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キャラクター性とリアルさのバランスをどう取るか? 書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~デザイナー編

キャラクター性とリアルさのバランスをどう取るか? 書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~デザイナー編

コントローラーを触らないとセリフを喋らない

サン:会話では、濃い印象のセリフと薄い印象のセリフを分散させることも大事です。何度も同じセリフを聞いていると「またか」ってなりますからね。もしセリフが5個あるのだとしたら、1つはものすごい濃いセリフ、もう1つは次に濃いセリフ、あとの3つは何回聞いても記憶に残らないような印象の薄いセリフ。それくらいがちょうどいいバランスかなと思います。

遠矢:ボイスを大量に使えたらまた話が違うのでしょうが、収録にもやはりコストがかかりますからね。

サン:濃さを考慮した上でのリソースの分散については、キャラクターモデルを作るときも一緒のはずです。どの街にも同じイケメンがいたら、プレイヤーは覚えちゃいますからね。

松尾:でも顔については、整っているほど人の記憶に残りにくいところはあるんだよね。同じ人種をたくさんモンタージュして作る平均顔っていうのがあるんだけど。あれってすごく整っている割に、記憶には残らないんですよ。だから、街を作るとき、モブキャラクターは平均顔を資料にするようにしています。

サン:それは面白いですね。

遠矢:『FFXV』のNPCって、ちょっと顔が濃い人が多いですよね(笑)。

松尾:街ごとに差をつけようとすると、ゲーム画面から伝わらないことがあって。もう少しだけ差をつけようと進めていったら、やり過ぎちゃったんです......。

遠矢:想定した人種があるんですか。

松尾:場所によって北欧に寄せたり、色々な人種が混ざっている国にしたりと。国ごとに人種のモチーフは変えていました。

遠矢:ダスカ地方の人は濃い顔の人が多かったなという印象が残ってます。オルティシエは欧米っぽい人が多いですが、逆に印象が薄いですね。ゲームでよく見る顔だからなのかもしれませんが。

松尾:見慣れた顔なんだと思います。そういう印象を持ったということは、僕の狙いは少なくともずれていなかったのかなと。ただ、やり過ぎただけで。

サン:僕も松尾さんも同じ苦労をしていますね。使い回すものはあるんですが、それに気づかれないようにします。でも、誰かの記憶にまったく残らないのも意味がないので、ちょうどいいところで記憶に残すという、そのせめぎ合いなんですね。バランスをひたすら調整していく感じです。

遠矢:プレイヤーに伝えるワンポイントも考えていくと。

サン:魅力の伝え方として大事なのは、プレイヤーが見ているときに、キャラクターの一番いいところを見せることです。結局リソースが限られていますし、プレイヤーが見ていないときに、1回しかできない面白いことをやってしまっては、もったいないんですよね。

例えば、ゲームの中で歩いていたら、「暑い」とか「ジャケットを脱ぐ/脱がない」とか話すんですね。あれはプレイヤーがコントローラーを握らなければ再生しないようになっています。元々はタイミングをランダムにしていたのですが、僕がお手洗いに行って、戻ってきたら勝手に会話をしていたんです。それが気持ち悪くて......。確かに生きている感じはするんだけど、何か違うなと。それからはこだわって、プレイヤーがコントローラーを触って初めて演技をするように変えました。

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遠矢:コントローラーを置いていてもモーションはあるので自然なままですが、聞かせたいボイスは鳴らさないようにする、ということですね。

サン:「ゲームを自然にする底上げ系のリソース」と「ゲームの価値を上げるための面白いリソース」は、僕の中で全然違う枠です。底上げ系はいつやってもいいし、覚えてもらわなくてもいい。でも、自然に見せられた上で面白いものが激しく入ると、とても尖ったものができるんです。この落差が中途半端だと、魅力ある面白いものはできないんじゃないでしょうか。

松尾:サン君の施策って、すべて「仲間感」を出すためにやっているのかなって聞いてて思ったよ。フォーメーションでプレイヤーの周りを走っていくのもそうだし。コントローラーを置いて、帰ってきたときに仲間が話していたら「疎外感」があるよね。そこをすごく大事にしていたんじゃないかな。

