<5>リスクヘッジも加味したジオラマ風背景とエフェクト
背景は、CG制作を担当した3.5人(社外スタッフを含む)のほか、背景デザインを2名が担当。はれるんが各地を飛び回るため、数分の作品内だが気象庁内、街の遠景、カルデラ、火口など多くの背景が用意されている。「デザインからおまかせいただけたため、先方の望むキャラクターとマッチする世界観と、"われわれがBlenderでつくりやすい"ルックの接点をねらってご提案をすることができました。具体的には、ミニチュアやジオラマのような雰囲気が出るように落とし込んでいます」(小森氏)。キャラクター制作と同様、Blender以外にZBrush、Substance Painterが使用された。
雲や噴煙といったエフェクトは、多くの場合ボリュームを用いた流体シミュレーションで表現されるのが定番だが、今回はメッシュベースで制作されている。ミニチュア風ルックとの組み合わせもさることながら、万一の場合のバックアップ体制の敷きやすさも意図した選択だ。「Blender依存度の高い機能やアドオンを前提にした作りにしてしまうと、大きな問題が発生した場合であっても習熟していないBlenderで対応しきらねばなりません。そこでエフェクトはメッシュベースにして、Blenderでの表現が難しいとなってもAlembic経由で他ツールでも対応できるように計画しておきました」(初鹿氏)。最終的には、大きなトラブルもなくBlenderで最後までレンダリングが行われたとのこと。
背景制作
背景CG作業の様子。
気象庁内
背景のルックはジオラマやミニチュアをイメージしている。適度にリッチでありながら要所でディテールを削ぎ落としつつまとめられている。その際、Easy HDRIはスピーディに様々な環境下でのルックチェックが行えるためここでも好評だったという
メッシュで完結させるエフェクト表現
雲や煙はボリュームではなく、メッシュで制作している
パーティクルとメタボールを使用したメッシュベースのエフェクト。いざというときにBlender以外でのレンダリングを考慮した選択だ。コンポジットで、ぼかす・半透明にするといったシンプルな調整が加えられている。アニメーションにはNoiseデフォーマを適用して動きのランダム感を付与
<6>計算精度やノイズ問題にも対応したライティング・コンポジット
レンダリングにはCyclesを使用したが、ノイズや計算精度の問題に直面した。「細かいノイズをしっかり取り除くためには、時間が必要になることがわかりました。距離による計算精度低下の問題もあり、原点から遠く離れた位置だと特にSSSなどのレンダリング結果が破綻してしまいました。レンダリング前にライティング位置を原点付近にオフセットして対応しましたが、計算精度については他DCCツールと比較すると少し弱い印象を受けたので、これからに期待したいです」(初鹿氏)。SSSを中心に発生したノイズに対しては、NukeでのデノイズやCyclesレンダリング設定の検証を行なった上で、最終的にはCyclesレンダリング設定を調整し、分散パストレーシングの特定要素に対するサンプル数を上げて対処した。
コンポジット作業には、同社は通常Nukeを用いているが、今回はAfter Effectsが使用された。「ショット作業は約1ヶ月を見込んでいて、作業量的にアニメーターの助けも借りる必要がありました。Nukeはコンポジター以外の誰もが使えるツールではないですし、場合によっては担当者以外にはわかりづらい巨大なノードツリーになってしまうこともあります。そこで、もしものために今回はAEを選択しました」(小森氏)。レンダリング時には、AEではOpenEXRを扱う際の動作が重すぎるため、AOVごとにセパレートしてPNGで出力するしくみを用意し、最悪の場合には部分的にでもNukeで対応することも視野に入れつつ作業が進められた。アニメーターに手伝ってもらう際にも説明を省略できるなど、結果的にはAEを選択したことは良好な結果につながったという。最終的にDaVinci Resolveで軽めに色調整を施して仕上げられている。
ライティング
普段はれるんのいる気象庁内のレンダリング設定。サンプリングについてはIntegratorをBranched Path Tracing(分岐パストレーシング)にし、要素ごと個別に設定している。レンダリングデバイスはCPU
気象庁内の完成画像
コンポジット
コンポジットにはAEを用い、コンポジターだけでなくアニメーターも参加した。複雑なコンポジットワークが行われているわけではなく、できるだけ基のレンダリング素材を活かしつつ、空気感・露出調整・被写界深度を主とするシンプルな調整が行われた
コンポジット素材。一般的なディフューズカラー、AO、デプスなどを含む15種類