11人分の衣装を効率良く自然に変形させる
今回のMV制作の中でも大きなチャレンジとなったのが、アイドルの動きに自然に追従する衣服の変形だ。スタッフクレジットにClothシミュレーション担当の記載があることからも、その熱の入れようが窺える。衣装の制作においてはラフデザインを基にClothシミュレーションの検証を行い、それをフィードバックしながら最終的にCGで動きが映えるデザインに落とし込んでいったことは先述の通り。完成までにデザインの変遷があったが、ラフモデルによるシミュレーションテストの結果を逐一モデラーにも共有することで、モデラーの負担を大幅に削減することもできたという。
また、丸山氏が制作した実際の衣装の構造や材質などを確認することで、シミュレーションモデルへ適切にフィードバックさせることができ、よりリアルな動きを作成することができたという。「実物の衣装を見せてもらう機会があったことは、非常に参考になりました。デザイン画だけではこちらが思い込んで誤解している部分もあるので、実物を見ることでそのような部分を修正し納得する結果を出せたと思います」とシミュレーションを担当した松本 将氏は話す。
松本氏を含めて2名という少人数で11人分の衣装のシミュレーションをなるべく効率良く行う必要から、ファイルを開かずバッチ処理でシミュレーションを行い、1度動画にしてから修正を加えるといったパイプラインを組んだという。シミュレーションのセットアップの前にモーションキャプチャが終わっていたため、本編のダンスアニメーションに合わせパラメータやコンストレインの調整を細かく施すことができたのこと。
「衣装のモデルを作成するときに、UVの展開をしっかりとしてもらったおかげで、シミュレーションモデルの制作をスムーズに行えました。また、フレーム単位での計算コストを算出することで、必要なブラッシュアップ期間が取れるようにスケジューリングができたと思います。このように効率化できたおかげで、11人全てパーツごとに固有の設定をすることができたので、アイドルごとの動きのちがいを楽しんでほしいですね」(松本氏)。
Topic 1. シミュレーション用アセットの作成
シミュレーション用のモデルアセットの制作工程を示す。衣装モデルのUVが実際の衣装型紙に近い状態で展開されていたため、これをベースに3dsMaxの標準機能である服飾メーカーモディファイヤを使いシミュレーションモデルを構築、生地の柄や刺繍を歪みなく再現することができたという。
▲左:衣装モデルのUV、右:それをベースに構築されたシミュレーションモデル
また、アイドルごとに生地の素材や体格が異なるため、衣装ごとに個別にシミュレーションパラメータを設定した。
シミュレーションアセット作成段階から、後工程の工数削減を意識してピン止めの設定や、不要なメッシュをコリジョンから外すなどの調整を加えていたが、衣装の実物を観察することで、ピン止めの位置などを実際の衣装の挙動に近い状態に設定することができたとのこと。
▲神宮寺レンの衣装(左)の例。ウエスト全体をピン止めしていたが(中央)、実際の衣装を見てピン止めの範囲を修正した(右)
▲左:レンの衣装の各Clothモディファイヤのコンストレイント。画面内左からインナー、ジャケット、ウエストのリボンの紐、リボンの結び目のもの。右:レンの衣装の各Clothモディファイヤで使用しているSimモデルとコリジョンモデルの一覧
Topic 2. Clothシミュレーション
シミュレーションは3ds MaxのClothモディファイヤを使用。今回は衣装パーツごとに複数回に分けて計算を行なっており、その際着ぶくれ感が出ないよう注意が払われた。計算回数はアイドルによって変わってくるが、内製ツールのClothRenderによりセットアップ時に最適な計算順序を設定。その後MotionBuilderで作成したアニメーションを3ds Maxのシミュレーションアセットにロードし、内製ツールのCloth List Renderでシミュレーション、レンダリングまでをバッチ処理で行い、修正が必要なショットを選定する。
▲一ノ瀬トキヤ(左)と来栖 翔(右)の計算順序の設定例
▲内製ツールのBatch Converter Merge SP(左)とCloth List Render(右)でシミュレーション、レンダリングをバッチ処理する
▲シミュレーションが完了したら、内製ツールを用いてまとめてレンダリングサーバーにジョブを送信する