>   >  全11話のTVシリーズを短期間・高品質で制作するためにデジタル技法を駆使! TVアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』
全11話のTVシリーズを短期間・高品質で制作するためにデジタル技法を駆使! TVアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』

全11話のTVシリーズを短期間・高品質で制作するためにデジタル技法を駆使! TVアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』

3,000人が登場する群衆の表現

群衆についてはUnityで作成している。モデルのリダクションを行なっているとはいえ、闘技場に3,000人並ぶのでデータが重くなるため、ゲームエンジンであるUnityを使用することになった。制作初期の段階では群衆にもモーションをつけていたが、動かすと画面的にうるさくなってしまい、最終的には止めの表現となった。画面手前に映るごく一部のキャラクターのみ、モーションさせている。

Unityで作成した群衆表現

▲群衆素材を生成したUnityの操作画面

▲Unityから書き出した合成用の素材。【左】手前、【右】奥

細やかな作業が行われたエフェクト&撮影

エフェクトは表現によりツールを変えて作成されている。炎はHoudiniで汎用素材を作成し、Flameにてリマップやディテールの足し引きなどを行い作成されている。パレードで舞う花びらなどはMBのパーティクルを使用している。雨のエフェクトも同じくMBで作成されており、これらは背景アセットのような位置付けでアニメーションの工程の時点で入れ込まれた状態になっている。

エフェクトによっては撮影素材も使用された。同社には実写VFXの経験者が多いこともあり、血飛沫や土煙などは実写素材を用いて作業を行ったそうだ。また、主人公の脳内シナプスの表現等はFlameのSubstance Noise Nodeを組み合わせてつくられた。

撮影は、前述の通りFlameで行われている。Flameを使った理由としては、LOGIC&MAGICが普段から合成の主軸にFlameを置いているという点が大きかったようだ。撮影は1話に対し1名のFlameアーティストを基本とし、ショットの合成のほか、1話分のタイムラインも組んで前後のつながりやOLなどを確認できるようにしている

この方法は全体を見ながら制作するのに適しており、かなりのスピード感あったそうだ。複雑な合成や撮影台の流用がノードベースで作業できるという利点も大きかったという。

炎エフェクト

▲ 炎はHoudiniで元素材を作成。横回転8方向×上下振り3方向で全24種類。サイズは1024×1024で96フレームのLOOP素材になっている

▲ 画面左上が合成全体のBatch Schematic。赤いCompassがHoudiniの炎を合成している個所。画面左下はAction Schematicで、3DCG背景を読み込み、松明の位置に炎を配置することで立体的なカメラワークにも対応できるつくりにしている

▲ 1つの炎は画像のBatchSchematicのノード群で制御。左から[倍速>Loop>TimeOffset]と処理し、ColorCorectで輝度を調整しStylizeノードの「ColorSmudge」を使用することで、ショットによって多すぎる炎のディディールを削ぎ落している。その後、Timewarpで2コマ打ちの処理を加え、波ガラスの処理のあり/なしで上下分岐している。スーパースローのときは炎の絵を止めて波ガラスのみの処理に切り替えて使用している

花びらのエフェクト

▲劇中で出てくる花びらや雨の粒子には、MBのParticleShaderを使用している。シーン上でリアルタイムに降り注ぐアセットを用意し花びらや雨が降り注ぐ中、アニメーション作業は行われた

▲花びらのテクスチャはMayaでライティングと回転アニメーションを付けたABCの3種類を使用。MBのVideoSettingsでPlaySpeedとOffsetを変えることにより、9種類のバリエーションを作成している

▲MBで標準で用意されているCubeを9個用意し、各バリエーションのテクスチャを適用。ParticleShaderは同じものを一括で与えている

▲雨、雪、花びらのような環境エフェクトの場合は、StartDeltaとEmitRadiusの値を大きめにして発生のランダムさを出すと自然になる。SpeedのDeltaやSpreadも少し値を与えることでも、動きがリアルに見える。Accelerationの値を混ぜて、動きに不規則さを出すと雪や火の粉の表現が可能だ

▲「Display Mode」は、花びらでは「Matte」にし、雨のような半透明の際は「Translucent」を使用。「Fade In」 /「Fade Out」は、花びらのようなMatteのものには不適合の様に見えるが少し数値を入れておくことで、発生と消滅の際に背景になじませることができる。「Enable Motion Blur」はテクスチャが伸びてしまうので、花びらではOFFに。雨のときにはONにしている。ONにすることで、テクスチャの方向がParticleの進行方向を向くので、その機能だけを使用したいときは、ONにして値をゼロにしている

