>   >  ロボットと協業する「夢のワークスタイル」コンセプトムービーの裏側 ~フォトグラメトリとバーチャル撮影で変わるCG制作
ロボットと協業する「夢のワークスタイル」コンセプトムービーの裏側 ~フォトグラメトリとバーチャル撮影で変わるCG制作

ロボットと協業する「夢のワークスタイル」コンセプトムービーの裏側 ~フォトグラメトリとバーチャル撮影で変わるCG制作

緊急事態宣言下でギリギリまで調整

3月に入ると実制作が急ピッチで始まった。もっとも、絵コンテに基づいて作業を洗い出し、スケジュールを切り直したところ、実写パートの撮影が終わらなければ本格的なCG作業が難しいことがわかった。その一方で「課外活動」プロジェクトだったこともあり、会社間の協力体制の確立や撮影スケジュールの決定などが遅れた。その結果、CG制作に費やせる期間は半月しかなかった。

初期段階で描かれた絵コンテ。映像中心でコピー(テロップ)が入っていないことがわかる

撮影素材がないと、がっつりと進められるパートが少ない。じゃあ、撮影をどうしよう。ムービーモンスターにお願いしよう。スケジュールはどうしよう。こことここが空いている。一方で自分たちの仕事もある......こんなふうに、バタバタと決まっていったと、田森氏は語る。

「それぞれのスタッフで手が空いているところにタスクをはめていったので、およそ綺麗なやり方ではなかったですね。撮影の前に児玉さんが仕込んでくれたり、その合間に大塚さんにコピーをつくってもらったり、企画自体を練り上げたり。みんなで準備を進めました。まとまった時間がとれなくて、ちょっと、ちょっと......と細切れに撮影をして、全部で5日間ほどで撮り切りました」(田森氏)。

「ローランドさんが寝そべっている椅子は、自分がレンタルを手配しました。ローランドさんが2号をツンツンしているシーンでは、目の前に別の人がいないとやりにくいということで、仮のモデルにもなりました。そんなふうに、普段の仕事ではやらないことを、いっぱいやらせてもらいました」(児玉氏)。

「撮影素材が来てからはドタバタが加速して。マッチムーブを手が空いている人に頼もうとか。その間に合成のテストをしようとか。児玉さんは実写合成が得意で、僕はフルCG系の仕事が多かったので、お互いに自然と作業分担が生まれて。他のCHPメンバーにも可能な限り手伝ってもらいました」(田森氏)。

通常のCG制作と異なり、ギリギリまで思いつくアイデアを入れたり、修正をくり返したりした......田森氏はこのように振り返る。ローランド2号の頭部デザインで、開口部が後頭部から頭頂部に変更されたり、画が寂しいからと画面上にUIを入れたり、効果音やコピーを修正したり、などは好例だ。ローランド2号が腰のケースからレンズを取り出すときのアニメーションも、担当者のこだわりの産物だ。

ローランド2号の後頭部のデザイン【上】とコンポジット画面【下】。デザイン画では後頭部が開き、コード類が差し込まれる予定だったが、台の上に寝るとカメラに映らないため、CG制作時に頭頂部からコードが差し込まれるデザインに変更された

交換レンズ用アタッチメントパーツのデザイン画【上】とコンポジット画面【下】

アニメーションのテスト中の画面【上】とUE4上の画面【下】。わずか1秒程度の動きにもかかわらず、担当者のこだわりが見え隠れする表現になっている

このように田森氏は「みんながよってたかってアイデアを出し合い、時間の許す限り、良いものにしていった。そのため、自分が何をしたか正確に言うことが難しい」とふり返った。準備と段取りをしっかり決めて進める、いわゆるウォーターフォール型で進むことが多い映像制作では、珍しいやり方だ。

芦田氏も「そういったスピード感は広告っぽいですね。普段つくっているのがインターネットのコンテンツや広告だったりするので、ライブ感がある映像制作に、みんな慣れていました。その上で今回は普段のCM制作より、もっとフレキシブルに動いている感じでした」とふり返った。

もっとも予想外の事態も発生した。新型コロナウイルスの感染拡大だ。これに伴い、土壇場でプロジェクトがテレワークに移行。芦田氏は連日のようにテレビで放映される小池都知事の記者会見をチェックしながら、田森氏と児玉氏にPCとモニタを自宅にもち帰るように連絡した。田森氏は「ここに来て、これかよ」と天を仰いだという。

「リリース直前の3月30日(月)と31日(火)は、なかなか熱かったですね。1回寝落ちして、朝方に目が覚めたら、未読のメッセージが90件くらいありました。何があったんだって」(田森氏)。

「緊急で芦田さんに電話をしましたよね。あのときは、つながって本当に良かったです」(児玉氏)。

「たぶん全然データが上がってこないから、不安だったんでしょうね(笑)」(芦田氏)。

ともあれ、こうした関係者の尽力もあり、映像は無事に完成。4月1日(水)に配信された。チーム全員がほっと胸をなで下ろした瞬間だった。

もっとも、「どこからどこまでが実写で、どこからがCGなのか、わからない人も多かったんじゃないかな」......ローランド氏はそのようにふり返った。

冒頭のスキャン時に表示されるUI表現におけるAfter Effectsの作業画面

Realityでキャプチャした映像をMaya上で修正し【左】、さらにAfter EffectsでUI表現を合成して【右】完成系に仕上げた

次ページ:
フォトグラメトリとゲームエンジンで変わる映像制作

特集