「クラウドレンダリングの環境は整いつつあり、試す価値はある」
「デジまる」の完成映像は、フルHDサイズ、約10秒(340フレーム)で、RPRのイテレーション(レンダリング時のクオリティ設定)は512、1フレームあたりのレンダリング時間は平均1時間23分だった。LiNDA ZOOはNVIDIAのGeForce GTX 1080 Tiや、GeForce GTX 1080を複数搭載した十数台のPCから成るレンダーファームを社内に設置しているが、ファーのレンダリングにはさすがに時間がかかる。
本プロジェクトでは、BRF内の500台ものAMD製GPUを使ったレンダリングを経験することになったわけで、340フレームのレンダリングを行う場合、1フレームにつき1台のGPUが割り当てられるため、レンダリングにかかる時間は実質1フレームを処理する時間しかかからないことになる。つまり、ファーのレンダリングであっても、かなりの速度が期待できるというわけだ。
BRFにレンダリングジョブを投入する際のやり方はとてもシンプルで、初心者でも扱える設計になっている。一方で、CGプロダクションによる本格的な使用にも安定して対応できるよう、さらなる改良が計画されているとのことだ。実際、本プロジェクトを通してLiNDA ZOOから提示されたいくつかの改良すべき課題は順次解決されており、今後もアップデートが続けられていくだろう。
RPRデータのアップロードと、オプションの設定
▲BRFにレンダリングジョブを投入する際には、MayaのシーンデータをRPR上で専用形式(.rpr)に変換する必要がある。アーティストの負担軽減のため、システムエンジニアの中川知也氏がDeadlineでのExportツールを作成した
▲WebブラウザからBRFにアクセスし、Zip圧縮したRPRデータをアップロードする
▲【上】アップロードが完了したら、【下】解像度やAOVなどのオプションを設定する
見積りおよび支払いと、データのダウンロード
▲見積りが完了したら、レンダリングコストと所要時間が表示され、サンプルフレームをダウンロードできる
▲支払い金額を確認後、レンダリングのオーダーを行う
▲レンダリング中は、現在の進捗や、レンダリングが完了したフレームのサムネイルを確認できる
▲レンダリングが完了したファイルは、まとめてダウンロードすることも可能
以上の経緯を経て、LiNDA ZOOは「柴犬まる」の姿と動きをそっくり再現した「デジまる」の映像をつくり上げた。本プロジェクトの総括として、北田氏は次のように語った。「プロジェクトの開始直後は、RPRとBRFの使用経験がなかったこともあり、従来の制作環境とのちがいへの戸惑いが大きかったです。それでも、シェーダの組み方を工夫したり、われわれの洗い出した課題がRPR開発チームによって解決されたりしていく中で、次第にほしい結果が得られるようになりました。対応中の課題については、今後の進展に期待しています。もろもろ困難はありましたが、RPRとBRFでファーをレンダリングするという目的は達成できましたし、クラウドレンダリングの制作環境は整いつつあるので、試す価値はあると思います」。
この総括を受け、渡慶次氏は次のように語った。「アーティストが抱える表現上の困難やストレスを、テクノロジーの力で解決するのが私たちの使命です。今後も改良を重ね、RPRとBRFによる制作環境を確固たるものにしたいです」。
冒頭に記したように、レンダリングにまつわる問題は、今後ますますひっ迫していくだろう。本プロジェクトで得られた知見を通して、RPRとBRFによる新しいレンダリング環境は、試してみる価値があるソリューションだという確かな手応えを受け取ることができた。
© Shibainu maru
info.
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BULLET RENDER FARM
従来のレンダーファームとは異なり、数千枚にものぼる圧倒的なボリュームのGPUを接続させ、一気にレンダリング処理を行うクラウドレンダリングサービス。レンダリング処理速度が非常に速いことが特徴。全フレームを同数のGPUで同時に処理するため、レンダリングにかかる時間は実質1フレームを処理する時間のみ。
www.bulletrenderfarm.com/ja/
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LiNDA Zoo
LiNDAのデジタル動物チームで、20種類以上のフォトリアルなデジタル動物が所属。「デジまる」プロジェクトでは、普通の柴犬ではなく日本一有名な「柴犬まる」に似せるという難題を、その高い技術力でクリアした。
www.studiolinda.com/
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AMD Radeon ProRender
CPUやGPUを生産するハードウェアメーカーとして知られるAMDがリリースした、パストレーシングレンダラ。 CPUとGPUの両方に対応し、OSを問わず様々な3Dプラットフォームで活用でき、物理的に正確なレンダリングが可能で、商用利用であっても無償で使用できる。そのため、大規模なクラウドレンダリングを行う場合でもライセンスコストが発生しないというメリットがある。
www.amd.com/en/technologies/radeon-prorender/
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