▲「Play Speed」は、Particleの挙動全体を早回しにしたりスローにできるパラメータで、値にアニメーションキーを打つことも可能なので、アニメ的なタメツメを利かせたエフェクトをつくりたいときに重宝する

Flameによる撮影処理

▲Mayaの背景、Unityの群衆、作画のキャラクター、実写の煙を合成した例。作画キャラはActionノードにて、Flameの3D空間上に配置して合成している

▲脳内シナプス表現では、SubstanceNoiseノードの模様を何重にも重ねFlameでジェネレートした素材のみで作成している。ノードを複雑に積み上げてもスピーディに合成を確認できるFlameのパワフルさが短時間でショットを仕上げるのにつながった

▲主人公の血管の隙間をすり抜けるショットは、Actionノードにて3Dカメラワークを付け、Flameに搭載されたパーティクルで赤血球の粒子を表現し、コンポジターが中心となって仕上げた

▲血飛沫や流血には、実写の素材が使用されている。図の例では、Mayaから出力された流血個所のガイドFBXをActionにインポートし、素材を親子付けして、CGキャラクターの目元に実写の血を合成している

次作に向け、さらなるステップアップを目指す

最後に制作の総括として、制作スタッフのコメントを紹介していこう。

  • 門間和弥(シリーズディレクター)
    「これまでも3DCGに関わってはいましたが作画畑の3DCGだったため、ここまでキャプチャを大幅に使う作品は初めてでした。なのでバトルシーンの動きの説得力はぜひ観てほしいポイントです。リアルな格闘シーンや筋肉の動きなどは3Dならではの重みのある表現ができています。3DCGの手法に携わることができたので、今後はさらにアップデートして制作できればと思います」

  • 松野美茂(CGプロデューサー)
    「今できる革新的な技術は網羅できたと思いますが、過去の技術の模倣も多いのでもう1段進化していきたいです。セスタスという作品でLOGIC&MAGICを旗揚げできました」

  • 林 成輝(CG監督)
    「クオリティを維持しつつ、今後はさらに効率を追求していきたいです。それがLOGIC&MAGICの命題でもあります」

  • 小高忠男(クリエイティブリーダー)
    「将来的にはリアルタイムCGで作品制作を行いたいです。それを最初にやるのはLOGIC&MAGICだと思っています」

  • 佐藤浩一郎(撮影監督)
    「『アニメの撮影をFlameで行う』という試みを少人数で成立させるため、Mayaから出力される素材を限定し、撮影台となるノード群も大分シンプルにしたつもりですが、それでも1名のFlameアーティストで1話約300カットを捌くというのは、大変なことでした。本作の経験をふまえ、さらなる効率化を追求し、進化したワークフローをまたお見せできるよう精進したいと思いますので、ぜひ、今後のロジマジの活躍もご期待ください!」

  • 島崎佳樹(アニメーションリグ)
    「今回のケースでは一人で30体以上のセットアップを行う必要があったため、精度と効率のバランスがとれず、多くの解決すべき課題を見つけることができました。また、群衆周りのクオリティも向上の余地があるため、次に活かしたいと思っています」

吉國 圭(3Dキャラクターデザイン)
「3Dでキャラクターデザインという手法をとったのは初めてで、良い経験になりました。今回見えた改善点などを次に繋げていければと思います」

野口忠一(CG制作)
「さらなる効率化というのもあるが、この期間、人数でTVシリーズの物量を納品、進行できたことはそれ自体が革新的だと感じています。これを踏まえつつ、今後も効率やクオリティを追求していきたいです」

吉田拓也(CG制作)
「今後は作画チームとの連携の精度を上げ、フローの体系化、言語化を行なっていきたい。それによりクオリティアップを目指していきます」

それぞれの立場からのコメントだが、ベクトルとしては一方向を向いている点が興味深かった。筆者としては、同社による『セスタス』のワークフローは、一般的なアニメーション制作と比べると順序の組み方の異なる点もあるが、映像を完成させるというゴールを意識し、ロジカルに組み立てられたものという印象を受けた。

今後も効率化やクオリティアップを進め、進化していくだろう同社の意気込みを感じる。





特集