スクウェア・エニックスが最新技術を結集し、開発した『FINAL FANTASY XV(以下、FFXV)』(2016)。本作ではゲームのストーリーを描く以上に、主人公を取り囲む仲間や街の人々を、いかに人間らしく作るかに力が入れられている。書籍「FINAL FANTASY XV の人工知能- ゲームAIから見える未来 -」の発売を記念したAIスタッフの座談会第2回では、ゲームデザイナーとアーティストに『FFXV』に込めた思いを語っていただいた。

TEXT_安田俊亮 / Shunsuke Yasuda
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、高木 了 / Satoru Takagi
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

※本記事は、「FINAL FANTASY XV の人工知能- ゲームAIから見える未来 -」の一部記事をWeb用に再編集したものです。

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  • FINAL FANTASY XV の人工知能- ゲームAIから見える未来 -.
  • FINAL FANTASY XV の人工知能
    - ゲームAIから見える未来 -



    著者:株式会社スクウェア・エニックス『FFXV』AIチーム
    定価:3,200円+税
    発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
    サイズ:B5判/4色
    総ページ数:248
    発売日:2019年5月下旬
    ISBN:978-4-86246-446-0
    © 2016-2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA

『FINAL FANTASY XV』 2 Year Anniversary 記念映像

気づかれなかったら成功という仕事

遠矢 司氏(以下、遠矢):『FFXV』のAIで印象的だったのは、仲間がプレイヤーを追い越して走るところですよね。オープンワールドというどの方角に移動してもいいゲームで、プレイヤーは自由に走っているにも関わらず、仲間がプレイヤーを追い越したり、プレイヤーの横を走ったりするという挙動は新しいと思いました。


  • 遠矢 司/Tsukasa Toya
    スクウェア・エニックス 第一開発本部 ディビジョン1 ゲームデザイナー

    『FFXV』ではリードゲームデザイナーとして開発に従事。ニフルハイム帝国チームのリーダー。FFXVダウンロードコンテンツ「エピソード プロンプト」ではゲームデザインディレクション、「エピソード イグニス」ではシステムディレクションを担当。大阪芸術大学卒

サン・パサートウィットヤーカーン・パサート氏(以下、サン):気に入ってもらえてよかったです。主人公の後ろについてくるのではなく、一緒に横に並んで走ることは自分の中でもブレイクスルーだなと思っていました。ゲームキャラクターって、今までは目標を達成するための手段に過ぎなかったんですよね。特に戦闘のためのキャラクターは、敵を倒すという目標が明確ですので、キャラクターAIは作りやすいです。

ところが、今回の仲間キャラクターは人間らしさが大事で、ただ敵を倒すための駒ではない。だから作るのは難しかったです。横に並んで一緒に歩く行動は、目標らしい目標がありません。その分、他のゲームにはあまりない「温かさ」を感じられるのかなと思っています。


  • サン パサートウィットヤーカーン パサート/Prasert "Sun" Prasertvithyakarn
    Luminous Productions シニアゲームデザイナー

    『FFXV』ではリードゲームデザイナーとして開発に従事。主にAI仲間キャラクターの体験(彼らの思考/言葉/挙動/演出)の設計。またAIスナップショットなどのAI関連システムも担当

遠矢:プレイヤーにはすごさがあまり伝わらないかもしれませんが、普通の人間だったら、自分より前に歩いたり横を歩いたりするのは当たり前ですもんね。

サン:僕も松尾さんもそうなのですが、人間を作る専門のゲームデザイナーやアーティストって、良い作品を作ると逆に、誰にも気づいてもらえないんです。ミスしたときほどよく覚えられる(笑)。上手くいくほどスルーされるのは、もどかしいところではありますね。

松尾祐樹氏(以下、松尾):キャラクターの表現って面白くて、「悪目立ち」って言葉があるくらい誇張や簡略化の仕方を間違うと、変にプレイヤーの目に入ってしまうことがあると思うんです。そこをいかに回避するかっていうのは、僕らの大きな課題でした。


