デジタルとフィジカルを横断した試行錯誤
「本プロジェクトに参加する以前の私は、プログラムによる画像生成は、画一的なことしかできなくて、早々に限界が見えてしまうものだと思い込んでいました。ところが堀川さんは、私たちのリクエストに応じて、有機的で多様性に富んだ画像を忍耐強く生成してくれたのです。すごく新鮮な体験で、手応えを感じました」(工藤氏)。
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プログラマー・堀川淳一郎氏(Orange Jellies) - ブレストの最中、堀川氏は持参したコンピュータでHoudiniを起動し、その場でパラメータを調整しながら、細胞の動きや大きさを要望に応じて変えてくれたこともあったという。
▲堀川氏によるテスト画像と動画。Flip Solverベースの流体シミュレーションや、Voronoi Fractureベースの幾何学的プロシージャルモデリングなど、多彩なアルゴリズムが試された。詳細はHoudini篇で解説する
▲幾何学的プロシージャルモデリングの試行錯誤の様子
▲前述のテスト画像を基に、工藤氏が制作したイメージボード。「メンバーのアイデアを混ぜ合わせ、いかにおもしろいアウトプットを生み出すかが肝心だったので、アイデア出しとブレストを2ヶ月以上くり返しました」(工藤氏)
前述のような試行錯誤を経た結果、当初は混沌としていたイメージが徐々に形をなし、12月上旬にひとつめのタイポグラフィの最終形が見えてきた。当初から3種類のタイポグラフィをつくるという目標を掲げていたものの、ONE SHOWにエントリーするためには1月下旬までに完成させる必要があり、間に合うのかどうか不安でいっぱいだったと竹林氏はふり返った。
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プリンティングディレクター・山下俊一氏(SHOEI Inc.) - 「印刷テストを始められたのは1月上旬だったので、私も不安でしたね。工藤さんがデータに盛り込んだ、キラキラ、あるいはドロドロとした『油膜感』を、印刷でもしっかり表現することが課題でした」(山下氏)。
10種類近くの紙を試し、インクの割合も変え、ここでも試行錯誤がくり返されたそうだ。本作では部分的にインクをプックリと盛り上げて印刷しているため、ひび割れたり、紙が反り返ったりしないかどうかも、入念にチェックしたという。
▲1枚の紙の上で、インクの割合がちがう16パターンの印刷を試し、ベストの「油膜感」を模索している
細胞の多彩な「動き」を表現した、3種類のタイポグラフィ
▲試行錯誤を経て完成した3種類のタイポグラフィ。250dpiの解像度で、A1サイズの紙に印刷している。それぞれが異なる「動き」を表現しており、1作目【上】は細胞同士がムギュムギュと押し合いながら循環するような動き、2作目【中】はポツポツと湧き上がった細胞が周囲へあふれ出すような動き、3作目【下】は液状化した細胞がゆったりと流出入していくような動きになっている
▲前述の1作目の一部を接写した写真
▲前述の2作目の一部を接写した写真
ワークフロー篇は以上です。
この続きはHoudini篇でご覧いただけます。
info.
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『Algorithmic Design with Houdini Houdiniではじめる自然現象のデザイン』
著者:堀川淳一郎
出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
定価:3,900円(税抜)
www.bnn.co.jp/books/9788/
Houdiniを用いて、自然現象の背後にあるアルゴリズムを再現するデザインレシピ集。
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月刊CGWORLD + digital video vol.254(2019年10月号)
第1特集:映画『天気の子』
第2特集:デザインビジュアライゼーションの今
定価:1,540 円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:144
発売日:2019年9月10日
cgworld.jp/magazine/cgw254.html