遠矢:疎外感ってすごく面白いですね。プレイヤーが5人目の仲間みたいな。一緒に旅をしている感覚ですね。

サン:松尾さん、いいことを言いますね。僕が作っているものを僕以上に理解していて素晴らしいです。僕が感じた「気持ち悪さの正体」ってそれかもしれない。一緒にいたいっていう気持ちですね。

松尾:気づかれないファインプレーってやつです。僕も結構デバッグしたけど、そこまでは気づかなかった。まあ、僕らは基本的にコントローラー置かないですからね(笑)。

サン:プレイヤーでも気づかないマニアックな要素が、たくさん入っていると思いますよ。

同じキャラクターを生成させないAI

サン:松尾さんに聞きたいのですが、街の人口分布ってどうやって決めて、実現しているんですか?

松尾:意外と簡単で、最初のプランニングの段階で世界地図があるでしょ。そこに当てはめていくだけなんです。まず人種は、海を挟んだ大陸で分けようって決める。北の方は寒いから、現実の寒い国の人間は「これだ」と決めたりして。次は地域の単位になってくるんだけど、それはどちらかというと「こういう街にしたい」というコンセプトを聞いて決めていく。一番わかりやすいのはレスタルムかな。あそこは女性が強いから働く人は女性にして、人口も女性の方を多くして。そこは企画があればすぐに決められると思います。

サン:そういう仕組みがあるんですよね。男女比率とか配置とか。

松尾:あります。この街の女性は10人中何人、みたいなものをスプレッドシートソフトで起こして、その先で彼らが何をするかはAIがやってくれるものですね。

サン:いいですね。僕が思っているのは、メインキャラクター以外のキャラクターがたくさんいるときは、AIで人間を量産できればいいなと。男女比や年齢構成も、大まかに描いたイメージからAIがいい感じに作ってくれたら、いい未来だなと。

松尾:『FFXV』では、比率と配置まではできていたけど、一人ひとりどう違うかは手作りしていたんです。その先もAIができるようになるといいですね。

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サン:身長はどうしているんですか。ああ、同じか。

松尾:そこは技術的に厳しかったんです。けれど、カメラが引いているかどうかで、何が重要かは変わってくると思う。身長は、カメラが寄ったときにプレイヤーと比較して、初めて気づくことも多いかなと。

サン:そうですね。印象としては、服の色と髪型が先にくるんじゃないでしょうか。

松尾:次に体型かな。

サン:あと最近思うのは姿勢です。

松尾:確かに、大事だよね。

サン:座り方1つでも、骨盤が立っているかいないかで全然違うんですよ。そこを差別化できるようにしたいですね。そうじゃないと、街のキャラクターってすべて同じに見えちゃうんです。

松尾:印象に残さないようにする理由の1つは、リソースが限られているので、同じ人が出てきちゃう可能性があるから。

遠矢:完全にランダムだったら問題ないってことですか。

サン:「ランダム」って信頼できないんですよ。完全ランダムにすると、結構同じものが横に出てくる。ランダムって言いながら、裏のAIが絶対に被らないように制御しないといけないんです。

松尾:そこは『FFXV』でもエンジニアさんに頑張ってもらったところですね。生んだキャラクターの周辺にエリアを作って、そこに同じキャラクターを配置しないAIをまず組んでもらったんだよね。

遠矢:本当に? それすごいね。

松尾:ちょっと想定外だったのが、生成した時点では違うところにいても、あの人たち勝手に歩くんですよ。だから、うっかり会ってしまう(笑)。次に超えなきゃいけないのはここだよねって話をして。

サン:アニメーションが揃うのも気持ち悪いんですよね。ループがシンクロした2人が並んで歩いていたりして。

遠矢:そこは先程の姿勢が入ってくると変わってきそうですね。同じモーションでも姿勢が違ったり、大きさとか歩幅が違ったり。それで差が出る。

サン:やっぱり未来は自動生成ですよ。

松尾:世間的にも流行っているジャンルですからね。アニメーションの自動生成。

遠矢:色々と自動生成できたら制作者やコストに余裕ができるので、少ないボイスをやりくりすることなく、クリエイティブな方向に力を注いで、理想のゲームに近づいていけるんじゃないかなと。

サン:意外ですね。遠矢さんは「ボイスも自動生成すればいいじゃない」って言い出すかと思いましたが。

遠矢:(笑)。まあ、それはもうちょっと先の技術じゃないですか。

サン:今はロボットの音声だったらいけるんですが、『FFXV』みたいなキャラクターボイスの生成はまだ難しいですね。

松尾:どこがネックなの?