  • 松尾祐樹/Yuuki Matsuo
    Luminous Productions 3Dキャラクターアーティスト

    『FFXV』では3Dキャラクターアーティスト兼プランナーとして開発に従事。3Dモデル作成からゲーム実装、AIの調整などNPCに関係する広い範囲を担当

サン:例えば「話すときにどこまで首を曲げるか」って誰も気にしていません。でも本当は、ちょっとだけ首を動かすのが自然なんですね。そういう、誰も気づかないところを誰も気づかないように搭載するのは、本当に苦労します。1度バグであったのは、「周りのキャラクターがノクティス(プレイヤーが操作する主人公。以下、ノクト)をじっと見つめてしまう」というものです。これは鳥肌が立つくらい気持ち悪いものでした。それぐらい、一発でわかってしまうものなんです。

遠矢:自然な振る舞いということですね。松尾さんが担当されていた箇所に「街の群衆」がありますね。印象的だったのは、街を散策していた群衆が色々なスポットに来ると、その場所にマッチした行動をとることでした。

例えば、椅子があったらそこに群衆のNPCが座りに行く。それで座ったら、他のキャラクターもそばの席に座ってきます。過去のゲームにおいて、散策する群衆NPCと定点で行動をとっているNPCは、それぞれ別に制御するのが一般的でしたよね。

松尾:『FFXV』の開発で街のリーダーからずっと言われていたのは「人をリアルに描くということは、街をリアルに描くこと」というものでした。そこで実際に街を観察したときに、人って色々な場所に行き、着いたところで「何か」をするのが普通だと思ったんです。なのでそこを追求しようと。

椅子の例だと、NPCが椅子を見つけたらそこまで歩いて座り、そうしたら友達が来て、彼らが2人とも座ったらご飯を食べ始める。このようにして、現実にあることをトレースしていったんです。そうやって詰めていき、リアルさを出していきました。

状況によって変わるキャラクター行動。1人のときは沈んで座っているが(左)、2人になると飲みながら会話をするようになる(右)
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サン:街に出て、人間の行動を観察したんですね。

松尾:とりあえず、街歩きの動画は色々見ましたね。新宿の街も結構歩きました。

サン:僕も原宿に行って、友達同士がどうやって歩くのかをひたすら見たんですよ。それは取材の日だけにとどまらず、もはや趣味になってしまって(笑)。

松尾:わかる。職業病みたいなものになってね。

サン:街を歩いて、ひたすら人間を見て。「どうやって行動するのか」「どこを向くのか」「その時の距離感」「前を歩くパターン」「横を歩くパターン」「主導権を持っている人」「円になって集まるグループ」「円にならないグループ」。気づいたらそういうところを見ていて。

松尾:よさそうなネタを見つけると、「これできない?」ってエンジニアに相談するんだけど、盛りすぎて「できるわけない」と怒られる(笑)。

サン:街を歩いていても、休むことができないんですよね。人の動きがデータで見えているし、「あの挙動、不自然だな」とか「この空、偽物っぽいな」とか思いながら。全部本物なんですが(笑)。松尾さんはモデラーという立場ですから、観察は見た目とか、例えば皮膚とかそういうところも見ているんですか?

松尾:そうですね。どこまでやるかはゲームの設定によるから、こだわらないようにはしてるけど。街の人ってどういうファッションで、そこから目立つ人ってどういうことなんだろうとか。本当に職業病で、勝手に分析しています。

キャラクターに人間らしさを吹き込む

遠矢:『FFXV』のルックはよりリアルな見た目に近づき、キャラクターの演技もリアルに近づいたと思います。一方で「FINAL FANTASY」というIPを考えたとき、キャラクター性も大事になります。そのバランスで気になったことはありますか?

