>   >  "感情を動かす"フォトリアルを導き出すLIT design〜ワンランク上の建築ビジュアライゼーション
"感情を動かす"フォトリアルを導き出すLIT design〜ワンランク上の建築ビジュアライゼーション

"感情を動かす"フォトリアルを導き出すLIT design〜ワンランク上の建築ビジュアライゼーション

<4>ディテール表現

ここまではカメラの設定やライティング、壁の表現などインテリアCGにおける基本的な部分に触れてきましたが、ここからは家具、小物などのインテリアを構成する細かい要素にフォーカスしたTIPSを紹介していきます。つい手を抜きがちなところを、ほんの少し時間をかけて工夫することでリアルに仕上がるので、ぜひ試してみてください。

鏡の表現

鏡は洗面所、LDK、店舗などの空間の意匠などいたる所で目にします。CGおける鏡の表現で反射100%の板を置くことは簡単ですが、前項までと同様にしっかりとつくり込むことでCGのリアルさがグッと高まります。まずは鏡の構造について理解することが必要です。一般的な鏡の断面を見てみましょう。

ご存じでしたか? 一般的な鏡は、透明なガラス板の裏面に銀などの金属をメッキする「銀引き製法」で作られています。洗面所の鏡を見てください。鏡の端のフレーム部分を見ると、少し奥まったところで反射していることがわかります。つまり鏡というものは"鏡面反射するただの板"ではないのです。この特性を忠実に再現することにより、鏡の端にガラスの厚みによる立体感が出てきてフォトリアルな表現に仕上げることができます。



  • ▲反射100%に設定した"ただの板"CG


  • ▲実際の鏡の形状・質感を再現したCG

アートフレーム

インテリアの壁などに小物として多用されるアートフレームですが、単にフレームに入ったアートを壁に引っ付けただけでは壁にフラットな画像を貼り付けただけのような見た目になってしまいます。そこで壁から数ミリ浮かせる、もしくは0.5~1度ほど下向きに傾けることで、影が斜めになってリアリティがグッと高まります。また、額物には表面保護としてガラスやアクリルなどが入っていることが多いです。前述の鏡と同様に形状としてガラスを入れることにより、奥行き感や反射感が出てフォトリアルな見た目に仕上げることができます。

▲フレームのコーナー部分も45度で斜めにカットして繋ぎ合わせる「留め加工」と呼ばれる処理を加えることで、ディテールのリアリティが高まります

照明器具

【電球の構造】
照明器具をCGで表現する場合、電球のガラス自体を発光させてしまいがちです。ですが、実際の照明器具はガラス自体が発光することはありません。一般的な電球やLEDでも発光する光源が必ず存在します。ガラスの厚みやフィラメント部分までしっかりとつくり込み、発光させることによってリアルな照明器具を表現することができます。

▲電球にも様々なガラスの形状、フィラメントの種類が存在します。どんなものがあり、どんな光り方をするのか、深く知ることが欠かせません

【乳白の表現】
乳白のガラスシェードやアクリル乳半のシーリングライトなどの白い半透明の照明器具も多く見かけます。このような、透過はしないが光は通すような半透明のマテリアルは「Translucency」で表現可能です。電球と同じくガラスの形状をつくって中に光源を入れることにより、シェード全体が発光するのではなく光源からの距離で明るさのグラデーションがしっかりと出てきます。

▲ガラス自体を発光させたCG

▲Translucencyを使い、実際の電球を再現したCG

起毛素材の表現

インテリアCGの質感において起毛生地の表現は難易度の高い表現のひとつではないでしょうか。起毛のあるファブリックは「カーテン」「ラグマット」「椅子の張り地」「クッション」「ファー」などがあります。これらの起毛と呼ばれる毛の部分は本来、1本1本独立しているもので、同一方向に揃って向いていることはありえません。ベルベット素材の張り地を使用したチェアで例えると、使用箇所は座面と背もたれです。人が座ることを想定した汎発性のある素材の上にベルベット生地がピンと張られており、シワのない状態になっていることがわかります。誰かが座ったのか、椅子を空間に人の手でセットし終わってすぐに撮影したのか。いろいろな想像をしながらベルベットに残るであろうリアルな跡を形づくります。均一性をやみくもに崩すのではなく、しっかりと現実世界に倣い、どのような過程でこうなっ たのかを説明できるように制作を心がけるのがフォトリアルヘの近道です。

▲図のようなラフ感のあるテクスチャをリフレクションマップとして用いることで、起毛感のあるベルベットを表現可能です

フォトリアルなCGをつくるための近道は、現実のインテリア、建築、それらをとりまく要素をじっくり観察し、深く知ることです。全てのフォトリアルCGを制作する上で、主役となるものだけに注力するのではなく、それらをとりまく環境にこそ着眼し、奥深くまで逆算で考え、世界観を込めて制作していくことが、なんとなくでつくった、単純に素材がリアルであるだけのCGにはない、高い説得力と魅力をもたせると思っています。

スタイリングに使うさりげない小物から、時間帯や天候といったスケールの異なる様々な要素を、「こんなシチュエーションに、ここからのアングルで、ここは見せて、ここは鈍く光って......」と、伝えたい対象に届けるために、根拠と具体性をもってビジュアル化する必要があります。

思考停止で撮った写真がフォトリアルで魅力的なのか? ということと同義で、質感や素材感がリアルだということはあくまでツール(表現技法)でしかありません。表面上の質感だけではなく、なぜそのようになっているのか、どうやってつくられたものなのか、そういったコアな部分に興味を持って目を向け、深く知ることによって、より魅力にあふれたフォトリアルなCG表現が可能だと考えています。



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