サン:感情です。ニュース原稿を読むのは人間かどうかわからないくらいまで来ているんですが、感情が入ってくるともう不自然です。そこが超えられなくて。

遠矢:声優さんに同じセリフを色々な感情で言っていただくと、本当に幅が広くて。さすがプロだなって思います。AIが声優さんのお仕事を取るのは、まだまだ早いですよね。

将来のゲームデザイナーはAIを使う職業に?

サン:仕事を取るという話で言うと、AI的には人の仕事を奪っていくしか未来がないですよね。

遠矢:我々ゲームデザイナーとしては、AIに任せてもいいところと、AIが行うには難しいところがあるので、AIを上手くコントロールしていくことが大事かなと思いますよ。

サン:それって、すごくキーになるところです。AIに任せるんじゃなくて、AIをコントロールするのがすごく重要で。AIが発達したら、AIが人の仕事を奪うとは言っても、結局は「そのAIを正しく使う仕事」が出てくるんですよ。必要なスキルは変わりますが、仕事は絶対になくならない。だから、次の時代のゲームデザイナーは、AIのことを理解して、AIを上手く使うという職業になるかもしれないですね。

遠矢:AIを上手く使って、自動生成でキャラクターを思い通りに生み出せるようになったとして、目指すべき「リアルなゲームキャラクター」とはどういうものだと思いますか。

松尾:今、ディープラーニング(深層学習)で複数の写真を合成して、別の人間を作る技術があるじゃないですか。これは、3Dにも置き換えられると個人的に思っています。だから、「いくつか指標となるようなものを作っておけば、自然に人ができていく」のが、これからのキャラクターの作り方になっていくのかな。これは、今後取り組みたい分野ではありますね。

サン:どう行動させるかはゲームの方針次第ですね。リアルさが面白くないときもありますから。技術的には完全にリアルな人間ができたとしても、リアルは8割、キャラクターっぽいのが2割という選択肢は、ずっと残るんだと思います。

松尾:やり方は変わるかもしれないですね。ゲームはどちらかというとアニメやマンガに近いものがあったけど、ドラマや演劇みたいな実写ベースのコンテンツの勉強も、これからはしていかないといけないのかなと思います。

サン:AIが出てくると難しいのは、どうやってクオリティコントロールするかです。要はデバッグなんですけど。昔のRPGなら、敵の行動パターンの仕様書はすぐに書けたのに、『FFXV』では「行動パターンを教えてください」と言われても、複雑過ぎてどう説明していいかわからない。1度だけ「主人公がピンチになったとき、3人の仲間の誰が救助してくれるんですか」と質問があって。それをA4で1ページくらい書いた記憶があります。最も近い場所にいて、誰が見ていて、etc..と条件をまとめてQAさん(品質管理エンジニア)に渡したんです。そうしたら、2度と質問が来なくなって(笑)。

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サン:じゃあどうするのかってなったら、もう一旦プレイヤーになってもらい、人間的におかしい行動があったら言ってくださいと。できたできないではなく、プレイヤーとして「これはなし」と思うものだけを言ってもらう、という考え方になっていったんです。

遠矢:バグというよりも、本当にクオリティという意味でのQAですよね。エネミーでも「攻略方法が固定化されていないか」「戦って面白いかどうか」を指標にしました。もちろん見た目のバグはすぐにわかりますが、AIの挙動に関しては、面白いか面白くないかみたいな観点で意見をもらっていましたね。

サン:その次に来るのは、専門職とAIのバトルですね。例えば僕が「いいアートを描くAI」を作りましたと言ったときに、誰がそのクオリティをコントロールするのかと。

松尾:ゲームは失敗できないからね。

サン:特にアートはこだわるところですからね。そうなったら、張本人のことをAIに学習してもらうしかないかなと思います。僕のAIが松尾さんを満足させるためには、松尾さんからAIの作ったアートに毎日点数をつけてもらうと。それをずっとやっていったら、どんどん松尾さん好みのキャラクターが作られていく、みたいな。

松尾:それは僕の趣味がバレるからやだな(笑)。

サン:アートディレクターならそれでいいんですよ(笑)。

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