サン:これは本当にいい話題です。僕は、リアルさ100%の人間を作る作業と、リアルさ95%のキャラクターを作る作業はぜんぜん違うと思っているんです。『FFXV』では、人間らしいところ、人間らしくなくていいからキャラクター性を出して目立たせるところを、明確に分けています。松尾さんもそうですよね。

松尾:そうね。でも「FF」をやっているときはデフォルメを強く出そうと意識しているから、「フォトリアル」だとそもそも思っていないですね。

サン:見た目もそうですよね。本物の人間というよりは、キャラクター性が高いんですよね。

松尾:わかりやすいのが、ゲーム中でスナップショットを撮るじゃないですか。それを見たときに「大多数の人が写真だと思えるか」が、1つの基準だと思うんです。『FFXV』のは写真じゃないから、フォトリアルではないのかなと。

遠矢:主人公たちの顔が見えるスナップショットはそうかもしれませんね。顔の話になりますが、NPCと主人公たちって印象が違いますよね。

サン:リアルさのパーセントが違うんです。ノクトたちはもっとキャラクターっぽい。

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松尾:そこは差別化しようと、アートディレクターともずっと話していました。ノクトたちはプレイヤーに気に入ってもらえて、目立たなきゃいけないから、ちゃんとキャラクタライズして目と頭に残るように設計しようと。一方で、街の人は目立ってもしょうがないから、どちらかというと背景に溶け込むように、少しだけリアルさを上げようという結果ですね。

サン:僕がとても気にしているのが、キャラクターの思考と行動をよりリアルにしなくてはならないということです。グラフィックがリアルになったとき、思考だけがキャラクターっぽい・デフォルメっぽい感じだとすごく気持ち悪いんです。でもアニメーションとボイスの数は限られているので、色々なトリックを使うしかありません。

例えば、マンガやアニメのキャラクターが言わないような生々しい言葉を言わせるんです。「トイレに行きたい」とか「食べると太る」とか、あくびやくしゃみも同じですね。そういうのってゲームの仕組みには何も貢献しないので、今までは作られてこなかったんです。でも、生々しい表現をあえて入れることで、「人間かもしれない」という錯覚を生ませたい。だからセリフも、僕らが本当にしているような会話を選んでいるんですよ。

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コントローラーを触らないとセリフを喋らない

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コントローラーを触らないとセリフを喋らない

サン:会話では、濃い印象のセリフと薄い印象のセリフを分散させることも大事です。何度も同じセリフを聞いていると「またか」ってなりますからね。もしセリフが5個あるのだとしたら、1つはものすごい濃いセリフ、もう1つは次に濃いセリフ、あとの3つは何回聞いても記憶に残らないような印象の薄いセリフ。それくらいがちょうどいいバランスかなと思います。

遠矢:ボイスを大量に使えたらまた話が違うのでしょうが、収録にもやはりコストがかかりますからね。

サン:濃さを考慮した上でのリソースの分散については、キャラクターモデルを作るときも一緒のはずです。どの街にも同じイケメンがいたら、プレイヤーは覚えちゃいますからね。

松尾:でも顔については、整っているほど人の記憶に残りにくいところはあるんだよね。同じ人種をたくさんモンタージュして作る平均顔っていうのがあるんだけど。あれってすごく整っている割に、記憶には残らないんですよ。だから、街を作るとき、モブキャラクターは平均顔を資料にするようにしています。

サン:それは面白いですね。

遠矢:『FFXV』のNPCって、ちょっと顔が濃い人が多いですよね(笑)。

松尾:街ごとに差をつけようとすると、ゲーム画面から伝わらないことがあって。もう少しだけ差をつけようと進めていったら、やり過ぎちゃったんです......。

遠矢:想定した人種があるんですか。

松尾:場所によって北欧に寄せたり、色々な人種が混ざっている国にしたりと。国ごとに人種のモチーフは変えていました。

遠矢:ダスカ地方の人は濃い顔の人が多かったなという印象が残ってます。オルティシエは欧米っぽい人が多いですが、逆に印象が薄いですね。ゲームでよく見る顔だからなのかもしれませんが。

松尾:見慣れた顔なんだと思います。そういう印象を持ったということは、僕の狙いは少なくともずれていなかったのかなと。ただ、やり過ぎただけで。

サン:僕も松尾さんも同じ苦労をしていますね。使い回すものはあるんですが、それに気づかれないようにします。でも、誰かの記憶にまったく残らないのも意味がないので、ちょうどいいところで記憶に残すという、そのせめぎ合いなんですね。バランスをひたすら調整していく感じです。

