イケメンかどうかは髪型で決まる!
遠矢:次に聞きたいのは、格好よさについてです。「FF」は格好いい方向に寄っていると思うのですが、キャラクターの格好よさって、特に松尾さんはどのように定義していますか。
サン:それは気になりますね。イケメンのレシピ。こうやったら格好いいキャラクターになるんだよという。
松尾:まず目力が強いこと。ノクトは顔半分を切って目だけ見ても、ノクトだってわかるんだよね。それが鋭いほどイケメンって感じになるのかな。アニメーションは関係なくて、そういうモデルということ。これは「FF」の文化かもしれない。
サン:「目の力が強い」という素材から作っているんですね。
松尾:まつ毛の生え方とかで、その具合を変えるんだけど。あとそうだ、重要なことを忘れていた。イケメンかどうかって、「髪型」が大事。髪型がイケメン風になったら、みんなイケメンだ。
サン:髪型......。すごく衝撃的なことを言いましたね。
遠矢:確かに、すごく整ってる。
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松尾:かっこいい髪型に合わせて顔を調整するから、自然とイケメンになるんじゃないかな。
サン:目が大事っていうのはわかるんですよ。でも髪の毛がよければ何でもOKなんですね。
松尾:サン君だって、髪の毛大事にしてるでしょ?
サン:うっ......。今日頑張っていませんでした。すみませんでした。反論する言葉もございません。
遠矢:街で見かける人とか会社の中でも、「FF」っぽい髪型の人ってたまにいますよね(笑)。
サン:髪型で言うと、ゲームの中で雨が降ると髪型がちょっと崩れるようにアーティストさんにお願いしたんですよ。で、これは実現できなかったんですが、やりたかったことがあって......。「ワックス」をアイテムとして出して、それを使うと崩れていた髪型がシュッって一瞬で戻るっていう。でも、上の方に提案したら怒られました(笑)。
松尾:それでCM作れますね。
サン:余計な話でした(笑)。格好いいキャラクターに話を戻します。性格やセリフで言うと、やっていることは逆なんです。アニメやマンガ的な格好いいセリフって日本では確立されているので、力を入れなくてもなんとかなっちゃいます。だから、僕の仕事は格好いい方向に行き過ぎるのを抑え、ギャップを作ることなんです。
ポイントは「普通感」。普通っぽい感じを入れることで、キャラクターじゃなく人間だなって感じられると逆に格好よさが出てくるんですね。ノクトが何で格好いいかと考えると、プリンスでクールであることもありますけど、意外と普通の若者だねってところだと思うんです。親近感というか。すごく格好いいのにテレビゲームがやりたかったり、ベタな話題をしたり、庶民的なことを入れてバランスを取ることをやればやるほど、格好よさが際立ってくるイメージですね。
松尾:確かに、ノクトが野菜嫌いなのはよかったよね。どこの家の子、インソムニアの王子でもそうなんだって。
サン:普通をちゃんとブレンドすることで、リアルになると思っているので。メインストーリーのセリフはすごく凝っていますが、何もないときの挙動の方がゲームとしては多いんですよ。格好よさしか降ってこないと、偽物っぽいものができちゃうなと思っています。
遠矢:普通っぽさをわざといれるんですね。
サン:キャラクターモデルでも、すべてが格好いいパーツしかない人間だと嫌じゃありませんか?
松尾:キャラクターモデルの場合、技術が進んで現実を取り込めるようになってきたから、僕らが格好いい造形をするというよりは、自然な格好いい人を探していくようになるんじゃないかな。
サン:できないかもしれませんが、脳波とか思考とかをコピーしてゲームキャラクターにするとか、好きなことを喋ってもらって録音して、セリフをAIで生成するっていう時代が来るかもしれないですね。
松尾:そうなったら、次の仕事を探さないといけない。
サン:大丈夫です。AIのディレクションがありますから(笑)。
エモーショナルさこそ人間の魅力
松尾:反省点だったのは、チーム同士でお互い何をやっていたか知らない瞬間がありましたよね。それはこれから反省しないといけないと思っています。
サン:コンセプトは違ってもいいんですよ。でも同じ仕組みの上で作りたい。
松尾:今回のキャラクターの描き方では、「思考」が先に来て、「空間把握」が入って、「挙動」として起こってきたことをお互いにディスカッションして、その中からどこを抽出するかをコンテンツに応じて切り替えていきました。これがこれからの作り方なんだなって。
サン:時代に合った作り方があるんですよね。この仕事は20年、30年経つと、やり方がどんどん変わっていきます。いい意味で、熟練にはなりません。
松尾:技術と追いかけっこしているよね。延々と。
遠矢:次のプロジェクトですけど、何か目指しているものはありますか?
松尾:個人的にはまだまだ詰めるところがいっぱいあると思っています。例えば机があったら、AIは机を勝手に認識して、その高さは何十センチというところまでを理解すべきだと思うんですよね。
サン:僕が思うには、どの時代でも「ぬくもり」が重要だと思っています。エモーション、ぬくもりがなかったら人間は人間にならないので。高い技術と言うと堅いものを想像しますが、柔らかいものを作りたいですね。
遠矢:本書の内容を見て思ったのは、「振る舞い」というところなのかなと。人間やモンスターに、生命体らしく見える振る舞いをわざと入れることで、より自然に見せているところがポイントだと。
サン:「生命体」はいい言葉ですね。生命体ってエモーショナルなんです。それはぬくもりであって。例えば身だしなみが綺麗なキャラクターと、ズボンがちょっと濡れているキャラクターがいたとき、後者の方がエモーショナルなんです。この差を大事にしていきたい。エモーショナルさこそ人間の魅力だと思うので、何を作るとしてもここは大事にしたいなと思っています。
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