前に敵が現れたときに変なことになってしまう。AIには「できるだけ楽しく」という演技方針だけを与えておいて、ニフル兵がいたら「ここは慎重に」みたいに、状況ごとに対応させないといけない。
高橋:小さな例かもしれないのですが、[リード]AIモード、つまり道案内をしてくれるアンブラという犬型のキャラクターがいるんです。このアンブラは、道案内をしてくれているときにノクトたちから離れると、止まって待ち、振り向くはずだったんです。でも犬が座標移動せずに、その場で回転するのは無理なんです。以前なら足滑りしても回っていた部分ですが、フォトリアルになったからこその問題ですよね。そこで、次はちょっと移動しながら、こっちを向くようにしたんです。
すると今度は、離れたり近づいたりを繰り返したときに、アンブラがどんどん移動してしまった。でも、ある程度離れると、アンブラは元の場所にとことこ歩いて帰っていくんですね。これってAI的な判断なんですよ。その様子がかわいいということで、仕様でOKになりました。モーションの問題をAIが解決してくれた例の1つです。
並木:いい話だなあそれ。でも結局のところ「モーションや見た目をリアルにしていくと、知性も上がらないと自然に見えない」ということなのかもしれないね。
AIでナラティブを変えられるか?
並木:次はストーリーの分岐です。オープンワールドを作ってみて思ったのは、もう少し、マルチエンディングのような要素があってもよかったのかなと。
高橋:自由度は上がっているけど、ストーリーは一本道という話ですよね。なんでもできるけど、実のところはなんでもできる風なだけで、結果が変わらないという。
並木:今のゲームの主流は、一本道を作って、そこにサブストーリーをぶら下げて可能性がたくさんあるように見せているんだけど、実はやっぱり一本道になっている。空間に対しては自由度が上がったんだけど、時間軸やナラティブ体験に対して自由度は上がったかというと、必ずしもそうではない。
高橋:最近思うのは、クエストで結構な大事を解決しているのに、その世界に何も変化がないゲームが多くて、どこか物足りないってことなんです。AI的なアプローチで言えば、ストーリー分岐とはいかなくても、プレイヤーの行動が他の話に反映されたり、ナラティブ的な部分が変化するだけでも、ゲームがずいぶん進化するように思うんですね。
物語やクエストにならなくても、街で歩いている人たちの活気具合が変わるとか、人が街と街を行き来するようになるとか。メタAIと言えるのかもしれないですけど、街全体をコントロールするようなAIが作れないかなと考えています。
並木:レスタルムの楽しげな人たちが、みんなうつむいていたら確かに印象が違うね。
高橋:レスタルムも、占領状況が変わっているはずなんですけど、街の人の様子は変わらないんですよね。世界は滅亡に向かっているのに人は変わらない。そこを直すだけで、ストーリーが分岐しなくてもずいぶん印象が変わるのに、とは思っています。プレイヤーのがんばり次第で一人ひとりの様子が変わるようなものを、AIでやっていきたいですね。
下川:今でも物量さえあればできそうですが、コストがものすごいですよね。
並木:その開発量をいかにスマートにできるか、という話になりそうです。
高橋:あと改めて思い知ったのが、「人の配置は難しい」ということです。レスタルムの街で自動で配置されたNPCと、イベント作成者が配置したNPCって、自然さがぜんぜん違うんですよ。人が集まる場所や、人同士が会話するときの向きや距離感など、手置きの方が圧倒的に自然なんですね。ここをなんとかAIでできないかと考えています。
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高橋:これは三宅さんの紹介だったのですが、建築家で空間コンサルタントのヤン・ゲールさんが書かれた『建物のあいだのアクティビティ』(鹿島出版会)という本を最近読んだんです。この本では「どういう街づくりをすると、人は活気に溢れた行動をするか」「どういう人の活動が、活気あるように見えるか」みたいなところを論じているんです。このロジックをAIに応用できたら面白いなと思っていて。
並木:街の雰囲気を作るAIか。
高橋:モーションだけじゃなくて、NPCを正しい座標で正しい向きに置くだけでも、雰囲気はずいぶん変わるのでは、ということです。
並木:いかにも暗い街をまず作っておいて、次に普通に作るような明るい街に変えるだけでも、ガラッと変わりそうだよね。
高橋:その2ステップくらいだったら手置きでもできると思うんです。でもその間をシームレスに作っていくとなると、手置きではできません。モーションを作るとなると大変ですが、配置の話だけだったらAIを導入すればできそうですよね。正しい配置の規則性はなかなか難しいかもしれないですが、でもやりたいんですよ。
並木:人間の知性というよりは、街の知性みたいな話だよね。
高橋:実際にそうなんです。ヤン・ゲールさん的には、街が先にあって人の活動を決めていると。入口と入口の密度を上げることで、人の活動が活発になるとか、ニューヨークのブロードウェイは人だけが通れるようにして活性化させたとか。色々な話があっておもしろいんです。
並木:人間が主体的に決めたように見えて、街に支配されていると。では、その人を支配する街をさらに自動生成したいよね(笑)。
上段:人間を支配する街、さらにそれを支配する人間、みたいな(笑)。
広がった可能性をAIで解決したい
並木:それでは締めに入っていきましょう。『FFXV』の反省点としては、もう少し開発チーム間のコミュニケーションがあるとよかったのかもしれないということですね。一つひとつのクオリティは高かったけど、もっとモンスターと仲間のインタラクションがあってもよかったと思う。
高橋:それぞれが独立した動きをしていましたよね。
並木:今回は「尖る」というコンセプトだったから、例えば、街の人のクオリティそのものはかなり上がったんだけど、そもそも街の総数を上げられなかったなって。
仲間も4人いるけど、もっと出会いの機会があってもよかった。女の子も欲しいし。でもトータル8人のパーティで、7人から任意の3人を選んでパーティを作る、みたいになったら、コンビネーションが単純計算で35倍です。『FFXV』の35倍のイベント量を作らないといけないんですが、どう解決しましょうか? というのが我々の課題です。
高橋:広がった可能性をAIで解決したいってことですね。
並木:ゲームエンジンのLuminous Studioも含めていいものにはなってきたので、精度をさらに発揮させるにはどうすればよいかということですね。「海原雄山を満足させるために、もっと洗練させないといけない」と思います。
上段:海原雄山(笑)。最後は結局それなんですね(笑)。
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