遠矢:プレイヤーに伝えるワンポイントも考えていくと。

サン:魅力の伝え方として大事なのは、プレイヤーが見ているときに、キャラクターの一番いいところを見せることです。結局リソースが限られていますし、プレイヤーが見ていないときに、1回しかできない面白いことをやってしまっては、もったいないんですよね。

例えば、ゲームの中で歩いていたら、「暑い」とか「ジャケットを脱ぐ/脱がない」とか話すんですね。あれはプレイヤーがコントローラーを握らなければ再生しないようになっています。元々はタイミングをランダムにしていたのですが、僕がお手洗いに行って、戻ってきたら勝手に会話をしていたんです。それが気持ち悪くて......。確かに生きている感じはするんだけど、何か違うなと。それからはこだわって、プレイヤーがコントローラーを触って初めて演技をするように変えました。

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遠矢:コントローラーを置いていてもモーションはあるので自然なままですが、聞かせたいボイスは鳴らさないようにする、ということですね。

サン:「ゲームを自然にする底上げ系のリソース」と「ゲームの価値を上げるための面白いリソース」は、僕の中で全然違う枠です。底上げ系はいつやってもいいし、覚えてもらわなくてもいい。でも、自然に見せられた上で面白いものが激しく入ると、とても尖ったものができるんです。この落差が中途半端だと、魅力ある面白いものはできないんじゃないでしょうか。

松尾:サン君の施策って、すべて「仲間感」を出すためにやっているのかなって聞いてて思ったよ。フォーメーションでプレイヤーの周りを走っていくのもそうだし。コントローラーを置いて、帰ってきたときに仲間が話していたら「疎外感」があるよね。そこをすごく大事にしていたんじゃないかな。

遠矢:疎外感ってすごく面白いですね。プレイヤーが5人目の仲間みたいな。一緒に旅をしている感覚ですね。

サン:松尾さん、いいことを言いますね。僕が作っているものを僕以上に理解していて素晴らしいです。僕が感じた「気持ち悪さの正体」ってそれかもしれない。一緒にいたいっていう気持ちですね。

松尾:気づかれないファインプレーってやつです。僕も結構デバッグしたけど、そこまでは気づかなかった。まあ、僕らは基本的にコントローラー置かないですからね(笑)。

サン:プレイヤーでも気づかないマニアックな要素が、たくさん入っていると思いますよ。

同じキャラクターを生成させないAI

サン:松尾さんに聞きたいのですが、街の人口分布ってどうやって決めて、実現しているんですか?

松尾:意外と簡単で、最初のプランニングの段階で世界地図があるでしょ。そこに当てはめていくだけなんです。まず人種は、海を挟んだ大陸で分けようって決める。北の方は寒いから、現実の寒い国の人間は「これだ」と決めたりして。次は地域の単位になってくるんだけど、それはどちらかというと「こういう街にしたい」というコンセプトを聞いて決めていく。一番わかりやすいのはレスタルムかな。あそこは女性が強いから働く人は女性にして、人口も女性の方を多くして。そこは企画があればすぐに決められると思います。

サン:そういう仕組みがあるんですよね。男女比率とか配置とか。

松尾:あります。この街の女性は10人中何人、みたいなものをスプレッドシートソフトで起こして、その先で彼らが何をするかはAIがやってくれるものですね。

サン:いいですね。僕が思っているのは、メインキャラクター以外のキャラクターがたくさんいるときは、AIで人間を量産できればいいなと。男女比や年齢構成も、大まかに描いたイメージからAIがいい感じに作ってくれたら、いい未来だなと。

松尾:『FFXV』では、比率と配置まではできていたけど、一人ひとりどう違うかは手作りしていたんです。その先もAIができるようになるといいですね。

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サン:身長はどうしているんですか。ああ、同じか。

松尾:そこは技術的に厳しかったんです。けれど、カメラが引いているかどうかで、何が重要かは変わってくると思う。身長は、カメラが寄ったときにプレイヤーと比較して、初めて気づくことも多いかなと。

