>   >  白組がほぼBlenderのみでつくり上げた360度CGアニメーション『はれるんウェザーアドベンチャー』
白組がほぼBlenderのみでつくり上げた360度CGアニメーション『はれるんウェザーアドベンチャー』

白組がほぼBlenderのみでつくり上げた360度CGアニメーション『はれるんウェザーアドベンチャー』

<3>社内のBlender経験者も募ったキャラクター制作

白組・三軒茶屋スタジオ内には、もともと個人的にBlenderを使っていたというスタッフが数名在籍しており、モデリング作業を中心にBlenderのオペレーション面をサポート。「関わりたいと声を上げてくれたスタッフもいて、すでに別のプロジェクトにアサインされていたのですが、所属部署の部長やプロデューサーにも相談しつつ、かけもちでも関わってもらえるように調整を行いました」(小森氏)。

造形や質感設定にはZBrushSubstance Painterも併用。シェーダはPrincipled BSDFだが、パラメータが少ないため凝ったことはやりづらく、まだまだ開拓が必要という印象をもったとのこと。

レンダリングにはCyclesを使用。レンダリングサイズが、HDを横に3面つなげた大解像度だったこともあってか、SSSでのノイズの多さなど他のプロダクションレンダラと比べてプリレンダー案件に用いるには厳しいという感触だった。ただ、レイトレースを分散的にかけられる点は好ましく、サブサーフェスのサンプル数のみを高い数値にし、年末年始にかけてレンダリングする場面もあったという。

リギングにはBlenderに標準で組み込まれているアドオン「Rigify」を使用。当初はゼロから組み上げることも検討されたが、表現すべき内容とそれにかける時間との費用対効果を鑑みて、リギングツールが使用されることになった。「今回ボディのリグで表現すべきことはRigifyで十分補うことができると判断しました。今後機会があれば内製リグへのチャレンジやAuto-Rig Proの検証などもしてみたいですね」(初鹿氏)。

主人公「はれるん」のモデル

気象庁のマスコットキャラクター「はれるん」。モデリングの参考にされた



  • はれるんモデルのワイヤフレーム表示


  • シェーディング表示



  • Eevee(スタンダード)表示


  • Eevee(HDR)表示。モデルチェックには、スピーディにHDRを切り替えられるアドオン「Easy HDRI」(codeofart.com/easy-hdri-2-8)が活用された

プロップ類はデザインから提案しつつ制作された

はれるんの質感設定

はれるんのマテリアル設定。衣装の縞模様は、画像ではなくマテリアルネットワークでプロシージャルに表現されている

レンダリング画像

Rigifyを活用したセットアップ

リギングは主にRigifyで組み上げ、フェイシャルやサブディビジョンON/OFFなど必要な要素を足している。プロップ類ははれるんのシーンに同梱し、表示を切り替えて使用。画像はフェイシャルコントローラをOFFにしている状態

<4>上映形態を考慮したレイアウトとアニメーション

レイアウトでは、上映会場の特殊な形状・距離感に配慮しながら調整がくり返された。客席とスクリーンの距離が非常に近いため、通常の感覚でレイアウトすると想像よりも巨大に見えてしまう。「キャラクターの大きさに気をつけつつ、動きについてはあまりクイックにしないように、目で追えることを意識しながら作業を進めました」と金子氏は語る。

はれるんのキャラクター性やしぐさについては、リニューアル前の気象科学館で上映されていた日本アニメーション製の動画をベースとしている。「作画と3DCGの情報量の差異も考慮し、まったく同じようにするのではなくポーズなどは活かしつつ、全体としてはオーソドックスなCGアニメーションの動きにしています」(金子氏)。

はれるんのフェイシャルリグは、スライダを動かすことで各表情のビジビリティが切り替わる仕様で、間の補完がないコマ撮り風のフェイシャルアニメーションとなっている。一方、敵キャラクターにあたるマグドロンは、はれるんとは異なりモーフベースでフェイシャルリグが組まれた。マグドロンは大きな芝居もないため、アニメーションというよりは音声に合わせた表情づけとリップシンク作業が主となった。

Blenderでのアニメーション作業は現場アーティストからも概ね好評だったそうだが、唯一アンドゥの速度については不満が募ったという。「制作終了後にリリースされたバージョン2.83では解消されているようですが、アンドゥがとにかく重かったです。プレビューなどのレスポンスは良いのに、なぜここだけ......という。とはいえ、特別に秀でた機能はないけれど安定しているという点は好感がもてました」(金子氏)。また、Eeveeビューポートによる最終ルックに近いプレビューは、レンダリング後の情報量を想定しながらアニメーション作業を進められる快適さという発見にもつながったとのこと。

レイアウト

極めて横に長い特殊なアスペクト比でレイアウトが行われた。最終的には3分割されて投影される。画像は気象庁内でのはれるんの解説シーン

アニメーション

キャラクター性は前身となった日本アニメーションの動画を参考にしつつ、オーソドックスなCGアニメーションらしい動きに仕上げられている

2つの方法で表現されたフェイシャル

はれるんのフェイシャルリグ。コントローラを動かして表情モデルのビジビリティを切り替える。目・口・汗などの表情パーツの位置は必要に応じて移動させて使用



  • マグドロンのデザイン


  • 噴煙に顔が貼り付いたデザインのマグドロンのフェイシャルは、はれるんとは異なりモーフベースとなっている。モーフターゲット数は30少々

マグドロンのフェイシャルアニメーション作成の様子。噴煙のメッシュ上でフェイシャルのみを動かしている

完成画像

Clothシミュレーションの設定

はれるんの衣装にはBlender標準機能のClothシミュレーションがかけられており、プレビュー再生時にもシミュレートされる。「一部のショットではキャラクターが空間を大きく移動する演出上、Blenderでのリアルタイムシミュレーションでは表現が困難なケースがありました。そのため特定のショットのCloth作業には3ds Maxも併用しました」(初鹿氏)

次ページ:
<5>リスクヘッジも加味したジオラマ風背景とエフェクト

特集