サン:そうですね。印象としては、服の色と髪型が先にくるんじゃないでしょうか。

松尾:次に体型かな。

サン:あと最近思うのは姿勢です。

松尾:確かに、大事だよね。

サン:座り方1つでも、骨盤が立っているかいないかで全然違うんですよ。そこを差別化できるようにしたいですね。そうじゃないと、街のキャラクターってすべて同じに見えちゃうんです。

松尾:印象に残さないようにする理由の1つは、リソースが限られているので、同じ人が出てきちゃう可能性があるから。

遠矢:完全にランダムだったら問題ないってことですか。

サン:「ランダム」って信頼できないんですよ。完全ランダムにすると、結構同じものが横に出てくる。ランダムって言いながら、裏のAIが絶対に被らないように制御しないといけないんです。

松尾:そこは『FFXV』でもエンジニアさんに頑張ってもらったところですね。生んだキャラクターの周辺にエリアを作って、そこに同じキャラクターを配置しないAIをまず組んでもらったんだよね。

遠矢:本当に? それすごいね。

松尾:ちょっと想定外だったのが、生成した時点では違うところにいても、あの人たち勝手に歩くんですよ。だから、うっかり会ってしまう(笑)。次に超えなきゃいけないのはここだよねって話をして。

サン:アニメーションが揃うのも気持ち悪いんですよね。ループがシンクロした2人が並んで歩いていたりして。

遠矢:そこは先程の姿勢が入ってくると変わってきそうですね。同じモーションでも姿勢が違ったり、大きさとか歩幅が違ったり。それで差が出る。

サン:やっぱり未来は自動生成ですよ。

松尾:世間的にも流行っているジャンルですからね。アニメーションの自動生成。

遠矢:色々と自動生成できたら制作者やコストに余裕ができるので、少ないボイスをやりくりすることなく、クリエイティブな方向に力を注いで、理想のゲームに近づいていけるんじゃないかなと。

サン:意外ですね。遠矢さんは「ボイスも自動生成すればいいじゃない」って言い出すかと思いましたが。

遠矢:(笑)。まあ、それはもうちょっと先の技術じゃないですか。

サン:今はロボットの音声だったらいけるんですが、『FFXV』みたいなキャラクターボイスの生成はまだ難しいですね。

松尾:どこがネックなの?

サン:感情です。ニュース原稿を読むのは人間かどうかわからないくらいまで来ているんですが、感情が入ってくるともう不自然です。そこが超えられなくて。

遠矢:声優さんに同じセリフを色々な感情で言っていただくと、本当に幅が広くて。さすがプロだなって思います。AIが声優さんのお仕事を取るのは、まだまだ早いですよね。

将来のゲームデザイナーはAIを使う職業に?

サン:仕事を取るという話で言うと、AI的には人の仕事を奪っていくしか未来がないですよね。

遠矢:我々ゲームデザイナーとしては、AIに任せてもいいところと、AIが行うには難しいところがあるので、AIを上手くコントロールしていくことが大事かなと思いますよ。

サン:それって、すごくキーになるところです。AIに任せるんじゃなくて、AIをコントロールするのがすごく重要で。AIが発達したら、AIが人の仕事を奪うとは言っても、結局は「そのAIを正しく使う仕事」が出てくるんですよ。必要なスキルは変わりますが、仕事は絶対になくならない。だから、次の時代のゲームデザイナーは、AIのことを理解して、AIを上手く使うという職業になるかもしれないですね。

遠矢:AIを上手く使って、自動生成でキャラクターを思い通りに生み出せるようになったとして、目指すべき「リアルなゲームキャラクター」とはどういうものだと思いますか。

松尾:今、ディープラーニング(深層学習)で複数の写真を合成して、別の人間を作る技術があるじゃないですか。これは、3Dにも置き換えられると個人的に思っています。だから、「いくつか指標となるようなものを作っておけば、自然に人ができていく」のが、これからのキャラクターの作り方になっていくのかな。これは、今後取り組みたい分野ではありますね。

サン:どう行動させるかはゲームの方針次第ですね。リアルさが面白くないときもありますから。技術的には完全にリアルな人間ができたとしても、リアルは8割、キャラクターっぽいのが2割という選択肢は、ずっと残るんだと思います。

松尾:やり方は変わるかもしれないですね。ゲームはどちらかというとアニメやマンガに近いものがあったけど、ドラマや演劇みたいな実写ベースのコンテンツの勉強も、これからはしていかないといけないのかなと思います。

サン:AIが出てくると難しいのは、どうやってクオリティコントロールするかです。要はデバッグなんですけど。昔のRPGなら、敵の行動パターンの仕様書はすぐに書けたのに、『FFXV』では「行動パターンを教えてください」と言われても、複雑過ぎてどう説明していいかわからない。1度だけ「主人公がピンチになったとき、3人の仲間の誰が救助してくれるんですか」と質問があって。それをA4で1ページくらい書いた記憶があります。最も近い場所にいて、誰が見ていて、etc..と条件をまとめてQAさん(品質管理エンジニア)に渡したんです。そうしたら、2度と質問が来なくなって(笑)。

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サン:じゃあどうするのかってなったら、もう一旦プレイヤーになってもらい、人間的におかしい行動があったら言ってくださいと。できたできないではなく、プレイヤーとして「これはなし」と思うものだけを言ってもらう、という考え方になっていったんです。

遠矢:バグというよりも、本当にクオリティという意味でのQAですよね。エネミーでも「攻略方法が固定化されていないか」「戦って面白いかどうか」を指標にしました。もちろん見た目のバグはすぐにわかりますが、AIの挙動に関しては、面白いか面白くないかみたいな観点で意見をもらっていましたね。

サン:その次に来るのは、専門職とAIのバトルですね。例えば僕が「いいアートを描くAI」を作りましたと言ったときに、誰がそのクオリティをコントロールするのかと。

松尾:ゲームは失敗できないからね。

サン:特にアートはこだわるところですからね。そうなったら、張本人のことをAIに学習してもらうしかないかなと思います。僕のAIが松尾さんを満足させるためには、松尾さんからAIの作ったアートに毎日点数をつけてもらうと。それをずっとやっていったら、どんどん松尾さん好みのキャラクターが作られていく、みたいな。

松尾:それは僕の趣味がバレるからやだな(笑)。

サン:アートディレクターならそれでいいんですよ(笑)。

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イケメンかどうかは髪型で決まる!

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イケメンかどうかは髪型で決まる!

遠矢:次に聞きたいのは、格好よさについてです。「FF」は格好いい方向に寄っていると思うのですが、キャラクターの格好よさって、特に松尾さんはどのように定義していますか。

サン:それは気になりますね。イケメンのレシピ。こうやったら格好いいキャラクターになるんだよという。

松尾:まず目力が強いこと。ノクトは顔半分を切って目だけ見ても、ノクトだってわかるんだよね。それが鋭いほどイケメンって感じになるのかな。アニメーションは関係なくて、そういうモデルということ。これは「FF」の文化かもしれない。

サン:「目の力が強い」という素材から作っているんですね。

松尾:まつ毛の生え方とかで、その具合を変えるんだけど。あとそうだ、重要なことを忘れていた。イケメンかどうかって、「髪型」が大事。髪型がイケメン風になったら、みんなイケメンだ。

サン:髪型......。すごく衝撃的なことを言いましたね。

遠矢:確かに、すごく整ってる。

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松尾:かっこいい髪型に合わせて顔を調整するから、自然とイケメンになるんじゃないかな。

サン:目が大事っていうのはわかるんですよ。でも髪の毛がよければ何でもOKなんですね。

松尾:サン君だって、髪の毛大事にしてるでしょ?

サン:うっ......。今日頑張っていませんでした。すみませんでした。反論する言葉もございません。

遠矢:街で見かける人とか会社の中でも、「FF」っぽい髪型の人ってたまにいますよね(笑)。

サン:髪型で言うと、ゲームの中で雨が降ると髪型がちょっと崩れるようにアーティストさんにお願いしたんですよ。で、これは実現できなかったんですが、やりたかったことがあって......。「ワックス」をアイテムとして出して、それを使うと崩れていた髪型がシュッって一瞬で戻るっていう。でも、上の方に提案したら怒られました(笑)。

松尾:それでCM作れますね。

サン:余計な話でした(笑)。格好いいキャラクターに話を戻します。性格やセリフで言うと、やっていることは逆なんです。アニメやマンガ的な格好いいセリフって日本では確立されているので、力を入れなくてもなんとかなっちゃいます。だから、僕の仕事は格好いい方向に行き過ぎるのを抑え、ギャップを作ることなんです。

ポイントは「普通感」。普通っぽい感じを入れることで、キャラクターじゃなく人間だなって感じられると逆に格好よさが出てくるんですね。ノクトが何で格好いいかと考えると、プリンスでクールであることもありますけど、意外と普通の若者だねってところだと思うんです。親近感というか。すごく格好いいのにテレビゲームがやりたかったり、ベタな話題をしたり、庶民的なことを入れてバランスを取ることをやればやるほど、格好よさが際立ってくるイメージですね。

松尾:確かに、ノクトが野菜嫌いなのはよかったよね。どこの家の子、インソムニアの王子でもそうなんだって。

サン:普通をちゃんとブレンドすることで、リアルになると思っているので。メインストーリーのセリフはすごく凝っていますが、何もないときの挙動の方がゲームとしては多いんですよ。格好よさしか降ってこないと、偽物っぽいものができちゃうなと思っています。

遠矢:普通っぽさをわざといれるんですね。

サン:キャラクターモデルでも、すべてが格好いいパーツしかない人間だと嫌じゃありませんか?

松尾:キャラクターモデルの場合、技術が進んで現実を取り込めるようになってきたから、僕らが格好いい造形をするというよりは、自然な格好いい人を探していくようになるんじゃないかな。

サン:できないかもしれませんが、脳波とか思考とかをコピーしてゲームキャラクターにするとか、好きなことを喋ってもらって録音して、セリフをAIで生成するっていう時代が来るかもしれないですね。

松尾:そうなったら、次の仕事を探さないといけない。

サン:大丈夫です。AIのディレクションがありますから(笑)。

エモーショナルさこそ人間の魅力

松尾:反省点だったのは、チーム同士でお互い何をやっていたか知らない瞬間がありましたよね。それはこれから反省しないといけないと思っています。

サン:コンセプトは違ってもいいんですよ。でも同じ仕組みの上で作りたい。

松尾:今回のキャラクターの描き方では、「思考」が先に来て、「空間把握」が入って、「挙動」として起こってきたことをお互いにディスカッションして、その中からどこを抽出するかをコンテンツに応じて切り替えていきました。これがこれからの作り方なんだなって。

サン:時代に合った作り方があるんですよね。この仕事は20年、30年経つと、やり方がどんどん変わっていきます。いい意味で、熟練にはなりません。

松尾:技術と追いかけっこしているよね。延々と。

遠矢:次のプロジェクトですけど、何か目指しているものはありますか?

松尾:個人的にはまだまだ詰めるところがいっぱいあると思っています。例えば机があったら、AIは机を勝手に認識して、その高さは何十センチというところまでを理解すべきだと思うんですよね。

サン:僕が思うには、どの時代でも「ぬくもり」が重要だと思っています。エモーション、ぬくもりがなかったら人間は人間にならないので。高い技術と言うと堅いものを想像しますが、柔らかいものを作りたいですね。

遠矢:本書の内容を見て思ったのは、「振る舞い」というところなのかなと。人間やモンスターに、生命体らしく見える振る舞いをわざと入れることで、より自然に見せているところがポイントだと。

サン:「生命体」はいい言葉ですね。生命体ってエモーショナルなんです。それはぬくもりであって。例えば身だしなみが綺麗なキャラクターと、ズボンがちょっと濡れているキャラクターがいたとき、後者の方がエモーショナルなんです。この差を大事にしていきたい。エモーショナルさこそ人間の魅力だと思うので、何を作るとしてもここは大事にしたいなと思っています。



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